41-27 いざふるぼっこタイム?
ダァグとレオパが二人がかりで女神と交戦している。ダァグは遠隔攻撃と補助に徹し、レオパは果敢に近接戦闘を挑む。
女神は高速で飛び回り、レオパの攻撃を巧みにかわしながら、攻撃魔法を途切れることなく連続で放ち続けている。
女神の攻撃はほぼレオパを狙っている。ダァグは障壁を作ったり、幻影を作ったりして、女神のレオパに対する攻撃を防ぎ続けている。
「むー、女神、前よりずっと強いー」
少し距離を取り、女神を見据えて唸るレオパ。
「ここに収容されてから、何もせずにのほほんとしていたわけじゃないのよ。ここにいる神々の中で、信仰心を必要しない連中から、力を吸い取っていたからねー」
レオパが執拗な近接攻撃を中断したので、女神も呼吸を整える。その間に喋っている。
「レオパ、この戦い方は効率が悪い。消耗戦になっているし、女神の方が僕よりずっと余力があるからさ」
「おっけー」
ダァグに促され、レオパが後退して魔法を使う。
レオパの両脇に横四列に、何十匹ものペンギンが整列した状態で出現する。
「むむむ……何か……シュールだけど可愛い」
見事に整列したペンギン軍団を見て、女神が呟いた。ダァグも同感だった。
「ごぉおぉぉぉっ!」
レオパのかけ声と共に、ペンギン達が一斉に飛び上がり、翼を閉じたポーズで女神めがけて突っ込んでいく。
女神に近づいた時点で、ペンギン達が――否、ペンギンの形状をしたミサイル次々と爆発していく。
「こういう時、しゃらくさいって言えばいい? それとも頑張ったのね~、えらいえらーいって、褒めてほしい?」
女神が嘲笑する。連鎖爆発の中心にいながら、女神は大してダメージを受けていない。
「お? 消えていくぜ」
その時、コズロフと戦っていた魔物達が消失していった。
「ユーリが魔物使いを仕留めたようじゃのー。おっと、違うか。仕留めてはおらんようだ。気絶させただけと見えるぞ」
ソウヤが言う。
「甘えな。敵に情けか?」
「いや、何か考えがあるのかもしれん」
コズロフとソウヤの二人は、ドームがダァグの精神支配を受けていることを知らない。
(ユーリがドームを無力化したか)
これでいつでもドームを使うことが出来ると、ダァグは思った。しかし今はその機ではない。
「ルナッテも倒したようだぞ」
サユリの前に転がる、ルナッテを封じた大きなみその塊を見て、夜明けの神が誰とはなしに告げる。
一方、ミヤと戦っていた神々が急に戦闘を止めた。チューコの精神支配から解かれて、正気に戻ったのだ。
「ノア一人では不安だったけど、チューコを倒したようだね」
ノアとマミ、倒れているチューコの姿を視界に捉え、ミヤが小さく息を吐いた。
「嘘……チューコ……」
神々が戦闘を止めたことを確認した女神が、レオパとダァグから視線を離し、無残な亡骸となって倒れているチューコの方を見る。
堂々と戦闘放棄して、女神はチューコのいる方へと飛んでいく。レオパとダァグは手を出さない。
チューコの顔の近くに降りる女神。
「チューコ……」
女神がチューコの顔を覗き込み、震える声で名を呼ぶ。
「チューコが……死んじゃった……」
覇気のない声で呟く。
「やんねーの?」
「あの状態では手出ししづらいよ」
コズロフが女神を見て伺うと、ユーリが複雑な表情で答えた。
(神様は優しくない。祈っても答えてくれない。そう思っていた。そう思いながら僕は祈っていた。怒っていた。でもあの女神は、少なくとも自分を崇める者には優しい。自分の信者の死を悲しむ)
あの女神こそ、ある面においては、自分が求めていた理想の神であると、ユーリは思ってしまった。そしてそんな女神をこれから討つ。
(他の世界に侵略なんてしなければ、理想的な神様だろうに……)
それだけが非常に残念と感じるユーリであった。
「チューコ……チューコ……」
女神はチューコの死に顔を間近で見ながら、何度も名を呼ぶ。
生まれて初めての感覚だった。途方もなく大きな喪失感。大事な一部分がもぎ取られた感触。
(私の中で、チューコってこんなに大きいものだったのね。そういや……一緒にいる時間も長かったし、誰よりも気を許していたし、頼っていたじゃない。そうだった……。そんな当たり前のことが、当たり前すぎて、気づかなかった。死んでから気づくなんて……)
その当たり前はずっと続くと信じて疑っていなかったが、唐突に終わりを迎えた。
仲間の死の覚悟など、全くしていない状態で、女神は戦っていた。自分もチューコも、勝つと信じて疑っていなかった。生き残るのが当然だと思っていた。
しばらくうなだれていた女神が、頭を上げて振り返る。
「あんたら……本っ当の本っ当に甘いのね。反吐が出る甘さよ。私が隙だらけだったのに、わざわざ待ってくれるとかさ……。馬鹿じゃないの?」
力ない声で悪態をつく女神であったが、闘志が漲っている。
「私にそんな糞みたいな情けかけてくれたこと……たっぷりたっぷりたあぁぁっっっぷり後悔させてやるわーっ!」
女神が叫び、飛び上がった。
「よっしゃ。じゃあ女神をふるボっコにしてやろうぜ」
「お前達は下がってな。流石にあの女神は手に余るよ」
意気込むコズロフをミヤが制する。
「ちぇっ。しゃーねーか」
「命あっての物種よ」
