表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/329

41-28 名を捨て、人の姿も捨て、オオフルマカモメになった理由

・【カモメの姿をした女神】


 それは――自身をただ女神と名乗る神が、人だった頃の話。少女だった頃の話。


 少女はとても裕福な家に生まれ、物質的には何不自由なく育てられました。ただ、愛情だけは貰えませんでした。

 親からはほぼ放置されていた少女は、使用人達によって甘やかされて育てられました。

 使用人達は、少女の言うことは何でも聞きます。そのおかげで、少女は自分思い通りにならないとすぐキレる、癇癪持ちに育ってしまったのです。


 それだけではなく、少女はだんだんおかしな考えを抱くようになりました。自分が全知全能ではないことを真剣に不思議に思うようになり、理解できません。


「世界を見て、世界を感じられるのは私だけよ。私が世界の中心なのだから、全て思い通りにならないとおかしいでしょ」


 少女は使用人達の前で平然とそんな台詞を口にして、使用人達を困らせます。


 成長するにつれ、段々と少女の我儘と横暴はエスカレートしていき、ついにはその傍若無人な態度が、父親の目にも入りました。


 久しぶりに大好きな父親が帰ってきて、しかもゆっくり二人と話そうとまで言ってきたので、少女はとても喜びました。少女は唯一の肉親である父親の愛情に飢えていたのです。


 しかし父親からは、何時間もこんこんと説教をされてしまいます。少女にとって、叱られることはもちろん、自分が否定されることは、これで二度目の経験でした。

 初めて自分が否定されて拒絶されたのは、学校に行った時の話です。学校でも身勝手で気ままな態度を取り続けたあげく、同級生皆から嫌われてしまったのです。それはとても悲しい思い出でした。その結果、不登校になりました。

 父親の説教は、学校の時以上の痛みと悲しみと絶望を少女にもたらしました。


 やがて少女は知ります。父親が説教したのは、使用人達が自分に困って言いつけたからだと。


「私は何もワルいことしてない。でも、世界は私をアクと見なす。世界の基準で私はアク。でも私の基準では、何もワルいことをしてない」


 少女は泣きながらそんなことを呟きます。


「世界はテキよ。私は独りぼっち……」


 こうして少女は、使用人達を――いえ、父親も含めて世の中の全てが、信じられなくなってしまいました。


 少女は使用人達に我儘を言わなくなりました。それどころか、一切何も言わなくなりました。使用人達が話しかけても返事をしません。

 散々我儘放題して使用人達を困らせてきた少女でしたが、今度は別の意味で使用人達を困らせてしまいます。


 心を閉ざした少女は、一人で時間を過ごしました。


 時折散歩して、ペンギンのぬいぐるみを買い、家に帰ってぬいぐるみ相手に一人でままごとをして、孤独を紛らわせました。そのうち、ある出来事をきっかけに、ペンギンのぬいぐるみを捨て、カモメのぬいぐるみを取り寄せ、白と灰色のカモメのぬいぐるみを茶色く塗って、オオフルマカモメに見立てて遊びました。

 それ以外の時間は、テレビやネットを見て過ごしました。


 ある日、少女が町を歩いていると、使用人の一人が子連れで歩いている姿を見ました。

 その使用人は休日に、子供とショッピングをしていたのです。子供と一緒にいて、使用人は幸せそうな笑顔でした。親子そろってとても楽しそうでした。


 使用人が自分の子供に愛情を注いでいる様を見て、少女は涙を流します。羨ましくて仕方なかったのです。


「貴女はクビよ! もううちに来ないで!」


 翌日、少女は使用人に向かって喚き散らしましたが、少女にそんな権限はありません。


「――さん、私が貴女に何かしましたか? 心当たりは何も無いのですが」

「私を名前で呼ばないで!」


 使用人が尋ねると、少女はますます激昂しました。少女は父親より与えられた自分の名が好きでしたが、父親を信じられなくなってから、自分の名前に嫌悪を抱くようになっていたのです。


 少女はとうとう部屋に引きこもってしまいました。


「世界はテキよ。私は私のための、私にとって絶対のミカタの世界を創る」


 そう言って自分が生きる世界を否定した少女は、妄想にふける日々を送るようになります。妄想の中で理想の世界を創りました。


 かつて少女はペンギンが好きでした。テレビやネットの動画サイトで、よくペンギンを見ていました。しかしある日、南極にいるペンギンが、オオマフルカモメに襲われる様を見て、目が釘付けになります。悲しいはずの映像に、少女は逆に興奮してしまいました。自分の好きだったペンギンを無残に殺害した鳥に、強く惹かれてしまったのです。


