22、帝都オデツィア
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しばし降っていた霧のような雨も止み、空と他との境を白い薄雲があいまいにしていた。その下の平原遠くに広大な都が見えている。あれが首都のオデツィアだろう。
都が近づくにつれ、だんだんと全体の広さが計り知れなくなってゆく。
下流より辿ってきた河の流れが、そのまま街を囲む堀になっていた。その堀にかかる幅の広い跳ね橋を渡り、重厚な街門をくぐる。
街門の向こうに広がっている光景は、今まで見てきた街と比することもできないほど賑わい、また奥底の知れないものだった。
「今までオデツィアは来たことがなかったけど、とても大きな国だねぇ。ところで、これからどうするんだい?」
ジェンスが微笑みながら言った。
「どうすればイイと思う?」
反対にジェンス風に聞き返してやった。
「そうだなぁ、今日は風が強いから、風まかせだね」
特にこれといって目的地があるわけもなく歩き回っていると、石造りの見上げるばかりの建造物が立ち並ぶ広場に出た。街全体がそうだが、灰色の建物が多く、無機質で殺風景な感じがする。
建物の谷底を埋め尽くすように人や荷車が行き交う。その往来は凄まじい。ある意味、殺気とも思えるほどのそれらに気を張っておかねば弾き飛ばされそうだ。
祖国のヴァーバルも屈指の大国だが、さすがに帝都には及ばないと感じる。こんなに人や物が溢れている街を見たことがない。
広場の中央には舞台のように一段高い部分が設けられていた。高さはちょうど人の背くらいだろうか。舞台は四角く、四つの角に円柱が立っている。広さは5メートル四方くらいだ。壇上に乗っている者はなかったが、その周りでは大勢が物を売っていた。市場なのだろう。
大きな広場を人の波に揉まれながら抜ける。少し離れると、ようやく人もまばらになり、真っ直ぐ歩くことに支障はなくなった。ジェンスも意外に、はぐれることなくついてきている。
さてどうしたものかと考えながら歩いていると、いきなりドンっと後ろから突き飛ばされて前へと、つんのめった。危うく倒れるところだった。
「失礼!おケガはありませんか」
「大丈夫だが」
振り返ると、赤い帽子を頭に載せた若い男がペコペコしていた。
「どーも、すみません……って、もしかして、クェトルか?」
見知らぬヤツの口から思いがけず名前が呼ばれ、その男の顔を見返す。キョロキョロとした大きな目には見覚えがあった。
「ボンか?」
男は大きくうなずく。
「なんだって、こんなトコにいるんだよ。あ、ジェンスさんも、こんにちは」
そばのジェンスに気づき、帽子を取って深々と礼をする。
「元気そうだね」と、ジェンスも挨拶を返した。
「帝国に来てたのかよ。あれ?今日はエアリアルは一緒じゃないの?」
ボンは早口で言い、辺りを見回す。
俺はボンに事情を話すことにした。
「実は…」
「ここじゃ何だから、ウチヘ来なよ」
俺の言葉を遮り、ボンは親指で肩越しに背後の建物を指して言う。




