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41-7 信仰心を遮る領域

 ミヤとノアは、チューコが開けたままの裏口の扉をくぐる。


 扉をくぐった所で、二人はすぐ足を止めた。

 扉の先に、恐ろしい形相をした巨漢が待ち構えていた。肌は文字通り青く、口からは長い牙が生えて顎の下まで伸びており、額からは鋭く尖った角が四本も生えていた。そして両手には長大な斧槍ハルバードが構えられている。


「我が名は戦神フブロッポ。チューコ様より足止めを命じられた。お前達を通さない」


 巨漢が名乗ると、その場でハルバードを振り回す。

 フブロッポが振り回す所作に合わせて、周囲一面に衝撃波が乱れ飛び、地面が引き裂かれ、土煙があがる。しかし悪神監獄の壁は一切傷つかない。


「重い……。強い」


 魔力の壁でガードしながら、ノアは舌を巻いていた。フブロッポはかなり強力な攻撃を途切れなく連発してくる。流石は神を名乗るだけはあると思う。


「チューコに精神支配されて魅了されているようだね。ま、魅了を解いてやればそれまでだ」


 あっさりと言い放つミヤ。


「師匠、できるの?」


 ノアがフブロッボを解析しつつ、疑問を口にする。精神に仕掛けられた魔法が非常に複雑で、解除は難解に思えた。


「少し時間はかかるよ。お前が時間を稼ぎな。できればある程度ダメージを与えてくれれば、助かるね」

「やってみる」


 ミヤが言い、ノアが頷いた。


(さっきはノアが精神支配されちまっていたからね)


 チューコと戦いながら解除は面倒だったが、ノアの手が空いている今ならやりやすいと、ミヤは見た。


 ノアが片手を突き出すと、掌から真っ白いビームが放たれる。ビームの正体は過冷却水だ。

 過冷却水を浴びたフブロッポの体表が、たちまち氷塊で覆われる。


「ぬうんっ!」


 フブロッポが気合の声と共に、力任せに氷塊を砕くが、過冷却水はとめどなく鼻垂れ続け、また氷で覆われてしまう。


「猪口才な!」


 フブロッポがハルバードを回転させ続け、氷も過冷却水も弾いていく。


 ノアがビームを出し続けている間、フブロッボは延々とハルバードを回しながら、少しずつノアににじり寄っていく。


 ある程度接近した所で、フブロッボは駆け出し、ノアとの間合いを一気に詰めにかかった。


 ノアは慌てなかった。相手の動きも予想していた。

 過冷却水を止め、自分とフブロッボの間に炎の壁を生み出す。


「ふんっ!」


 しかしフブロッボはものともせず、炎の壁を突き抜けてくる。人間が一瞬で消し炭になるほどの業火であったというのに、体の表面が多少焦げている程度で済んでいる。


 フブロッボが立て続けに斬撃を放つ。先ほどの衝撃波とは異なる、ディーグルと同様の飛ぶ斬撃だ。


 ノアは魔力の盾を展開したが、斬撃の一つが魔力の盾を切り裂き、ノアにまで届いた。

 斬撃を一太刀食らい、ノアの左腕が切断された。


「流石は神ってことか」


 だがノアは不敵に笑いながら、左腕が地面に落ちる前に魔法で引き寄せ、接着させる。


 ふいに、フブロッボの動きがびたりと止まった


「私は……はあ……助かった……」


 フブロッボが安堵の吐息と共に、武器を下ろした。


 それを見てノアは理解した。ミヤがフブロッボにかけられていた、チューコの魅了を解いたのだと。


「かたじけない。そして面目ない。改めて自己紹介つかまつる。我が名は戦神フブロッポ」


 正気に戻ったフブロッポが片膝をついて頭を垂れ、申し訳なさそうに自己紹介する。


「悪神の汚名を着せられ、この監獄に投獄されたうえに、あの小娘に心を奪われてしまう不始末。全く情けない。信者達が知ったらどう思うことか」

「汚名を着せられたの?」


 ノアが尋ねた。


「この監獄には結構いるぞ。神々との戦いに敗れた神とは、そういう扱いを受けるのだ。勝った神が敗れた神の力を削ぐ方法は、悪神扱いして、信者を奪い、力の源たる信仰心を奪う事である。邪神、悪神扱い――ひどい時は悪魔にまで貶められるものよ」


 フブロッポが語る。


「創造神等、一部の神々の力を除き、多くの神々の力の源は信仰心である。信仰心は精神世界より、神に力を与える。然れどこの悪神監獄は、信者達の信仰心が届かぬ結界が張られておる」

(つまりこれでもフブロッボは弱かったってこと?)