 少女は引きこもりすぎた結果、神になりました。

 少女は人の姿を捨てました。自分の容姿を気に入っていなかったからです。神となった少女は、自分が最も惹かれた残酷な鳥――オオフルマカモメになりました。


 オオフルマカモメの姿になった少女は、自分の創った世界で、女神と名乗り、大勢の人間に崇められ、幸せな生活を送ります。


 しかし少女――女神は、そのうち物足りなくなりました。退屈に感じだしました。刺激を欲するようになりました。


 神の力で、自分が元いた世界も征服できないかと考えた女神ですが、すぐにそれは無理だと悟りました。女神が生まれた世界は、テクノロジーが発達しすぎたせいか、魔力に乏しい世界であり、十分な力を発揮できないのです。自分の魔法では、とても科学文明に太刀打ちできないと判断します。


 ある日女神は、別の世界からやってきた者と出会います。その者は、次元を越えて異なる世界を渡り歩く力を有していたのです。

 女神はその者の導きで、修験場ログスギーを訪れ、そこで世界を渡り歩く力を身に着けました。


 その後女神は、他者から奪い取る快感に取りつかれ、自分が創った者以外から崇められる悦びを求め、他の世界を侵略するようになりました。


 侵略した世界の住人が、自分の傘下に降った場合、女神はこれを暖かく迎え入れました。しかし歯向かう者には、一切容赦しません。自分の思い通りにならない者は、女神にとって絶対に滅ぼさなくてはならないテキなのです。


***


 頭の中の絵本を見終わった直後、全員が戦闘の手を止めていた。


 絵本は女神本人にも見せられた。そうすることで、女神も一時的に戦闘意欲を消失していた。むしろ自分の過去を晒されたことで、女神が最も衝撃が強い。


「テレビとかネットの動画サイトとか科学とか、よくわからない言葉が出ていたのだ」


 みその塊の中から出てきたサユリが言った。


「女神――世界の創造主ってのは、こうしてできるものなんだね」


 ミヤが女神とダァグを交互に見やる。


「うん。女神も僕と同じだ。内にこもり、自分の中で理想の世界を創った。創造主となった。僕との違いは、女神はより大きな力を手に入れ、世界を渡り歩けるようになったことと、僕のように本体が無力というわけではないことだよ。僕と違って、今目の前にいる女神が正真正銘の本物――いや、これはもしかしたら僕の方が特殊ケースかもね」


 ダァグが女神を見ながら解説した。


「ふふふふ、今度は私の絵本? 人の過去を晒すのが本当に隙なのねえ。立派な神様だこと。えらいえらーい」


 女神がダァグを見て嘲笑を浴びせるが、目は笑っていない。それどころか瞋恚の炎が燃え滾っている。


「科学文明の発達した世界って、俺がいた世界だよっ。女神が俺のいた世界に魔王や勇者を転生させたことも考えると、もしかして女神が元々いた世界って、俺のいた世界と同じ?」


