第12話 ただの竜人として
ガルスは、ゆっくりと目覚めた。
「ここは……?」
辺りを見渡したが、ここは家の中であるようだ。
しかし、ガルスは地面のそこにいたはずである。家の中にいるはずはない。
それならば、ここはあの世なのだろうか。そんなことをガルスが思っていると、部屋の戸がゆっくりと開いていく。
「あっ……目覚めたのですね」
「む……」
部屋に入ってきたのは、一人の女性だった。
その女性に、ガルスは見覚えがない。ただ、人間であるのは確かである。
「ここは、どこだ?」
「カルモの村……といってもわかりませんよね。あなたが、勇者様と戦う前にいた村と言えばわかりますか?」
「あの村か……」
女性の言葉で、ガルスはここがどこかを理解した。
ここは、ガルスがアンナと出会った村であるようだ。
しかし、それは何故自分がここにいるかの答えにはなっていない。地面に埋まっていたはずの自分が、その村にいるはずはないのだ。
「何故俺は、この村に?」
「実は、勇者様があなたを掘り起こしてきちんと埋葬して欲しいと言い残していて……それで、村人総出で地面を掘り越してみたんです」
「ほう……」
「そうしたら、あなたが出てきたのですが、まだ息があったため、この村に連れて来たのです」
女性の説明で、ガルスは全てを理解した。
どうやら、自身の命が尽きる前に、掘り起こしてもらっていたようだ。
それは、ガルスにとっても驚くべきことである。恐らく、頼んでいたアンナも予想していなかったことだろう。
「ただ、村にいた聖女様は、勇者様達に同行してしまったため、あなたを回復させることができないのです。あなたのことを外部に知らせる訳にはいきませんから、誰も呼べず……傷薬などを試してみましたが、どうやら生半可な傷ではないようです」
「そうか……」
ガルスは、全身に痛みを感じていた。
その傷は、ほとんど完治していないようだ。
だが、人間達の事情も理解できる。他の場所から連れて来た者は、事情を知らない。そんな者が来れば、ガルスの命はないだろう。
そもそも、地面に埋まっていた時点で、傷は取り返しのつかないものになっていたはずだ。結論が、そこまで変わることはなかっただろう。
「何故、俺を助けたのだ?」
「え?」
「勇者に言われていたからといって、俺を助ける必要はなかっただろう」
だが、ガルスには少し疑問があった。どうして、村の者達はガルスを助けたのかと。
アンナが言っていたとしても、ガルスを見捨ててもよかったはずだ。死んでいたことにして、見捨てても、アンナにばれることはなかっただろう。
「強いて言うなら……あなたが、私の息子を助けてくれたからでしょうか?」
「息子……」
そこで、ガルスの目の前に一人の少年が現れた。
その少年は、ガルスが悪魔から助けた少年である。
「なるほど……そういうことか」
ガルスは、ゆっくりとベッドの上から身を起こす。
事情は大体理解できた。それと同時に、ガルスのやることも決まったのである。
「え? どうしたのですか?」
「助けてくれたことには礼を言う。だが、俺は行かなければならない」
「え? 魔王軍に戻ってしまうのですか?」
「いや違う。アンナの元に行く」
ガルスは、既に魔王軍に戻るつもりがなかった。
ウォーレンスのしたことが許せないという思いもあるが、何より魔王軍よりアンナの方がガルスの望む生き方ができると思ったからだ。
故に、ガルスはアンナ達の元に行くことにした。自分が真に望む道を歩むことに決めたのである。
この村のある場所からして、アンナ達の次の目的地がエスラティオ王国だろう。そのことも、ガルスにとっては心配だった。エスラティオ王国に侵攻しているのは、鎧魔将ツヴァイである。
アンナ達と彼がぶつかり合えば、いいことにはならないことをガルスは知っている。ツヴァイの強さもそうだが、何より聖女の少女がいることが気がかりだ。
「で、でも、そんな体では……」
「どの道、ここで寝ていても体はそう治らん。それなら、聖女に合流した方が話も早い」
「それは……」
ガルスは、既に出発の決意を固めていた。その決意が揺らぐことはない。
それを理解したのか、女性もゆっくりと頷いた。
「お気をつけて……」
「ああ、世話になったな」
それでだけ言って、ガルスは歩き始める。
こうして、ガルスはアンナ達の元へと向かうのだった。




