第9話 勇者との戦い
ガルスは、魔王に命じられた勇者の討伐に来ていた。
勇者のいる村で、ガルスは悪魔が子供を人質にとっているのを目撃した。
討伐された剛魔団の残党が、村を襲っているようなのだ。
ガルスにとって、平和に暮らす市民を襲うことは許せないことである。故に、ガルスはその悪魔の前に姿を現したのだ。
「竜魔将様! あなたが来てくれれば、百人力です!」
「……」
正体を明かしたガルスに、悪魔はそのように話しかけてきた。
どうやら、悪魔は自分を助けてくれると思っていたらしい。
ただ、その表情はすぐに変わっていった。ガルスが、殺意を向けているからだ。
「ど、どうしたのですか? ともに勇者を倒しましょう!」
「……その子供を離せ」
「はっ?」
「えっ?」
ガルスの言葉に、悪魔だけでなく勇者も声をあげて驚いていた。
それも当然だろう。ガルスの言葉は、悪魔の優位を崩すようなものだからだ。
「何を言っているんです? この子供を人質にすれば、勇者は手出しできないんですよ!」
「離せと言っているのだ……聞こえなかったのか?」
「い、嫌だ! そんなことしたら、俺がやられちまう」
「うぐっ……」
動揺した悪魔は、その体に力を入れた。
それにより、拘束が強まり、捕まっている子供が呻き声をあげていた。
このままでは、子供が危ない。そう思ったガルスは、行動を開始することにした。
「馬鹿が……」
「あっ……?」
ガルスは、手から小石を放っていた。
闘気を込めた小石は、普通の小石ではない。弾丸となった小石は、悪魔目がけて一直線に飛んでいく。
「がっ……!」
「ううっ」
小石は、悪魔の額を貫いた。
当然、悪魔は絶命したが、力が抜けた悪魔は子供を巻き込みながら倒れそうになる。
「あ……!」
その前に、ガルスは悪魔の中から子供を救い出した。
悪魔が倒れる前に、子供を引きはがしたのである。
「行け……」
「あ、え……あ、ありがとう?」
救い出された子供は、明らかに困惑していた。
それも当然だろう。魔族のガルスが、助けてくれたことは、子供にとって予想外のことである。だが、それでもお礼を言えるのは、この子供が真っ直ぐに育っている証拠なのかもしれない。
数秒固まった後、子供はガルスの元から逃げていく。ガルスは、それを特に気にはしない。子供を助け終わった今、ガルスの真の目的を果たさなければならないからだ。
「な、なんのつもりだ?」
そんなガルスに、勇者が質問をしてきた。
勇者も、ガルスの行動に困惑していたようだ。
その質問に、答える義理はない。だが、答えない理由もないので、ガルスは理由を話すことにする。
「あの悪魔が、俺の流儀に反していただけだ……お前を助けた訳ではない」
「流儀……?」
「俺は戦いとは、兵士が行うものだと思っている。故に、俺は兵士を殺すことを躊躇いはしない」
「な、何?」
「だが、民は違う。そこに暮らす人々を脅かすのは、ただの屑でしかない。少なくとも、俺はそう思っている」
「そ、それは……」
ガルスの言葉に、勇者はある程度納得しているようだった。
だが、それでもガルスの行動が信じられないのだろう。まだ、明らかに動揺している。
しかし、そんなことはガルスには関係ない。目の前の勇者は、一人の兵士である。故に、ガルスも容赦するつもりはない。
「あなたの目的は、私ということでいいの?」
「……ああ、俺は魔王から、勇者討伐を命じられている」
ガルスが話を切り出す前に、勇者は質問してきた。
どうやら、勇者も自分が一人の兵士であるということは認識しているようだ。
彼女は、ここで逃げ出すような戦士ではない。ガルスは、すぐにそれを理解する。
「場所を変えるぞ」
「えっ?」
「ここで戦うと、周りに被害が及ぶ。誰もいない場所の方が、お互いに都合がいいだろう」
「それは、そうだけど……」
そこで、ガルスは場所を変える提案をした。
これは、元々攻撃しながら行おうと思っていたことだ。
この場所で戦えば、周りに被害が及ぶ。それは、ガルスも望むところではない。
ガルスはこの提案を勇者が飲むと確信していた。逃げ出すことなく、自身と戦うであろうことは、先程のやり取りでわかっているのだ。