 レオパが声をあげ、ダァグの方を見る。


「そうだよ。多分、レオパと女神は、同じ世界で生まれた者だよ。そして――僕の本体がいる世界も同じだ。まあ、よく似たパラレルワールドという可能性もあるけどね」


 ダァグが答える。


「女神とレオパは、儂等の世界の喋る動物とは、根本的に異なったわけだね。どちらも理由はそれぞれ異なるが、後天的だ」

「レオパは野生動物が魔力を得ると同時に知性を得て、女神はもともと人間だったのに自ら好んでカモメになったわけですしね」


 ミヤとユーリが言った。


「こんなもの見せたからどうっだっていうの? 私が堪えるとでも思ったの? 逆にムカついてやる気出たわっ!」


 女神がダァグを狙って火炎流星群を降らせる。


「私はそろそろ退場みたいね。じゃあ、また。ていうか、もっと長い時間いられるようにしなさいよっ」


 マミがノアを地面に下ろして、姿を消した。ノアは答える気力もなく、寝転がったまま、呆然と戦闘の様子を眺めている。


 ダァグは防戦一方で、反撃しようとしない。徹底的に防ぐかかわすかに徹している。


「あはは~、私の攻め疲れでも狙っているつもり? ふふん、まだまだ力は有り余っているんだからぁーっ!」


 女神が威勢よく叫んだその時、女神の真上から巨大な豚が降ってきた。


 巨大豚は、女神に直撃する前に空中で静止していた。女神の視線がサユリの方に向く。


「ぶ、ぶひぃ? そんな……サユリさんの必潰メガ豚プレスが止められまして?」


 狼狽するサユリ。


「豚肉は嫌いよっ」


 女神が吐き捨てると、巨大豚がサユリの方へと飛んでいく。


「ぶひっ、断じて許せない発言である。豚さんは美味しくて栄養たっぷりでしてっ」


 女神によって操作された巨大豚が、サユリの前で止まる。支配権をサユリが取り戻したのだ。


「もう一度食らいましてーっ」


 サユリが大きく両手を振り、巨大豚を女神に投げ返す。


「鬱陶しいっ!」


 女神が叫ぶと、巨大豚が縦一文字に両断された。二つに割れた豚が女神の左右に分かれて飛んでいき、消えた。


「ぐぬぬぬ……豚さんへの度重なる愚弄、許せないのである」


 悔しげに唸るサユリ。


 豚が真っ二つになった直後、レオパが女神の上から垂直に突っ込んでいく。


 女神は再び衝撃波を放つ。


 レオパもこのカウンターを予想していたので、大きく迂回して避けようとしたが、できなかった。衝撃波が思った以上に広範囲だったからだ。

 レオパの体が吹き飛ばされたが、ダメージは先程より低い。衝撃波を食らう直前に、ダァグが魔力の防護幕をレオパに張っていた。


「懲りないわね。この糞アザラシは」


 女神が毒づいたその刹那、女神の下方から魔力の槍が突き上げてくる。レオパに注意が逸れた瞬間を狙い、ミヤが繰り出したものだ。


 魔力の槍は女神を貫くことなく、先端から砕け散った。女神がピンポイントで作り出した魔力の盾が、魔力の槍を阻んだ。


「ふん、やるね。じゃあ、そろそろ飛ばすとするか」


 ミヤがさらに攻撃する。大量の光の矢を間断なく撃ち続ける。一度に十発以上撃つ。次から次に光の矢が出現し撃ち続ける。


(ジミダとの戦いでやって光の矢連射だ)


 光の矢の大量連射を見て、ノアが思う。


「あははははっ、飛ばしてこの程度?」


 しかし女神は、大量に吐き出され続ける光の矢を、魔力障壁で全て受け切っていた。


(ただの魔力障壁ではない。激突した魔力を霧散させる効果も付与されているね)


 光の矢を連射し続けながら、女神の障壁を解析するミヤ。


(この程度とか言ったけど、大したものよ。この光の矢、力を凝縮して広がらないようにしているけど、放射したら数秒で監獄ごと消し飛ばせる威力よ)


 女神も光の矢を解析し、その性質を見抜いた。仲間を巻き添えにしないために、破壊の余波が拡散しないように力を凝縮させている。着弾しても破壊のエネルギーが、着弾した対象物にだけ及ぶ仕掛けになっている。込められた魔力も膨大だが、その魔力をコントロールしきっているミヤの技術に、女神は舌を巻いていた。


 やがて光の矢の連射が止む。女神は非常に低コストで防御しているが、ミヤはかなり消耗する攻撃を行っていた。これでは割が合わないと、ミヤは判断した。 


「こっちの猫は、中々やるようだけど、あんたも生意気よ。猫のくせに達観しているみたいな眼差しで人のこと見ちゃってさ」


 女神がミヤを睨み、不機嫌そうに言う。


「そこそこ長生きしているんでね。そりゃ達観もするさね」


 笑いながら言い返すミヤを見て、女神はさらにカチンときた。


「猫のくせに笑ってるし……。何か腹立つっ」


 女神が口から大量の液体を放射して、ミヤに浴びせようとする。


「く、臭あっ!」


 ミヤは女神の悪臭胃液を避けたが、悪臭は周囲にまき散らされ、ミヤはかつてないほど思いっきりフレーメン反応になって叫んだ。


「師匠、すごい顔……」

「きゃはははははははっ、何その顔ウケるーっ」


 ミヤのフレーメン反応を見て、ユーリは苦笑いを浮かべ、女神はけたたましく笑う。


「我が牙、浅ましく踊り狂え」


 呪文が唱えられ、大量の牙が空中に具現化すると、ミヤに向かって襲い掛かる。


 ミヤはフレーメン反応から回復し、自身の周囲に魔力の渦を展開して、牙を全て吹き飛ばした。


「女神様、遅れちまって悪い……。うっ……。大教皇とドームまで……やられちまったのか……。畜生め」


 中庭にグロロンが現れ、倒れている二人を見て渋面になる。


「ふん、そのまま落ち込んでいてもよかったのよー? 私一人で片付けられるから。こいつら大したことないしー」


 うそぶく女神であったが、ここでグロロンが助力に来てくれたことは嬉しかった。戦力になるかどうか以前に、来てくれたことだけで嬉しかった。


「ついでにこの人の絵本も見せておくかな」


 ダァグがグロロンを見て、全員の頭の中に絵本を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