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16-4 糞野郎相手の宥和政策にムカつかなかったら人間おしまいだろ

 アルレンティスの修行を終えた翌日。ノアはチャバックとブラッシーを連れて、ソッスカー各地を練り歩き、第二回目イベントのためのチラシを配布していた。


「しばらく会社放ったらかしだったけど、チャバックはお金大丈夫なの~?」

「うんっ。オイラ、最初のイベントの時にいっぱいお金貰って、その蓄えがあったからね」


 気遣うブラッシーに、チャバックは元気よく答える。


「それにしても足とか色々な障害が治ってよかったわね~ん」

「うんっ。フェイスオンさんのおかげだよっ」


 明るい声で答えた後、チャバックは異変に気付いた。


「ノア?」


 急に立ち止まり、亀裂にかかる橋の上から動こうとせず、亀裂の崖をじっと見下ろしているノアを見て、チャバックが不審な顔になる。


「ノア君、どうしたのーん? いつになく思いつめた顔しちゃってる~。何か悩み事があるのなら話してごらんなさーい」


 ブラッシーが声をかける。


「ここで俺は救われたんだ」


 亀裂を見下ろしたまま、ノアは言った。


「俺、ここで自殺しようとしていたんだよね。そこに先輩が現れて、助けてくれた」


 いきなりヘビーな話をしだしたノアに、チャバックとブラッシーは神妙な顔つきになる。


「俺、いつも死ぬことばかり考えて生きてて、とうとう本気で死のうとしたのにさ。先輩、最高に馬鹿な台詞を言って助けてくれた。死にたくない人いっぱいいるのに命を粗末にするなってさ。俺は馬鹿馬鹿しくなって、死にたくない奴は贅沢で幸せな人生送ってるから、死にたくないんだって、返したよ」


 そう言ってノアは、二人の方に振り返って爽やかな笑みを浮かべる。


「死ぬことが出来る奴なんてさ、羨ましくて仕方なかった。それくらい酷い毎日送って、死ぬことばかり考えて、でも死ぬ勇気も無くて……。あ、いいこと考えた」


 喋っている最中に、ぽんと手を叩く。


「第三回目イべントは、ここでくじびきバンジージャンプにしよう」

「どうせハズレは紐が切れてるっていうのよね~? だめよーん」


 ノアの提案を即座に却下するブラッシー。


「うん。当たり一つ以外は全てハズレにして、自殺願望ある人だけ参加って形で、生き残ったらエニャルギー大量に貰えるから、その分生きる希望になるっていう、死んだ人も生き残った人もウインウインの、愉快なデスゲームにしようかと」

「だめよーん」

「そんなの駄目だよう」


 ブラッシーが再度却下し、チャバックも拒んだ。


「何で皆していつもいつもデスゲームを拒むの? 命かかってないと緊張感無くて面白くないと思うんだけどなあ。不思議だ」


 二人がかりで否定され、ノアは肩をすくめた。


***


 ユーリはソッスカー山頂平野の中心繁華街で、スィーニーに会った。


「ノアと一緒じゃないんね。珍しい。ノアが来てからずっとノアと行動一緒だったのにさ」

「うん。今日はノア、会社の方で仕事してて、僕は師匠の言いつけで、復興した魔術学院の様子を見に行く事になったからね。ていうか、いつも一緒ってわけでもないよ。わりと別行動もするよ」