距離を取るコズロフとソウヤ。
女神を中心として広範囲に激しい炎が渦巻く。
全員、回避や防御を行うが、そのどちらも出来ない者がいた。ノアだ。
「世話が焼ける子ねえ」
炎に飲み込まれる直前に、マミがノアの体を抱え上げ、逃げていた。
(チューコは倒したものの、ノアも戦える状態じゃないね)
マミに抱かれてぐったりとしているノアを見て、ミヤは思う。
女神が魔力の矢を大量に放つ。距離を取ったソウヤとコズロフ以外の全てに、魔力の矢が降り注ぐ。
あちこちで爆発が起こった。魔力が極限まで凝縮された矢だ。
ダァグとサユリが爆発によって吹き飛ばされていた。二人は魔力障壁で防御しようとしたが、防御しきれなかった。レオパは泳ぐように飛んで避け、ミヤも走って回避していた。
(僕の魔力凝縮針と同じだけど、威力も速度も桁違いだ)
ユーリも女神の魔法の術理を瞬時に見抜き、回避を行うことで爆発から逃れたが、若干爆風を浴びてしまっていた。
「ダァグ」
ユーリが倒れたダァグを気遣い、傍による。
「僕は大丈夫だけど。サユリのダメージが深刻だ」
ダァグが立ち上がり、サユリを見やる。
サユリは木っ端みじんのばらばら状態であったが、飛び散った肉片や骨片や内臓や血が、高速で一ヶ所に集まって再生している最中だった。
ある程度再生したサユリの体を、すっぽりとみそが覆う。
「サユリさんは平気みたいだ」
「そうみたいだね」
ユーリが胸を撫でおろし、ダァグも頷く。サユリがみそに包まれた時点で、二人とも安心した。
「あはははははっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねシネ死ねシネ死んじまえー!」
女神がけたたましい哄笑をあげながら、無数の光球をまき散らす。地面や壁に光球が当たると、光球は消え、半円状にえぐられたような形状で、地面や壁が消滅している。
「やかましい女ねっ!」
マミが苛立ちを露わにし、魔法を発動させる。中庭の草が真っ赤に変色したかと思うと、怒涛の勢いで次々と巨大化して伸び、赤い刃と化して女神めがけて突き上げていく。
地面から無数に繰り出される真紅の刃の合間を、女神は器用にすり抜けて飛んで避けていった。
「近親憎悪のぜんまいが巻かれた? 痛たたたっ」
抱かれた状態のままノアがマミを見上げてからかうと、マミはノアにアイアンクローを見舞った。
「ごおおおぉぉおおおおおっ!」
下方からの攻撃に気を取られていた女神の前方に、いつの間にかレオパが回り込んでいた。咆哮と共に大きく口を開け、女神に噛みつこうとする。
女神も大きく嘴を開く。そして口の中から、液状のものを吐き出し、レオパに浴びせた。
「臭ーっ!」
レオパが悲鳴をあげ、身悶えする。女神が吐き出したのは悪臭を放つ吐瀉物だった。オオフルマカモメは凄まじい悪臭がする胃液を吐き出して、外敵をひるませる。この特殊な液体は餌から作り出して、胃に貯蔵されている。未使用の場合は、自身や雛の栄養となる。
隙を見せたレオパに、女神が至近距離から衝撃波を浴びせた。
レオパが大きく吹き飛ばされ、悪神監獄の結界に衝突し、落下する。
「苛烈だ……。攻撃の一つ一つの威力が重い」
見物モードの夜明けの神が、女神の攻撃を見て唸る。
「ぐふっ!?」
レオパに攻撃を放った直後、女神の体が一気に下に沈んだ。凄まじい勢いで落下させられて、さらには地面に圧し潰された。地面には大きな肉球マークがついている。ミヤの念動力猫パンチを食らったのだ。
「強いのはわかるが、複数相手だからね。どうやっても隙は生じるもんさ」
ミヤが呟き、そのまま念動力猫パンチで女神に圧を加え、女神の魔力を強制放出させにかかる。
「あああああああっ! うざぁああああい!」
女神が怒声をあげると、女神の体から魔力が放出され、念動力猫パンチの方が霧散した。
「何と……」
呆気に取られるミヤ。過去、女神は自分の念動力猫パンチを防いでいる。しかしあの時も、ここまで瞬時に弾き飛ばしてはいない。その際に女神の瞬間的に放たれた魔力を感じ取り、ミヤは女神の強さを改めて実感できてしまった。
(もしかしなくても、これは儂がこれまで戦った者の中で、最も強いぞ。全盛期の儂でも、勝てるかどうか……)
身を起こし、羽ばたく女神を見て、ミヤは息を飲む。それなりの強さと経験を持つミヤだからこそ理解する。そして――恐怖を感じていた。
(これは普通にぶつかったのでは、勝機は薄い)
ミヤはそう結論づけ、ダァグに視線を向ける。
(ダァグが鍵となる。あ奴は勝算があったからこそ、女神との戦いに臨んだのだろうしね。しかし今のダァグは消耗しているのが、儂の目にもはっきりとわかる。一方で女神は、まだまだ底が知れぬ。どうするというのだ?)
ミヤが思案していると、ダァグはミヤの視線に気づいた。
「そうだね。まともに戦って勝てる相手ではない。まともに戦った場合はね」
ダァグがミヤを安心させるかのように微笑み、思わせぶりな台詞を口にした。
「女神だって、限界が無いわけじゃない。僕達がある程度踏ん張って、消耗させないといけない。でも少し、趣向を変えよう。こっち側のメンタルをリフレッシュさせよう」
そんな台詞を吐いて、ダァグが力を発動させた。
女神も含めた全員の頭の中に――




