1ヶ月後
この世界に来てから1ヶ月と少し経った。
王都の中で強くなると決めてからもちょうど1ヶ月だ。この1ヶ月の間、ヘルミネの剣やエルさんの魔法の修練を受けて二人にはまだ到底及ばないもののそれなりに強くなれたはずだ。
細かく言えば、剣の腕はヘルミネの攻撃をだいぶ受け流すことができるようになり受け流すことでまだ100%とは行かないが反撃につなげることができるようになった。
魔法に関しては火魔法は言わずもがな、水と風と氷の魔法を使えるようになった。水魔法に関しては大気中から水を集めるイメージで発動したが、風と氷に関してはイメージするまでが難しかった。氷魔法は水を発生させた後、氷のイメージをするだけでは氷を出すことはできなかった。
どうやって発動したかというと、1週間ほど悩んだ末、初めに水を発生させた後、その水から熱を大気中に逃がすイメージで発動を試みたところ見事成功した。
風魔法は使えるようになったとは言ったが、手から風のイメージ通りのそよ風しか出せていないのでこれが使えるようになったと言えるのかどうかは怪しいところでこれからは攻撃などで使えるようにすることが当面の目標だ。
そしてなにも修練だけをしていたのではなく依頼もこなしてきたため20万イムほど貯めることができた。
なので結局数日どころか今まで泊めさせて貰っていたギルドの一室からヘルミネも止まっている黒猫の宿屋に移ろうと思う。
となるとこれからは食費だけではなく日々の宿泊費も念頭に置かなければならない。まぁ、これはこつこつと依頼を受けてれば困ることはないだろう。
今の時刻は正午前、ギルドの部屋を引き払うのに、数着の着替え以外に持つ物は殆ど無いので、今はここ1ヶ月のお礼を言うために受付の前に訪れている。
お世話になったエルさんやリラさん、ギルドの職員の方にお礼を言う。
「1ヶ月と少しの間お世話になりました!」
みんな笑顔で応対してくれる。エルさんとリラさんが口を開いた。
「ギルドの部屋を出るくらいこの世界に慣れたようで安心しました。これからも冒険者として頑張ってください」
「お礼ならあたしたちもしたいくらいだよ!人気の無い依頼をこなしてくれてこっちも助かってるんですから!」
他の職員の方達も口々に励ましの言葉やお礼を言ってくれた。今更だがギルドの職員には僕が転生者であると言うことや変身を使うことは知り渡っている。
最初は転生者である事以外は知られていなかったのだがこの1ヶ月の間、エルさんとリラさんがいないときの受付などによってバレた。
今では生暖かい目線で見られている。ただ…むやみに言いふらさないでくれるのはありがたいが、生暖かい目線で見られるのはちょっと遠慮したい…
ヘルミネ以外の冒険者には転生者である事はなんとなく悟られている雰囲気を感じるが、変身に関しては感づいている人もいるにはいるとは思うが大部分の人には知られていないはずだ。
何故こんなに気付かれないのかというと、冒険者は割と横の繋がり…つまり冒険者同士の繋がりが薄いのだ。それはなぜかというと、パーティーを組んで一緒に討伐の依頼を受ける以外に冒険者同士で話したり知り合うことがあまり無いのだ。つまり、僕は現状ヘルミネとしか依頼を受けていないので他の冒険者とあまり話したことがない。よってあまり知られていない。
だがこれからは討伐依頼やその他の依頼をガンガン受けていくつもりであるため知られる機会も多くなるだろう。
……転生者と言うことはともかく、変身に関しては恥ずかしいのでできれば知られたくないが……
職員の皆さんの見送りを背にギルドを出る。
黒猫の宿屋のミルや女将さんなどにはこれからお世話になる事を伝えてある。
だがここに来て問題に気付いた。
「これ店の人たちにも変身の事話す必要があるな…」
変身したまま帰ってくることもあるだろうし…
どう話を切り出そうか結論が出ないまま黒猫の宿屋に着いてしまった。
中に入るとこの1ヶ月ですっかり顔馴染みとなったミルが来た。
「いらっしゃいませー…あ!フウガさん!今日からここに泊るんですよね!ちょっと待っててください、今鍵を持ってきます!」
と行ってしまった。…打ち明けるのは夜、食堂の営業が終わってからでいいか。っと戻ってきた。
「はい!これが鍵です!知っているとは思いますが、朝食は7~9時の間なので遅れないようにしてくださいね!でも言ってくだされば多少時間をずらすことはできます!」
「うん、わかった。その時は言うよ。」
鍵を渡された。部屋番号は202、ヘルミネが201のようなのでおそらく隣だろう。
せっかくだし食堂で何か食べようかな。腹も空いたし。
「部屋に行く前に昼食を食べようかな。席は空いてる?」
「はい!ちょうど、というか、昼をここで食べると予想したヘルミネさんが席に居ますからそちらへ!」
ミルに促され席に向かう。ミルが言ったとおりヘルミネが座っていた。
「やぁ、フウガ。今日からはお隣さんだな」
「おう。これからよろしくな。ミルがいる間に注文しようか…僕はウルフ肉のごろごろ焼きで。ヘルミネは?」
「私もそれで」
「わかりました!ウルフ肉のごろごろ焼きをお2つですね!では少々お待ちください!」
ミルは厨房に向かっていった。
「お前が来て1ヶ月以上か、この世界には慣れたか?」
「あぁ。なんとかな…」
ヘルミネには転生者である事は言った。今更隠す必要も無い。
「ギルドを出たって事はそろそろ魔物の討伐依頼も受けるんだろう?」
「おう。ヘルミネとエルさんのおかげでそこらの魔物には勝てるくらいには強くなったはずだしな」
「そうだな、だが油断するなよ」
油断するつもりは無い。命がかかってるしな…
「もちろん。明日は腕試しにウルフの討伐を受けるつもりさ」
「なら私も行こう。なに、大丈夫だとは思うが一応な」
「過保護かよ…」
「ははは、そう言うなって。2人の方が安全だろ?」
口ではそういうがなぁ…
「まぁそうだけどさ……で、本音は?」
「可愛がれなくなるのは嫌だ!」
そうだろうな…ヘルミネに剣を見て貰う度にいじられていたせいで耳と尻尾がある感覚に慣れてきてしまった。
しかもヘルミネも耳や尻尾を触るのが上手くなってきているので最近は触られるのが気持ちいいとすら感じる事がある……染まりたくは無いんだがなぁ……
ヘルミネも狙ってる節があるので我慢しないと…
剣のことなどを話しているうちに料理が来たのでペロリと平らげる。やはり黒猫の宿屋のウルフ肉のごろごろ焼きはとても美味しい。
そうだ!明日討伐したウルフを持ってこよう!
そんなことをヘルミネと話しながらお金を払い、これから住むことになる部屋に向かった。




