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41-29 女神が感謝した理由

・【ダメリーダーグロロンの目覚め】


 グロロンは獣人専門冒険者協会のリーダーを務めていました。


 その気さくかつ豪放磊落な気性から、協会のメンバーには親しまれる一方、ざっくばらんな性格が災いして失敗も多く、そのせいで不満や反感をもたれていました。


 失敗が積み重なっていき、やがてグロロンがリーダーであることに、支持者だった者も不満や疑念を抱くようになり、グロロンに反発するようになります。

 グロロンも事あるごとに不満を訴えて来る者達が鬱陶しくなり、その対応が荒々しいものへと変わりました。そしてしまいには、気に入らない者達を容赦なく追放していったのです。


 その結果、組織の幹部にはイエスマンだけが残ってしまいました。

 残ったイエスマンな幹部達は、組織の美味しい所にありつきたくて、グロロンに胡麻をすっていた者ばかりです。彼等はトラブルが発生した時にも全く頼りになりません。

 それどころか、そのうち組織の資金を持ち逃げされてしまい、獣人専門冒険者協会は瓦解してしまったのです。


 グロロンは自身の過ちを認め、悲嘆に暮れていました。


 そんなグロロンが、ある日女神に拾われます。

 グロロンから見て、女神は理想的なリーダーでした。自分の配下や信者を決して見捨てる事なく、皆に慕われていました。裏切り者には容赦ありませんが、自分と相性の悪い者を追放するような馬鹿なことはしませんし意見が食い違ってもちゃんと話し合い、説き伏せたのです。


 自分はリーダーの器でないと痛感したグロロンでしたが、かつてリーダーの立場だった経験を活かし、女神をサポートしようと心に決めました。


***


「あんたの過去全然知らなかったけどさー。飄々としているわりに苦労人なのねー」

「え……あ……ど、どうも……」


 グロロンの絵本を見終わった女神が、グロロンを見てしみじみと言う。グロロンは気まずそうに頭を掻いている。


「ダァグ・アァアア、一つだけ褒めてあげる」


 女神がダァグを見下ろしながら言った。


「私はチューコのことも、グロロンのことも、ズーリ・ズーリのことも、ドームのことも、詳しく知っていたわけじゃない。でもあんたのおかげで、知ることができたわ。よくやってくれたわね。えらいえらーい」

「女神、僕も君の美点を知ることが出来た」


 ダァグが女神を見上げて微笑む。


「君は仲間になった者達をとても大事にする。それだけは褒められる点だ」


 ダァグの言葉に、他の者達も同感だった。しかし意にそぐわぬ者を徹底弾圧して粛清する


「じゃあ、続きをしましょうか」


 女神が巨大な火炎球を四つ作り上げ、地上に降らせた。


 ミヤとサユリで広範囲の防護幕を展開し、火炎球を弾いたが、地上にいる者達は凄まじい高熱にあぶられる。ただし、グロロンとドームには熱が伝わらないように、女神は操作していた。ドームがまだ生きていることもわかっている。


「あはっ、クーラーが欲しいねっ」


 レオパが冷気を操って温度を下げにかかる。


 やがて炎が消え、女神が次の攻撃を繰り出そうとしたが、その前にユーリが女神の前方に躍り出た。


「ユーリ、何だよあれは……」


 百足化して空を飛ぶユーリを見て、呆気に取られるコズロフ。


「真っ白な百足だのー。まさかあれがユーリの正体で、ユーリは百足の妖怪だったのか?」

「まあ、別にそれでもいいけどよ」


 ソウヤの言葉を聞き、コズロフが言った。


「何よ、その姿は」


 宝石百足と一体化した姿のユーリを見て、女神が訝る。


 ユーリか触覚から光線を放つが、女神は飛び回って器用に避ける。


 女神の移動の方向を先読みして、ミヤが念動力猫パンチを食らわした。


 クリーンヒットしたかと思われたが、女神は全身を防護幕で覆い、念動力猫パンチから身を守っていた。


「やっぱりあんたが一番厄介ね」


 女神がミヤを見て、攻撃魔法を放つ。光の柱がミヤに降り注ぐ。


 ミヤも防護幕を全身に張って防ごうとしたが、光の柱はミヤの張った防護幕をあっさりと破壊し、ミヤの体を包み込んだ。


「師匠!」


 思わずミヤの方を見て叫ぶユーリ。


「今のは……効いたわい……」


 無残に潰れた姿のミヤが呻く。


「きゃはははははっ! 車に轢かれた猫みたいになってるしっ! しかもそれが喋って蠢いているのは何かグローい! きゃはははははっ!」


 ミヤの姿を見て、空中で笑い転げる女神。


 頭にきたユーリが、女神を攻撃しようとしたその時だった。


(ユーリ、こっちだ。下だ)


