48・主との戦いは中々に大変だな
縞々鋼を装填手に配り、後方にもその旨を伝えに行かせた。
月明かりだけでよく見えるなと思いながら、周りを見てみるが、主だという魚がどこに居るのか見当もつかない。
「あっちに向かわせるな、ここで気を引け!」
どうやら、主は帆船を襲っている訳ではなく、この船の近傍に居るらしい。
吊るした肉の匂いか、放り込んだ塩辛に釣られたのか。やたら慎重だな。
「そう言う事だから、見えたら撃てよ」
俺も砲手たちにそう言う。
数発で勝負が終らない場合に備えて、下へ降りて弾と火薬を用意して待機しておく。
元が捕鯨用なので、一体式弾薬ではなく分離式だ。
銛の代わりに弾頭を別に用意しているだけ。発射薬は銛でも弾丸でも同じものを使用する。
それでは威力が弱いと思うかもしれないが、銛はかなり大型のものを使用しており、弾丸重量は銛の4分の1あるかどうかだ。その軽い分が初速となって弾に威力を与えている。
しばらく待っていると船首の砲手が主を見つけたらしい。
「居た!撃つぞ」
そう声が聞こえてすぐに発射音も鳴り響く。
そのすぐ後には左砲も見つけたらしく発砲した。
「ダメだ。うまく逃げやがった」
暗い海では仕方が無いだろう。そう簡単に当たるとは思えんしな。
「回ってきやがった」
右砲もそう言って発砲したが、外したらしい。
「くそ、もっと顔を出せこの野郎」
装填中、砲から離れた砲手が海面へとそんな文句を言うが仕方がないだろう。わざわざ撃たれに上がるバカは居ない。
鯨は息継ぎに海面上に出てくる必要があるが、魚はそんな必要はないんだから。
それからしばらく警戒を続けたが遠巻きにして近寄ってこないらしい。
「向こうへ行ったんじゃないのか?」
俺がそう聞いてみたが、どうやら近くを泳いで居るのは確かだという。
全く俺には分からんが、彼らには見えるのだろうか。
「主に銛を撃ちこむ奴もなかなかいないからな。アッチの肉よりこっちの攻撃に興味を持ったんだろ。肉は何時でも食いに行けるが、攻撃されて放っておけないって所じゃないか?」
漁師は辺りを警戒しながらそう言ってくる。
なるほどな。
といっても、こちらに注意を向けたのは良いことかもしれん。アッチの船に向かわれたら塩辛や肉を投げ込んで余計に刺激しかねんからな。
しばらくそんな時間が過ぎていく。
「来る気だぞ!」
上からそう叫ぶ声が聞こえる。
砲手たちも方向が分かっているのかしっかり狙いを定めている様だ。
今度は宣言なく船首砲と右砲が発砲した。
「よし、今のは当たりだろ!」
船首砲の漁師がそう言って右腕を上げる。
「まだだ!」
右砲の砲手がそれを制して叫ぶ。
「何でだよ!確実に真上で水柱上がったぞ」
そう抗議しているが、主が泳いでいるならそう言う事なんだろう。
船が少し傾斜した。どうやら主を回避しているらしい。
ドン
後方から発砲音がした。
「やったか?」
みんなで後ろを見る。
「外れた!外れた!なんで真上で水柱が上がってんのにピンピンしてんだ!!」
後方からそんな怒鳴り声が聞こえてくる。
「そんなに硬いのか・・・・・・」
俺は唖然としてそう返すしかなかった。
「ンな訳ねぇだろ!弓や銛でヤれない相手じゃねぇ。コイツが刺さらない訳ねぇんだ」
左砲の漁師がそう叫ぶ。
そうしていると、左を走る光が見えた。
淡い光だ。よく見ていないと見失う程度だが、光が海中を走っているのは確かだ。
「もしかして、アレか?」
俺が指さして聞くと、そうらしい。
夜光虫でも背中に飼ってんのか?
「そうだ、ラムアタッカーは長生きみたいでな、デカイ長生きしたヤツは光りだすんだ。たまに小さい奴でも光る事はあるらしいがな。ま、俺も直接見るのは初めてだがな」
特にやることがない右砲の装填手がそう言ってくる。
そして、タイミングを見て左砲が発砲した。
「クソ!何で今の出外れんだよ」
確実に当たるタイミングだったらしいが、光はスピードを緩めずに進んでいき、船首、右砲も次々発砲するが、すべてが外れたらしい。
そこで俺はあることに気が付く。
「しまった!海面で跳ねてやがるな。跳弾だ」
縞々鋼弾はAPDS然とした弾であるために弾頭は鋭く尖っている。傾斜装甲で弾かれるように海面で水切り現象でも起こしてるんではないのかと推測した。
「装填するな。弾を貸してくれ」
急いで装填しようとしている装填手を止め、弾を奪い取る。
そして、鍛冶魔法でとがった先端を潰し平らにし、弾頭を綺麗に整えていく。
「何やってんだよ。平らにしたら水面で飛ぶだろ」
そう言って抗議して来るが、それに構わず加工をして手渡す。
「騙されたと思って使ってくれ。撃つのは目標の少し前の海面だ」
砲手にもそう指示を出す。
「まあ、お前が言うならそうして見るがよ」
そう言って従ってくれているが、実際に思った通りに水中弾となるかどうかは賭けだ。
「来るぞ!!」
上からそう叫び声が聞こえ、3門が射撃準備に入る。
ドン
ほぼ同時に3門が発砲した。
「クソ!まだ光ってやがるぞ」
船首の砲手がそう悔しがる。
先ほど同様に船がラムアタッカーを回避するために舵を切り、船体が傾いた。
後方は発砲しなかった。
「どうした?何で撃たなかったんだ?」
皆がそう疑問を持ったが、それからしばらく監視塔からも全く何の知らせもない。
「どうなってんだ!見失ったか?」
たまらず漁師が上へそう叫んだ。
「見失ってねぇぞ。動きがねぇんだ。何やってるか分らん」
そう返事があった。
しばらくして船が回頭して主の居る海域へと向かう。
3門は何時でも撃てるようにして警戒する。
「おい!灯り持ってこい」
船首の漁師でそう叫んで灯りを持って船員が走る。
漁師たちが明かりを頼りに主を覗き込んだ。
「くたばってやがる。さっきのは成功らしいぞ」
そう言った漁師たちは念のためと3発を主の体であろう範囲に撃ち込んでいく。
さらに観察して見たが、どうやら倒したらしいことをしばらく経って確認した。




