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41-24 女神との最終決戦開幕

 女神の視線が夜明けの神に向けられる。


「夜明けの神、やっと見つけたわ。こいつを私が所長に届ければ、この絵本から私は解放され、この世界も私のものなのよね?」


 話している最中にダァグの方に向き、確認する女神。


「そういうルールだよ。何度も言うけど、そういうルールにしたからこそ、異世界の神である君を、絵本世界に吸い込むことができたんだ」


 ダァグが女神の確認にうなずいた。


「そろそろ話もいいだろー? いっくよー」


 レオパが空中をゆるりと泳いだかと思うと、いきなり速度を上げ、通大きく旋回しながら、女神達のいる方へ飛んでいく。


(勇敢ではあるが、勇み足にならんか?)


 単身突っ込むレオパを見て、ソウヤが危ぶむ。


 女神が無数の火炎弾をレオパに向けて放つ。


 レオパは火炎弾の雨をかいくぐり、女神に迫った。


「ぶはっ!」


 レオパが声をあげる。女神が強烈な衝撃波を放ち、レオパの体は後方に大きく吹き飛ばされ、床に転がった。


 女神がレオパを攻撃した瞬間を狙い、ノアとミヤが仕掛けた。重力弾が女神の上から降り注ぎ、ミヤの魔力塊が正面から女神を襲う。


「貧弱ね」


 女神がせせら笑い、魔力を解き放つ。重力弾も魔力塊も、ピンポイントで弾き飛ばされ、消失した。


 チューコに精神支配された神々と、ドームが使役する魔物達が、女神の脇を抜けて、通路を押し寄せてくる。


「こんな通路で数で勝負しようとか、馬鹿なのかねえ」


 ミヤがぼやき、通路前方に向けて炎の嵐を巻き起こした。神々も魔物達も炎に巻き込まれる。


「ちょっとちょっとチューコ、ドーム、ここは戦いの場に向かないっ。後退後退っ」

「は、はいっ」

「承知しました」


 女神が狼狽した声をあげ、チューコとドームはまだ無事な神々と魔物達を下がらせた。今のでかなりの手勢を失ってしまっていた。


「つまらないコントしてるみたいだ」

「今ので敵の半分以上やっつけちまったぜ」

「間抜けな話じゃのー」


 ノア、コズロフ、ソウヤが言う。


 女神達が通路を移動する。ミヤ達もそれを追う。エイドは待機していたが、夜明けの神は何故か同行する。


 一同、監獄の中庭へと移動した。


「ルナッテがあっさりと特別監房棟の外に出られたのだ。あそこに閉じ込められていたのではないのであるか?」

「私がルナッテの体に入った際、ルナッテにかけられた移動の制約を解除した。そして私は監獄内であればどこでも行ける」


 サユリが疑問を口にすると、夜明けの神が答えた。


「女神様、私にあの子を担当させてください。すぐに済ませます」


 チューコがノアを睨み、許可を請う。


「んんー? あいつが何か気に障ったことでもあるの?」


 ノアを見て尋ねる女神。


「ええ」


 チューコがノアを睨みつけたまま頷く。ノアはチューコの視線を受け、おかしそうに微笑んでいる。


「弱そうだけど、足元すくわれないようにしなさいよ」

「はい。油断はしません」

「また弱そうとか言われてる」


 女神の台詞を聞いて、ノアは嘆息した。


「女神は僕が担当するけど、多分一対一ではかなわない。僕は消耗してしまっているし、女神はこの監獄で力を蓄えていたようだから。誰か僕を補佐して」

「あはっ、因縁ある俺が補佐するよっ」

「儂は雑魚の掃討に回るが、雑魚を蹴散らしたら、その後は儂も女神をやろう」


 ダァグが言うと、レオパとミヤが申し出た。


「馬鹿女神ー、今度は食って封印では済まさないよっ」


 レオパが身をくねらせて宙を泳ぎながら挑発する。


「糞アザラシ、私を長年臭い腹の中に閉じ込めていた恨み、ここで晴らしてやるわっ!」


 女神がレオパをねめつけ、怨嗟に満ちた怒声を発する。


「じゃあ僕はドームを」


 ユーリが申し出ながら、ダァグに目配せをする。


(ドームはダァグが洗脳済みだ。殺さないようにしないと。ここぞという所で女神に奇襲を仕掛けさせる)


