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41-8 こちらでも思わぬ再会

 ユーリとダァグと御者が、悪神監獄の中へと入る。


「ここまで連れてきてくれて、どうもありがとさままま」

「お世話になりました」

「いいってことよ。つーか俺の方こそありがとさまままだわ。お前さん達のおかげで、助かったんだしな」


 ダァグとユーリが礼を述べると、御者が顎髭を撫でながらやんちゃな笑みを広げてみせる。


「御者さんもわかってるでしょうけど、ここは結構危険みたいですし、すぐに用事を済ませて出た方がいいですよ」

「ははっ、そのつもりだよ。俺は物資届けるだけだし、長居は無用さ」


 ユーリが忠告すると、御者は笑いながらユーリの肩を軽く叩き、物資を下ろしにかかる。

 ダァグが無言で御者の手伝いを始めたので、ユーリもそれに倣う。


「おおっと、悪いな」

「いえいえ」

「せめてもの恩返し」


 笑いかける御者に、ユーリとダァグも微笑み返す。


 御者が去り、監獄の中庭にユーリとダァグが残された。


「ユーリ、まずどうする?」

「ここの状況を知ることだね。ドームから状況を聞き出そうよ」


 ダァグが伺い、ユーリが答える。


「さっきドームから聞きだせばよかったけど、どたばたしていて、そこまで頭が回らなかった」

「二人して迂闊だったね。ドームは今……ああ、女神や神徒達と会っている。交信するのは危険だ。悟られる可能性がある。視界の共有も危険だから切っておく」

「君達は何だね?」


 会話を交わすユーリとダァグに、年配の看守が声をかけてきた。


「えっと……」

「人探しのためにここに来ました」


 ダァグが逡巡する一方で、ユーリが素早く答えた。嘘はついていない。


「人探し? んー……子供二人でこんな所にか。何かワケありって感じなのはわかるが、妙な話だね」


 訝る看守だが、ユーリとダァグの二人に不審や悪意を抱いている様子は無いようだった。


「正直、今はここを出た方がいいと私は思うよ。ここは今、色々と問題が起きている。新参の神が看守を何人か殺したうえに、他の神々も支配下に置いた。しかも所長はそれを黙認しているんだよ。何が起こるかわからない状態で、看守達はビクつきながらお勤めしているからね」


 年配の看守の話は非常に有益な情報だと、ユーリは感じた。その新参の神とやらは、十中八九女神であろう。


「御親切にどうもありがとうございます。しかし僕達にも事情がありまして」

「そりゃわかっているがね。誰を探しているんだね?」


 礼を述べるユーリに、年配看守はさらに突っ込んで尋ねてくる。


(信用して喋っていいの? 悪い人では無さそうだけど)


 ダァグが念話で尋ねてきた。


(どうしようか迷っている。女神側かもしれないし。情報が洩れる可能性もある。でも情報も欲しいし、協力者がいると心強い。この人は確かにいい人っぽいけど)


 念話で答えるユーリ。


「ああ……私が信用できないか。ま、仕方無い。というか、私も協力できるかどうかもわからんしね」


 無言になったユーリとダァグを見て察し、頭をかく看守。


「女神です」


 意を決し、ユーリが言った。


「嗚呼……正にその女神とだけ名乗る鳥が、今悪神監獄を荒らしている当事者だ。看守を殺し、他の神を何人か支配している奴だよ」


 看守が微苦笑を零して言った。


「この悪神監獄で動くには、協力者無しでは辛かろう。んー……ああ、あの二人に任せるか」

「あの二人?」


 年配看守の言葉を聞いて、ユーリが怪訝な声を発する。


「新人看守の中にね、腕利きの奴が二人いる。人間的にはちょっと癖があるが、君達のようなワケ有りな子を任せるには最適だ。今連れてくる」


 そう言って年配看守が監獄の建物の中へと引っ込んだ。


 年配看守と入れ替わる形で、二人の看守が現れた。一人はふてぶてしい面構えの少年。もう一人は痩身の中年男だった。

 ユーリはその二人に見覚えがあった。


「え? ソウヤさん。それにコズロフ」


 ソウヤ・ヒガシフとコズロフの姿を見て、ユーリが呟く。


「むっ、そちらの長髪の少年から縁を感じるぞ」

「こいつは……ユーリじゃねーかよ」


 ソウヤがユーリを見て興味深そうに言い、コズロフは目を大きく見開いていた。


「おお、これがユーリなる少年か。コズロフから話は聞いておる。ソウヤが別人と入れ替わっていたような現象の時、拙者と共に戦ったのがこの少年であったか」

「ははっ、俺とお前は一体化していたから、俺はお前の姿は見てねーけど、それでも一目見ただけでびびっと来てわかっちまったぜ。そっかー、こんな顔してたんだ。わりとイメージ通りだぜ」


