第140話 突然の訪問者
アンナと魔王との戦いが終わり、数か月が経とうとしていた。
そんな中、アンナとカルーナは家で食事をとっていた。
アンナの叔母であるソテアや、叔父であるグラインも一緒だ。
「それにしても、あんた達が恋人になったのは、驚きだね……」
「ぐっ……」
食事中、ソテアがそんなことを呟いた。
それに、アンナは思わず驚いてしまう。
アンナと義妹のカルーナは、長い戦いを終えて、恋人関係になっていた。二人にも、それを打ち明けているのだが、ソテアはそれを長いこと言ってくるのだ。
それは、当然のことではあるが、アンナにとってはとても厳しいものなのである。
「ソテア、もうやめたらどうかな?」
「で、でもね」
「二人が幸せならそれでいいと、前に結論を出したじゃないか?」
「まあ、そうなんだけど……」
ソテアに比べて、グラインは二人の関係に何か言ってくることはなかった。
というのも、グラインはそういう関係になると、なんとなく察していたらしいのだ。なんでも、カルーナがアンナに向ける感情がそういうものであると、昔からわかっていたらしい。
「お母さん、色々といっぱいいっぱいだね」
「まあね……」
アンナがそんなことを考えていると、隣のカルーナが話しかけてきた。
それに対して、アンナは苦笑いする。姪と娘が、恋人関係になったと聞いて、ソテアは気が気ではないのだろう。
叔母の心中については、アンナも同情していた。最も、この関係を変えるつもりはないが。
「うん?」
「あれ?」
「おや……?」
「おおっと?」
そのように食事をしていた四人の耳に、戸を叩く音が聞こえてきた。
どうやら、来客であるようだ。
「私、出てくるね」
「ああ、お願いしてもいいかい?」
「うん」
カルーナが立ち上がり、戸の近くまで向かっていく。
念のため、アンナはその様子を伺う。この家に客が来ることは、非常に珍しい。
そのため、少し警戒しているのだ。勇者として活動していたアンナに、変な輩が絡んでくるかもしれない。そのような疑念が、年頭にあるのだ。
「はーい……え!?」
「カルーナ?」
戸を開けたカルーナが、驚いたような声をあげた。
そのことに、アンナは瞬発的に動いていた。戸が完全に開いていないため、アンナからは誰が現れたかわからない。その事実が、アンナにそうさせていた。
「あ、お姉ちゃん」
「え?」
玄関まで辿り着いて、アンナも同じように驚いた。
その客は、恐らく危害を加えてくるような者ではない。
だが、驚くのには充分な人物だった。
「久し振りだな……赤髪の女勇者アンナ、魔法使いカルーナ……」
「あなたは……影魔将シャドー!?」
そこに立っているのは、黒い影のような体の男。
魔王軍元幹部、影魔将シャドーであった。
「ど、どうして……あなたがここに?」
「お前達の力が、必要になったのだ」
「私達の力が……?」
シャドーの言葉に、アンナは嫌な予感がした。
魔王との戦いが終わった後も、アンナは何かあると呼び出されていた。また、何か戦いがあるのだ。
別に、アンナ自身戦うことが嫌だという訳ではない。ただ、そういう戦いがあるという事実が嫌なのだ。
せっかく平和になったのに、何か危機が訪れる。そうやって日々の平和が失われるのが、アンナは嫌だった。そのため、平和を取り戻すための戦いへの協力は惜しまないのである。
「何かあったみたいだね……まさか、また竜でも出たの?」
「いや、違う。恐らく、竜よりも厄介なものだ」
以前、アンナは竜の異常発生の際に駆り出されていた。
そのことがあったため、また竜が現れたのかと思ったのだ。
しかし、それよりも厄介なものが現れたらしい。そのようなものなど、アンナには想像がつかない。
「厄介なもの?」
「ああ、強大なエネルギーが感知された。そいつらは、現在は魔界の上空に留まっている。だが、いつ動き出すかわからない。恐らくは悪意を持った者達だ」
「なるほど、それは厄介そうだね……」
シャドーの言葉に、アンナは理解した。
獣のような竜よりも、悪意を持った誰かの方が厄介なのだ。
やはり、アンナの力が必要なようである。
「カルーナ、いける?」
「もちろん、大丈夫」
念のため確認したアンナに、カルーナは力強く頷いた。
その言葉を聞いて、アンナは後ろを確認する。
すると、既にソテアとグラインがこちらに来てくれていた。
アンナ達の会話は、少しくらいは聞こえていたはずだ。そのため、こちらに来たのだろう。
「叔父さん、叔母さん、ちょっと行ってくるね」
「ああ、気をつけるんだよ」
「……まったく、仕方ないか。絶対に、無事に帰ってくるんだよ?」
「うん、もちろん。ね、カルーナ?」
「うん!」
ソテアとグラインに確認できたため、アンナはシャドーの方を向く。
これで、後は出発するだけだ。しかし、少しだけ問題もある。
「ここから、魔界まではそれなりにかかるよね? それまでに、そいつらが動かないといいけど……」
「それについては問題ない。私が、すぐに魔界に案内する。この影の中に入るがいい」
「え?」
移動時間の問題を指摘したアンナに、シャドーはそう言ってきた。
何やら、シャドーの作り出した影に入れば、移動の問題は解決できるようだ。
「ここで、いいの?」
「ああ、今から向こうの私に道を繋げる」
「道を繋げる?」
「影の抜け道」
「え?」
「きゃあ!」
アンナとカルーナが影の中に入った後、シャドーは言葉を放った。
次の瞬間、アンナ達は影の中へと吸い込まれていった。
今まで体験したことのない感覚に、アンナは襲われる。カルーナはアンナの手を握ってきていた。恐らく、カルーナもアンナと同じ感覚に襲われ、不安だったのだろう。
「あっ……」
「えっ……?」
そんな二人は、すぐに開けた場所に出てきていた。
そこは、見覚えのある場所だ。紫の空に赤い月、大地にも緑はなく、全体的に暗い色。そこは、魔界である。
「来たようだな……」
「あ、シャドー……あなたも、移動していたんだね?」
そこにいたのは、シャドーだった。
どうやら、シャドーも移動したようだ。
「いや、違う。お前達の元にいたのは、私の分身だ」
「ぶ、分身?」
「ああ、分身から本体へと道を繋ぐのが、影の抜け道の力だ」
「なるほど……」
シャドーの言葉に、アンナは大体理解した。
家にいたシャドーは分身で、こちらが本体なのだ。
「さて、それでは魔王城に向かうぞ。といっても、すぐそこだがな……」
「そうみたいだね……」
アンナ達の目の前には、魔王城があった。
かつての戦いで、色々と壊れたりしたが、今はかなり修復されているようだ。
こうして、アンナとカルーナは、魔界に来たのだった。




