表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/329

41-4 敗者が心を徹底的に弄ばれる

 一夜明け、ユーリとダァグは馬車で悪神監獄に向かっていた。


「昨日、ドームの放った魔物をやっつけたことで、僕等の居場所が判明していることは、覚えておかないとね。仕掛けてくる前提で身構えておこう」


 ダァグが言った。


「わかっている。それと、御者さんは絶対に護らないと」

「うん。そうだね」


 ユーリの言葉を聞いたダァグが、微笑みながら頷く。


 その刹那、ユーリの表情が変わった。何度も感じ取った危険な電磁波を、ダァグよりも早く感じ取っていた。


「殺気が……」

「ぐぼぉっ!」

「ひひーんっ!」


 ユーリが呟いた直後、御者の悲鳴と馬のいななきが聞こえた。


 ダァグが馬車の幌を開くと、御者が口から血を吐き出しながら、馬車から転げ落ちていく姿が目に入った。仰向けに倒れた御者の腹部には、ぽっかりと大きな穴が開いている。


「致命傷だけど、まだ間に合う」


 冷静に呟くダァグ。


「あれっ? あれ?」


 腹部の大穴が瞬時に塞がり、痛みも消えたことに、御者が戸惑いの表情になる。


 空を二匹のガーゴイルが旋回して飛んでいる。両方とも槍を携えている。この槍で御者を貫いたのだ。


 ユーリが魔力の糸を放ち、二匹のガーゴイルの胴を両断した。落下するガーゴイル。


 街道の先を見ると、大量の魔物がひしめいている。魔物達の背後には、高い壁に囲まれた巨大な建造物がそびえ聳え立っていた。見た目からして、それが悪神監獄であることは間違いなかった。


「あれが悪神監獄か」


 ユーリが呟いたその時、ダァグが輪の騎士と術師と獣をまた召喚する。


「これを呼べるのはここまで。監獄の中で召喚は出来ないよ」


 と、ダァグ。


「昨日も聞いたよ。楽でいいけど、この人達は――」

「前に言わなかったかな? あれは魂が無い人形だよ。喋ることは出来るし、心があるように見せかけているけど、それはただの見せかけ」


 喋っている最中に、輪の騎士と術師と獣の部隊が、魔物の群れへと突っ込んでいった。魔物の群れも応じ、たちまち乱戦になる。


「彼等が付けている命の輪は、僕の絵本世界の共通イレギュラーってところかな。知っての通り、邪なテクノロジーによって、人の命を永久機関化したものだ。装着することで、命が命に力を注ぐ」

「その設定は、ダァグの本体がいる世界の影響も受けているの?」

「いや――それは無いかな。多分あまり無い」


 ユーリの疑問に、ダァグは少し思案してから答えた。


 命の輪の軍団が、どんどん魔物を討伐していく。数は魔物の軍団の方が上だが、個々の戦闘力の違いは、命の輪の軍団の方が格段に上だった。


「やってくれるな……」


 黒い肌に骸骨のような容姿の男が現れ、劣勢の状況を見て舌打ちした。ドームだ。


 ドームが呪文を唱えると、斃された魔物達が次々に起き上がる。アンデッド化して蘇り、また命の輪の軍団めがけて戦闘を仕掛ける。


「お得な運用法だ」


 慌てることなく呟くダァグ。


 ユーリがドームを狙って魔力の槍を四本、続けざまに放つ。


「染めよ。緑の地獄」


 ドームが呪文を唱え、かなり際どいタイミングでユーリの攻撃を防いだ。巨大なシダやコケがドームの前方から大量に噴き上がり、四本の魔力の槍を受け止めた。


「束ねる血眼の剣」


 さらに呪文を唱えるドーム。大量に連なった真っ赤な目玉が、ユーリとダァグのいる方めがけて伸びてくる。


 ユーリは念動力猫パンチを放ち、真っ赤な目玉の列を叩き潰す。一発ですべての目玉を叩き潰したわけではないが、魔力の強制霧散効果によって、他の目玉も消滅した。


「冷泥と共に来られし暗湖の使者」


 ドームが次の術を発動させる。

 ユーリとダァグの周辺の地面が変化し、泥と化す。


(結構距離が離れているのに、射程範囲広いな)


