第87話 教えを授ける者
アンナ達は、アストリオン王国のある場所に向かっていた。
ブームルド近くで一度別れた二頭の馬とも合流できたので、馬車で進んでいる。二頭とも逃げもせず、待っていてくれたようだった。
アンナ達は、それに感謝しつつ、歩を進めていく。
「それで、カルーナ、この辺りだよね」
「うん、多分そうだと思うけど……」
アンナ達は、既にアストリオン王国に入っていた。
さらに、目的の場所付近に辿り着いている。
「普通の家みたいだけど……」
「うん、そうだよね……」
そこには、ただの家があった。
周りに他に家はないため、これが目的の家であることは間違いない。
その不自然さに、アンナ達は少し困惑する。
「ここが、女王様の言っていた場所……」
アンナ達はブームルドから出る際、レミレアに言われたことがあった。
それは、ある人物に会ってもらいたいということだ。その人物と会うことで、アンナ達はさらなる力を得られるらしい。
「よし、戸を叩いてみるよ」
「うん、お願い、お姉ちゃん」
とりあえず、アンナは戸を叩いてみることにした。
「す、すみません」
アンナが、声をあげると、中から物音が聞こえる。
ちゃんと中に人はいるようだ。
少し待っていると、その戸が開いていく。
「おや、こんな所に客人とは珍しい……」
「あ、こんにちは……」
そこから顔を覗かせたのは、三十代くらいの優男だった。
眼鏡を掛けており、どこか知的な雰囲気のある男だ。
「僕に、何か用かな? それとも、道に迷ったのか……いや、違うか」
「え?」
「その右手から覗いている三角形の紋章……そこから推測するに、君は勇者アンナだね」
「あ、は、はい……」
男は、アンナの素性をすぐに見抜いた。
レミレアが勧めるだけあって、かなりすごい人物であるようである。
「エスラティオ王国女王のレミレア様に言われてきたんですけど……」
「レミレアが? なるほど……僕の力が必要になったのか……」
アンナの言葉に、男は納得しているようだ。
さらに、女王であるレミレアを呼び捨てにしている。
この男は、一体何者なのだろうか。
「さて、君だけではないのだろう? それなら、皆を呼んでくるといい。中で話をしよう」
「は、はい」
男はアンナだけでなく、仲間達も家の中に招いてくれる。
アンナは、仲間達を呼び、男の家に足を運ぶのだった。
◇
アンナ達は、男の家に入っていた。
今は、全員でテーブルについている。
「さて、君達のことは知っているよ。勇者アンナ、魔法使いカルーナ、聖女ティリア、竜人ガルス、半魔ツヴァイ……もう一人は意外な人物、アストリオン王国のネーレだね?」
「俺のことも知っているのか!?」
男は、アンナ達のことを知っているようだ。
だが、ネーレのことまで知っているのは、驚きである。彼女がアンナ達に同行し始めたのは、つい最近のことだ。
他の五人ならともかく、ネーレまで知っているのは、不思議である。
「勇者パーティにいるのは知らなかったがね。君の噂は聞いたことがある」
「な、なるほど……」
その疑問の答えを、男はすぐに出した。
どうやら、アンナ達とは別の所で、ネーレを知ったようだ。
「それで、えっと……あなたは一体何者なんですか?」
そこで、アンナは疑問を投げかける。
ここまで話してきたが、未だにこの男が何者かわからないのだ。
「ふむ……それはいいだろう。何から知りたい?」
アンナの言葉に、男はゆっくりと頷き、そう言う。
その言葉から、質問形式であると、アンナは理解した。
とりあえず、アンナは名前から聞くことにする。
「それじゃあ、まずお名前は……?」
「……名前か、ただ、僕の名前はあまり重要ではない。元の名前で呼ばれることなど、ほとんどなくなったからね」
「え?」
男はそう言って、自身の名を言わなかった。
しかし、それではアンナ達が困ってしまう。
「それじゃあ、なんと呼べば……」
「ふむ……多くの人は、僕のことをある異名で呼ぶ。教えを授ける者、即ち、教授とね……」
「教授……?」
男のことは、自らを教授と名乗った。
その言葉から、男がどのような人物なのか、ある程度想像できる。
しかし、その口から直接聞かなければならないことでもあるだろう。
「それで、教授は何をしている人なんですか?」
「そうだね……研究と言っていいのかもしれない。魔法やその他色々なことを研究しているんだ」
「研究ですか?」
「ああ、だから、レミレアも君達をここに来させたのだろうね」
教授は、そう言って笑った。
やはり、レミレアと親しそうな雰囲気がある。
これも、聞いておきたいようなことだった。
「教授……あなたは、レミレア女王様と一体どういう関係なんですか?」
「うん? ああ、レミレアとはかつて同じ師の元で学んだんだ。その関係で、彼女とは親しくさせてもらっているのさ」
教授は、レミレアと同門だったようだ。
それなら、親しくてもおかしくはないのかもしれない。
「さて、質問はこれくらいでいいかな?」
「あ、はい」
そこで、教授は質問を終わらせようとする。
アンナも、これ以上聞きたいことは特になかったため、その提案を受け入れた。
すると、教授は再び口を開く。
「よし、それなら、早速始めるとしようか……」
「始める……?」
「ああ、君達をさらなる高みに上らせる教えを授けよう」
どうやら、ここからが教授の本領発揮らしい。
教えを授ける者が、一体どのようなことをするのか、アンナは期待するのだった。




