第54話 エスラティオ王国出発
アンナ達は、鎧魔将ツヴァイの討伐に成功したため、新たなる戦地へ赴くことになっていた。
「次の目的地は、イルドニア王国か……」
部屋の中で、アンナはそんなことを呟く。
次の目的地は、エスラティオ王国の南に位置するイルドニア王国だった。その国は、魔王軍毒魔団に侵攻されているらしい。
その国でも、また戦いが待っているのだ。アンナは、気を引き締めなければと思うのだった。
「お姉ちゃん、そろそろ行かないと……」
「うん、そうだね」
カルーナに呼びかけられて、アンナはゆっくりと部屋を出る。
今日は出発の日であり、出発前に女王に謁見することになっていた。
「ふー」
「お姉ちゃん、まだ緊張しているの?」
「まあね」
アンナは、未だにこういう王族の前に出るという行為に緊張していた。どれだけ経験しても、それだけは慣れないのだ。
「カルーナの方こそ、よく平気だよね……」
「それは、まあ、慣れかな……?」
「慣れか……」
カルーナは、アンナと比べると、そういう部分は図太い。それに、色々な事情から、女王であるレミレアには親近感のようなものが芽生えていた。
「羨ましいなあ……」
「お姉ちゃん、リラックスして……」
「いや、わかっているんだけどさ……」
そう言われても、アンナにはそれはできないことだ。
「お姉ちゃん、着いたよ」
「あ……」
そんなことを言っている内に、玉座の間に辿り着いていた。兵士達に通され、二人は中に入る。中には既に、ティリアとガルスがいた。
「ティリア、ガルスの治療はどう?」
「はい、とりあえず傷は治りました」
「ああ、ティリアのおかげで、俺もよくなった……」
「よかったですね、ガルスさん」
そう話していると、奥の方からレミレアが現れたので四人は跪く。
「皆よ、楽にしてもらって良いぞ」
「はい」
四人は立ち上がり、レミレアを見つめた。
「さて、皆よ。この度の戦いは、ご苦労であった。おかげで、この国には平穏が訪れた」
「いえ、私は、勇者の使命を果たしただけです」
「なるほど、立派だな」
アンナの言葉に、レミレアは微笑んでいた。アンナの立ち振る舞いは、正に勇者である。それを見てレミレアは、思わず笑ってしまったのだ。
「そなたなら、きっと魔王と渡り合えるだろう。これからも、頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
アンナは、レミレアの言葉に頭を下げて感謝する。その言葉は、アンナにとっても励みとなるものだった。
「ふむ、それで、これからのことだが、イルドニア王国に向かってもらう。この国から、南に位置する国で、毒魔軍に侵攻されているのだ」
「はい、聞いています」
「ふむ、きっとそなたらなら、大丈夫だ。頑張ってくれ」
「はい!」
レミレアの激励の言葉に、アンナは返答する。
これで、アンナ達が、エスラティオ王国でやるべきことが終わったのだった。
◇
「さて、出発か……」
アンナ達四人は、馬車に乗り込むことにした。今回も、アンナとカーナが御者席に座る。ティリアとガルスは馬車の中に入るのだが、そこでアンナはガルスの格好が気になっていた。
「ガルス、馬車の中くらい、それを脱いでもいいんじゃない?」
ガルスの格好は、ボロボロのマントで身を包んでいる。これで、顔まで覆い隠してあるのだ。リザードマンであることを隠すためらしいが、流石に暑そうだった。
「問題ない……周りの人間に見つかると、厄介だろう?」
「でも、そんな格好じゃあ、暑くない?」
「俺は、暑さには強いということを覚えていないのか?」
「あっ……!」
そういえば、ガルスはカルーナの炎魔法を受けても、まったく動じない体質であったことを、アンナは思い出した。
ならば、この格好も大丈夫なのかもしれない。
「俺のことなど、気にする必要はないさ……」
「いや、これから一緒に旅するんだから、気にはするよ」