 ノアは驚きを禁じ得なかった。信仰心を断つ結界で神の力を弱められたうえでなお、フブロッボは相当強く感じられたからだ。


「夜明けの神について何か知らないかい?」

「存ぜぬ。チューコと女神も探しているが、行方は杳として知れぬ。彼奴等がここに来る前にも、多くの神々が夜明けの神を探していたが、見つからん」


 ミヤの問いに、フブロッボは首を横に振る。


「そもそも夜明けの神って何者? 監獄の所長がその神を求める理由は?」

「あくまで噂であるが、夜明けの神は悪神を改心させる力があるという。所長はその力を欲しているという」


 ノアの問いにフブロッボが答えたその時だった。


「これは――奇遇ですね。いえ、必然の導きでしょうか?」


 看守の服を着て青い帽子をかぶった男が現れ、驚きの声をあげていた。


「お久しぶりです。ミヤさん。こうして自分の姿を晒して向かい合うのは初めてですね」

「お前は――エイド」


 柔和な笑みをたたえるその男を見て、ミヤも目を丸くした。青い帽子の旅人エイドだった。


「師匠の知り合い?」


 ノアが尋ねる。


「うむ、昔人喰い絵本の中で知り合ったというか、儂がこの者の役を務めた。お前、ここで何をしておる?」

「色々ありまして、今ではこの悪神監獄の看守をしています」

「お前はイレギュラーとなって、この断片世界を渡り歩けるようになったのかい? それとも他の経緯かい?」

「嬲り神と名乗る者の導きです」


 エイドの口から出た名を聞き、ノアは眉根を寄せ、ミヤもしかめっ面になった。


「あいつ……またこそこそ悪だくみしてるのか」


 不快な口ぶりでノア。


「こんな場所で、看守なんてやらされて……」

「ああ、別に強制されたわけではありませんよ。私も興味がありました。他の世界を侵略する女神の話も、ここに多くの悪神が囚神とされていることも。そしてミヤさんが来るという話も」


 ミヤの言葉を受け、エイドは手を振って否定した。


「私は気ままな旅人です。色んな人と巡り合い、色んな体験をしたくて旅をしています。好奇心を満たす出来事があれば、つい首を突っ込む性分です。嬲り神から話を聞いたうえで、了承してここを訪れ、感謝の立場で情報を集めていました。いずれミヤさんも来ると聞いていたので、助けになればと思いましてね」

「そうかい」


 エイドの話を聞き、ミヤは少し安心して微笑む。


「儂等が欲しい情報は、女神の動きと、鍵となる夜明けの神に関してだ。ああ、監獄のシステムや、管理者達のことも聞きたいね」

「管理者のことなら話せますよ。私もその一員になっていますから」

「悪神監獄の管理者は、どういう者達がどういう意図で管理しているんだい?」

「全ての看守がそうではありませんが、看守の多くは悪神に虐げられた者達です。故に囚神達を虐げる日々ですよ。見ていて気持ちのいいものではありませんね」


 ミヤの質問に対し、エイドは憂い顔で答えた。


「全ての囚神が看守に虐げられているわけではない。看守も全てが虐待に加担してはおらん。虐げられている神は大体決まっておるぞ。私は然様な目には合わず。神だった時代の振る舞いが関係しているのであろう。あるいは単純に虐げやすい相手かどうかも」


 フブロッボが口を挟む。


「看守の話もある程度聞いて回りました。神々に恨みを抱く者達が、所長によってスカウトされているようです。私を含めて、全てがそうではありません。普通に就職しただけという者もいます」