 聞き覚えのある声による念話が、ユーリの頭の中に響く。


 ユーリは女神に再び光線を放つ。念話を無視したわけではない。ここで移動すると、女神に不自然に思われると計算したのだ。


 女神は光線を避けて、ユーリに衝撃波を放った。


 ユーリは魔力の盾を作ったが、衝撃波は魔力の盾を粉砕し、ユーリの体を弾き飛ばした。ユーリが地面に落下する。


(うまくいった)


 適度に防御しつつ、女神の攻撃を食らったうえで、ユーリは地上へと移動していた。声は地上に招いていた。


 サユリとレオパが入れ替わる形で、女神との戦闘に入る。


「おーい、ユーリ。オイラだよ。ノムビットだよ」


 地上に落ちたユーリの前に、一匹のネズミが寄ってきて声をかける。


「こいつは使い魔だ。何だか大変そうじゃねーか。また力を貸してやるぜ」

「力を?」


 ノムビットの申し出を受け、またG作戦かと勘繰るユーリ。流石にもうそれは効きそうにない気がする。


「悪神監獄の中にいる小さき者達全てから、少しずつ魔力を分けてもらって、誰か一人に注ぐんだ。なるべく強い奴がいい。小さき者達とはいえ、その数は膨大だし、オイラは小さき者達の力を増幅だってできるから、馬鹿にはできないぜ」


 得意げに宣言するノムビットの言葉を聞き、ユーリはミヤとダァグを見やる。


「ダァグと師匠のどちらに――」

「ミヤでいいよ。僕も力は欲しいけど、この場合はミヤの方が適任だ。そして僕は僕でやることがあるし、そのための力は残してある」


 しっかりと話を聞いていたダァグが、ユーリとノムビットの使い魔の方を見て言った。


(師匠、話が――)

(ふんっ、こっそり聞いておったよ。喜んで承るわ)


 念話で声をかけるユーリに、ミヤが念話で返す。


(喋るネズミとはね……)


 ノムビットの使い魔のクマネズミを見て、ミヤは懐かしい気分になる。ミヤもネズミの使い魔を使役するが、ネズミが喋っている場面を自分で見ることは無い。


「束ねる血眼の剣」


 グロロンがユーリを攻撃する。


 ユーリは触覚から光線を放って、一直線に伸びてくる血の目玉群を薙ぎ払った。


「じゃあ、いっくぜー」


 ノムビットが弾んだ声をあげる。


 ぺっちゃんこに潰されて再生中のミヤに、怒涛の勢いで力が流れ込んできた。ミヤは目を丸くして、瞬時に再生を終えて身を起こす。


 ミヤに力が流れ込む気配を感じ、女神はレオパとサユリとの戦闘を止め、ミヤに視線を向けた。


「ふん、全盛期とまではいかないが、大分あの時の力に近づいたわ」


 ミヤが笑い、飛んでいる女神を見上げる。


「ぶひゃああっ!」


 そのミヤの横に、サユリが吹っ飛んでくる。


「もうあたくしは疲れたのだ……」

「まあよく頑張ったよ。ポイントプラス3。隅っこに行っておきな」


 仰向けに倒れたサユリの額に前足を置いて労うと、ミヤは年同力でサユリを移動させた。


「師匠……?」


 グロロンと交戦中のユーリが、目の前の敵であるグロロンから目を離して、ミヤを見てしまう。


(ただ魔力が活性化しているだけじゃない。あの禍々しいオーラは……)


 これまでにない雰囲気を纏っているミヤを見て、ユーリは不安と期待を同時に感じてしまう。


 ミヤより何発もの光弾が女神に向けて撃ちだされる。

 同時に、女神のいる場所に黒い渦が発生し、女神が渦の中に飲み込まれる、


(二つの攻撃魔法を同時に使った)


 ノアが驚く。魔法を二つ同時使用することは珍しくないが、同時使用する魔法は大抵、再生や飛行や探知といった、意思すらも働かせることなく、自動的に行えるシンプルな魔法との併用に限る。


 黒渦の中心に光弾が入る。黒渦の中で何度も爆発が発生するが、外からは見えない。しかし魔法使い達にはその爆発を認識できた。


 黒渦の動きが激しくなる。中にいるものを絞り上げるかのように動き続ける。


「渦が魔力を吸い続けているのだ」


 中庭の隅でダウンしているサユリが、空中の黒渦を見上げて呟く。あの中に入ったらひとたまりもないと思う。


 ふいに黒渦が爆ぜた。跡形も無く消滅した。


 黒渦があった場所には、女神が空中停止している。ミヤを見下ろしている。


(あれで仕留めきれるとは思わなかったが、それにしても堪えた様子が無いね)