「そうか……」
ガルスが少し照れているように、アンナからは見えた。顔は見えないが、そんな気がしたのである。
ガルスはそれだけ言うと、馬車の中に入ってしまった。
「アンナさん、カルーナさん、それではよろしくお願いします」
「うん、任せてよ」
ティリアも、ガルスに続き馬車の中に入ってく。アンナとカルーナは、二人で御者席に乗り込んだ。
「さあ、マルカブ、シェアト、今日もいいかな!?」
「ブルル!」
「ヒヒーン!」
アンナの合図に、二頭の馬は応え、アンナ達の馬車が動き始めた。
「よし、今日も調子いいね」
「うん、二匹とも、王国にいる間は、しっかりと休息してたみたいだよ」
「なるほどねえ」
イルドニア王国までの道のりは長い。二頭の馬にも、頑張ってもらわなければならないだろう。
アンナ達の旅は、まだまだ続くのであった。
◇
レミレアは、アンナ達の旅立ちから数日後、ある知らせを受け、ある場所に来ていた。
そこは、鎧魔城の跡地。かつてアンナ達が戦った場所である。
「ここか……」
レミレアは、跡地を見下ろし、そこであるものを認識した。それは、レミレアにとってもある意味でよく知るものだ。
「……なるほど」
酷く動揺したレミレアだったが、そこにいる者達に、そのことを悟られてはならなかった。
「さて、どういうことか、そなたらの口から説明してもらえるのか……? 鎧魔将ツヴァイよ……」
「……もちろんだ」
そこに立っていたのは、鎧魔将ツヴァイ。鎧魔城とともに沈んだはずの男だ。さらに、その隣には、副団長プラチナスもいる。
「俺達は、鎧魔城とともに沈むつもりだったが、俺は運よく助かったのだ」
「なるほどな……」
「ただし、プラチナスは命が危なかった。そのため、俺は自身の力を分け与えることで、プラチナスの命を引き止めた」
ツヴァイは、家臣を死なせぬために、自身の力を失ったようだ。つまり、今の鎧魔将にかつての強さはないということになる。
「その後、数日の間、身を隠していたが、俺とプラチナスで話し合った結果、お前達に交渉するという結論に達したのだ」
「ほう? 交渉とな?」
レミレアは、少し怪訝な表情をした。ツヴァイの交渉がなんであれ、穏やかなものではなさそうだと感じたからだ。かつての敵を、そこまで信用することは、レミレアにはできなかい。
「俺達は降伏する」
「何!?」
しかし、次にツヴァイから出た言葉は、意外なものであった。それは、降伏宣言。つまりは、敗北を認めたということだ。
「ただし、俺を解放して欲しい」
「む? それは、どういうことだ?」
だが、次の言葉で、レミレアの表情は変わる。それでは、降伏にはならないと感じたからだ。
「ティリアを……勇者一行を助けたいのだ」
「なんと!」
「俺の妹と、それを慕ってくれている者達。そして、俺がかつて唯一尊敬していた男。俺は、奴らの力となることで、今までの罪を償いたい」
「む……」
ツヴァイの提案は、悪くないものだと、レミレアは感じた。しかし同時に、この男が本当に勇者の元に向かい、助太刀するなど信用できるかどうかの心配もある。
レミレアがそう悩むことを予測していたのか、ツヴァイは、言葉を続ける。
「無論、俺の行動を制限するものも用意しよう」
「制限……」
「この私です。私が人質となり、ツヴァイ様の枷となります」
そこで、プラチナスが初めて口を挟んだ。どうやら、人質ということらしい。
「なるほどな……」
「こ奴は、すでに俺の半身のようなものだ。何より、俺が最も信頼する部下でもある。この者のためなら、俺は命すら惜しくないといえるだろう」
「ほう? それを妾に信じろというのか?」
「……そうだ」
ツヴァイの素直な言葉に、レミレアは口の端を歪める。
「面白い……乗ってみようか。その提案に……」
「……感謝する!」
こうして、アンナ達の知らぬところで、ある男が動き出してのだった。




