黒猫の宿屋
魔法の鍛錬はエルさんがギルドの業務を終わらせ、地下訓練場に来てくれるまで続いた。
今日の成果としては火の魔法を使えるようになり、弱い魔物に対しての攻撃で使えるくらいには習得できた。
先ほどエルさんに魔法を見てもらったところ、お墨付きを貰ったので大丈夫なのだろう。
ただ、使えるようになったと言っても魔法を使うためには少し溜めなければならない。つまり、ウルフなどの動きの素早いにはまだ使えないだろう。だがスライムなんかは動きが遅いとのことなので、明日にでも試し撃ちをしてみたいところだ。
今は夕食を食べるためにギルドの外の屋台を見ている。ヘルミネはまだ鍛錬を続けるようなので先ほど別れた。
それにしても、今日はあまり動いてないのに疲れた。
「あ~疲れたぁ~」
「魔法を使うには少量ですが自分が持っている魔力も使いますからね。魔力を使うと体では無く精神が疲れます。一度魔法を使うときに使う魔力は少ないですが使いすぎると動けなくなったり意識を失ってしまうこともあるので注意が必要ですよ」
魔力を使うと精神が疲れるのか。変身するとき体を魔力が覆っているがこの時は魔力を使っているのだろうか?
今のところ変身による疲れは感じたことはない気がする。
「魔力の使いすぎは危険なんですね。気を付けます」
ふと何かを思いついたのかエルさんがこちらを向く。
「今日は屋台じゃなくてちゃんとしたお店に入りましょうか」
「いいですね!何か良い店があるんですか?」
「はい。ギルドからは少し離れていますが黒猫の宿屋っていう二階が宿にもなっているお店があるんです。もう少しこの世界になれて、ギルドの部屋を出たらこの黒猫の宿屋に泊まるのもいいかもしれません」
宿が併設されてる店かわざわざ教えてくれるということは相当良い店なのだろう。それに…そうか、いつまでもギルドの一室に居るわけにもいかないんだよな。早く慣れて自立できるようにならなければ。
「そうですね。ギルドを出たら泊まる場所を探さないとですからね…」
話しながら南の大門とは反対方向に向け、エルさんについていく。
「あそこが黒猫の宿屋です」
エルさんが指を指した先には三階建ての建物があった。
エルさんに続いて中に入るとそこは酒場になっていて、おぼんを持った、黒い耳と尻尾を持った猫獣人の女の子に出迎えられた。
「いらっしゃいませ!あっエルじゃん!今日は一人?」
エルさんは首を振って僕を指す。
「今日は二人です」
「エルが男連れなんて珍しいね!あたしはミル、ここの看板娘だよ!よろしくね!」
と笑いかけられたのでこっちも挨拶をしておく。
「僕は楓翔、最近冒険者になったばかりの新人だよ」
「フウガさんね!これからはご贔屓に!というかエルが新人を連れてくるなんて珍しいねぇ…なんかありそうだけどまあいっか!二名様ご案内しまーす!」
店内のカウンターに案内された。
「何にしますか?」
こういうときはおすすめを頼んでおこう。
「おすすめでお願い」
「私は野菜の盛り合わせと焼き魚でお願いします」
「はーい。お飲み物は?」
何があるんだろう?
「果実ジュースで。」
果実ジュースか。ここは先達に習おう、
「同じのをを願い」
「わかりましたー!しばらくお待ちくださーい!」
ミルは小走りで厨房に注文を伝えに行った。
エルさんと雑談をしつつしばらく経つと料理が運ばれてきた。
エルさんには注文通りサラダと焼き魚、僕には…
「おぉ!オムライスだ!」
まさか異世界に来てオムライスを食べられるとは思わなかった。
「初見でオムライスだとわかるとは珍しいですね!大体の人は首をかしげるんですけど」
どうやらオムライスはこの世界ではあまり有名では無いらしい。
「それではごゆっくり~」
ミルさんは接客に戻っていった。
異世界のオムライスを食べてみる。
「おぉ…!ちゃんとオムライスだ!」
夢中でオムライスを頬張る僕を見たエルさんは興味深そうに見ながら、微笑む
「元の世界ではよく食べられてた料理なんですか?」
「えぇ、僕も一人で食事をするときはよく自分でつくって食べてました」
といった話をしつつ食べ終わる。
食べ終わったので従業員を呼びお会計をする。
お会計にはまたミルが来てくれた。
「お会計はエルが500イムでフウガさんが600イムです!」
小銅貨六枚を払い店を出る。
「お二人さん、またお待ちしてます~!」
ミルに見送られ店を後にする。
「今日は魔法のことも、黒猫の宿屋のこともありがとうございました!」
「いえいえ、逆に何も知らないままだとこっちが気が気でないので…」
別れの挨拶をし、エルさんと別れギルドの自分の一室に向かう。
部屋についたのでシャワーを浴びて、明日はスライムの討伐をしよう。エルさんによると物理攻撃はほぼ効かないようなので今日憶えた魔法を使おうと思う。スライムは動きが遅いらしいので発の実戦兼試し撃ちとしては丁度良いだろう。
そう考えつつベットで眠りに落ちた。




