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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
番外編 竜人伝

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第2話 傭兵ガルス

 影魔将シャドーは姿を隠して、とある町の酒場に来ていた。

 この酒場には、荒くれ者達が多い。そんな荒くれ者達の中に、ただ一人雰囲気が違う魔族がいる。


「傭兵ガルスとは、貴様のことか?」

「……ああ」


 酒場の壁際で、一人佇んでいたリザードマンにシャドーは話しかけた。

 その強大な闘気を纏う男は、ゆっくりとシャドーに呼びかけに応えてきた。

 酒場の中で、ただ一人この男は冷静だった。酒も口にせず、雰囲気にも飲まれていない異質な存在だったのだ。

 その身に纏う闘気も合わせて、シャドーはすぐにその男がガルスだと気づいた。その気づいたという事実に、ガルスも何かを思っているようだ。


「お前を雇いたい。金ならいくらでも出そう」

「そうか……わかった。お前の依頼を受けてやろう」

「それなら、ついて来てくれ」

「ああ」


 シャドーの呼びかけに、ガルスは特に何も言うことはなかった。

 今ここで、話すようなことではないと理解しているからだろう。

 シャドーとガルスは、酒場の外に出て、足を進める。重要な話を、人目のない場所でするためだ。

 こうして、二人はしばらく歩くのだった。





 シャドーとガルスは、人気のない荒野に足を運んでいた。

 四方八方、何も遮ることのない荒野は、話をするのに最適な場所である。なぜなら、誰かが来たらすぐに察知できるからだ。


「……それで、俺に何の用だ?」

「気づいていたか」

「当り前だ。隠す気があったとは、到底思えないぞ」


 ガルスは、シャドーがただの客ではないことに気づいていた。

 だが、それは当然のことである。シャドーは、自身が纏う闘気を隠していなかった。ガルス程の男なら、それがどのような者なのかはわかっただろう。


「私は、魔王軍幹部影魔将シャドー。貴様に話したいことがあって、ここまで来たのだ」

「魔王軍の勧誘なら、断らせてもらう。俺は、そのようなものに属する気はない」

「ザルドスというリザードマンが、魔王軍幹部になろうとしていると言っても、その考えは変わらないか?」

「ザルドスだと?」


 ザルドスの名前が出て、初めてガルスの表情は変わった。

 シャドーが、自身の身分を明かしても崩れなかった表情が変わったのである。

 そのことに、シャドーは確信を持った。ザルドスのことを持ち出せば、ガルスは必ず動くということを。


「魔王軍に参加するリザードマンの中で、奴は最も強い。だから、竜魔団を取りまとめる竜魔将に任命される。それは、何もおかしいことではないだろう」

「奴に幹部など、荷が重いと言わざるを得ないな……」

「そうだろう。だから、貴様の元に来たのだ」


 ガルスは、ザルドスの性格を理解しているようだった。

 だから、ザルドスが魔王軍の幹部の器ではないと理解しているようだ。

 そして、この男ならそれを止めるために動くだろう。シャドーは、それを確信していた。


「ザルドスは、魔王城にいる。貴様が来ても、止めないように部下には命令しておく。後は、貴様の好きにするがいい」

「……」


 それだけ言って、シャドーはガルスの前から歩き始める。

 それ以上のことは、伝える必要がない。そう判断したからだ。

 こうして、シャドーとガルスの会合は終わったのだった。





 ガルスは、魔王城にやって来ていた。

 シャドーが言っていた通り、魔王城にガルスを阻むものはいない。

 すんなりと中に入ることができて、とある人物がいる場所まで辿り着くことができた。


「ガルス……」


 その人物は、ガルスを見て目を丸くしていた。

 ここに、ガルスがいるはずがない。そのように、思っているのだろう。


「ザルドス、お前が魔王軍幹部とは、随分と思いあがったものだな……」

「お、思い上がっただと!? この俺は強い! 強い者が頂点に立つことの何がおかしい!?」

「……」

「前々から、お前は気に入らなかった! 上から目線で説教しやがって!」


 ザルドスは、ガルスに対して怒りの感情をぶつけてきた。

 ろくに考えることもなく、すぐ冷静さをかく。ザルドスのその悪癖は、昔から変わっていなないようである。

 ガルスは、ゆっくりと構えた。これ以上、ザルドスを思い上がらせることは、同じリザードマンとして許せないからだ。


「殺してやる!」


 ザルドスは、ガルスに一直線に向かってきた。

 そんなザルドスの一撃を、ガルスはいとも簡単に躱す。ガルスとザルドスとの間には、赤子と大人程の実力差がある。手加減していなければ、ザルドスの攻撃などガルスに当たることはないのだ。


