昇級祝い
ドアをノックする音で目が覚めた。目を擦りながら辺りを見るともう日が暮れて完全に夜になっていた。だいぶ寝ていたみたいだ。
熟睡してだいぶ体が軽くなった感じがする。「ふぁーい」と返事をしつつ部屋のドアを開けるとヘルミネがいた。
「寝てたのか。起こして悪かったな」
「いや、大丈夫だ。だいぶ寝てすっきりしたーーからな」
あくびしながら応える。というか何の用だろうか?
「で…どうしたんだ?」
「赤級冒険者昇級の祝いをしようと思ってな。だから一階の食堂に来てくれるか?」
…そんなに大仰に祝う程のことでもないとは思う…が折角祝って貰えるのだからありがたく受け取ろう。
「わかった」
「そうか!いいとか言われたらどうしようかと思ったぞ」
ヘルミネが若干口角をつり上げて話しているのを見てなんとなーーく嫌な予感を感じるが…
「…そんなこと言わないさ」
と応じてヘルミネについて食堂に向かう。階段を降りると思ったより多くの人がいた。エルさんやリラさんやカインさんはもちろんのこと、全員ではないもののギルドの職員の方達がいる。僕が来るのを見るとみんなが口々にお祝いの言葉をくれた。
…カインさんだけは笑顔だけど目がピクピクしてる気がするな…
空いている椅子に腰掛けるとミルにグラスを渡された。そしてヘルミネが音頭を取って乾杯を行なう。
「フウガの昇級を祝って…乾杯!」
乾杯をして皆酒やらを飲み始めたがヘルミネはまだ言いたいことがあるようだ。
「乾杯はしたが…何か足りないと思わないか?」
ヘルミネの言葉にほぼ全員が頷く。
「そういうことだ。フウガ、頼む」
頼むって何だよ…もうヘルミネが見たいだけだろ…
周りを見ると皆僕に期待の目線を向けている。
……こんな祝いの場を開いてもらったし…しょうがない。上手くこうなるように誘導されている気がするが…まぁいいや。
どうせなら新しいアルラウネの方がいいだろう。
変身、アルラウネ!と念じる。体が魔力に包まれ、変身が始まる…数秒で変身が終わってからだがあらわになった。
まわりから「うわぁ!かわいい!」と言った声が聞こえる。その中でヘルミネが口を開いた。
「…本当に変身するとは思わなかった。お前の祝いの席なんだから答えなくても良かったんだぞ?」
ほんとだ…ついばに流されちゃったけどわざわざ答えるひつようもとくに…
顔がかぁぁっとなるのがわかった。
「やっぱり染まってきてるじゃないか!そのもじもじとした所作といい。まぁ何度も言うが私は一向にかまわないのだがな」
ははは!とヘルミネは笑ってるけどボクにとっては笑い事じゃない。…でも染まるのは悪いことだけじゃ……いやいやいやいやまたボクはまたなにをかんがえてるんだ…
このすがただからこんな考えになるんだ!さっそく変身をとこーーいやでももとのすがたの時に変身したからとくにかわってないんじゃ…それにまだ変身したばっかだからとけないじゃん!
いろいろな考えが頭をぐるぐる回ってしかもいつもより回らない頭で考えたから考えがまとまらなくなってテーブルの上につっぷした。
「大丈夫か?トラン」
ヘルミネに話しかけられた。…もういいや!今はむずかしいコト考えるのはやめよう!
「…うん。だいじょうぶ」
またまわりをみるとみんながボクの方をへにゃっとした顔でみている。なんども変身してるけどやっぱりなれなくて恥ずかしい。
…ヘルミネはわかってたけどリラさんとミルが手をわきわきさせていまにもおそってきそうだ。
あっ3人いっしょに一歩足が出た…
みがまえてすぐに3人にぎゅっと抱きしめられた。もうこうなったらされるがままだ。
そのまま頬ずりやらふにふにされやらされていると静かにエルさんがちかくにきた。
「やっぱり傷を受けてるじゃないですか。あなたにはその[特技]があったからいいものの危ない事には変わりないです!初めて相対する魔物にも傷を受けないように気を付けてくださいね。ほんとに」
「ごめんなさいぃ…気を付けます…」
…ちゅういをうけているのにまわりに3人がくっついているせいでどうもしまりがない。
だけどエルさんの言うことはごもっともなので心にきざんでおこう。
さっきから3人に頭の花のにおいをかがれているけどみょうに恥ずかしい。頭をかがれているだけだけどほんのうで頭の花がだいじだと思っているのか見られるじてんでなんだかゾワッとする。
というかお店の中をてらす魔道具の光でも少し気持ちがいいからひの光じゃなくても[光合成]できるかも…?
そうげんじつとうひ気味にかんがえる。…やっぱり可愛い好きがヘルミネから感染してふえてる…ミルも抱きついてきてるし…
そのまま祝いの席中抱きしめられながら時間が過ぎ、だいぶ遅くなったということで赤級冒険者への昇級祝いパーティーは解散となった。




