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17-5 教祖様ろくでもない率100%

 ユーリとノアは移動しようとはせず、建造物の中で待機していた。


 やがて石の棺が動き出す。中から一人の男が現れる。


「あ、教祖様だ」


 ノアが声をあげ、うたた寝をしていたユーリが顔を上げる。


「ヒジキと会ったそうだな。どうしてここにいる?」


 教祖モズクが、ユーリとノアを見て口を開く。


「俺達、教祖様とまた会うためにここで待っていたんだ」

「私が来るとわかっていたのか?」


 ノアの言葉を受け、モズクは怪訝な顔をした。


「いや、他の信者が石の棺で転移してきたら、モズクさんに来てもらうよう言うつもりでいました」


 と、ユーリ。


「いきなり本人が来ちゃったけどね」

「ふむ。私に用があるのか?」

「ズバリ、教祖様の目的が知りたい。教祖様がどうやって力を手に入れたかもね」


 ノアが明るい表情で質問をぶつける。


「やはり君達は私と同じだ。しかしリンカの方は少し危ういような気もする」


 二人を交互に見て、脈絡のない言葉を告知にするモズク。


「危うい?」


 リンカの役をしているユーリが怪訝な声をあげた。


「新しき世界を望みながら、破滅に魅せられてもいる。壊れた世界の風景に、心を囚われていただろう?」


 教祖に看破され、リンカの心が震える感触を、ユーリは確かに感じた。


「一方で、リンカと重なっているもう一人の君は、私と同じ憤りを抱いているようだ。興味深い」

「え……?」


 モズクのさらなる発言に、ユーリとノアは驚いた。


「俺達のことを認識している。外の世界から来たこと」

「ノア、迂闊にそういうこと口にしちゃ駄目だよ」

「すまんこ」


 ユーリに注意され、ノアは素直に謝る。


「そのように見えたので、指摘してみた。リンカの言う通りであるな。いや、リンカと重なっている君は、不実、不正、不義が許せないタチではないか? そしてそのようなものが世界を歪ませている。そのようなものを世界に撒き散らした神にも憤慨している。違うかね?」


 モズクの指摘を受け、ユーリはすっかり蒼白な顔になっていた。


 ふいにノアが、ユーリの手を強く握りしめる。


「ふざけるなよ。人の心を覗ける力があるようだけど、人の心にずけずけと入り込むな。他人にバラされたくないような事かもしれないのに、それを平然と口にするな。ムカつくな、このおっさん」


 それまで明るい表情だったノアが、モズクを睨みつけ、険悪な声で抗議する。

 ノアの力強い言葉に、ユーリは嬉しさと安心感を覚えて、口元が綻ぶ。


「それは悪かった。力の証明、同胞の証明ということを示したいばかりに、先走りすぎ、踏み込み過ぎてしまったな。謝罪しよう。君を見て、つい嬉しくなってしまってな。私と同じ子がいたと」


 そう言ってモズクは深く頭を垂れる。


「すまんこって言おう」

「すまんこ?」


 ノアの要求を聞き、訝りながらも従うモズク。


「で、話が脱線しまくってるし、元に戻すけど、教祖様はどこで力を手に入れたの?」

「私は子供の頃、村の禁を破って、廃墟の最奥の危険地帯へと足を踏み入れた。瓦礫が崩れやすく、穴もあちこちに開いていて、光を通さない地底の廃墟だ。まだ未発見の、世界が滅びる前の文明の産物を幾つも発見した。ただし、使い方はわからなかったがな」


 ノアの問いに答えるモズク。


「使い方のわからない道具を二つほど暴走させた結果、私は人の心を読む力を得た。そして世界が滅びた理由も知った。強いマイナスの波動を放つ者達が群れ集い、権力を得た。人を否定し、人の上に立ちたがり、人から搾取する者達。それだけでも大分タチが悪いが、何より彼等が残忍で邪悪であったのは、自分達とあわない思想の人々を迫害し、弾圧した事だ。彼等は階級社会を作り上げ、思想統制を取った。下層階級の者達を家畜のように扱い、罵っていた」

「僕達のいるア・ハイ群島もそういう部分はあるけど、もっと酷そうだね」

「どこの世界でも似たような事が起こるんだ」


 モズクの話を聞き、ユーリとノアが囁き合う。


「やがて大規模な戦争が起こり、世界を破壊し尽すほどの強力な兵器が暴走し、世界は壊れたというわけだ」


 その時、モズクは一瞬だが確かに嘲笑を浮かべていた。


「他にも破壊前の旧世界の道具は大量にあったが、どれも使い方がわからず、迂闊に触れるのも怖かった。旧文明の崩壊は、自分達が作った道具の力の制御の失敗だと知ったからね」


