第8話 鎧の中に
ガルスは、助けた半人半魔をとある人物に預けた後、森の中を歩いていた。
ガルスが頼ったのは、己の師である。師は、快く少女のことを引き受けてくれた。
彼は、ガルスと同じように、差別意識を持ち合わせていない。彼の元なら、彼女も幸せな生活が送れる。そんなことを考えながら歩いているガルスは、ゆっくりと立ち止まった。
少女を助けた時から、ガルスは何者かの気配を感じていた。その気配は、かなり強者のものだ。ただ、それ程敵意がなかったため、ガルスは放っておくことにしていたのである。
ただ、放っておいたのは少女が傍にいたからだ。彼女を預けた今、追跡者を見過ごす必要はどこにもない。
「……誰だ?」
「俺だ」
「お前は……」
追跡者は、ガルスの呼びかけに応えてすぐに現れた。
その人物の姿に、ガルスは少し驚く。目の前に現れた漆黒の鎧に、見覚えがあったからだ。
「鎧魔将……ツヴァイか」
「いかにも」
目の前の人物は、鎧魔将ツヴァイという男だった。
リビングアーマーと呼ばれる鎧に魂が張り付いた魔族で、鎧魔団を率いる強者である。
「何故、お前がここにいる?」
「お前をつけさせてもらった。あの少女が、少々気になったのでな……」
そんな男が、何故ここにいるのか。ガルスが最初に思ったのは、そのような疑問だった。
その疑問のツヴァイの答えに、ガルスは少し違和感を覚えた。あの少女を気にする理由が、ツヴァイにあるとは思えないからだ。
ツヴァイは、冷たい男だと聞いていた。他者と関わらず、孤独な戦士。それが、色々な人物から聞いたツヴァイである。
「疑問を覚えているのか? ならば、教えてやろう。この俺の真実の姿をな……」
「何?」
そこで、ツヴァイは自らの頭を外した。
リビングアーマーには、中身がない。鎧そのものが肉体であるからだ。
しかし、ツヴァイには確かに生身の肉体があった。面を外したことで、その顔が露わになったのだ。
だが、その顔も少しおかしかった。悪魔のように白髪で角が生えているが、青いはずの肌が肌色である。
その特徴で、ガルスは理解した。ツヴァイは、半人半魔だったのだ。
◇◇◇
ガルスは、森の中でツヴァイと話していた。
火を起こして、それを囲み、色々と事情を聞いているのだ。
「俺は、悪魔と人間の半人半魔だ。身分を偽るために、リビングアーマーとして暮らしているがな……」
「そうか……」
「同じ半人半魔として、あの少女のことが気になったのだ。お前が、あの少女をどうするのか、それを見届けておきたかった」
「ああ……」
ツヴァイが少女を気にしていたのは、当然のことだった。
同じ半人半魔であるため、彼女の苦労をツヴァイはよく知っているだろう。そんな彼女を放っておけないという心境は、至極全うなものである。
「最も、お前に任せておけば、心配はいらなかったようだな……お前は、我々半人半魔に対して差別意識がないのか?」
「姿形など、些細なことだ。そもそも、魔族には様々な種類がいる。それなのに、人の血が混じっただけで差別するという者達の心情の方が、俺はに理解できんさ」
「そうか……」
ガルスの言葉に、ツヴァイは少し嬉しそうにしていた。
差別されてきた彼にとって、ガルスの言葉は喜ばしいものだったのだろう。
「そういう意味では、人間との戦いも下らないものだ。何故戦うのかというあの少女の問いかけに答えられない程に、俺はこの戦いに意味を見出せなかった……」
「……俺からすれば、人間も魔族も等しく恨めしい存在だ。どちらも、俺達を受け入れないという意味では同じでしかない」
「そうか……」
ツヴァイにとって、人間と魔族は等しく恨むべき存在であるようだ。
確かに、どちらからも差別される半人半魔なら、そういう結論に達してもおかしくはない。
だが、ガルスは同時に思う。半人半魔という存在は、人間と魔族を繋ぐものになるのではないかと。
人間と魔族がわかり合った結果が、半人半魔なのである。そんな彼らなら、いつかそうできるのではないか。そのような淡い希望をガルスは抱く。
「お前なら心配はいらないと思うが、俺の正体は秘匿にしてもらいたい。この正体がばれれば、俺は魔王軍にいられないだろうからな……」
「ああ、わかっている」
「ふっ……哀れなものだな。姿を隠してまで居座っているのが、恨むべき魔族の軍団だ。俺は結局、中途半端に生きているだけに過ぎない」
ツヴァイは、自身の境遇を自嘲気味に笑っていた。
そんな彼を、ガルスは少しだけ哀れんだ。その悲しみに溢れた生が、どれだけの苦痛だったのか、ガルスには想像できない。
こうして、ガルスはツヴァイの正体を知るのだった。




