第3話 獣人達との戦い
ガルスは、獣王と呼ばれる魔族が統治する場所まで来ていた。
ここには、獣王に従う者達が集まっている。獣人達の中でも、旧魔王軍に属していた荒くれ者達が集まっているのだ。
そんな中に、ガルスは単身乗り込んでいた。当然のことではあるが、魔王軍に下ったリザードマンを見て、ここにいる者達は穏やかな反応をしない。
「てめえ、魔王軍がなんの用だ?」
「返答次第では、ただではおかなねえぞ……」
獣人達は、ガルスに対して明らかに敵意を向けてきていた。
ここにいる者達は、魔王軍に反乱しようとしている者達である。なんでも、前魔王からの扱いが良くなかったらしく、魔王軍を快く思っていないようなのだ。
そんな者達を取りまとめているのが、獣王と呼ばれる存在である。旧魔王軍幹部であった彼は強大な力を持っており、獣人達を取りまとめるカリスマに溢れた魔族らしい。
「お前達を止めに来たのだ。魔王軍に逆らうことをやめてもらう」
「なんだと?」
「たった一人で、いい度胸じゃねえか……」
ガルスの言葉に、獣人達は構えてきた。
言葉で言っても、彼等が止まらないことはガルスも理解している。
そのため、体で理解してもらうしかないのだ。
ガルスは、ゆっくりと構えた。周りには、数え切れない程の獣人がいる。だが、そんなことで怯む程、ガルスは自身の力を低く見積もってはいない。
「うおおっ!」
「ふん……」
獣人の一人が、ガルスに向かって斧を振るってきた。
ガルスは、その攻撃を躱しながら、獣人の後ろに回った。そのまま、ガルスは獣人を後ろから蹴る。
「ぬわあっ!」
「ぬうっ!」
「ぐうっ!」
蹴られた衝撃で、獣人は無数の同胞を巻き込みながら倒れていく。
そうしている間にも、ガルスに迫って来る者がいた。後ろから、一人の獣人が飛び掛かってきているのだ。
「ふん!」
「あがっ!」
ガルスは、振り返ることなくその獣人に裏拳を叩き込んだ。
その一撃により、後ろで巨体が倒れる音が聞こえてきたが、それも気にしない。
「ふん!」
「ぬっ!?」
ガルスは、自分の横にいた獣人の懐に入った。そのままその獣人の足を払い、ゆっくりと宙に浮かせる。
浮かんだ獣人の足をガルスは、両脇にそれぞれ挟んだ。その状態で、そのまま体を回転させる。
「ぬうっ!」
「あがっ!」
「ぐわっ!」
獣人の体が、周囲の獣人を次々と薙ぎ払っていく。
さらに、ガルスは獣人を投げ飛ばす。その着地点にいた獣人達も、その攻撃に巻き込まれて倒れていく。
「こ、これ程とは……」
「つ、強い……」
ガルスの周りにいた獣人達は、ほとんどいなくなっていた。
残っていた者達も、ゆっくりとガルスから距離ととっていく。
獣人達も、ガルスの強さを理解してきたようだ。
「……面白い客が来ているようだな」
「む……?」
そんなガルスに、ゆっくりと近づいてくる者がいた。
分厚い筋肉の鎧を纏う、獅子の獣人である。
その獣人は、明らかに他の者とは違う。ガルスは、その男が獣王と呼ばれている男であるということをすぐに理解する。
「お前が、獣王か?」
「その通りだ。そういう貴様は、傭兵ガルスか?」
「知っているのか?」
「これ程強い竜人ならば、そうだと思っただけだ。だが、外れてはいなかったようだな」
獣王は、ガルスを見て表情を変えた。
その表情は、獲物を見つけた獣のようである。
「誰も手を出すな。ここからは、吾輩がこの強者とやる」
「お前から、そう言ってもらえるとはありがたい。お前を倒せば、ここの者達も黙るだろうからな……」
獣王は、一対一でガルスと戦うつもりだった。
それは、ガルスにとってとてもありがたいものである。
ここにいる獣人と戦っても、ガルスは勝利できる自信があった。だが、獣王を倒せば、そのような無駄な時間をかけずとも、ここにいる者達を納得させられるからだ。
「がああっ!」
「む!?」
獣王は、ガルスに向かって腕を振るってきた。
それは、簡単に躱せる攻撃だった。だが、ガルスはその衝撃に後退する。空ぶっても、ガルスを吹き飛ばせる程、獣王の攻撃は強大だったのだ。
「逃がさんぞ!」
「追ってくるか……ならば!」
「何!?」
吹き飛んだガルスに、獣王は迫って拳を振ってきた。
そんな獣王の懐に、ガルスは一気に入っていく。ガルスの拳が、獣王の腹部に突き刺さる。
「ぬうっ!」
「む……!?」
ガルスの攻撃を受けて、獣王は大きく吹き飛んだ。
だが、それはガルスの攻撃の衝撃によるものではない。獣王が、攻撃が完全に入る前に、後退したのである。
それにより、ガルスの攻撃は完全に入りきらなかった。獣王には、それ程ダメージがあった訳ではないだろう。
「なるほど……これ程の強さか」
「む?」
ガルスは、次の攻撃に備えていた。
しかし、獣王は構えない。先程まで闘志に溢れていた男から、覇気が消えているのだ。
「……よかろう。魔王軍に帰還してやろう」
「何?」
「貴様程の男がいるなら、今の魔王軍はそれ程悪いものではなさそうだ。貴様を軍門に加えた現魔王の器も、一度確かめておきたい」
獣王は、これ以上ガルスと戦う気がないようである。
どうやら、ガルスを見て、魔王軍に帰還することを決めたようだ。
だが、ガルスは魔王軍に所属しているつもりはない。そのため、獣王の言っていることには、少し誤りがある。
しかし、ガルスはそれをあえて指摘しようとは思わなかった。一度、魔王軍に入る気になったのだ。それを濁すようなことを、わざわざ言う必要はないのである。
もし、後に問題が起こったとしたら、その時魔王軍が対処することだ。そこまでに話し合いの場も設けられるだろうし、そこまで悪いことにはならないはずである。
「一つ残念なのは、貴様と本気で戦えないことか。貴様が敵であれば、吾輩は心の底から楽しめたのだろうな……いつか、貴様とはお互いに本気で戦ってみたいものだ」
「ふん……」
獣王は、ガルスが本気ではなかったことに気づいていた。
だが、それはお互い様である。獣王も、また本気ではなかったのだ。
しかし、ガルスが獣王と再び戦うことは、ほぼあり得ないことだろう。なぜなら、ガルスには、魔王軍と戦う理由などないからである。
こうして、ガルスは獣王が率いる反乱分子を抑えたのだった。