「ふん!」

「がはっ!」


 ガルスの素早い一撃が、ザルドスの首の後ろに直撃した。

 その一撃により、ザルドスの意識は消えた。その体が、ゆっくりと地面に倒れていく。


「終わらせるか……」


 ガルスは、地面に倒れるザルドスを見た。

 ザルドスには悪いと思いながら、ガルスは彼から戦う力を奪うことにした。その思い上がった精神のまま、魔王軍の幹部に立たせる訳にはいかないからだ。

 ガルスは、ザルドスの足を手刀により切り裂いた。その足の腱を切ったのだ。

 これで、ザルドスは戦場に立つ足を失った。いい回復術師がいれば、治すことは不可能ではないが、それでもしばらく戦うことはできないだろう。


「ガルス!」

「ガルスさん!」


 全てが終わり、その場を去ろうとしたガルスだったが、それを呼び止める者達がいた。

 それは、ガルスも知っているリザードマンだった。彼等が何故、自分を呼び止めるのか、それはガルスも容易に想像できることである。


「竜魔将になれ、ガルス」

「お前以上に、上に立つことができるリザードマンなどいない」

「そうだ。お前なら、誰も異論はないだろう」


 リザードマン達は、口々にガルスを魔将になるよう勧めてきた。

 だが、ガルスにその要請を受け入れる気はない。

 ガルスは、戦争というものが嫌いだった。武闘家として、戦うこと自体は好きだったが、名もなき市民が犠牲となる戦争をガルスは好きになれないのだ。

 今の魔王軍は、一度終わった戦を再び引き起こそうとしている。そんな魔王軍に加担することを、ガルスは許容できなかったのだ。


「待て」

「む……」


 何も言わず去ろうとしたガルスの目の前に、一人の魔族が現れた。

 その男は、影魔将シャドー。ガルスに、ザルドスのことを伝えてきた男だ。


「貴様のおかげで、一人の魔将が沈んだ。その責任も取らず、去ろうというのか?」

「……なるほど、そういうことか」


 シャドーの言葉で、ガルスは全てを理解した。

 元々、シャドーはガルスに魔将候補を落とした責任をとらせるつもりだったのだ。

 だからこそ、ザルドスが幹部になると危機感を煽り、ガルスをこの魔王城に招いたのだろう。

 一人の魔将候補を消したことに、ガルスは少なからず責任を感じていた。戦を引き起こそうとしているとはいえ、魔王軍は魔界を取りまとめている組織だ。そのことで、魔界で争いが起きることを抑止している側面はある。

 だから、そんな魔王軍に迷惑をかけたことは申し訳ないと思っていた。故に、その分だけは働くことが自らの義務だと、ガルスは理解する。

 何より、このことで魔王軍に付きまとわれることも嫌だった。強大な組織につけ狙われるというのは、ガルスとしても不本意だ。


「わかった。俺に何を望む?」

「魔将になれと言いたい所だが、貴様がそれを許容することはないだろう。故に、貴様にはとある者達の元に行ってもらいたい」

「ほう?」


 シャドーは、ガルスに魔将になるように言ってくることはなかった。

 どうやら、他のことでこの件の清算させるつもりであるようだ。


「獣王と呼ばれる男と毒蛇の姫の元に、貴様には行ってもらう。その二つの者がまとめる組織は、魔王軍にとって大きな障害となっている。魔王軍に下らず、独自に組織を築いているのだ。そいつらをなんとかしたいのだが、それらを止められる人員がいなかった。それを、貴様に任せたい」

「……わかった。そいつらをどうするかは、俺の判断でいいのか?」

「ああ、貴様に一任しよう」


 ガルスに命じられたのは、魔王軍に逆らおうとしている反乱分子を止めることだった。

 それなら、ガルスもそこまで嫌なことではない。魔界で起こる争いを、事前に止めることができるからだ。それが、戦を知らぬ者達を守ることに繋がるなら、ガルスの流儀に反していないのである。

 こうして、ガルスは二つの組織と敵対することになるのだった。

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