 宙に浮いて泥に足を取られるのを回避しつつ、ユーリは思う。隣でダァグも宙に浮いている。


 泥が大きく盛り上がり、冷気を撒き散らす。さらには盛り上がった泥が、軽装の剣士へと姿を変える。

 泥の剣士が飛び上がり、ユーリめがけて切りかかる。


 ユーリは魔力塊を放って、泥の剣士を弾き飛ばす。


「ぬっ!?」


 ドームが呻き声を発した。いつの間にか全身に光の帯が巻き付けられ、拘束されていた。

 そのドームの目の前に、いつの間にかダァグがいる。じっとドームを見ている。


「魔物使いドーム。君には色々聞きたいことがあった。君が一番、僕の世界を荒らしてくれたからね。この魔物達だって、僕の世界から持ち出して利用しているだろう」

「知りたいことがあろうと、答える義理は無い」


 冷ややかな口調で告げるダァグに、ドームも冷ややかな口調で返す。


「僕の世界を散々利用して、お世話になっておいて、質問に答えるのも嫌なんだ。そうか。じゃあ、無理矢理喋らせることにするよ」


 ダァグが告げた直後、ドームの様子が変わった。瞳から医師の光が失せた。


「自白魔法だね」


 転移してダァグの隣にやってきたユーリが言った。ユーリもよく使うし、ミヤも使う。人喰い絵本の攻略を一気に楽にするものだ。


「君はいつから僕の絵本世界を利用している?」

「女神様の消息が途絶える少し前からだ。その時、この世界の存在を知った。無数に在る断片世界。利用価値は高いと踏んだ」


 ダァグの質問に、ドームは淀みない口調で答える。


「女神は今何をしているの?」

「監獄内で、悪神とされた囚神達を多く取り込んでいる。そして夜明けの神の捜索を行っている」


 これは前もって聞いていた情報だが、ドームの口からきいて、裏付けが取れた。


「女神と君達は今後どうする予定?」

「夜明けの神の捜索、勢力の拡大、そして敵対する者の排除だ」

「その具体的な方法は?」

「女神様の指示に従って行われる。具体的方法は伝えられていない」

「ドーム、君は何でわざわざ僕達の前に姿を現した? そんなことをしなければ、こうして君一人で捕まり、情報を渡すはめにもならなかったのに」

「ダァグ・アァアアの所在を確認出来たが故に。私の力をもってして――私の全てを引き換えに、貴様を封じるつもりだった。その目的は敵わず。そして情報を与えることになるとは、予測できなかった展開だ」

「それは女神に命じられて?」

「違う。私の独断だ。女神様は決して、神徒を見捨てるような命令はしない。使い捨てにはしない」


 どんどん質問していくダァグであったが、そこまで聞いた時点で質問を止めた。


「ドーム、君は何故女神に従うの?」


 ダァグに代わるようにして、ユーリが尋ねた。


「女神様が私を救ってくれたのだ。女神様が私に新たな生を与えてくれた。私の世界に光が差し込んだ。故に私は私の生涯の全てを、女神様のために尽くす」

「自分に従わない者は平然と殺害するろくでもない女神に尽くすのか」


 ユーリが溜息交じりに言う。


「女神様がそうなじられるのも仕方が無いな。確かに女神様は、敵に対して、従わぬ者に対して、一切容赦がない。しかしな、私は神徒になって長いが、女神様が自分を奉じる者を裏切ったことなど、一度も見たことがない。あの方は絶対に神徒を裏切らない。例え大きな失敗をしても、罰しない。見捨てることはない。そういう方なのだ。私達を救ってくれたことも大きい。私のような醜い者も差別しないことも素晴らしい。だが私から見て女神様を信頼できる最大の要素は、裏切らず、見捨てないという点だ」


