第132話 聖女と竜人
ガルスとティリアは、影魔将シャドーと対峙していた。
ガルスは着地しながら、シャドーを見据える。
「……」
「まだ、息はあるか……」
ガルスの一撃により、シャドーの意識は刈り取れた。
しかし、まだ死んではいないようだ。
「ガルスさん!」
「ティリア……」
そんなガルスに、ティリアが駆け寄ってきた。
その表情は、少し心配そうだ。
「大丈夫ですか? 今、回復魔法を……」
「いや、待て」
「え?」
回復魔法を放とうとするティリアを、ガルスは引き止めた。
ガルスは、自身に回復魔法がかけられることは望んでいない。
なぜなら、次の戦いにガルスが参戦できないからだ。
「こう見ても、俺の体は既に限界だ。回復しても、アンナ達の力にはなれん」
「そ、そんなことは、関係ありません。傷ついている人を助けるのが、私の役目です」
「外傷は特にない。問題は内面の方だ。俺は、闘気を使い果たしてしまった。これは、お前の回復魔法でも治るものではない」
「そ、それは……」
ガルスの体は、直前にシャドーに締め付けられてできた跡以外は、傷も見当たらない。
そのため、ガルスの言っていることは、ティリアも理解できる。
「ティリア、お前の残っている魔力は、アンナ達のために使え。必ず、お前の助けが必要になるはずだ」
「……わかりました。私、アンナさん達の所に行きます」
「ああ、それでいい……」
ガルスの言葉に、ティリアはゆっくりと頷いた。
そして、すぐに行動を開始する。
ティリアは階段を駆け上がり、やがて見えなくなるのだった。
「ふっ……」
ティリアが見えなくなってから、ガルスは笑う。
その笑いは、あることについての笑みである。
「ぐっ……」
次の瞬間、ガルスの体から鮮血が噴き出す。
ガルスはゆっくりと膝をつき、さらに倒れ込む。
「なんとか……誤魔化せたようだな」
ガルスの笑みは、ティリアを誤魔化しきれたことからくる安堵の笑みであった。
ガルスが最後に放った技は、全ての闘気を注ぎ込んだ最強の一撃である。その技の負担により、傷口が開いてしまったのだ。
回復魔法を受けたとはいえ、ガルスの傷が完全に塞がった訳ではない。その状態で、最大限の力を出し切る一撃を放ったため、体が耐えきれなかったのだ。
「はあ、はあ……」
しかし、ガルスもそれは承知して放った。
全ては、影魔将シャドーを葬り去るためである。
結果として、シャドーの意識を刈り取れたので、ガルスは自身の役目を果たせたのだ。
「少々疲れてしまったな……」
ガルスは自身の状態をティリアに知られる訳にはいかなかった。
ティリアが無駄に魔力を使えば、魔王と戦っているアンナを助けられないかもしれない。
それだけは、なんとしても避けなければならなかった。戦えないガルスよりも、戦えるはずのアンナを助けることの方が、絶対に役に立つだろう。
「ウォーレンスにやられてから、この体には無理をさせ過ぎたからな……」
ガルスの体は、最早限界だった。
元々、ウォーレンスにやられてから、ガルスはボロボロの体で戦ってきたのだ。
ここまで来て、その限界がやってきたのである。
「少し、眠るか……」
ガルスは、ゆっくりと目を閉じた。
ガルスの意識が、だんだんと薄れていく。
(アンナ……お前なら、きっと魔王に勝てるはずだ)
薄れゆく意識の中で、ガルスが最後に思ったのはそんなことだった。
◇◇◇
ティリアは、階段を駆け上がっていた。
ティリアが目指しているのは、アンナとカルーナ、そして魔王がいる最上階である。
そこで、戦いが繰り広げられているはずなのだ。
「アンナさん、カルーナさん、どうかご無事で……」
アンナ達が連れていかれてから、ガルスがシャドーを倒すまでは、それなりの時間があった。
そのため、アンナ達がどうなっているかわからない。
傷ついているだけなら、ティリアの回復魔法で回復できる。だが、もしものことがあったら、ティリアにもどうすることもできない。
よりによって、相手は魔王だ。本当に何があるかわからない。そのことは、ティリアにとって恐怖でしかないのだ。
「きっと、大丈夫……」
ティリアは、自分にそう言い聞かせ、足を進める。
きっと、アンナ達が無事であると信じて。




