5、追う者たち
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勢いで階段を半分ぐらい駆け下りたところで玄関の話し声が耳に届いた。
あの声はトースさん?!きっとそうや。おばちゃんが俺の居場所を教えたんやな!
俺は、そっと足音を立てんようにクェトルのとこまで引き返した。
「ちょ~、俺、追われとんねん!」
俺がそう言うと、さっきのまんま座っとったクェトルがチラッと俺を見た。
「あのティティスの、反乱組織やったトースさんらに追われてんねん!」
クェトルは目ぇを伏せた。
「今な、玄関で、じーちゃんとトースさんが話してんねん。なぁ、何とかしてぇな」と、言ってみる。
が、案の定、俺なんかに、ぜんぜん関心ないっちゅー態度。完全無視や。
「なぁ、かくまってや。ティティスの人らに渡さんとって。俺、戻りたないねん」
「無理だ。事情を知らないじっちゃんが教えてしまってんだろ」
前髪を雑に掻き上げながら、目も開けんと淡々と言った。
やっと返事があったかと思えば、拒絶。俺を突き放したくて仕方がないという気持ちが伝わってくる。
「そんなん……」
一階の声がせんようになって、それから階段を上がってくる音が聞こえてきた。もう連れ戻されるのは時間の問題や。
と、クェトルは立ち上がった。部屋の入り口まで行って戸に鍵をかけてから、ベッド横の椅子に無造作にかけてあった上着をつかんで部屋の奥に歩き出した。
そんなん、鍵を閉めたって、いつまでも保つわけないやろ。
せやけど、俺と違って、何の考えもなく何かをする人と違うやろから、ちゃんと何か先のことを考えてると思う。
「トゥルーラ様、いらっしゃるのでしょう?お隠れになっても無駄ですよ」
トースさんの声や。戸が静かに叩かれる。
口調は丁寧やけど、穏やかな脅迫や!
「来い」
クェトルに呼ばれて俺は、えーだか、へぇだか分からん間の抜けた返事をして、慌てて奥の部屋について行く。
部屋の奥は狭い納戸か何かになっている。その一番奥の小さめの窓を開けて側の棚を踏み台にして窓の外へ出ていく所やった。
窓の手前の床に靴が無造作に置かれていた。窓までの通り道にあって、絶対に無視出来ない場所だったので、外に出るのに靴が要る、ということにギリギリ気づいた。急いで靴に足を入れる。
俺も真似して棚に乗って窓の外を見ると、クェトルは窓枠に手をかけて、勝手口のひさしから、ひょいっと裏の路地に飛び降りているとこやった。
…って、俺もここから降りろと?
「ちょっと!こんなん、高くて降りられへんよ!」
「早くしろ」
二階や言うても、お前からしたら大したことないかも知れんけど、俺からしたらめっちゃ怖いねんで。高い所は怖い!
「トゥルーラ様、開けますよ」
トースさんか、他の人か分からんけど、声が聞こえる。それと、ガチャガチャという音。
この部屋の戸、鍵があったら外からでも開く形やったはずや!なんなら、あれぐらいのドアなら壊してでも入ってくるかも知れん。
もうアカン!迷ってるヒマはない。
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