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39-7 結局南極二号大転生物語 後編の後編の後編

「ここで女神まで現れるとはよー。運命はつくづく俺達に試練を与えまくってくれるようだなぁ。ったくよぉ」


 勇者リッキーがぼやきながら、いつでも戦闘に入るように身構えた。


「このオオフルマカモメさんは君達の仲間――という雰囲気でもないね。やっぱり君達を食べたいのかな?」

「敵だ。お前以上に憎き敵だ」


 レオパが質問すると、魔王タローがたっぷりと憎悪を込めて吐き捨てる。


「ふーん。それなら俺とこのオオフルマカモメさんと手を組むってこともありかな? 同じペンギン捕食者だしねー。あはっ」


 レオパが女神を見る。


「何だかわからないけど、力を持つアザラシと戦っていたようね。しかもあなた、私の神徒になりたいの? えらいえらーい。中々見る目があるじゃない」


 女神もレオパの方を見て、笑い声で言う。


「女神とこのヒョウアザラシが手を組まれたら、さらに絶望的だな」


 僧侶クマーが呟く。


「私達の魂までも、元いた世界から追放して、ペンギンに転生させなければならない理由があったのか?」

「この魔力の乏しい世界なら、転生した貴方達の力も制限される。だから丁度いいのよ」


 魔王タローの疑問に、女神は言った。


「遠回りな答えだな。それだけではあるまい」


 魔王タローが指摘する。


「女神が私達を異世界に送ったうえに転生させたのは、私の術を遮るためです」


 さらにジロロ姫が解説する。


「あの禁呪――再生復活の秘術。勇者リッキー様と魔王タロー様達が女神と戦いに臨み、私は皆が女神に斃されたら、その秘術が自動的に発動して、全員を完全復活させるように、予め術をかけていました。しかし女神は――私の目論見を見抜いていたのです」

「わりと土壇場の苦肉の策だったけどねー。いくら私でも、魔王と勇者とその取り巻き共をぶっ殺した後、またフルパワーで全員復活させられて連戦とか、たまったもんじゃなかったしさ」


 女神がジロロ姫の解説に補足する。


「魂を別の世界に飛ばし、別の生き物に転生させれば、再生復活の秘術も空振りになるんじゃないかって、賭けに出たの。賭けは私の勝ちだったわね」

「しかし大きな疑問が生じるな。女神よ。何故我々の前にわざわざ姿を現した?」

「愚問ねえ。玩具はまだ壊れてない。そして私に盾突いた不届き者には、もっともっと思い知らせて苦しませてあげないと、私の気が済まないからよ。でもさ、私、この世界には来たくなかったのよね。魔力が乏しいという理由だけじゃないわ。ここが私の生まれた世界だからよ」


 魔王タローが問うと、女神は若干アンニュイな口調になって語る。女神にとってよろしくない思い出があるということは、今の台詞から察せられた。


「相変わらず悪趣味でつまんねー奴だ。こんなのを女神様だなんて崇めている奴が、大勢いるんだからよ。笑えねえ」

「あはははははははっ! あんたの口からそんな台詞出るとはねー。これゃおかしい。こりゃ笑える。笑かしてくれてありがとーっ。えらいえらーいっ。きゃはははははっ!」


 勇者リッキーが悪態をつくと、女神が大声で笑った。


「リッキー、そりゃーあんたは笑えないわよね~? あんただって昔は私のことを、女神様女神様と言って崇めて、感謝してたんですものー。私から力を恵んでもらって、魔王を倒す勇者様だと祀り上げられて、そのまま軽い神輿のままでいればよかったのにねー」


 女神が勇者リッキーを嘲ると、ジロロ姫の方を向く。


「ジロロ姫、あんたもよ。リッキーを振って魔王タローになびくとか、何て節操の無い阿婆擦れよ。そして私も裏切るとか。リッキー、ジロロ、あんたら二人の罰は、殺して異界追放して畜生道に堕として、それで済むと思ってないでしょうね?」