 自分の幼い頃を懐かしむ目で話すと、小さく肩をすくめるモズク。


「私は大人になってから、もう一度地下へと足を運び、旧世界の道具を運び出し、十分に注意を払ったうえで、扱えないか試してみた。全てを試したわけではないが、幸いにも、私が選んだ物の中に、暴走して害を成すような危険な物は無かった。そして地下にあった石の棺が、中に入った物を同じ石の棺へと転移させるものだと、つい最近知った。私はこれを使って砂漠の外に出られないものかと、今模索している最中だ。砂漠を普通に渡ろうとすると、あの黒人形が襲ってくるからね。私は空を飛んでいく事も出来るが、村人達はそうもいかん。しかも村から離れるほど黒人形は強く、数も増す」

「それで転移装置である石の棺を試していたんですね」

「うむ」


 ユーリが納得し、モズクが頷いた。


「石の棺は、村に戻るのは容易だが、座標を合わせて特定の場所に行く事が中々難しい。中々思った場所に飛べない。まあ、この場所はすでに座標が特定できているから、ここも村と同じく、狙って飛べる数少ない場所だが」


 喋りつつ、モズクは傍らにある医師の棺に手を置く。


「教祖様、その旧世界のアイテムが眠る場所に、俺を連れて行って」


 ノアが目を輝かせて頼んだ。


「ノア……それってひょっとして……」

「ひょっとしなくてもそのつもり。俺達の役に立ちそうなものがあって、イレギュラーとして持ち帰るかもしれない。教祖様は全て試したわけでもないって言ってたし、見つけてないものもあるかも」


 ユーリの方を向いて、ノアはウキウキ顔で言った。


「そんなの、モズクさんが了承してくれるのかな?」


 ユーリがモズクを見る。


「あれは別に私のものではない。君達は……アルバとリンカも、重なっている者達も、私に近い者であるし、私は勝手に同胞と見なしているから、欲しいものがあれば持っていってくれても構わない。だが、危険だぞ」


 モズクがノアに向かって言う。


「危険でもいいから見せて。使えそうなのがあったら貰うよ」

「わかった。この石の棺で村に戻るぞ。先に君達が入りたまえ」


 モスグが了承して促す。


(教祖様に心を許さないで。心の中を悟られないように魔法で精神ガードして)


 すぐに石の棺に入ろうとはせず、ノアがユーリに念話を送る。


(すでにしてあるし、ノアと師匠の念話は届く設定にしてあるよ)

(あは。流石先輩だね。抜け目無い)


 ユーリの答えを聞いて、ノアは微笑を零す。


(確かに親切すぎというか、物分かりが良すぎて、それで返って警戒してるよ)

(うん。気味が悪い。それ以前に、宗教なんておっ始めて、教祖様なんかやっている時点で、絶対にろくでなしだ)

(それも偏見凄いというか……)


 ノアの断定を聞いて、ユーリは微苦笑を零す。


(偏見じゃない。理屈で考えよ? 崇められたいという欲求が強いか、多数の人間を利用して自分の利に繋げる目論見があるからこその教祖様だ)


 確かにそれは言えていると、ユーリも思った。


「と……ところでノア」

「何?」


 肉声で戸惑いの声をあげるユーリ。


「いつまで手繋いでるの?」

「あれ? 先輩照れてる?」


 ユーリを見てニヤリと笑うノア。手は放そうとしない。


「いや……その、元気づけてくれてありがとう。もう大丈夫だよ」

「あれ? 俺に手握られているのは嫌だったの?」

「もう……からかわないでよ」

「じゃあもっとからかう。壊れかけたこの世界が、真っ赤に染まって完全に壊れるその時まで、ずっと握っている」

「何でいきなりポエムっぽいこと言ってるの?」

「あれ……? 何でだろ。ああ、これはアルバの意識の影響だよ。アルバがリンカから昔聞いた台詞だ。リンカが口走ったこの台詞が、アルバの心に強く焼き付いているんだ」

「お喋りはいいが、入らないのかね?」


 いつまでも喋っている二人を見かねて、石棺の横にいるモズクが声をかけた。


***


 ミヤは図書館亀の中で、興味を抱いた本を読み漁っていた。床中に本が散らばっている。その有様を見ても、図書館亀は咎めようとはしない。


「先程の話の続きとなりますが、嬲り神は、求める真実に近付きつつありますねん」

「一体何なんだい? それは」


 図書館亀の思わせぶりな台詞を聞き、ミヤが訝る。


「それはきっと、嬲り神にとってのみ重要なことだと思われますわん。勇者ロジオなる存在と関わると思われますわん」

「どうせ取り決めとやらで教えちゃくれないんだろうけど、この絵本世界は、完全に繋がった一つの世界ではないみたいだね。お前のさっきの発言からもそれはわかる。儂が見てきた、これまでの傾向から見てもね」


