第106話 ネーレの父親
アンナ達は、ネーレの実家に向かっていた。
戦いが終わった後、しばらく休んでからの出発だ。
ネーレの実家は、王都近の港町にあるらしい。
馬車でしばらくして、アンナ達はその港町に来ていた。
「ここだ」
その港町をネーレの案内で進み、ある場所に辿り着く。
そこは、大きな建物だった。
「ここが……ネーレの実家?」
「ああ、家出してきた家だ……」
ネーレに連れられて、アンナ達は建物の中に入っていく。
建物中は、作業場となっており、船のようなものが作られていた。
アンナ達が入ってきたのを見て、一人の作業員が駆けてくる。
「な、なんだ? あんたら……いや、お嬢!?」
「ああ、俺だぜ」
作業員はネーレの顔を見て、表情を変える。
「お、おい! 船長を呼べ! お嬢が帰ってきたぞ!」
「なんだって!? 船長!」
船員は、周囲にそう呼びかけた。
すると、作業員達が一斉に騒ぎ始める。
やはり、ネーレはここの娘であるようだ。
「なんだか、すごい騒ぎになっているけど……?」
「まあ、かなり長い間、出て行っていたからな……」
アンナとネーレがそう話している内に、作業員達は静かになっていく。
その理由を、アンナ達はすぐに理解した。
奥の方から、初老の男性が歩いてきているのだ。状況から、恐らくネーレの父親だろう。
「くっ……」
それを証明するかのように、ネーレの顔が歪んでいく。
やはり、家出をしたので、気まずいのだろう。
「ネーレ……」
「親父……」
男は、ネーレの前でゆっくりと口を開いた。
その顔は、怒っているのか安心しているのか、微妙な表情だ。
ネーレの顔は、焦っているように見える。
「この……大馬鹿者が!」
「うっ!」
「勝手に出て行きやがって! こっちがどれだけ心配したと思っている!」
「……悪かったよ。親父」
ネーレに向かって、男は大きく怒鳴り上げた。
その様子は、子を叱る親そのものだ。
「無事に帰ってきたからよかったものの、何かあったら、どうするつもりだ! 二度とやるんじゃないぞ!」
「あ、ああ……ごめんなさい」
怒鳴る男に対して、ネーレは謝ることしかできないようだ。
男はネーレを叱ると、アンナ達の方を見てくる。
「それで、お前らは何者だ?」
「あ、はい。私達は、勇者一行です」
「勇者一行だと……?」
困惑する男に、アンナは事情を説明するのだった。
◇
アンナが事情の説明を終えると、ネーレの父親はため息をついた。
あまり、いい印象を覚えてはいないようだ。
「つまり、この馬鹿は、勇者一行に拾われて、その旅についていた訳か……」
「その、色々と……申し訳ありませんでした。戦いに、巻き込んでしまって……」
「いや、いい。そんなのは、こいつが勝手に決めたことだ。お前達を責めようなんて、思ってはねえよ……」
事情を説明した後、アンナとネーレの父親はそんな話をする。
ネーレの父親は、アンナ達に怒っている訳ではないようだ。
それはつまり、怒りは全てネーレに向けられているということである。
「それで、本題は船か……」
「はい。あなたの持つ技術で、海魔団と戦える船を作って頂きたいんです」
「なるほどな……海魔団か、あいつらは前々から気に食わなかったんだ。丁度いいかもしれないな……」
船作りの方は、ネーレの父親も乗り気であるようだ。
「……そういえば、名を名乗っていなかったな。俺の名前はボーデン。ネーレの父親だ」
そこで、ネーレの父親は名乗った。
名前は、ボーデンというようだ。
ちなみに、アンナ達は話の流れで、名前を名乗っている。
「お前らの依頼は受けてやる。問題だった娘も帰ってきたしな。それで、そっちの小僧が、船作りを手伝うのか?」
「ああ、僕の持つ技術で、船を強化する」
「ほう? どのような方法だ?」
「魔石を使って、船に魔法的加工を施す。仕組みは知らない訳ではないだろう? 少し特別な技術を使うが、それは僕が指導する」
「なるほどな……まあ、いい。お前の技術を見せてもらうとするか」
ボーデンは、教授の言葉に頷き、船作りが始まるようだ。
◇
ボーデンと教授の船作りをしている間、ティリアはネーレの側に寄っていた。
ティリアからは、ネーレが落ち込んでいるように見えたからだ。
「ネーレさん、大丈夫ですか?」
「ティリア……ああ、大丈夫だ、ありがとう」
ティリアが話しかけると、ネーレは笑った。
落ち込んではいるが、明るい声だったので、ティリアは少し安心する。
「俺、軽い気持ちで家出したんだけど、かなり効いたな……」
「ネーレさん……」
ネーレはティリアに対して、そんなことを呟く。
ネーレの家出に、あまり理由もなかったようだ。
なんとなくで、国を跨いだ家出をするのは、中々驚きのことである。
「……はあ、これから、どうなるのか、色々と不安だなあ……」
「きっと、大丈夫ですよ、ネーレさん」
「でも、親父に何言われるかわからないし……」
ネーレの悩みは、父親に何を言われるかということらしい。
ティリアは、とりあえずネーレの側にいることにした。
側にいることで、ネーレの不安を少しでも晴らせるように。