 そう言うと、女神は魔法を使って映像を投射した。ジロロ姫は猛烈に嫌な予感を覚える。


 映像は、ジロロ姫の生まれ育った王城、隕石が幾つも降り注ぎ、破壊される様が映し出された。そしてジロロ姫の家族の潰れた死体が映し出され、ジロロ姫が硬直する。


「母様……父様……」


 わなわなと震え、涙を零すジロロ姫。


「母様……? 母さん?」


 その単語に反応するレオパ。かつて自分にも母親がいたことを、短い時期だが育ててもらっていたことを思い出す。


 映像が切り替わり、炎に焼かれる村が映し出された。ただ焼かれているだけではない。山賊に襲われている。

 一人の中年女性が山賊に後ろから斬られて倒れた。そして倒れた中年女性に執拗に剣を突き刺した。


「おふくろ! おい……ふざけんなよ……。ふざけんな……糞がぁっ」


 勇者リッキーが叫ぶ。焼かれている村は勇者リッキーが生まれた村で、殺された女性は彼の母親だった。


「母さん……。もういない。会えない――か」


 レオパが映像を見ながら、ぼんやりと呟く。


「あはははは! 傑作傑作ぅ! どう? 私に逆らった罪は、あんた達だけじゃ贖いきれないから、あんた達の家族にも支払ってもらったのよ! それをあんた達に見せて、どんな反応するかも見たくて、来たくもないこの世界に来たってわけよーっ! いやー、ナイスリアクション! 来た甲斐があったわー! ぎゃははははははっ!」


 大笑いする女神。


「言っとくけど、私を恨まないでよ? これはあんたらのせいですから~。私への恩を忘れて、私を裏切った当然の罰でしょー。あんたらが招いた事態なんだから、私のせいじゃないわー。あんたらのせい。ざまーっざまーっ! きゃはははははははっ! ぶひゃあ!?」


 女神の馬鹿笑いは途中で中断させられた。冷水の滝が猛烈な勢いで女神に降り注ぎ、女神を押し潰す。


(今のは?)


 魔王タローが勇者リッキーや配下を見る。しかし彼等の仕業ではないとわかっている。魔力が近くで働いた気配が無い。彼等は魔法も魔術も使っていない。


 皆の視線がレオパに向けられる、女神も翼をはためかせて水を払い、レオパを睨む。


「君さー、気に入らないよっ。ムカつくよっ。俺を殺そうとしたこのペンギン達より、君の方がずっとずっと腹が立つし、殺してやりたいと思ったよ」


 レオパが女神を冷ややかな目で見つめ、冷ややかな口調で告げる。


「決めたっ。ペンギン諸君、君達は俺を殺そうとしたけど、それでも俺は君達に味方するっ」

「お、お前……本気か?」

「レオパさんっ」


 レオパに発言に、魔王タローは半信半疑であったが、ジロロ姫はレオパの言葉に偽りはないと感じて、喜悦の声をあげた。


「はあ? さっきは私と手を組むとか言ってたくせに。何考えてるのよ、このアザラシは。アザラシの分際で浪花節とか、笑わせないで頂戴」


 女神が険悪な声を発し、魔法を発動させる。無数の火炎球が空中に生じた。


「何これ?」


 火を見たことがないレオパには、それが何であるかわからない。


「防ぐかかわすかしろっ! 攻撃が来るぞ!」


 呑気とも言えるレオパの反応を見て、勇者リッキーが怒号を放つ。


 複数の火炎球が様々な軌道で、レオパに襲いかかる。


「ふんふーん♪」


 しかしレオパは鼻歌など歌いながら空中に浮かび上がり、自分に向かって飛んでくる火炎球の方に向かって突っ込んでいった。


(何をやって……)


 驚く魔王タローの前で、レオパはさらに驚く芸当をやってのけた。ヒョウアザラシが海中を泳ぐ動きそのままに、旋回して飛翔し、飛んでくる火炎球の合間を縫うようにして回避し、そのまま女神のいる場所まで迫ったのだ。


