第96話 獣王と竜人
ガルスは、町の南側から歩いてくる獣王を見ていた。
獣王は、隠れもせず、まっすぐ王都へと向かっているようだ。
「行くとするか」
こちらから獣王が接近していることは、兵士に伝えてあった。そこから、アンナ達にも伝わるはずである。
故に、ガルスが今やるべきことは、ただ一つだ。
ガルスは、獣王の元へと駆けて行く。
獣王を止めることが、今ガルスがやるべきことなのである。
「ほう?」
獣王はガルスの存在を認識し、声をあげた。
その顔は、心なしか嬉しそうである。
「竜魔将ガルスか、これはいい」
「獣王、お前を止めさせてもらう」
「吾輩を止めるか、倒すではなく止めるとは弱気だな」
「生憎、今の俺ではお前に勝つのは難しいのでな……」
獣王の言葉に、ガルスはそう返していた。
全盛期ならまだしも、今の自分では獣王に勝つのは難しい。獣王の強さを知っているため、ガルスはそう思っていたのだ。
「だが、俺には心強い仲間達がいる。俺がお前を削っておけば、その仲間達がお前を倒してくれるだろう」
「貴様程の男が、他者を頼りにするとは、意外なこともあるものだ」
ガルスと獣王は、構え合う。
「来るがいい、竜人!」
「言われるまでもない!」
ガルスは、獣王の元へと向かっていく。
そこで、右の拳を振るう。
「竜人拳!」
「ふん!」
獣王は、その拳をいとも簡単に受け止める。まったく、微動だにしていない。
「流石は竜魔将だっただけはある。いい一撃だ」
「……くっ!」
「ほう? 引くか?」
ガルスは、一度距離をとることにする。
獣王の力は、予想以上であった。
あのままだと、ガルスの拳が握りつぶされてしまう。
「やけに慎重だな? ガルス?」
「お前相手に、慎重すぎるということはない……」
獣王の強さは、魔将以上だと予想できた。
故に、ガルスは慎重に戦うことにしている。
あまり踏み込み過ぎず、確実に攻撃していかなければ、逆にガルスがやられてしまうのだ。
「しかし、残念だ。どうせなら、全盛期の貴様と戦ってみたかったものだ」
「お前の仲間が罠に嵌めてくれたからな……」
「確かに、ウォーレンスも余計なことをしてくれた。最も、奴が罠に嵌めていなければ、こうして戦うこともなかっただろうがな」
獣王の言うことは最もだった。
ウォーレンスが罠に嵌めなければ、ガルスはアンナ達につかなかったはずである。
「だが、例え全盛期でなくとも、貴様のような強者との戦いは楽しいものだ。故に、楽しませてもらう!」
そこで、獣王は動き始めた。
大地を大きく踏みしめ、ガルスに向かって来たのだ。
「くっ!」
ガルスは大きく後退する。
獣王の一撃をまともに喰らうことなど、最も避けたいものだ。
「ふん!」
「むうっ!?」
獣王は大きく腕を振るい、地面を殴りつけた。
なんの小細工もないだだの一撃だ。しかし、その一撃の威力は強大である。
獣王の殴った地面は、大きくえぐれ、消え去ってしまったのだ。
「はっ!」
ガルスはその威力に驚きつつも、攻撃することにした。
その口を開け、中に炎を作り出す。
「火炎の吐息!」
「ほう!?」
ガルスの口から、炎の球が放たれる。
その炎は、まっすぐ獣王に向かっていく。
だが、獣王はまったく余裕を崩さない。
「ガオオオオッ!」
獣王は大きく口を開き、雄叫びをあげる。
「何!?」
すると、ガルスの放った炎は、その衝撃で弾け飛び、跡形もなくなってしまった。
「この程度か!?」
「くっ!」
獣王は、ガルスとの距離を詰めてくる。
それに合わせて、ガルスはさらに後退していく。
「逃げてばかりか!? 貴様らしくもない!」
「なら、攻めるとしようか!?」
「何!?」
ガルスは一度下がった後、大きく大地を蹴り、方向転換する。
そして、そのままの勢いで腕を振るう。
爪を尖らせ、手刀の形で獣王を切りつけるのだ。
「竜人の手刀!」
「ぐっ!」
ガルスの手刀が、獣王の皮膚を切り裂く。
獣王が油断していたため、予想よりもうまく手刀が入ったのだ。
「なるほど、いい攻撃だ」
獣王の体から、赤い血が流れていく。
しかし、獣王はそれをまったく気にしていない。
むしろ、喜んでいるようにすら見える。
「やはり貴様は好敵手だ。傷つけられたのは、久し振りだぞ?」
「……それでも、余裕か?」
「無論、この俺にとって、この程度の傷など取るに足らないものだ」
「む!?」
そこで、獣王の体に変化が起こった。
ガルスがつけた傷が、どんどんと癒えていくのだ。
「な、何……?」
「極限まで、高めた闘気は、己の体を回復させる。回復する肉体、それこそが、吾輩の肉体」
「回復する肉体!? 馬鹿な!? そんなものが!?」
獣王の言葉に、ガルスは目を丸くする。
そんな話は、聞いたことがなかった。
そして、そんな肉体であるならば、どんな傷を入れても、回復されてしまうということである。
「なんという肉体……!」
「さて、貴様は俺の肉体をどう攻略する?」
ガルスと獣王の戦いは、まだ始まったばかりだった。




