第44話 ある女兵士の足跡
アンナ達は、王城に戻って来ていた。
アンナとカルーナは、医務室で回復魔法を受けており、ティリアは客室に戻っていた。
回復魔法を受けている時、アンナにカルーナに話しかけてきた。
「ティリアさん、大丈夫かな?」
「うん、それは……心配だよね……」
ティリアは、敵である鎧魔将ツヴァイの妹であるという事実が判明していた。
そして、ティリアとツヴァイは悪魔と人間の間に生まれた半人半魔であるらしい。
その衝撃の事実に、アンナやカルーナですら驚いたのだから、当人であるティリアの驚きと戸惑いは相当のものだろう。
「とにかく、治療が終わったら、すぐに部屋に戻ってみよう」
「そうだね、ティリアさん、落ち込んでないといいんだけど……」
カルーナはそう言うが、部屋に籠るというのは普通の状態ではないだろう。普段のティリアなら、真っ先にアンナとカルーナの治療にあたるはずだ。それができない状態とは、落ち込んでいるということに他にならない。
「もし、落ち込んでたら、なんて声をかければいいんだろう」
「それは……私にもわからないよ……」
二人がそんなことを話していると、医務室にある人物が入ってきた。
「そなたら、具合はどうだ?」
「女王様!?」
「楽にしてくれていいぞ」
レミレアが、現れたのだ。アンナが驚きの声をあげたが、レミレアはいつも通り気にせず話を続けた。
「さて、先程までの話だが少し待って欲しい……そなたらに話しておきたいことがあるのだ」
「話しておきたいこと? なんですか……?」
「実は、妾も部下にティリアのこと……正確には、その母親フォステアのことを調べさせていたのだ。先程、それに関する報告があった。その報告を聞いてもらいたくてな」
「私とカルーナでですか?」
「ああ、ティリアは今の状態では話を聞けんだろう? だから、仲間であるそなたらに知ってもらいたいのだ」
アンナとカルーナは少し考えたが、すぐに頷いた。
◇
アンナとカルーナは玉座の間にて、レミレアの話を聞くことになった。
「さて、ティリアの母親、フォステアについてだが、彼女がどこに行ったのかなどの詳細が判明した……といっても、多少は推測も含まれておる」
「はい、よろしくお願いします」
レミレアの言葉に、アンナは気を引き締めた。
「うむ。まず、フォステアは、魔王軍との戦いに兵士として戦場に立った時、一度戦列を外れたことがあったようだ」
「戦列を外れた……はぐれたということですか?」
「ああ、偵察任務で敵の兵に見つかったらしく、それから逃げる際に一人だけはぐれてしまったようでな。最も、この時はすぐに帰ってきたそうだ」
アンナは、その話に違和感を覚えた。この話が、ティリアの出生に関係あるのだろうかと思ったからである。しかし、フォステアの話を最後まで聞くことにした。
「その時、何があったかをフォステアは多く語らなかったそうだが、心優しき人に助けてもらったと友人に話していたらしい」
「心優しき人……」
敵の陣地で心優しき人、その言葉でアンナは少しだけ推測することができた。
「当時、この国を攻めていたのは、悪魔を中心としたものだったようだ」
「悪魔……やっぱり」
恐らく、フォステアは敵である悪魔に助けられたということだろう。
「恐らく、それがフォステアと悪魔の出会いだっただのだろうな……」
「つまりは、ティリアの父親……ということですね」
確かに、この話は推測にしか過ぎない。だが、フォステアと悪魔が結びついたという前提から考えるとその推測が現実味を帯びてきた。
「この頃から、フォステアは王都を抜け出して、どこかに出かけることが多くなったそうだ。元々、活発な女性であったためか、心配する者は特にいなかったらしい」
「もしかして、それって……」
「これも悪魔に会いに行ったという推測がきてしまうな……」
フォステアと悪魔の間に何があったのか、今となってはわからない。だが、敵同士であるが恋に落ち、密かに逢瀬を重ねたという筋書きは、それ程おかしくはないだろう。
「それから、しばらく経って、フォステアは姿を消した。つまり、行方不明になったのだ」
「行方不明……時期から推測すると……」
「うむ。身ごもったと考えるのが自然だろうな……」
フォステアが身を隠したのは、悪魔との間に子ができたから、それならば誰にも言うことができず失踪したのも頷けた。
「さて、ここまでは確かな情報といえるが、ここからは各地の状態からの見解だ」
「各地に残されたもの? それって一体なんですか?」
「王都からかなり離れた村の近くにある山があるのだ」
「山ですか? それが……?」
レミレアは、唐突にどこかにある山の話をしたので、アンナは困惑してしまった。
「その山に一つ廃墟があってな。その民家は数十年程前に原因不明の火事によって燃えたもののようだ。そこには、人が住んでいたという噂がある」
「数十年前に、人が住んでいて……燃えた家」
そこで、レミレアは一度言葉を止めた。その表情は、悲しみのようなものが見えた。
「そして、最近になってその近くの村は滅ぼされた。鎧魔将ツヴァイの進軍によってな」
「女王様……」
その話はレミレアにとっても辛い話だった。自国の民が失われたという事実を口にするのは、とても苦しことだ。
それでも、レミレアは話を続けた。
「その村は、鎧魔将ツヴァイが侵攻した際に、一番に攻めた村だったのだ。今思い返してみれば、その時の奴の指揮は、何がなんでも攻め落とすというおかしな姿勢であった」
「おかしな姿勢?」
「ああ、結果的に村は滅ぼされてしまったが、それからしばらく鎧魔団が攻めを再開できない程の打撃を我らは与えることができていた。一言で言えば、効率の悪い攻めであったよ」
あのツヴァイが、そこまで滅茶苦茶な攻めをするとは、アンナには思えなかった。ただし、ツヴァイは怒りによって冷静さを失うところがある。つまり、その時のツヴァイは怒っていたということになるのかもしれない。
「ツヴァイが真っ先に滅ぼした村、燃えた家、失踪したフォステア、それらを合わせてみると、こう推測できるのだ」
「はい……」
次の言葉は、アンナも想像できた。しかし、今までの話から推測できることは、あまりいいものとは思えなかった。
「失踪したフォステアは、悪魔とともに人に見つからない山奥で暮らしていた。そこで、ツヴァイ、ティリアの兄妹が生まれ、少しの間は平穏に暮らしてたのだろう」
「ツヴァイもそう言っていたので、それは間違いないと思います」
「ああ、そして、ある時近くの村の民に見つかってしまった。そして、その村の民は理由はわからんが、その家を放火したのだろうな」
恐らくは、悪魔の存在を恐れての放火だろう。ツヴァイが村一つを滅ぼした事実から、村全体が関わっていたと推測できる。
「そこで、フォステアはなんとか生き残り、人間と変わらないティリアだけは遠ざけた。そこからはわからんが、どこかで力尽きたのだろうな……」
言い終わって、レミレアは上を向いた。気持ちのいい話ではなかったので、気分が沈むのも仕方ないだろう。
「さて、話はこれで終わりだ……そなたらも疲れているだろうに、付き合わせてしまってすまなかったな」
「いえ、話て頂きありがとうございます」
「この話をティリアにするかしないかは、そなたらに任せるとしよう」
「はい、わかりました」
そう言って、女王の話は終わった。
ティリアにこの話を伝えるかどうかは悩ましいことだ。落ち込んでいる彼女にこの話は酷だろう。しかし、いつかは知らなければならないことである。
アンナは悩みながらも、カルーナとともにティリアのいる部屋に向かうのだった。




