第5話 竜魔将誕生
しばらく歩いてから、ガルスは立ち止まっていた。
ラミアナの元を出発してから、ガルスは気配を感じていた。その気配は、ガルスも知っている気配だ。
ガルスは、ゆっくりと足を止めた。これ以上付きまとわれるのも面倒なので、その人物を呼ぶのだ。
「気づいていたか」
「当然だ」
ガルスが足を止めた瞬間、木々の影から一人の男が現れた。
その男の名前は、影魔将シャドー。ガルスに今までの面倒な任務を与えた者である。
「お前に言われた通り、獣王と毒蛇の姫の一団は魔王軍の傘下に入れてやった。これで、俺は解放されるということでいいのか?」
「ああ、だが、少し待て。貴様にはまだ話がある」
「何?」
そこで、シャドーの影がガルスの周囲を取り囲んできた。
その影に、ガルスは少し警戒する。シャドーから敵意は感じないが、それでも何をされるかわからないからだ。
「少し場所を移動する。安心しろ、別に危害を加えるつもりはない」
「む……」
ガルスの体は、シャドーの影に包まれた。
その後、ガルスは水に流されるような感覚に陥った。恐らく、移動しているということなのだろう。
「ここは……」
直後、ガルスはとある部屋に来ていた。
その部屋の奥には、一人の男がいる。禍々しい雰囲気の男が、部屋の奥の玉座に腰掛けているのだ。
その男の正体に、ガルスはすぐに気づいた。彼は、魔王である。魔王軍を取りまとめている男の目の前に、ガルスは連れてこられたのだ。
「傭兵ガルス……今回のお前の働き見事だったぞ」
「……俺に何の用だ?」
「……魔王軍に入れ、ガルスよ。我が魔王軍にはお前のような男の力が必要だ」
魔王は、ガルスにそのようなことを言ってきた。
魔王軍に入ること。それが、魔王の望みであるようだ。
しかし、ガルスは魔王軍に入るつもりはない。その心情は、まったく変わっていないのである。
「断る。俺は、魔王軍に入るつもりなどない」
「そう言うな。これは、お前にとっても悪い話ではないはずだ」
「何?」
断固とした態度を貫くガルスに対して、魔王は笑っていた。
その笑みは、自信があるといったような笑みである。魔王には、何かガルスを誘える算段があるようだ。
「お前の事情は調べてある。どうやら、お前は民を殺す者が気に入らないらしいな?」
「ああ、それがどうした?」
魔王は、ガルスの考えについて聞いてきた。
その程度のことは、調べればわかることである。そのため、聞かれたこと自体は気にすることではない。
「我が魔王軍は、人間の世界に侵攻する。無論、俺も虐殺などするつもりはない。だが、いくら俺が言ったところで、戦場で起こること全てを見ることはできないだろう」
「ほう?」
「だがらこそお前が魔王軍に入り、間違った行いをする魔王軍を止めればいい。特別に、お前にはその権利を与えてやる」
魔王の提案は、ガルスにとってそこまで悪くない提案だった。
無益な殺戮を止められることは、ガルスの望みである。その望みが叶えられるというなら、魔王軍にいるのも悪くないと思えるのだ。
「……その条件なら、俺も魔王軍に入ろう。本当に、俺の自由にやらせてもらっていいのだな?」
「ああ、もちろんだ。傭兵ガルス、お前を歓迎しよう」
ガルスは、魔王軍に入ることにした。
内部から魔王軍の間違いを正せるなら、入っていた方がメリットがあると考えたからだ。
「ガルス、お前には竜魔将を名乗ってもらう」
「竜魔将? 言っておくが、俺は軍を率いるつもりはないぞ」
「わかっている。竜魔将は、直属の部下を持たない特別な地位としよう。お前は魔将の中でも、自由に動ける魔将だ」
ガルスは、竜魔将を名乗ることになった。
軍を持たない特別な魔将、それがガルスに与えられた地位なのだ。
こうして、ガルスは魔王軍の所属となった。これで、獣王やラミアナとも、面倒な話をする必要はなくなるだろう。