「まるで踊り子のような……」


 長い胴をくねらせて、泳ぐようにして、そして舞うようにして飛ぶレオパに、ジロロ姫は見とれてしまう。


「こいつ……」


 接近してきたレオパを見て、女神が呻く。


 レオパの速度が急に上がる。口を大きく広げる。鋭い牙が覗く。

 レオパの口が閉じた。女神は高速で飛び立ち、レオパの咬撃を直前でかわした。


「舐めんな! 糞アザラシ風情が!」


 女神が怒声と共に魔法を放った。レオパの頭上に、紫電が降り注ぐ。


 しかし紫電はレオパに当たる直前で弾かれた。レオパが魔法で防いだのではない。魔王の部下エーイによる防御だ。


「我等の同胞を食った憎き輩ではあるが、今は手を組むしかないな。シー、お前もレオパを守れ。彼奴のサポートに徹しろ」

「承知した」


 エーイに促され、シーが頷く。


「勇者リッキー、我々は女神を攻撃するぞ。もう後先のことは――再生復活の秘術のことは考えなくていい。ここで全力で女神を斃す事に専念だ」

「ああ、レオパがこっち側についてくれたことで、またとない機会だからな」


 魔王タローと勇者リッキーが覚悟を決める。


(確かにレオパは強いが……それでも、あの女神に勝てるかどうかはわからんぞ)


 僧侶クマーは懐疑的だった。そして一方で、ある計算をしていた。


「姫、レオパが戦闘不能になり、魔王や勇者も死亡、もしくは戦闘不能になったその時こそ、最大の好機と言えます。レオパを生贄にして、再生復活の秘術を使うのです」


 僧侶クマーがジロロ姫に耳打ちしたが――


「お断りします」

「何ですとっ?」


 まさかのジロロ姫の拒絶に、僧侶クマーは耳を疑った。


「あのレオパさんは、義の心で私達に助太刀してくれたのですよ。それを私達の都合で生贄にするなど、私にはできません」

「我等の仲間を食らっているのにですか? いや……それは行き違いの不幸でもあるか……。承知しました」


 ジロロ姫の考えに納得したわけではないが、納得せざるを得ないとして、僧侶クマーは諦めた。


 女神が先程の火炎球よりは小さい、火炎弾を繰り出す。大きさは小さくなったが、数えきれないほどの数だ。

 何十――あるいは百を超える火炎弾が、レオパめがけて放たれる。


「ゴォオオォ!」


 レオパが咆哮と共に魔力を解き放つ。レオパの体から全方位に魔力が放射され、向かってくる大量の火炎弾を尽く消し飛ばした。


「馬鹿な……何をしているのだ、あ奴は……」

「あらら、所詮は畜生風情ね」


 レオパの防御の仕方を見て、僧侶クマーが呆れ、女神が嘲り笑う。


「魔力の無駄遣いだぜ。もうちっと考えて戦わねーとよ」

「そっか。わかったー」


 勇者リッキーの忠告に、レオパは素直に頷く。


「魔法戦闘素人だろうから無理もないが――」


 不安になる魔王タロー。


(こいつに命運を賭けたのは失敗だったかと思ってしまった)