 二人同時に破顔するソウヤとコズロフ。


「ダァグ、これはどういうこと? 二人のいた世界と繋がった世界なの?」

「違うよ。嬲り神が君達に縁のある者達を、この世界に連れてきたんだ」


 尋ねるユーリに、答えるダァグ。


「どうしてそんなことを?」

「協力者として、力になってもらうためさ」


 さらに尋ねるユーリに、答えるダァグ。


「今、嬲り神という名が聞こえたが、ユーリの知り合いであるか?」

「う、うん……まあ」


 ソウヤの問いかけに、ユーリは躊躇いながら頷く。


「ユーリ、ダチは選べよな。あんな汚ねえ薄気味の悪い奴とダチとかよー。しかも喋り方も気に食わねーし。ありゃダチになったら駄目なタイプだ」


 コズロフが憮然とした表情で断じた。


「嬲り神なる者に連れてこられた拙者は、使命を果たせと言われた。ここで看守を勤め、情報を集めよと。そしてこれより拙者等の知己が訪ねてくる故、その者に協力せいと」

「まさかそれがユーリだったとはよう。嬉しいぜ」


 ソウヤが経緯を語り、コズロフが愛嬌に満ちた笑みを広げる。


「ユーリ、そのちびっこは何だ? そいつもダチか?」


 コズロフがダァグを見て問う。


「ふむ。そこのおかっぱの童からは、ただならぬ雰囲気を感じるな」


 ソウヤの視線もダァグに向けられる。


「この子はダァグ・アァアア。この絵本世界の創造主で、かくかくしかじか……」


 今度は躊躇わず、包み隠さず、ダァグのことを話すユーリであった。


「ユーリ……誰にでもあっさりと僕の正体を喋っちゃうんだね」

「話して問題あるの?」


 呆れるダァグに、ユーリはにっこりと笑ってみせた。


「創造主とな。まこと信じがたき話であるが、お主が言うのであれば、信じられる。コズロフと入れ替わっていた話も、合点がゆくというもの」

「えらいスケールの話で、普通なら信じられねーけど、ユーリの話だから信じられるわ。そもそもユーリが俺と入れ替わったことだって、ファンタジーだったしよ」


 ユーリの話を聞いて、ソウヤとコズロフは得心が行く。


 その後ユーリは、コズロフとソウヤに、女神との戦いのこと、ここに来た経緯も全て話した。


「その創造主様が、自分で創った世界のルールに縛られているってのも、ヘンテコリンな話だな」


 コズロフが腕組みして、ダァグを見ながら感想を述べた。


「色々もどかしいと、僕自身も思うよ。でも女神をこの世界に呼び込み、封じるためには必要だったんだ」


 本当にもどかしそうな表情で、ダァグは言った。


「それで、ここの情報で、何か耳よりなことはある?」


 ユーリが尋ねる。


「所長が怪しさ全開だったからよ。可能な限り嗅ぎまわってやったぜ」


 にやりと笑うコズロフ。


「ふふふ、コズロフよ。与えられていた指名とやらに不平たらたらで臨んでおったくせに、今は活き活きとしておるのー。それほどユーリのことが気に入っておるのか? 真面目に探りを入れたかいがあったのー」

「ちょっ、よせよっ、おっさん」


 ソウヤがにやにや笑いながらからかい、コズロフが狼狽する。


「慕われてるんだね、ユーリ」

「ま、まあ気に入られたみたいではあるけど、最初はそうでもなかったよ」


 ダァグが声をかけると、ユーリは頬を掻いて言った。


「ま、ここの所長をおっさんと二人で探ってみたが、大したことはわからなかったぜ」

「それでもわかったことは幾つかあるぞ。一つはあの所長の性格。中々の曲者なうえに、豪胆な気質よ。何より頑固者であるぞ」

「冷酷でもあるな。囚神に対して全く容赦ねーよ。看守に対してもだ。女神に殺された看守のことを全く気遣いしてねーぜ。看守の強さも相当なものだぜ。監獄内で弱体化されているとはいえ、囚神の多くが敵わねー実力者だ。所長に逆らって殺された神は、両手の指でも数えきれねーとよ」

「所長は神々を封じることに執念を燃やしておる。何があったか知らぬがな。そもそも神を封じるほどの施設をこさえるというのも、途方も無き話ぞ」

「所長はこの監獄を創設者であり、その創設には何かしら秘密があると噂されている。神々を封じる執念とも、理由は被っているかもな」

「そして夜明けの神を欲している。夜明けの神は悪神を改心させる力があるという噂。その力が、所長にとっては必要ということか」


 コズロフとソウヤが口々に、これまでに調査した結果を報告した。


「所長を味方には引き入れられないかな?」


 ユーリがぽつりと呟く。


「ははははっ、豪気よの。難しい手であるが、試してみる価値はあるな」


 ソウヤが笑う。


「拙者とコズロフの権限だけでは入れない場所も、この監獄内にはある。例えば特別監房棟だ。その禁止区域に入るのであれば、所長の許可が要る。味方に引き入れるまではいかなくても、その許可だけは取っておいた方がよかろう」


 ソウヤが言った。この時点で方針は決まった。


***


 女神の前に、グロロンとズーリ・ズーリが現れる。


「大教皇の件は聞いたのです。監獄の外に出てしまうと、力が途切れて精神支配が途切れてしまうとか」

「ドームの件も聞いたぜ。それと、大教皇の支配下に置いていた戦の神のフブロッボってやつが、魅了解かれちまったって話も聞いたわ」


 ズーリ・ズーリとグロロンが女神に声をかける。


「ふん、中々見くびれない奴等ねー。油断禁物。打てる手は全て打っていかないと」


 笑い声で言う女神。


「女神様よ、地の神ジミダ・ワーンの解放を進言しとくぞ。あいつはこっちの戦力増強として申し分ないだろ」

「グロロン、ちょうど私も同じこと考えていた所よ。私と同じ発想に至るなんて、何だか嬉しいわね。褒めてあげるわ。えらいえらーい」


 女神が魔法で浮き上がり、グロロンの喉元を翼で撫でる。


「しかし地の神ジミダ・ワーンの解放には、所長の許可が要るのです」


 ズーリ・ズーリが言う。


「よっしゃ、んじゃ所長室に行くわよー」


 女神が告げ、所長室に向かって飛んでいく。グロロンとズーリ・ズーリもついていく。

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