41-10 頑固な汚れも頑固な所長もどうにか出来そう
ユーリとダァグは、ソウヤとコズロフに頼み、所長との接触を図ることにした。
「先程も申したが、所長は頑固者よ。一筋縄ではいかんぞ」
「大丈夫です。うちの師匠だって凄く頑固です。僕が知る限りでは世界一頑固です。そんな頑固な師匠に育てられて十年になるんですよ」
ソウヤに忠告され、ユーリは笑顔で言った。
「ユーリの育ての親も頑固者かー。俺の親も中々の頑固者っつーか、カタブツだったわ」
不快な記憶を思い返すコズロフ。
「頑固と堅物は違うんじゃないかな。師匠は頑固だけど、堅物ってほどでもなかったし」
「そっか-? 似たようなもんだと思ってたわ」
「所長は頑固なうえに堅物のようでもあるがのー」
ユーリ、コズロフ、ソウヤがそれぞれ言う。
「まあ、悪神を憎んでいる所長が、目的のためとはいえ女神と手を組んでるんだから、ユーリ達も力さえ示せば、オッケーなんじゃね。もちろん俺達も強く推薦してやっからな」
コズロフにそう言われ、ユーリは心強いと感じ、微笑を零す。
「僕の正体はもう明かさないでね。話がややこしくなるし、所長が神嫌いなら、余計に問題だ。そして僕個人としても、あちこちで喋ってほしくない」
「わかったよ」
ダァグに釘を刺され、ユーリは頷いた。
所長室に入り、ソウヤとコズロフの口利きで、特別監房棟への立ち入り許可を願う。所長は腕組みして直立不動のポーズのまま話を聞いていた。
「いいだろう」
所長は意外にもあっさりとオッケーした。
「夜明けの神を探してくれるのであれば、拒む理由は無い。少なくともあの女神よりは信に値する」
(所長は女神を嫌っている? それなら――)
それを聞いて、ユーリは思いついた。
「もう一つ、頼みたいことがあります。所長の権限で、してほしいことがあります」
無理筋かと思ったが、ダメモトでユーリはぶつけてみることにした。
「如何様な協力を望む?」
「できれば女神の動向を教えて欲しいです」
「却下だ。あれも一応は自分の協力者だからな。他には?」
流石に私的感情だけで流されることない所長だった。
「では、質問いいですか?」
「答えられることならば答えよう」
「所長が何故神を憎むか、その理由です」
ユーリが尋ねると、所長は数秒沈黙した。
「自分の親は、神に殺されたも同然だからだ」
無表情のまま、口調も変えず、所長は答える。
「そして自分以外の多くの者が、神なる超越者に振り回され、不幸になっている。故に自分の目には、神は悪なる者としか映らん。この答えで満足か? 他に言いようがないし、理由も無い」
眉を片方だけひくつかせながら、所長は答えた。
「ふん」
所長を見て、ソウヤが鼻を鳴らす。微かに口元が笑っている。
一方で、ユーリは所長の弁に共感してしまう。似たようなことはユーリも常日頃から思っている。
「どうやって神をも封じる監獄を作ったんです? どうやって神々を集めたんです?」
「その質問に答える必要は無い」
「夜明けの神を欲する理由も、答えてはくれませんか?」
「無論だ。ただ自分が望むことは、夜明けの神を見つけて、ここに連れてくること。それだけ果たせばいい」
ユーリの質問を、すげない口調で拒む所長。
その後は質問も無く、四人は退室した。
「所長は嘘をついておったぞ」
廊下を歩きながら、ソウヤが言った。
「おっさん、どうしてそんなことわかるんだよ?」
「ふふん、拙者は所長の癖を一つだけ見切った故に。あの所長、嘘をつく時には片方の眉を動かしよる」
コズロフが尋ねると、ソウヤはにやにや笑いながら己の眉を指した。
「どの辺が嘘でした?」
「神を憎む理由は親の仇と言った所が、嘘であったな」
ユーリに問われ、答えるソウヤ。