 怪しまれないよう、上辺だけ、ドームを戦闘不能の状態に追いやるように見せかける。そのための戦いだと一色するユーリ。


「ぶひっ、サユリさんはあの兎女であるか」


 サユリがルナッテを見やる。


「俺達はどーすんだよ」


 コズロフがユーリに伺う。


「コズロフとソウヤさんは、命の輪でパワーアップしてはいるけど、女神や神徒相手には危険だから、魔物担当でよろしく」


 ユーリが指示を出した瞬間、二人の体に命の輪が浮かび上がる。


「承知した」

「ちぇっ、雑魚掃除係か。ま、しゃーない」


 身構えるソウヤとコズロフ。


 ユーリが真っ先に仕掛けた。狙いはドームだ。

 魔力の薄い膜が広がり、ドームを覆わんとする。ユーリの得意魔法の一つ、彫像膜だ。魔力の薄膜で対象を包み、束縛する。本来、相手が近い場合に有効な魔法であり、時間が経過すると疲労もかさむものだが、ユーリはあえて無理して遠距離から用いた。


「染めよ。緑の地獄」


 ユーリの魔法に気づいたドームが呪文を唱えると、巨大なシダと膨大なコケがドームの前方から噴き上がり、ユーリの魔力の薄膜を突き破った。


 しかし、ユーリの魔法は完全に破られたわけではなかった。薄膜は破られてちりぢりの破片になりながらも、植物の間を抜けて、ドームの体に次々と付着していき、ドームの体を覆いつくしていったのだ。


(何とも器用なことをするようになったね)


 ユーリの魔法を見て、ミヤが感心する。


 ドームの体の至る場所が薄膜で覆われ、ドームの動きを封じたと思った、その瞬間――


「学びの手よ。学びの成果をあげよ」


 ドームの体の至る場所から無数の黒く長い手が、薄膜を突き破って生えてくると、体を覆う薄膜を掻きむしり、引っぺがす。


(ズーリ・ズーリさんの使った魔法――いや、術と同じか)


 女神の神徒の術師達は、大体同系統の術を使うらしいと、ユーリは見た。ズーリ・ズーリも、ドームと同じ術も使っていた。


「束ねる血眼の剣」


 まさにその術を、ドームが使う。


(もうそれは何度も見たし、破ったよ)


 一列に連なって伸びてくる大量の血塗られた目玉に、魔力塊をぶつけて対処するユーリ。


 魔力塊は目玉を全て弾き飛ばして、ドームにまで接近する。


 ドームは植物と黒手の双方で対処した。魔力塊の威力を植物で殺し、無数の黒手でもって叩き落し、完全に霧散させる。


(駄目だ。加減できる相手じゃない。遠距離からの彫像膜は消耗が激しいし、ドームさんに対処するだけで、僕の戦いは終わってしまう)


 できればユーリはドームとの戦いは温存したうえで、ドームには出来るだけダメージを与えたくなかった。しかしそこまで余裕をもって戦えるほど、ドームは弱くないと判断する。


 ドームの体が前のめりに倒れる。黒手も植物も地面に潰される。地面には肉球マークがついている。

 念動力猫パンチを放ったユーリがそのままドームを押し潰していき、魔力を強制放出させる。


「お? 消えていくぜ」


 魔物と戦っていたコズロフが怪訝な声を上げた。戦っていた魔物達が薄っすらと消失していったのだ。


「ユーリが魔物使いを仕留めたようじゃのー」


 ソウヤがユーリとドームの方を見て微笑む。


(殺してはいないけど、完全に戦闘不能にした。少しくらいは力が残っているかな?)