 ドームの話を聞き、ユーリは憐憫を覚えてしまった。


「たったそれだけでも信じてしまえるなんて、それ以前にどれだけ哀しい人生送ってきたんだって話だね」


 最初に手を差し伸べてくれた人なら、誰でもよかったという理屈になる。もっとましな人が手を差し伸べたならよかったのにと、ユーリは思わずにはいられない。


「最後の質問だよ。ドーム、君はどんな人?」


 ダァグがそう問うたその時――


***


・【貧乏な魔物使いドーム】


 ドームはとても貧しい魔物使いで、借金まみれの生活を送っていました。

 借金の理由は、魔物達の餌代がかさんでいるためです。ドームは沢山の魔物の世話をしていたのです。


「もっと金を貸してください。魔物が皆ひもじい思いをしているんです」


 ドームは借金取りの前で土下座して懇願しました。


「返す当てのない奴にもう貸せねーよ。魔物を使って人里でも襲って、それで金を稼いでくればいいだろう」


 借金取りは小馬鹿にした顔で言い捨てます。


 ドームは激昂し、借金取りを殺害して魔物の餌にしてしまい、追われる身となりました。


 痩せ細った魔物達を連れ、ドームは逃亡生活を続けます。


 ドームが魔物使いになった経緯は、魔物達が人間の敵対種として忌み嫌われていたからです。ドームもその容姿から、皆に忌み嫌われていました。家族にさえ嫌われていました。だからこそ、嫌われ者である魔物と仲良くなる道を選んだのです。

 しかし今、ドームは魔物達を養うことができず、魔物達と共に力尽きようとしています。


「すまない……皆。私なんかを主人にしたばかりに、苦しい思いばかりさせて。本当にすまない……」


 泣きながら謝罪するドームの前に、一羽のカモメが現れました。


***


 ユーリの頭の中に、ドームの過去が絵本として流れていた。それがダァグの仕業であることは歴然だ。


「魔物を大事にしていたわりには、今は魔物を手駒として使い潰しているね」


 呆れ気味に言うダァグ。


「今の絵本、師匠やノア達も見た?」

「女神やその神徒も見たよ。絵本に入れられた者達全てに見せた」


 ユーリに問われ、ダァグが答える。


「見られたくない過去だったのかもしれないのに、それを絵本にして暴露したんだ。中々えげつない手を使うね。他の神徒達の心にも揺さぶりをかけられるし」

「また僕を責めるの?」

「いや、責めない。これは戦いなんだからさ。むしろ褒めてあげる」


 伏し目がちになるダァグの肩に、ユーリが手を置き、優しい声で告げた。


「君は流石神様だけあって、人の心も自由にいじれるんだね」

「いや……そういうわけじゃないよ。今、僕の力は大分抑えられているよ。彼を拘束できたことも、彼の精神を操作できたのも、事前に弱らせたからだ。これは君達相手にもそうだし」

「僕達相手にも?」


 ダァグのその台詞に反応するユーリ。


「あまり考えたくないけど、もし僕とユーリ達が本気で戦うなら、君達にも勝機はある。神の力をフルパワーでは使えない。そういう条件を前もって設定しているからこそ、君達を強制召喚しているんだ」


 ダァグの話はユーリにとって衝撃だった。嬲り神は、創造主であるダァグには勝てないと断言していたが、他ならぬダァグがそれを否定して、希望の蠱狩りを示してきたのだ。


「これは嬲り神や宝石百足達にも言える。僕や僕の創った神々は、世界そのものを創造し、操作し、破壊も出来る力を備えているし、人喰い絵本の住人なら生殺与奪は思いのままだよ。でも君達は別の世界の住人だから、そうもいかないんだ。とはいえ、僕達は力を抑えて同じフィールドやステージにいてなお、相当な力を持つ。それはユーリもわかっていると思うけど」