「所長が夜明けの神を求める理由と、関係ありそうだね」
「おお、鋭いなユーリっ」
ユーリの言葉を聞いて、コズロフが歓声をあげる。
「いや、これくらいはすぐわかるでしょ」
コズロフの大袈裟な反応に、ユーリは苦笑する。
「おいおいおい、そりゃねーぜユーリよ。せっかく褒めたのに、そんな返しをされたら、まるで俺が馬鹿みてーじゃねーかよ」
思いっきり顔をしかめるコズロフ。
「これからどうするの?」
ダァグが伺う。
「監獄の様子をざっと見て回ろうか」
ユーリが方針を決定した。
悪神監獄はパノプティコン監獄だ。円形になった空間の中心に監視塔が立てられ、円の淵に沿って牢屋が並んでいる。何層にも階層が分かれていて、筒の内側が全て囚神室になっている。
「入ったことはないが、特別監房棟はこことは違う作りらしいぞ」
ソウヤが言った。
移動中、囚神服を着た神々と何度も通路ですれ違う。
「囚神達、わりと自由に出歩いているね」
「模範囚は好き勝手外に出られるルールになってるのさ」
「ほんげーっ!」
ユーリとソウヤが言った直後、近くで悲鳴があがった。
「デカい声出すんじゃねーよっ!」
悲鳴の下方から叫び声があがる。
「お前もでけー声出してるだろって」
コズロフが突っ込む。
声のいた方に移動すると、カーテンが敷かれた牢屋があった。
「カーテン敷いてもいいの?」
「よくあるまいよ。囚神の行動を四六時中監視するための、この方式であるからな。つまり、見られたくないことを中でしている。そして監視の連中も承知したうえで黙認しているのだ」
ユーリが疑問を口にすると、ソウヤが言った。
ユーリがカーテンを開くと、おぞましい光景が飛び込んできた。男性看守が、タコの獣人のような神(♂)を組み敷いている最中だった。四人それぞれ、苦々しい表情になる。
「な、何だお前らっ!」
看守が慌てる。
「閉めろ閉めろっ」
「お楽しみ中であったとはな。失敬」
ソウヤが促し、コズロフが一礼してカーテンを閉める。
「行かないでーっ。お助けーっ」
タコ獣神が助けを求めたので、ユーリが再びカーテンを開いた。
「ぽぱーっ!」
魔法で衝撃波を放ち、看守を吹っ飛ばすユーリ。
さらに念動力でもって牢を開き、看守を通路の外に引きずり出す。ズボンも下着もはいておらず、下半身丸出しで気絶した状態でだ。
「こんなこと、日常的に行われているんですか?」
「囚神の虐待は日常的に行われているが、看守が皆虐待をしているわけではないぞ。快く思っていない者の方が多いようだ」
「所長はこの事実を知らないんじゃないか?」
ユーリが問うと、ソウヤとコズロフが言った。
「そうなんですね。所長が知らないことも問題ですが」
てっきり所長の指示で虐待も行われているのではないかと、疑っていたユーリである。
「今の時間帯であそこで見張っている人達も、多分共犯ですね」
ユーリが言いつつ、下半身丸出しの看守を念動力で中央監視塔にまで吹き飛ばし、監視塔の窓ガラスに打ち付けた。
窓ガラスが砕け、下半身丸出しの看守が突っ込んできたので、監視塔の中にいる看守達が驚く。
「やるなー、ユーリ」
その光景を見て、感心して笑うコズロフ。
「助かりました~。ぎりぎりで僕の貞操は守られました~」
「よ、よかったですね」
両手を合わせて感謝するタコ獣神に、愛想笑いで答えるユーリ。
「でも触手プレイの強要されちゃいました~。これで僕はPTAです~」
「PTA?」
タコ獣神の言葉を聞いて、怪訝な声をあげるユーリ。
「PTSDと間違えてるんじゃない?」
「ああ……」
「そうそう、それでしたっ」
ダァグに言われ、ユーリは納得し、タコ獣神はこくこくと頷いた。
「オイコラーっ! そこで何してるーっ!」