 ドームを精神支配しているダァグが、いざという時にドームを使って女神を攻撃させるつもりでいたが、果たしてドームにその力が残っているか、ユーリは疑問だった。その力を残して倒したかったが、その余裕は無かった。


 一方、サユリはルナッテと交戦していた。


「みそボールっ」


 サユリがみそでできた球体を飛ばす。


「もちボール」


 ルナッテも臼の中から餅でできた球体をとばし、サユリのみそ玉に正面から当てた。


 みそと餅が混じりあい、少し大きめのみそもち玉へと変化する。


「ぶ、ぶひっ……」


 サユリが唸る。みその支配権を奪われたのだ。みそもち玉はサユリの方に向かって飛んできた。


「みそウォール」


 みその壁を作ってみそもち玉を防ごうとしたサユリだが――


「ぶぐっ!」


 くぐもった声を漏らし、サユリは大きくのけぞって倒れた。みそもち玉はみその壁を突き破り、サユリの顔面に激突したのだ。かなり固い。


(顔……割れたのだ……)


 魔法使いにとっては深刻なダメージではないが、顔面への強打は精神的なインパクトが強かった。肉体的にも、目がちかちかしているし、頭にも響いている。


「オリオン・ストンプ」


 ルナッテが呟くと、サユリの顔の上に男性の足が出現し、サユリの頭部を踏み砕く。


(また顔……)


 げんなりするサユリ。あまり自分の容姿に頓着しないサユリであるが、それでも顔を潰されていい気はしない。

 絶世の美少女と呼んでも誇張にならないほど美麗だったサユリの顔が、見るも無残に歪んでいるうえ血塗れだ。前歯もほとんど欠けている。とはいえ、ぐちゃぐちゃに壊れた顔はすぐに再生して元通りになる。


 立ち上がろうとしたサユリが、はっとする。いつの間にか、ルナッテがすぐ近くで、杵を振り上げた格好でサユリを見下ろしていたのだ。


 ルナッテが杵を振り下ろす。今度は顔ではなく、腹を狙った。


「ぐぷぅっ!」


 空気と共におかしな声が漏れる。鳩尾を強打された。体がくの時になる。


 反射的に横向きになって逃れようとしたサユリだが、その脇腹に、さらに杵が何度も振り下ろされる。


「ぶひっ!」


 涙を流し、歯を食いしばるサユリ。喉から血の混じった吐瀉物が逆流し、口から吐き出される。


 一方的に攻撃していたルナッテが飛びのいた。急にサユリの体が飛び上がったのだ。

 サユリの下から大きな豚が現れ、サユリの体を飛ばし上げると、背に乗せて走り出す。ルナッテと距離を取ろうとする。 


「さあ、サユリさん……出だしから一方的にやられていますが、ここから逆転の目はあるのでしょうかー……」


 うつ伏せになって豚に乗ったサユリが、非常に弱々しい声で実況する。


「ここが踏ん張りどころですね。もしさらに攻撃を受けるようでは、厳しいですよ。反撃の一手を――」

「月光断頭台」


 サユリの解説が途中で中断される。ルナッテが呟くと、光の刃がサユリと豚に降り注ぎ、サユリの首と豚の胴体を両断したのだ。


 地面に大量の豚の血が広がる。その血の中に、サユリの胴体と頭部が落下する。


「嗚呼……豚さんが……」


 なおも噴き出る豚の血を浴びながら、サユリは哀しげに呻く。この豚はイレギュラーであり、イマジネーションの産物であって、本物の豚では無い。しかしそれでも、自分と共に戦う豚が殺されたことは、サユリにとっては辛い。