 人喰い絵本には様々な説があるが、共通した一つの世界であるという説と、別個の世界である説がある。ミヤとしては、近しい並行世界が寄り添った、複数の世界の複合体ではないかと推測している。


「あるいは複数の世界が、壁を隔てることなく絡まり合っているか。そして、儂等のいる世界は、大きな壁を隔てた世界なんだろうよ。あるいは世界を修正させようという力が働いた結果、並行世界が複数生まれているのかね? あるいは『人喰い絵本』が、近い世界を幾つか呼び寄せている 修正しやすいようにするために?」


 思いついた推測を並べ立てるミヤ。図書館亀は黙って聞いている。


「儂の推測、あっておるかね?」

「取り決めがあるので、本当はいけないのですが、言わせて欲しいのですよん。全てではありませんが、わりと当たっていますねん。御見事と称賛しますのん」


 笑い声で肯定する図書館亀。


「人喰い絵本そのものにも意思を感じるよ」

「お弟子さん達もそのような事を囁いていましたよん」

「盗み聞きして告げ口とは、いい趣味している亀だよ。女湯も覗いたりするのかい?」

「出歯亀のような真似は致しませんよん。たまたま耳に入っただけですのん」


 ミヤが呆れ気味に指摘すると、図書館亀はとぼけた口振りで言った。


「ミヤ殿、ユーリ殿とノア殿が絵本の登場人物になりかわっているそうですが、任せておいてよろしいのですか?」


 ゴートが案ずる。


「お前はどれだけ儂等と付き合っているんだい。ユーリは上手くやるさ。制御役のノアもいるしね」


 本に目を走らせながら、ミヤが答える。


「成果はありましたのん?」

「今の所、人喰い絵本の謎に迫るような代物は無いね」


 伺う図書館亀に、ミヤはつまらなさそうに言った。


「そちらの騎士様方はお暇そうですねん。一つ、この世界のルーツでも語りますかな」


 図書館亀がゴート達の方を向いて、話しだす。


「はるか昔、全ての人間の差を失くして、完全なる平等をもたらそうという思想が流行りましたのん。男女の差さえ無くそうとしましたわん。従わない者は弾圧したのですのん。その反動で反乱が起きて、今度は凄まじい格差社会になりましたねん。一部の者だけが利を産み、下層階級にいる者達を徹底的に弾圧しましたわん。そして平等主義者達は全て底辺に追いやられましたのん」

「極端から極端へ……不毛だねえ。間を取ることは出来なかったのかい」


 書物に目を落としたまま、ミヤが呆れ声をあげる。


「二項対立の果ての両極端なディストピアですからねん、一部の者以外には厳しい世界ですよん」


 と、図書館亀。


「さらに反乱がおこり、長年にわたる戦争へと繋がり、恐ろしい破壊兵器が使われましたよん。その結果が今の世界ですのん」

「大きな力を生み出しても、扱う者が馬鹿なままじゃ、そうなるのが道理さね」


 そう言ってミヤは虚しげに息を吐いた。


***


 教祖モズク、ユーリ、ノアの三名は、石の棺の形の転移装置を用いて、廃墟の村に移動した。


 モズクに案内され、建造物の一つの地下へと降りる。地下区域の奥には、村でも立ち入り禁止指定されているゾーンがある。


 灯りのついた地下通路をしばらく進むと、一本の縄が通路に張られ、立ち入り禁止の看板が縄にぶら下がっていた。モズクは縄を跨ぎ、先に中に入る。ユーリとノアも後に続く。


「教祖様、悪い人だったんだね。禁を破っちゃってさ」

「そうだな。悪人でなければ教祖などしない」


 ノアがにやにや笑いながら指摘すると、モズクも笑い返す。


(パターン通りの教祖様ってわけでもないのか。何か面白い人だ)


 ノアは少しモズクのことが気に入った。


「この先は入り組んで……誰かいる」


 モズクが緊迫した声を発し、立ち止まった。後ろからついてきたユーリとノアも立ち止まる。


 ユーリとノアは通路の先が広間になっている事を確認したうえで、遠視魔法を同時にかけ、広間の様子を探る。


「あの人は……」


 見覚えがある水色の髪の男が広間の隅に蹲っている姿を見て、ユーリが声を漏らす。


「おう、おめーらもここに来たのかよ」


 男――アルレンティス=ビリーが立ち上がると、ユーリ達のいる方に振り返り、不敵に笑った。

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