怒声がかかる。
声のした方に振り返ると、看守三名が並んで歩いてきた。中央にいる看守だけは服装が通常の看守とは微妙に違う。少し豪華なデザインだ。
「看守長のお出ましかよ」
コズロフが露骨に嫌そうな顔をして、舌打ちする。
「嫌いな人なの?」
反応からしてわかりきっていることをあえて確認するユーリ。
「ああ、嫌な奴だぜ。囚神への虐待も積極的にやっていやがるしよ。看守達の間でも評判は最悪だ」
「人使いが荒いうえに態度が横柄で、ろくでもない上官の見本のような手合いよ」
「お前ら聞こえるように言いやがって!」
立ち止まり、コズロフとソウヤを交互に睨む看守長。
「ああ? 何だよ。また大勢が見ている前でぶっ飛ばされたいのか?」
コズロフが看守長に凄む。
「こ奴を懲らしめたのはお主はではく、拙者であろうに」
ソウヤが笑う。
「この監獄では、看守達による囚神への虐待が蔓延っているそうですね」
ユーリが看守長の前に進み出て、毅然たる口調で言い放つ。
「何だこの餓鬼……。囚神でも看守でも無い奴がこんな所に――」
「所長の許可は取ってあります。看守の立場を笠に着て、囚神を虐待するような非道な真似を、僕は見過ごせません」
「はあ? 俺達は一度たりとも虐待なんてしてねーぜ~? なあ?」
大真面目に訴えるユーリを、看守長は心底馬鹿にしたような目で見ながら、両脇の部下二人に声をかける。
「ありませんねー、囚神への虐待なんて」
「どこの坊ちゃんだから知らないけど、変な噂を真に受けちゃだめだよー? あ、嬢ちゃんだったかなー?」
へらへら笑いながらからかう部下看守二人。
「この野郎っ!」
コズロフがあっさりキレて殴りかかろうとしたが、ユーリがコズロフの前で片腕を上げて制した。
「な、何だよユーリっ。なんで止めるんだよっ」
「ごめんねコズロフ。多分君が殴りかかった所で、解決はしない。いや、ここでの虐待全て無くすってのは難しいだろう。所長に訴えても、こっそりとやりそうだしね」
戸惑いと怒りが入り混じった声をあげるコズロフに、ユーリは穏やかな声で告げる。
「ふむ。しかしだからといって諦めて、何もしないわけではあるまい。ユーリには何やら考えがあると、拙者は見た。つまるところ、お手並み拝見だな」
ソウヤが顎に手を当てて笑い、ユーリを見ながら言った。
「こういう魔法はあまり得意じゃないし、気が進まないけど、人喰い絵本の攻略において役に立つこともあったんだよね」
前置きをしてから、ユーリは魔法を発動させた。
「あ痛っ! 今……何――痛えっ! ぐおおおっ! やめろ!」
「熱っ!? 痛いっ! ひいぃ!」
「何だこの苦しみ……圧迫感……ぎゃああ!」
突然三人の看守が悲鳴をあげ、七転八倒して苦しみだす。
「おいユーリ、何したんだよ」
「呪いをかけただけだよ。彼等の記憶が掘り起こされ、彼等が甚振った相手の痛みが、断続的に降りかかる呪い」
コズロフに問われ、ユーリは冷たい口調で答える。
「お主、左様な術が使えるのか」
「術ではなく、魔法です。でもこういった呪いの魔法は、僕はあまり得意じゃないから、抵抗力の無い人相手にしかかけられないけど」
驚くソウヤに、ユーリが解説する。
「二週間くらいは続く呪いです。虐待を率先して行っていた看守のこの有様を、他の看守達が見れば、少しは考え直してくれるかなと」
「ふむ。しかしそれだけでは弱いのー。ここは一つ、拙者とコズロフが一肌脱ぐか。こ奴等は正しき魔法使いに呪われ、看守がこれまで虐待した分の痛みが降りかかっていると、噂を流してやるのだ」
「いいねー、それ。流石はおっさんだ」
ユーリの話を聞いて、ソウヤが提案し、コズロフが弾んだ声で同意した。