「そうなんかー。それ、私も一緒に行っていい?」

「いいよ」


 スィーニーの申し出を、ユーリは微笑んで快諾する。


「でもノアを一人で行動させていいん? 陰口叩くようでちょっとあれだけどさ。ノアって相当問題児で、ユーリがその御目付け役みたいに見えた」

「逆かもね」

「え?」


 苦笑するユーリに、スィーニーが怪訝な声をあげる。


「僕も問題児なんだよ、すぐにカッとなって暴走して……師匠が、僕がそんな風になった時、ノアは止める役になるよう言ったらしい」

「うーん……そっか……。いつもの穏やかなイメージのユーリからは、ちょっと考えにくいけど」


 ユーリの自嘲めいた台詞に、スィーニーはますます訝る。


 二人が魔術学院に到着する。


「ふわー、これ、三十年前の建物をそのまま改築したんよね。新築みたい」


 魔術学院の立派な建物を見て、驚くスィーニー。


「うん。魔術で改築したから早かったし、ぴっかぴかなんだと思う」

「私も魔術師だからわかるけどねー」


 ユーリとスィーニーが言ったその時だった。


「おや、君が来たのか」


 一人の老人が声をかけてきた。その老人を見て、二人共驚く。ユーリは直接の面識があったし、スィーニーも面識は無いが流石にその人物のことは知っていた。


「ロドリゲスさん……。捕まったんじゃなかったんですか?」


 K&Mアゲインの幹部であったことが発覚し、捕縛されたはずのパブ・ロドリゲスが、魔術師のローブを着て自由に外に出ている姿を見て、ユーリは尋ねる。


「未だ囚われの身だよ。囚人でありながら、ここの院長を務める事になった。魔術師は人手不足だから、捕縛されたK&Mアゲインは全員、魔術師としての労働でこき使われるというわけだ」


 先程のユーリよりずっと強い自嘲を込めて、ロドリゲスは現状を話す。


「しかも学院の仕事以外の時間では、ひたすらエニャルギーの精製をさせられている。馬車馬のように働かされているよ」

「そのわりにはウキウキね」


 スィーニーが不機嫌そうに指摘する。


「私達の願いは叶ったからな。魔術学院は復活した。そのうえ、低賃金で常に監視がつくとはいえ、その業務にも携われる。嬉しいことしきりだ」

「あんな騒ぎ起こして……何人も人が死んだんよ? 住居壊されて物も盗まれて……」


 臆面もなく嬉しそうに語るロドリゲスを、スィーニーが怒りを露わにして避難する。


「そうだな。私の財産は全て没収されて、それらの補償金に回されたよ。そしてこの先も延々低賃金労働者として、そして囚人として扱われ、罪の償いをする事となる。それとも私も死ねばよかったということかな?」

「そこまでは言わない。でもあれだけのことして、願いが叶ったとか言って嬉しそうにしてる。それがムカつくんよ」

「僕も同じ気持ちです」


 スィーニーが言い放つと、ユーリが力強い声で同意した。


「そうだな。そう思われても仕方ない。いや、そう思われて当然だ。許しては貰えないだろうが、それでも私としては、働きで返すとしか言えん」


 ロドリゲスが寂しげに微笑むと、二人に背を向けて、ゆっくりと立ち去る。


「腹立つよね……。何か悔しいわ。私達が勝ったと思ったら、敵の思い通りになっていて、捕まった敵は喜んでいる」


 スィーニーがロドリゲスの背を睨んだまま、感情をストレートに口にする。


(僕が突っかかった豪商が、実は篤志家で……僕の方が恥をかいたってことあった。あれは僕が向こう見ずな馬鹿だったから悪い。今回はもっとどうしょうもなく悔しいな。でも救いもある)


 感情的になる一方で、ユーリは計算も働かせていた。


(腹は立つけど、最適解でもある。ロドリゲスさんを要職に据えれば、魔術師達の復興のために役立つというだけではなく、K&Mアゲインに対する牽制にもなるんだ)


 誰がこの方針を決めたか知らないが、思い切ったことをしたと思うし、良い方法だとユーリは思った。


「でも救いもあるよ」

「は? 救い? 何があるんよ」


 ユーリが言うと、スィーニーが目をひそめる。


「スィーニーが救いだ」

「え?」


 思いもよらぬ台詞がユーリの口から発せられ、スィーニーは目を丸くした。


「スィーニーは行商人なのに、ア・ハイのために怒って、戦ってくれて、そしてこの結果を見て、さらに怒ってくれている。それを僕は知っている。それがちょっと嬉しいし、救いになっている。僕はそう感じたよ」

「そ、そういうものなん? う、うーん……」


 微笑をたたえて告げるユーリに、スィーニーは照れ臭くなって頭話かく。


『貴女が私の命令を破ったことで、多くの者が救われました。だから悲観してはいけません。そして貴女はそのままで良いのです』

(メープルC、私はその言葉を信じます。でも……そうなると、いつか私は、貴方にも牙を剥くかもしれないんですよ……?)