 サユリの体から力が抜ける。サユリの目が閉じる。首は胴から離れたままだ。切断面からは血が噴き出続けている。再生の気配は無い。

 動きを止めたサユリを見て、ルナッテは解析魔法をかける。サユリは呼吸もしていない。心臓も止まっている。あっさりと決着がついた。


 ルナッテの思考からサユリが消える。女神に盾突く他の者と戦おうとした、その時だった。


 巨大な豚が落下し、ルナッテを押し潰した。


「ぶひひひ……見たか……必潰、メガ豚プレス」


 サユリが笑い、地面に零れ落ちた血を逆流させて体内に戻し、頭部と胴体を繋げる。

 魔法で自身を仮死状態にして、死んだふりをしていたサユリであった。


「これが反撃の一手である。しかし――褒めてやりまして。サユリさんの奥の手を使わせるとは」


 よろよろと立ち上がるサユリ。


「ありがとさままま……」

「ぶひ?」


 巨大豚の下から、ルナッテの声がした。


「月光断頭台」


 光の刃が巨大豚を切断し、巨大豚が二つに割れる。割れた豚の中から、白かった毛を血で真っ赤に染めたルナッテが姿を現す。


「豚から生まれた豚ウサ太郎ーってね。いい一発貰ったおかげかな? あたしにかけられていたチューコの洗脳、解けたみたい」


 杵を構えたルナッテが、サユリににっこりと微笑む。


「そうであるか。それはよかったのである」


 サユリは気を抜かない。ルナッテが自分に向けて、これまで以上に殺気を漲らせていたからだ。


「お礼に狂わせてから殺してあげる」

「洗脳が解けたなら、戦う必要は無いと思うのだが?」

「うん。あたしはお礼がしたいだけよ。だからお礼に狂わせて殺してあげると言ってるのよ。最高のお礼でしょ? 拒むんなら、戦えばいいし」


 笑顔で喋りながら、ルナッテは杵をくるくると回転させた。


「実に馬鹿馬鹿しいのだ。狂った神という設定にこだわりすぎなのだ」


 うんざりした顔で、サユリはルナッテを観察する。


 ルナッテはかなりのダメージを受けている。レオパの噛みつきと同様、サユリのメガ豚プレスも、魔法使いの再生を阻害する効果が付与されている。魔法使いとの戦闘を想定して編み出された魔法だ。

 しかしその効果は当然、永続するものではない。


(再生機能が戻る前に、さっさと押し込まないといけないのだ)


 悪魔の羽を生やした子豚を二匹、天使の羽と輪を持つ中サイズ豚を二匹呼び出すサユリ。


「こだわっているわけじゃないけど? あたしは狂気の神だから、狂気の美学があるだけよ。だから狂気に従うの」

「じゃあ言い方を変えるのだ。君は実際には狂っているわけではないのだ。君は狂気というもの憧れを抱いて、狂っている自分を考えて、作って、演じているだけ、そんなに自分に陶酔しているだけの、勘違いちゃんなのだ」


 サユリが指摘すると、ルナッテの笑みが消えた。


「ぶひ、図星なのだ。本当の狂気というのは、多分あたくしが持っているものなのだ。いや……サユリさんはそれを狂気だと思っていないし、思いたくもないし、狂気だと見られたくもないし、狂っていると言われると正直とっても辛いのだ。でも他人から見ると、狂気らしくて……」


 サユリが曇り顔で語る。


「それって何なの? あんたのどこが狂気?」


 侮辱されたと感じたルナッテが、不快感を露わにして問う。


「あたくしの望みは、世界中の人間全てを豚さんにしてあげることなのだ。そうすれば世界は平和になるのだ。あたくしはとってもハッピーになれるし、サユリさんはこの世の全ての豚さんを愛でて、ハッピーにしてあげるのだ」


 サユリが自身の野望を口にすると、ルナッテはあんぐりと口を開いて固まっていた。


 数秒間固まっていたルナッテだが、やがて驚愕から解かれ、快い笑顔へと変わり、羨望と尊敬の眼差しでサユリを見る。


「が……ガチで狂ってるぅぅっ! 素敵ィッ!」

「狂ってないのだっ! 皆そう言うけど、サユリさんは断じて正常なのだ!」


 きらきらと顔を輝かせて興奮気味に称賛するルナッテに、サユリは半泣きになってヤケクソ気味に主張した。

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