 しかしもう賽は投げられた。レオパが女神に敵対してくれた今、レオパが女神に対抗しうる最大の戦力だ。


「今度はこっちの番だっ」


 レオパが先程の女神を真似て、大量の火炎弾を空中に出現させた。


「見様見真似のわりには上手くやったと褒めてあげるけど、私の攻撃の真似して、私を攻撃するとか、愚かにも程があるわね」


 レオパが使用した魔法を見て、女神はまた嘲笑する。


 火炎弾が流星群となって女神に降り注ぐが、女神は飛翔して火炎弾から逃れる。魔法で防ぐまでもないと見なした。

 しかし火炎弾は追尾仕様になっていた。空中で女神を追い回す。


「あー、鬱陶しいっ」


 回避し続ける方が面倒だと判断した女神が、苛立ちの声と共に、魔力の防護膜を展開し、火炎弾から身を防いだ。


 全ての火炎弾が女神の防護膜に当たることは無かった。途中、複数の火炎弾が次々と一つにまとまった、巨大な火炎球へと変わる。


「火っていうものがどういうものか、わかったよ。俺が食べた魂からも知識を引き出したしね」


 レオパが弾んだ声で言う。


 巨大火炎球が、張り巡らした防護膜ごと女神を飲み込む。そして空中で燃え続ける。


「蒸し焼きにするつもりか」

「出来るかねえ……」


 エーイが言う。実際レオパもそのつもりだったが、勇者リッキーは懐疑的だった。熱が燃え続けていようと、女神の防護膜はその熱を防ぎ続けると見た。


 やがて巨大火炎球の方が消失する。女神は防護膜を張ったままの状態で、何事も無かったかのように空中停止していた。


「なっちゃないわねえ。アマチュアの――」


 女神がレオパを馬鹿にしようとしたその時、魔王タローが攻撃魔法を放った。黒い流星が尾を引いて、女神に襲いかかった。


 魔王タローの攻撃を見た女神は、防護膜を解き、強めの防護障壁を張った。かなり強力な攻撃であることを瞬時に見てとったからだ。

 黒い流星が防護障壁に当たると、黒い渦が巻き起こった。黒い渦が障壁を圧迫する。


 勇者リッキーから光の奔流が放たれる。


 魔王タローの攻撃を防いでいる女神の下から、光の奔流が女神を飲み込もうとしたが、女神は下方にも防護障壁を張り、光の奔流を防いだ。


「どうだーっ!」


 レオパが叫び、魔法を発動させた。女神の後方に巨大な氷の塊が出現し、女神に向かって飛ぶ。


「しゃらくさいっ!」


 女神が叫び、魔力塊を放って氷の塊を破壊する。

 それだけに留まらず、女神は大量の魔力塊を生み出し、地上にいる全てのペンギンに狙いをつけ、降らせた。


「気張って防げ!」

「わかっている!」


 エーイとシーがペンギン全員を包む防護膜を二重に展開した。


「見ていられんっ」


 再生復活の秘術のためにできるだけ温存しておきたかった僧侶クマーも、女神の攻撃が苛烈なものであると見てとって、防護膜を張った。これで三重の防護膜だ。


 だが、防護膜を三重に張り巡らされたにも関わらず、次々と降り注がれる魔力塊の雨あられには耐えられず、三つの防護膜が全て粉砕された。

 防護膜で威力が大分殺されていたが、魔力塊は全員に降り注いだ。全てのペンギン達が魔力塊を受け、倒される。

 魔王タローもそれによって攻撃を中断させられ、黒い渦が消えた。雛である彼には、他のペンギンよりもこの攻撃が堪えた。


「シー……」


 倒れたたまま、魔王タローは部下のシーを見た。シーは最も多くの魔力塊を身に受け、完全にぺっちゃんこになっている。


「あははは、まず一匹ー。でもこの状況じゃ、あともう一発で全滅ねー」


 女神が嗤い、巨大光球を出現させる。地上にいるペンギン達全てを一度に攻撃できるくらいのサイズだ。


「ゴオオオォオォォ!」


 レオパが吠え、空中に雪崩を発生させ、女神を飲み込もうとする。


 この攻撃は質量がありすぎるため、女神は転移することで回避した。


「無駄撃ちおつかれさままま。しかも魔力たっぷり使っちゃってねえ。あんた、確かに凄い力は備えているけど、魔法の使い方や戦い方を全くわかってないから、話にならないのよ」


 女神がレオパを嘲りながら、魔力の矢を一本放つ。


 極限まで凝縮した魔力の矢が、超高速でレオパに撃ち込まれた。そしてレオパの体内に刺さった瞬間、大爆発を起こしてレオパの体を木っ端みじんにした。


「力ってのは、こんな風に効率よく使うものよ」


 空中でばらばらになったレオパを見て、女神がうそぶく。


 女神攻撃した直後を狙って、勇者リッキーが魔法を発動させる。電撃が球体状に女神を取り囲んだかと思うと、中心にいる女神に向かって大量の電撃を浴びせる。


「ばーか」


 女神は侮蔑と共に、魔力の経路を作って、電気が自分に吹けないように流す。


「電撃攻撃って、当たれば問答無用で生物の神経をぶっ壊すけど、防ぐのは容易いのよねえ。そんなことも知らなかったの? 無知な勇者様ぁ。きゃはははっ」

「クソが……」


 嘲笑する女神を見上げ、悔しげに呻く勇者リッキー。


「もう……駄目だ。彼奴には勝てぬ」


 僧侶クマーが諦めの言葉を発する。


「まだだよっ」


 上空からレオパの力強い声が響く。内部から爆発されたが、すぐに再生していた。


「しかし……女神の力は圧倒的すぎる」

「いや、まだ方法はある」


 僧侶クマーの言葉を、魔王タローが否定した。


「おいレオパ! 私を食え!」


 空に浮かんでいるレオパを見上げ、魔王タローが絶叫した。


「我々を、魔力を備えたペンギンを食えば、お前はそれだけ力を得るのだろう! ならば私を食って力をつけてくれ! その力で――どうかあの女神を斃してくれ!」

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