 信じる者の言葉を思い出し、スィーニーの心が揺らぐ。


「おうユーリ、デートか。しかも南方の娘っ子か。カッカッカッ」


 今度はシモンが現れて、ユーリに声をかけてきた。


「ち、違いますよっ、先輩っ」


 シモンの方を見て慌てて否定するユーリ。


「照れるでない。若い頃はうんと盛っとけい。やることは沢山やっておけい。カカカ」

「先輩? つか、随分と失礼な先輩ね……坊主の癖してセクハラ気味だし」


 無遠慮極まりないシモンをジト目で睨むスィーニー。


「うん。僕の兄弟子のシモン・ア・ハイさん」

「七人の魔法使いの……しかも王族のシモン殿下が兄弟子なん」


 ユーリに紹介され、スィーニーは意外そうにシモンを見た。


「アルレンティス殿の元で指導を受けたそうだな。拙僧も昔、あの人の元で修行したことがあるよ。おかげで、拙僧は爆発的に魔力を高めることができたというわけじゃ」


 シモンがユーリを見て話しだす。


「ああ、師匠も言ってましたね。先輩は師匠以外の指導も受けて魔力を増大させたって」


 それでミヤはアルレンティスに自分達を指導するよう要請したのかと、ユーリは得心がいく。


「ところで、ここにおるということは……魔術学院の院長の件は知っておるか?」

「ええ……」


 シモンが真顔になって言い、ユーリが頷く。


「ふっ、思う所はあるだろうな。どうせばれることだから拙僧の口から告げておこう。旧魔術時ギルドの長にして、K&Mアゲインの幹部パブ・ロドリゲスを、新生魔術学院の院長に推薦したのは、師匠じゃ」

「は……?」


 シモンの言葉を受け、ユーリもスィーニーもぽかんと口を開く。


「嘘でしょ……。にゃんこ師匠がそんな……」

「師匠は言っておったよ。ユーリ、お主の合理主義に倣ってみたとな」


 真顔のまま告げたシモンのその言葉は、色々な意味でユーリにとって衝撃的であった。


「ユーリ……」


 スィーニーが思わずユーリを見る。ユーリの人間性を疑ったのではない。人によっては疑われかねないようなことを、人前で言われたユーリがショックを受けたのではないかと、そう感じたのだ。


「酷いですよ、先輩。スィーニーの前で……」

「おぉっと、すまぬ。彼女に嫌われてしまうか。カッカッカッ」


 非難気味に言うユーリだったが、シモンは悪びれずに笑う。


「本当、この坊主無遠慮すぎるんよ」


 スィーニーもシモンの神経を疑っていた。


「スィーニー、軽蔑されるかもしれないけど、感情面を無視すれば、ロドリゲスさんを院長に据えるという手は、いい手だよ。貴族達の反発を加味したうえでもね。K&Mアゲインの思惑通りになっているように見えるけど、その一方で、K&Mアゲインの戦意を削ぐ効果もある」

「その通りじゃ。彼奴等の望みが叶って、魔術学院が復興したうえに、奴等に対して強い姿勢を示さず、宥和的なスタンスを示したとあれば、K&Mアゲインに所属して戦い続ける意義は薄れる。無理して戦うのは、一部の原理派だけになろう。貴族にヘイトを燃やし続ける者はまだ多いやもしれぬが、王政の復活など、本気で望んでいる者は少なかろう。あるいは全くおらんかもな」

