6、束縛1
……………
……
辺りは薄暗い。
今は日暮れか、夜明けか。
分からないが、ぼんやりと辺りが見えるほどの明るさがある。
金づちで打たれたらこんなものだろうというくらい頭が痛い。ガンガンという表現が適切だ。目の前が歪むほどの目眩もしている。と、同時に胸の辺りに吐きそうな強い不快感がある。息をするのもツラい。
……ここは、どこだ?
鼓動に合わせて締め付けられるように痛む頭を働かせ、必死に記憶をたどる。
濃い霧に包まれていた風景が晴れてゆくように、次第に意識がハッキリとしてくる…それとともに、とんでもない状況に置かれていることに気がつく。
右を下にして、半ばうつ伏せぎみに寝ているのは良いが、両腕は後ろに回り、その手首は固く縛られていた。ささくれが刺さり、チリチリと焼けつくように皮膚を痛めつける。
背後に誰かの気配がある。身をよじり、肩越しに横目で後ろを見ると、白い髪が見える。ジェンスが俺の背後で背中合わせに横たわっている。同じく後ろ手に縛られているようだ。というより、後ろ手に縛られた手同士が繋げて縛られていることに気づく。
やがて鮮明に、眠らされる直前の出来事が甦ってくる。あれは夢ではなかった。その証拠にアルがいない。部屋を見回すが、首を動かして見える範囲にはアルは見当たらない。あの連中に連れ去られたか。
ジェンスは、まだ眠っているようだ。
「おい、起きろ」
俺は縛られた両手を動かし、繋がれているジェンスの手を引く。すぐに、うなって目を覚ました。
「痛いなぁ。……あれ?何だい、これは」
場違いな間延びした声が聞こえた。
こんなヤツのペースに付き合っている暇はない。ともかく縛られている手に自由を与えなくては話にならない。縛られて転がされてはいるが、殺されなかっただけでもマシだと思うしかない。
足のほうを見遣ると、薄暗い中に、荷物が置いてあるのが見える。
「来い」
「えっ?どこへ行くんだい?」
まだ寝ぼけているジェンスに協力させ、縛られたまま起き上がることにする。しかし、相手の身体能力が壊滅的で、いくら自分だけが頑張っても仕方がない。のんびり暮らしているコイツには手や腕を使わずに起き上がるのも難しいらしく、同時に身体を起こすだけで大変な労力を要する。大体、タイミングも合わない。
「よいしょっ。うーん、難しいなぁ~」
ジェンスは、さほど緊迫していない口調で言った。顔は見えないが、きっと明るい顔つきなんだろう。
何度も倒れながら、二十回も挑戦した頃、何とか身体を縦にすることができた。