「そうか。いいこと聞いたよ」

「教えなければよかったかな……」


 にっこりと笑うユーリに、ダァグは苦笑いを浮かべていた。


「ドームの洗脳も出来る?」


 自白魔法をかけられて呆けているドームを見て、ユーリが尋ねる。


「出来るよ。どうするつもり?」

「洗脳したうえで、女神の元に戻そう。そして隙があれば、ドームに女神を殺させるっていうのはどう?」

「ユーリ……それは僕は反対かな。あんまりだよ。今のドームの過去を見ただろう? ドームにとって女神は本当に心の底から崇めている、大事な存在なんだよ? それなのに、例え操っているとはいえ、そのドームに女神を攻撃させるなんて、僕は嫌だな……」

「何でそこで急に綺麗事を言うんだい? 急に良心の呵責が働いて、中途半端な所でブレーキがかかるのか」


 ダァグの台詞を聞き、ユーリは苛立ちを覚え、強い語気でもって、非難するかのような声をあげる

 言ってからユーリははっとする。自分が感情任せになっていることを。そしてそれによってダァグが臆してしまっている。


「これは戦いなんだから、出来ることは全てした方がよくないかな? 女神に通じるかどうかはさておき、有効な手だと思わない?」

「うん……。それはそうだけど……」


 意識的に穏やかな口調で言うユーリであったが、ダァグは躊躇し続けている。


「いや、方針変更で。ドームに女神を殺させなくてもいい。それはわりと無理がありそうだ。女神に通じない気もする。それなら洗脳して送り返して、ここぞという所でドームを動かして、女神の足を引っ張るとか、あるいは情報をこちらに送らせ続けるとか、手は色々とある」

「ユーリは中々冷徹な考えをするんだね」

「君にそんなこと言われたくないよ。僕よりずっと悪いこといっぱいしている君にさ」


 ダァグに指摘され、ユーリは微苦笑を浮かべて言い返した。


「そう……だね。でも凄く驚いた。ユーリのことがまた一つわかった。そんな一面があったなんて」


 さらに口にしたダァグの台詞を聞き、ユーリはいい加減このやり取りに辟易としてきた。自分よりずっと悪い子に、悪者扱いされている事が、あまりにも釈然としない。


「で、それもやりたくない?」


 ユーリが抑揚に欠けた声で伺う。


「いや、やろう。洗脳した状態で送り返すのはリスクがある。女神なら見抜きそうだ。だから――記憶を全て消して、こっちの任意のタイミングで、ドームの心に一時的にスイッチが入って、その時は洗脳状態になるようにする。それ以外、ドームの意思はそのまま残す。こうした方が無難だし、自然な状態で疑われないと思う」


 ダァグも覚悟を決め、迷いを振り切った。


「そっか。じゃあそれで。ダァグに任せるよ」

「洗脳したらすぐに監獄の中に入るよ」

「何か不都合があるの?」


 ユーリが理由を問う。


「悪神監獄には結界が張ってある。精神世界との繋がりを妨げる結界だ。僕の洗脳効果も精神世界を通じてのアクセスだから、ドームが監獄に入ったままで、僕が外にいる状態が続けば、途切れてしまうんだ」

「どうしてそんな結界が?」

「神々とその信者達の信仰心を断つためさ。神の力の糧は、信仰心だから」


 ダァグの話を聞いて、ユーリに疑問が浮かんだ。


「ダァグ、君も?」

「僕は違う。僕や女神といった造物主は、格別だ。信仰心なんて必要無い。他にも例外の神はいるようだけどね」


 ユーリの問いに答えながら、ダァグは先に馬車に乗った。

 ユーリも乗り、御者に馬車を進めるよう求めると、馬車が監獄めがけて走り出した。


 監獄の扉を開き、馬車が中に入っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