「多くは魔術師の復権を望んでいたでしょうからね」


 ユーリとシモンが二人がかりで、ロドリゲスが院長に据えられた理由を、推測と分析を交えて解説する。


「うーん……感情的には受け入れがたいけど……なるほど。わかったわ」


 納得できないが、ユーリを否定したくもないし、非難たくもないので、飲み込んでおくことにするスィーニーであった。


「怒りや憎しみを捨て、協調していく事も、時として有効な場合もあるということじゃ。そしてそれが良い結果に繋がる事もな」


 シモンが両手を合わせて瞑目して告げる。


「それでもなお、納得いかんと言うのならば、ほれ」


 やにわにその場にしゃがみこみ、頭を下げて突き出すシモン。


「な、何?」

「叩くがよかろう」


 戸惑うスィーニーに、シモンは言い放った。


「ユーリ、遠慮するでない。お主も日々のストレスが溜まっているのであろう? 拙僧にはわかるぞ。叩いて仏の御心に触れ、心の魔を解き放つがよい」

「は、はい……」


 ユーリはシモンの前に行くと、太鼓を叩くかのように、平手で交互にシモンの禿げ頭をぺしぺしと叩き始めた。


「カッカッカッ、うむ。よいぞ。さあ、スィーニーも叩いてみるがよい」

「どういう儀式なの……」


 シモンに促され、引き気味になるスィーニーであるが、言われるままにシモンの頭を平手でぺしぺしと叩いてみる。


「あ、わりとこれは癖になる」

「そうじゃろう、そうじゃろう。不評は聞かん。カッカッカッ」


 スィーニーの感想を聞いて、シモンは満足げに笑った。


***


 夕方、ミヤの家にて、ノアは新聞でロドリゲスが学院長になった件を知った。


「馬鹿じゃないの? 敵をそんな要職に就けるなんてさ。どこの間抜けのアホンダラがこんなこと思いついたんだろ? きっととんでもないノータリンの糞ボケ無能のド阿呆だよね」

「あの……ノア……僕はいい手だと思うよ。ここは宥和路線で言った方がお得な局面だよ」


 口を極めて罵るノアに、ユーリは同じ広間にいるミヤをちらちらと伺いつつ、真逆の考えを口にした。


「は? 先輩何言ってるの? メリットデメリット以前に、あんな糞共相手に宥和路線とか、ムカつかないの? 敵なんだよ? これでムカつかなかったら人間おしまいだよ。これはもうね、僕達の故郷の土地の言葉を借りれば、豆腐の角に頭ぶつけて地獄に堕ちろレベルの大馬鹿の所業だよ。どんな馬鹿の仕業なんだか。その馬鹿の顔が見たいよね。きっととんでもない馬鹿面してぶばっ!」


 罵詈雑言を並べていたノアが、顔に強い衝撃を受け、のけぞって倒れる。弟子入りしてから幾度となく食らっている、ミヤの念動力猫パンチだ。


「ふむ。今のは実に馬鹿面だったね。マイナス4」

「師匠、何でいきなり猫パンチして罵ったうえにマイナス?」


 顔を押さえて不満げに問うノア


「あのねノア……その案を決定したのは師匠なんだよ……」

「シモンかロドリゲスに聞いたようだね」


 ユーリが恐々と言うと、ミヤはユーリの方を向いてにやりと笑う。


「もしかして……馬鹿の正体は師匠……ぐはっ!」

「まだ言うか。さらにマイナス1」


 さらに念動力猫パンチを受け、ノアが倒れる。


「当然、貴族には不評のようだが、平民からはウケがいいね。貴族の抑制にも繋がるだろうし、これでいいのさ」


 心なしか満足げに言ってのけるミヤ。


「そういう計算か。でもそれって結局K&Mアゲインの思惑通りになっちゃうよ?」

「あいつらの主張や目的は、別に儂は反対しとらんよ。やり方が悪いだけだ。そもそも儂とて魔法使い。貴族よりは、魔術師ギルドや魔術学院寄りの思想なんだよ」


 なおも不満を訴えるノアであったが、ミヤは冷静に告げた。


「なるほど……そう考えれば……うん、少し腹の虫も収まった。師匠、ぼろくそいってすまんこ」


 素直に謝るノア。


「うむ。浅慮で愚鈍で間抜けで低脳で理解力が乏しくパープリンな弟子よ、精進するんだよ」

「ぐぬぬぬぬ……謝ってるのに……」


 ここぞとばかりにお返しの毒舌を返すミヤに、ノアは悔しそうに唸った。

16章はこれにて完です

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