第6話 許せないこと
ガルスは、竜魔将になってしばらく経っていた。
そんな中、ガルスはある男に呼び出されていた。その男は、ガルスに対して敵意を向けてきている。
「ガルス、貴様どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何もない。俺は、俺がやるべきことをやったまでだ」
「やるべきことだと?」
ガルスが対峙している男、闇魔将ドレイクはガルスに対してかなり怒っていた。
ことの発端は、ガルスがドレイク率いる闇魔団の団員を数名葬ったことにある。アストリオン王国攻めていた団員が、市民を虐殺しようとしたため、同行していたガルスが無理やり止めたのだ。
「俺は魔王軍の間違いを止めてもいいと魔王様から直々に言われている。それを実行したまでに過ぎない」
「我が軍の団員達を葬ってまでそれは実行されるべきことだというのか?」
「ああ、そうだ」
「ふん……」
ガルスの言葉に、ドレイクは立ち上がり構えた。
その手には闇が纏わっている。どうやら、ドレイクはやる気らしい。
それに対して、ガルスも立ち上がる。相手がやる気なら、ガルスも戦うことはやぶさかではない。
「なんでも、お前が奴らに人間を虐殺するように言ったようだな?」
「それがどうした?」
「俺はそういうことが気に入らん。兵士ならともかく、民を殺す必要がどこにある?」
「人間など全員殺せばいいのだ。それがわからないとは、貴様はそれでも魔族か?」
ガルスとドレイクは、お互いに構えていた。
お互いに意見を曲げることはないため、平行線のままである。そんな二人は、既に一戦交える気でいる。
「待て……」
そんな二人の間に、黒い影のようなものが現れた。
影魔将シャドーが、現れたのである。
「シャドー、貴様どういうつもりだ?」
「お前達二人が争うことなど許されない。魔将が一人でも欠けることは、魔王軍にとって大きな喪失だ。そんなことをわざわざ魔王軍内で起こす必要がどこにある?」
「ふん……」
シャドーの言葉に、二人は構えを解いた。
ガルスもドレイクも、お互いの論にはまったく納得していない。ただ、影魔将の前で戦いを始める程、二人も愚かではないため、戦うのはやめることにしたのである。
「ドレイク、お前にはアストリオン王国への進軍をやめてもらう」
「何?」
そこで、シャドーはドレイクにそのように告げた。
その言葉に、ドレイクは顔を歪める。
「お前が出した人間を虐殺するという命令を看過できる程、魔王軍は甘くはない。人間は敵であるが、無駄な虐殺は許さないというのが、魔王様の方針だ」
「む……」
「お前には、これからは魔の大陸を警備してもらう。アストリオン王国への進軍は、狼魔団が担当してもらう」
シャドーの言葉に、ドレイクは不満そうにしていた。
だが、魔王軍の命令に逆らうことができないのは、ドレイクも理解しているのだろう。それに反論することもない。
それを見届けた後、ガルスはその場から去って行く。ドレイクが人間界を侵攻しないとわかったため、ガルスとしては一安心である。
◇◇◇
ガルスは、ドレイクの拠点の廊下を歩いていた。
そんなガルスは、後ろからとある人物の気配を感じていた。影魔将シャドーが、ガルスを追ってきたのである。
「シャドー……何か用か?」
「何か用かではない。お前が行ったことに対して、言いたいことがないとでも思ったか?」
「俺は、魔王様に自らの手で魔王軍の間違いを正すように言われている。その言葉に従い、行動したまでに過ぎない」
シャドーは、ガルスが行った行為を咎めようとしていた。
しかし、ガルスは自分がしたことに間違いはなかったと信じている。力なき者を虐げる者を、ガルスは絶対に許さないのだ。
「確かに、お前のしたことが間違いだったとは思わない。魔王様も、人間を虐殺しようとまでは考えていなかった。だが、殺す必要まではなかったはずだ。部下を殺されたドレイクの思いも、わからないものではなかったぞ」
「奴らは命を侮辱した……その報いは、与えられなければならないものだ」
シャドーの言葉も、ガルスは理解できない訳ではない。
部下を殺されたドレイクの怒りは、真っ当なものだっただろう。
だが、前提条件としてドレイクは虐殺を命じて、部下もそれに従ったというものがある。その前提条件がある限り、ガルスは自身の行ったことを間違いだとは思わない。
「お前は……彼らの命を侮辱したとは思わないのか?」
「……そもそも、戦場に立つ者なら、命を懸けるのは当然のことだ。俺も奴らを止めるために、命を懸けた。その結果、俺が生き残ったというだけに過ぎない」
ガルスは、ゆっくりと歩き始めた。
これ以上、シャドーと何か語り合うのは無駄だと思ったからだ。
シャドーも、それ以上は追ってこなかった。あちらも、何を言っても無駄だと思ったのかもしれない。
こうして、ガルスはドレイクの元を去るのだった。