 と、エイド。


「つまり看守の多くは歯車に過ぎないということだね。しかし――」

「所長は格別というか、大きな力を有していますね。この悪神監獄を築き、何かしらの信念というか、執念をもって、神々をここに封じているよう感じられました」


 ミヤの推測に補足するように、エイドが言った。


「夜明けの神に関しては、残念ですが何もわかっていません。悪神を改心させるという噂はありますが」

「女神とその神徒はこの監獄の中で派手に動いているようだが、何か知っているかい?」


 さらに質問するミヤ。


「そこにいるフブロッポさんもそうでしたが、チューコという神徒が魅了魔法によって、何人もの神が女神の支配下に置かれました。この状況には、まだ魅了の影響を受けていない神々も、悪神監獄の看守達も、恐々としているようです。所長はこの事態に対し、今の所は動こうという気配を見せてはいません」

「所長は女神を警戒して静観かな?」


 エイドの話を聞いて、ノアが皮肉げに言う。


「あの絵本を見た限り、監獄の所長は夜明けの神を求めている。もし女神が夜明けの神を連れてくる可能性に賭けているのであれば、手出しをしないだろうね」


 ミヤが言う。


「絵本の中では女神も看守達にいじめられていたよね。今もいじめられてる?」

「今は女神に対する看守の虐待は無い。それ以前は確かにあった。他の神々とは異なる理由だ。態度があまりにも悪かったが故に」


 ノアの疑問に、フブロッボが答えた。


「今は女神が力を取り戻してしまいましたからね。女神には特別な封印がなされていました。その時、女神は無力でしたよ。でも神徒達がやってきて、女神にかけられた封を解いたのです。それ以降、女神と神徒達はこの監獄で、やりたい放題になりましたね」


 と、エイド。


「フブロッポの力はどうなんだい」


 ミヤがフブロッボを見る。


「私は信仰心が遮られているが故、かなり非力である。他の神々も信仰心による恩恵抜きであれば、それなりに力を備えているぞ」


 フブロッボが言った。ミヤの質問は、フブロッボの力も女神によって解放されたのかという問いかけただったが、フブロッボには通じていなかった。しかしその答えでも、ミヤには十分だった。 


「ところで、絵本とは? 何の話をしているのだ?」

「かくかくしかじか」


 フブロッボが尋ねると、ミヤとノアが人喰い絵本に関して語った。


***


 チューコが戦闘途中で急ぎ撤退した理由は、女神からの呼び出しだった。チューコが呼び戻された理由は悪神の何名かの魅了が解けてしまっていると、女神に言われたからだ。

 ここでチューコは初めて知った。監獄の外に出ると、精神支配の力が弱まる。信仰心を遮る結界は、チューコの力にも作用する。ようするに外部との精神世界の繋がりを遮断してしまう。


「迂闊でした。そのようなことにも頭が回らないと」

「いいのいいのー。人生失敗の連続よー」


 申し訳なさそうに頭を下げるチューコに、女神は笑い声でフォローした。


「とうとう奴等がここに来たのね。先に夜明けの神を見つけ出される可能性もあるし、さっさと対処しましょー」

「地の神ジミダ・ワーンを使います」


 女神の言葉を受け、チューコが言った。


 地の神ジミダ・ワーンは、信仰心を糧としない。大地より力を得ている神だ。故に強力な神であり、厳重に特別な封がなされていた。


「はあ……しっかしあんた達が来てくれて、私にかけられた封印を解いてくれて、本当に助かったわー。糞看守共、毎日私をいたぶりやがってー。あんた達のことがヒーローに見えたわよー」


 女神がチューコの方を見て、朗らかな声で言う。


「いえ。もっと早くに助けに行けず、申し訳ありません」


 再び頭を垂れるチューコ。


「絵本の設定からか、時間の流れも違ったみたいだから、早くに助けには来れなかったでしょうよ」


 そう話す女神の声に、憎悪の響きが宿っていた。その憎悪の矛先は、自分をこの世界に引きずり込んだ者に向けられている。

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