 女神を見て、ミヤは戦慄を禁じえなかった。今のはミヤが持つ切り札の一つだ。


「猫ちゃん、やるじゃなーい。じゃあ、そろそろこっちも本気を出すわ」


 女神が笑い声で告げると、グロロンを見下ろした。


「グロロンっ、あんたは逃げてっ。巻き添えを食うわ」


 女神が命ずる。実際は巻き添えを食わないように力をコントロールも出来るし、さっきからやっていたが、そろそろ面倒になってきていた。


「悪いですけどね、女神様よ。その命令は聞けません」


 グロロンが笑いながら逆らった。


「最後まで一緒に戦わせていただきますよっと」

「最後の最後で命令違反するなんて、神徒失格ね。でも褒めてあげる。えらいえらーい」


 溜息をつく女神。面倒だが、引き続きグロロンとドームを避けて戦うことになった。


 女神が淡い水色の光線を放つ。

 見た目は細い光線だ。派手さはない。しかし魔力が一ヶ所に超凝縮されている。


 防御は悪手と見たミヤは、攻撃を行った。女神の水色の光線に向けて、自身も一点集中の黒い魔力光線を放つ。女神のしてきたことと同じことを、瞬時にやり返した。


 空中で水色光線と黒色光線が激突する。


 魔力の余波は生じない。二人ともコントロールしている。もし魔力の衝突の余波を放置していたら、悪神監獄が吹き飛ぶほどの大爆発が起こっているはずだ。そして中庭にいる者達もただではすまない。


 ユーリとグロロンは戦闘を止め、ミヤと女神の戦いを見守っていた。レオパも少し離れた場所で、様子をうかがっている。


 しばらく力の押し合いをしていた両者であったが、やがて差が出始めた。女神の水色光線が伸びだした。ミヤの黒色光線は女神の水色光線に侵食されるかの如く、その長さが縮んでいく。


「師匠っ!」


 ユーリが叫ぶ。このままでは危険だが、どうにもできない。グロロンが邪魔だからではない。自分が手出ししても、ミヤを助けることも、女神の攻撃を妨げることも出来ないとわかっているからだ。力の次元が違う。


 やがて水色光線は黒色光線を完全に飲みこみ、ミヤに直撃した。


(これが創造主の力かい……。儂が全盛期に近い力を取り戻してもなお、差がある。正直、このままでは勝てる気がせんぞ……)


 ぼろぼろになりながら、ミヤは荒い息をつく。しかしすぐに再生して元通りになる。まだミヤに余力はあるが、今の押し合いで、力の差ははっきりとしてしまった。


「そろそろいいかな」


 ミヤと女神の様子を見て、ダァグが呟いた。


「悪神監獄で、空間操作は禁じていたけど、召喚魔法は特例として禁じていない」


 ダァグのその台詞を聞いて、ノアは先程ペンギンロボを召喚出来たことを思い出す。


「嬲り神や宝石百足を呼ぶの?」


 ユーリがダァグを見て問う。ダァグが切り札を用意していることはわかっていたし、それを今使おうとしていることも察せられたが、その切り札がどのようなものかまでは知らない。


「彼等の参戦は無理かな。女神を呼び込む制約の一つとして、僕の創った神々は直接参戦できないようにした」


 ユーリの質問に答えるダァグ。


「でもこれは、制約に含まれない。これは女神と繋がる縁だから」


 そう言ってダァグは、女神に向かってカモメのペンダントをかざしてみせた。


(解析するとか言ってたあれか。ここで出してくるなんて、どういう意味があるんだろう)


 ユーリがカモメのペンダントを見て訝る。


「これ、知ってるよね? 君が神徒に与えているものだ。次元を越え、世界を渡り歩くアイテム。僕はこれを解析して、改造して、次元の壁を越えて、君に縁ある者をここに呼べるようにしたんだ」


 女神の方にペンダントをかざし、ダァグが声をかける。


(確かにそうだけど、それが何だっていうのよ。誰を呼ぶっていうのよ)


 女神にはダァグの思惑がわからなかった。しかしすぐにその意味を知ることとなる。


「これが僕の切り札。女神、これは君の力だ。そして呼ばれる者も君と強い縁のある者だし、僕達に制御できるわけではない。どうなるかは、呼ばれた者次第、女神次第だ」


 そこまで喋った所で、ダァグはペンダントの力を解放した。


 空間が歪む。何者かが召喚される。


「え……えええええっ!?」


 現れた三名を見て、女神が驚愕の叫びをあげた。

 空間の歪みから現れたのは、三匹のペンギンだった。そのうち一匹は雛だ。


「あ、あ、あんた達は……」

「あはっ、久しぶりーっ」


 女神が愕然とする一方で、レオパは弾んだ声をあげる。


「え? どこでしょう。ここは……」


 ペンギンのうちの一匹が周囲を見回す。


「召喚されたようだぜ。って、女神がいるぞ! レオパもいるしっ!」

「というか……私達の姿がまたペンギンになっているではないかっ!」


 一匹が女神とレオパを見て驚き、雛ペンギンが自分達の姿を見て驚いた。


「魔王タロー、勇者リッキー、ジロロ姫。はじめまして。僕はこの世界の創造主ダァグ・アァアア。僕が君達を呼び出した」


 三匹のペンギンに向かって、ダァグが頭を垂れる。


「今、この世界の支配権をかけて、かつての君達の仇敵の女神と戦っていたところだ。助力が欲しくて召喚したけど、力を貸してくれないかな?」

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