熊娘に変身!
ルイに続いて騎獣がいるスペースに行くと、ある程度頑丈な囲いに一体ずつ魔物がいるのが見えた。
種類は主要道路などで見たように赤い熊や六つ足の馬だ。これは魔物が中にいるまま掃除をするのだろうか?
「魔物が寝床にいるまま掃除をするのか?」
「はい!でもテイムによっておとなしくなっているので安全ですから心配しないで大丈夫です」
そうか…テイムされているから襲ってこないか。
掃除の仕方はまず床のゴミを取り除き、それからモップなどで床の汚れを取る作業を1つ1つ繰り返すそう。
まず床のゴミを取り除くため赤い熊がいる囲いの中に恐る恐る入る。が、赤い熊は特に意に介した様子も無かった。
魔物だが襲ってこない…テイムされているとはいえ緊張したがルイが言ったとおり大丈夫そうだ。
床に散らばったゴミを掃くなりして無くした後、次にモップを使い床を綺麗にした。だいたいここまで5分かからないくらいだろうか。ただこの作業を何10回も繰り返すとなるとだいぶ重労働だ。
夕方近くになり手を止めた。途中昼休憩などを入れたため全部で6時間くらいやったのでだいぶへとへとだ。
慣れてくると次第に1つ1つを掃除する時間は短くなったため、この6時間で3人合わせて300くらいの寝床を掃除した。
一息つくとルイが口を開いた。
「お疲れ様でした!今日はもうこのくらいで終わりにしましょう!お二人とも掃除するの早いですね!おかげで思ったより早く終わりそうです!あ、そうだ。お二人ともまだ時間あります?」
「まぁ、特に予定は無いけど…」
「私もだ」
「なら騎獣達を少し触っていきませんか?あんまりこういう機会無いと思うんですけど!」
たしかに道路ではよく見るが触るとなるとあまり無いかもしれない。
「じゃあ触らして貰おうかな。ヘルミネは?」
「私は触ったことがあるからいい。ここで見ているよ」
「ではフウガさんはどの子が触りたいですか?」
「そうだなぁ…」
騎獣達を見回す。その中の一頭と目が合った気がしたのでその赤い熊にしよう。
「じゃあこの赤い熊で」
「わかりました!あっ言い忘れていましたがこの魔物は赤熊っていうんですよ!」
「そのままじゃないか…」
「では触っても襲っては来ないので自由に触ってみてください!」
寝床に入り背中を撫でてみる。この騎獣舎にいる騎獣達はよく手入れがされているらしくふかふかとした毛がかなり気持ちいい。
触っているうちに顔の前まで来た。結構怖い顔をしているが案外優しそうな目をしている。そのまま耳回りを撫でるとなんと気持ちよさそうに目を閉じた。
ところで、撫でていて思ったのだがテイムされているならお手とかできないだろうか…?いや、できたところでなんだけども。
試しに手を前に出してみる。だが特に何の反応も無かった。まぁそうだろうな。一応声に出して言ってみるか。
「お手」
すると赤い熊は少し迷った後前足をこちらの手に近づけてきた。…できるの!?
そしてそのまま手に乗せた。できた!はいいのだが…
「痛っ!」
赤熊の前足にある人間で言う中指にあたる場所の爪が僕の手首あたりに刺さっていた。
「大丈夫ですか!?」
「いてて…ちょっと爪が手に………あっ」
テイムされているとはいえ魔物の爪だ。これ変身発動するんじゃ…あっ傷の辺りが異様に温かくなってきたからこれはまずい。
思うやいなや走り出した。チラッと見たヘルミネは納得がいったような顔をしていたからなんとかしてくれるだろう。
「ちょっとトイレ行ってくる!」
「あっえっ分かりました!いきなりだなぁ…でもトイレの場所知ってたっけ?」
遠ざかるルイの困惑した声を聞きながら一番近い物陰に隠れる。
ギリギリで物陰に隠れることができた。爪が刺さった手首を中心に体を魔力が覆っていく。
スライムの時のように頭に霧がかかるということはないが…今回は熊だから熊の耳と丸い尻尾と言ったところだろうか?
この種は初めてなので10数秒かかってやっと変身が終わった。
慣れもしないが下半身はスースーしている。下を見るとちゃんと胸があるが狼娘よりはお、大きいだろう。思った通り音が上から聞こえる。
小さいためワンピースに隠れて見えないが尻尾の感覚がある。髪を見るとショートヘヤーでさっぱりとした感じだ。
サラサラとした髪に触れながらそのまま音が聞こえる場所に手をやる。
「ひぅっ!?」
丸い耳に触れた途端ビクッとなった。やはり元々無いモノなので違和感が凄い。身長も一回り小さくなっているようだ。だいたい狼娘と同じくらいか少し小さいくらいだろう。
「テイムされているとはいえ魔物だもんな…もっと注意すればよかった…」
これからどうしようたぶん3時間は元に戻らないだろうし…いっそ知り合いのフリして依頼達成証明貰って帰るか?…そうしよう。
物陰から出てルイとヘルミネの元へ向かう。ルイのぼやく声と、ヘルミネの目が輝いてるのが見えた…
「フウガさん遅いなぁ…」
「あの…!」
「あれ?君は?」
あっそうか名前名前…しかも女の子の振りしなきゃ…!
「えーっとさっき黒髪黒目のおにーちゃんに急用を思いだしたからヘルミネに依頼達成証明を渡してくれって伝言頼むって頼まれたの!」
うわぁなんだこの喋り方それに自分のことおにーちゃんって言うのはやばい。
その時ヘルミネがニヤッと笑うのが見えた。何かよからぬ事を考えてるんじゃ…
「で、君名前は?」
ほらぁぁ今なんとなく誤魔化せそうだったのに…言われまくったトランしか思いつかない!はっ!?まさかそれを言わそうと…
ヘルミネを見るとルイにバレないように真顔だが口の端が上がっていた。…やっぱり絶対これ言わそうとしてるだろ!
「トラン…です…」
「そっか…トランちゃん伝言ありがとね」
「う、うん!」
「では依頼達成証明を渡すので本部に帰りましょうか」
「あぁ」
二人について行くとルイがこっちを振り向いた。
「もう付いてこなくて大丈夫だよ?」
あ…そうか…え、えーっと…
「へ、ヘルミネおねーちゃんとは知り合いだから一緒に帰る!」
「あれ?さっき名前を聞かれて…」
「き、気のせいだよ!」
「そう…?まぁいいか。じゃあ付いておいで」
…ついスライムの時に釣られて子供っぽい喋り方にしてしまったため子供にするような対応をされている気がする。
ヘルミネを見るとずっと笑いを噛み殺すような顔をしていた。後で文句の一つでも言ってやる…
本部に着き依頼達成証明を貰い騎獣舎を後にする。しばらく離れるとヘルミネが笑い出した。
「だ、誰のせいだと!」
「あははははっ!随分と自然に女の子のフリをできてたじゃ無いか。可愛かったぞ?トラン」
「止めろ!どんだけ恥ずかしかったと思って……ひぅっ!?」
耳を触ってきたので素早く身をかがめてヘルミネの手が届かない位置に離れる
「おぉぉ!今度は熊か!熊の耳の感覚も気持ちがいいな!」
「だから、いきなり触るな!赤熊は触ったことがあるとか言って触らなかったじゃ無いか!」
「触ったことがあるのは本当さ。だけどトランの耳を触るのは別だ!ってことでもっと触らせろ~!」
終始笑われ触られそうになりながら冒険者ギルドに帰った。




