23、再会
そこは真新しい劇場だった。けっこう大きい建物だ。ボンは劇団長をやっているそうで、団員も数十人いるらしい。
彫金職人の娘・ルシアと駆け落ちのような、逃亡のような感じでどこかへ行方をくらまして以来だが、マトモに暮らしているようで何よりだ。帝国で、これだけやれているなら、まあまあの成功と言える。
しかし、この落ち着きのないヤツが人の上に立てているのは小さな驚きだな。
ジェンスは応接間の壁際に立って、壁に飾ってある絵を眺めて一人でうなずいていた。案の定、のんびりと自分の世界に浸っているようだ。
「あの後、いろいろやったけど、結局、オデツィアで今の劇団をやることで落ち着いたのサ」
なぁ、とボンが言って振り返った先には女。盆で茶を運んで来た女に話を振る。
「そうだよ。この人、創作だけは才能あるみたいで」
『だけは』の部分に力を入れて言い、目の前のテーブルに茶を置く。ボンは女の肩を抱き寄せる。ご執心だったルシアだ。
ルシアは、ひととおり、再会の挨拶を述べた。相変わらず、さばさばとしている。
「彼女は歌がうまくてね、ウチの看板女優サ」
ボンは嬉しそうにナハナハ笑う。結構なことだ。
「それよか、エアリアルは、どうしたんだ?さっき言いかけてたけどサ」
ボンがルシアの肩を離すと、ルシアはスッと部屋を出ていった。
「アルは帝国に捕らえられた」
「捕え……エアリアルが?!帝国の誰にダヨ?!」
ボンが茶を飲みながら身を乗り出す。
「皇帝だ」
俺が答えると、ボンは口にした茶を思い切り噴出した。辺りに飛び散る。床、テーブル、こちらの顔にまで飛んできた。
俺が顔をしかめると、半乾きの雑巾とも布巾ともつかない臭い布きれで、ご丁寧に拭いてくれた。よけいに汚れた気がするのだが。
「何だって?!バナロス皇帝にか?!冗談!」
目をむいて鼻息も荒く突っかかってくる。
俺はうなずき返し、アルが女であったこと、ティティスの生き残りとしてバナロスに捕えられたことを手短に説明した。
ボンは目をしばたたかせ、黙って聞いていた。あごに手をやり、ウーンと唸り、しばらく考え込んでいた。
「…だとすりゃ、あれは、やっぱりエアリアルだったのかナ…?」
独り言のようにつぶやく。
「エアリアルを見たのかい?」
今まで絵を眺めていたジェンスが振り返って尋ねる。
「いやぁ、実は城で、皇帝陛下の御前で劇を披露した時、やけに色目っつーか、ウインクしてくる変なお姫さんがいたワケ。あれがもしかしたら…」
遠くを見つめてつぶやく。
「城にいたのか?」
「ああ。元気そうだったぜ。キレイなカッコしてサ」
こいつの見間違えでなければ、やはり城にいるようだ。
生きていた。