「わかった。あなたの提案に従うよ」
「ならば、移動するぞ」
ガルスの予想通り、勇者は提案に乗ってきた。
これで、問題なく場所を移動できる。
「お姉ちゃん……待って!」
「カルーナ……」
そう思ったガルスだったが、足を動かす前に一つの声が響いた。
その声は、勇者の仲間の声だった。口振りからして、妹かそれに類する者だろう。
勇者の妹らしき少女は、足元をふらつかせながら体勢を立て直していた。先程の悪魔に攻撃を受けたため、万全の状態ではないのだろう。
「私もついて行く」
しかし、少女の目には闘志が宿っていた。
彼女もまた、戦場に立つ覚悟を決めた戦士なのだと、ガルスは理解する。
「俺の標的はあくまで勇者だが、手出しするなら容赦はせんぞ」
「そんなの……望むところだよ」
そんな勇者の妹に、ガルスは揺さぶりをかけてみた。
少し怯んだものの、少女はしっかりと言い返してくる。
その目に宿るものは、ガルスが一番好ましいと思うものだ。
「カルーナ、その気持ちは嬉しいけど、ついて来ないで」
「お姉ちゃん!?」
「カルーナはさっき悪魔から攻撃を受けている。今は、その体を休めておいて欲しい」
「それは……」
「大丈夫……負けやしないさ。信じて」
「……お姉ちゃん」
しかし、勇者は妹を戦いに巻き込みたくないようである。
恐らく、ガルスの強さを理解しているため、戦いから遠ざけようとしているのだろう。
ガルスは、その目に妹と同じものがあることに気づいた。この姉妹は、お互いを守ろうとしているのだ。
「そんなの許さないよ!」
そんな勇者に対して、妹は一喝していた。
その迫力は、勇者を怯ませる程力強いものである。
「カ、カルーナ!?」
「お姉ちゃん、今心の中で、自分がもし負けてもって思ったでしょ」
「え!? いや、そんな」
「そんな思考のお姉ちゃんを、一人で行かせられる訳ないじゃない」
「カルーナ、それは……」
妹の言葉に、勇者は怯んでいた。
それは、その言葉が図星だったからだろう。
先程までの勇者は、自身が負けてもいいと思っていた。それで妹が守れるならいいと、そう思っていたのだ。
だが、その思考を見抜いた妹が、それを許すはずがない。死に行く戦場に、大切な者を行かせる訳にはいかないだろう。
「ふ、ははは」
「うん!?」
「えっ!?」
そんな二人の様子に、ガルスは笑っていた。
お互いを大切に思う戦士達を、ガルスは好ましく思った。
同時に、そんな二人と戦いたいと思ったのである。
「勇者アンナよ、お前の負けだ。二人で来い、二対一でも俺は構わん」
「ええ!? どうして、そっちが決めるのさ!」
「その者の勇気は、称賛に値する。この俺の気迫を受けても、お前を助けるために立ち向かおうとしている」
「いや、それは……」
「最早、何を言ってもついてくるぞ。諦めろ」
「うぐぐっ……」
ガルスの言葉に、勇者は怯んでいた。
最早、その妹が止められないことは明白である。それを、勇者もわかっているのだろう。
「わかった。カルーナ、ついてきて……」
「うん。当たり前だよ、お姉ちゃん」
「ならば、さっさと行くぞ」
ガルスは、二人との戦いを楽しみにしていた。
そのような戦は、思えば久し振りだった。
最近、ガルスが相手をしてきたのは腐っていた者達ばかりだ。
だが、二人は違う。一人の戦士として、二人と戦うことが楽しみで仕方ないのである。
「カルーナさん! 待って下さい」
「ティリアさん?」
「回復呪文!」
そこで、一人の少女が勇者の妹に回復魔法をかけた。
その少女は、聖女と呼ばれる少女だ。自身も疲労している中、傷を負ったカルーナを顔服させたようである。
「お二人とも、頑張ってください」
「ありがとうございます。ティリアさん、体が楽になりました」
「ティリアさん……わかりました。きっと、勝ってきます」
ガルスは、聖女の顔がどこかで見覚えのあるものだと気づいた。
だが、それは今語ることではないため、その思考は胸にしまう。
こうして、ガルスは勇者アンナとその妹カルーナと戦うことになるのだった。




