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39-3 結局南極二号大転生物語 中編の中編

「今の姿こそベンギンだが、私の前世は人間だ。そして元はこの世界の住人ですらない。こことは違う世界から転生したのだ。転生したらペンギンだったのだ」

「非現実的すぎる話だぜ。とても信じらんねー。このペンギン、なろう系ラノベの読みすぎじゃねーか?」

「なろうを読むペンギンも非現実的ですけどね」


 ペンギンが経緯を語ると、隊長と隊員が囁き合う。


「私は勇者の仲間で、共に魔王を倒しに行った僧侶だ。名をクマーという」

「ほら、絶対なろうの読みすぎだって。かわいそーになー。現実となろうとの区別がつかなくなっちゃったんだ。こいつは重傷だぜ」

「隊長、ペンギンが喋っている現実を見ましょうよ」


 ペンギンが自己紹介すると、隊長と隊員が囁き合う。


「異世界からやってきたのに、日本語わかるってのはおかしくね?」


 隊長が疑問をぶつけた。


「翻訳魔法がオートでかかっている。これは魔法のうちにも入らんがな」

「ゲーム的に言えば、パッシブアビリティーか」


 クマーに言われ、隊長はそう解釈した。


「我々は元々、悪しき魔王を倒すために立ち上がった。そのために数々の試練を受け、選ばれた者として、女神より力を授かった。だが我々は真実を知った。魔王は世界を蝕む女神に対抗すべく、魔に堕ちたのだ。女神こそが真の悪だった。我々は魔王と手を組み、女神を討とうとした」

「ふむふむ」


 クマーの話を真面目に聞く隊長。これが、人間が喋っているなら妄想と一笑に付す所だが、何しろペンギンが喋っているので、頭ごなしに妄想扱いも出来ない。


「そして我等は敗れ、勇者を含めた我々も、姫も、そして魔王の部下達も、揃ってこの世界でペンギンに転生していた。魔王の転生はいなかったが、いずれこの地に現れるだろう」

「姫?」


 隊員がその単語に反応する。


「ジロロ姫。勇者に力を与えし聖女の力を秘めた姫――であったが、勇者リッキーと恋仲であったにも関わらず、魔王タローにさらわれてから、魔王に鞍替えしたのだ。勇者はアホガキだから、姫が寝取られたと、毎晩ぎゃんぎゃん泣いて、うるさくて仕方なかったわ。あれじゃジロロ姫も愛想尽かして魔王になびくのも無理は無い」

「魔王に姫を寝取られた勇者かー」


 苦笑する隊長。


「で、僧侶クマーさんはどうして単独行動していたのです?」

「勇者の奴、宿敵だった魔王軍と行動するようになったからな。冗談じゃないと思って、一人で群れを出た。」


 隊員の問いに、クマーは答えた。


「わざわざ群れを出る必要あったんですか? 群れの中にいて、近付かなければいいのでは?」

「ふっ……そんな器用な生き方が出来るようでは、出家して僧になどならぬよ」


 隊員が言うと、クマーはニヒルな口調で言い返す。


「不器用な生き方するオレカッコイーとでも思ってるのか知らねーけど、それさ、ただの馬鹿って言うんだぞ?」

「な、何だとーっ!」

「ごめんなさいね。隊長は口が悪くて」


 隊長の容赦無い物言いに、クマーは翼をはためかせて激昂し、隊員がそんなクマーをなだめた。


***


「ようするに俺はー、君達変わり種ペンギンを食べれば食べるほど、力がついていくみたいなんだよっ。あははっ」


 魔王タロー、勇者リッキー、ジロロ姫、魔王部下エーイ、ビィ、シーの六羽のペンギンを前にして、ヒョウアザラシは朗らかに笑う。


「我々を食えば力を得るだと……。そんな力を持っているとは……」

「異界からやってきた者を食えば力を得る。それは貴方だけの特殊な能力なのですか?」


 魔王タローが唸り、ジロロ姫が尋ねる。


「うーん? 正直わからないっ。でも君達を食べればもっと力がつく。それはもう本能的にわかっているんだよねー」


 ヒョウアザラシが答えた。


「だから海の中では俺と会わない方がいいよ? 見つけたら食べるから」

「今ここでは手出しをしないと?」


 忠告するヒョウアザラシに、魔王タローが不審がる。


「ゴォォ、この前みたいに、そっちが襲ってきたら迎えうつよっ。でも陸の上では、こっちからは手出ししなーい」


 ヒョウアザラシが弾んだ声で言った。


「あ、俺の名前はレオパね。君達より大きな二足歩行の生き物が、名前をつけてくれたんだ。彼等も君達と同じように喋っていたね」

「そういえば人がいると言っていたな」


 レオパの言葉を聞いた魔王タローは、勇者リッキーの仲間の魔法使いが、人間から情報を得たという話を思い出す。


「彼等と仲良くなりたいと思ってるけど、距離を置かれてるんだ。そういうルールがあるらしいねー。いっそ、こっちから話しかけてみようかなーって迷ってる。向こうは俺が喋れないと思っているらしい。喋りかけると驚いて警戒されちゃいそうでさー」


 半ば独りごちるようにして、聞いても無いことをぺらぺらと喋るレオパ。


「じゃ、魚獲り頑張ってねー」


 レオパが去る。


「奴と戦って勝てると思うか?」


 レオパの後姿を見送りながら、魔王タローは隣にいる勇者リッキーに問うた。


「わからねーが、こっちは一度敗走してる。戦うなら作戦を考えないといけねーし、ただ仇を討ちたいだけなら、やめた方がいいぜ。また犠牲が出かねない。そして奴に食われたら、また奴を強くさせちまう。やるならこっちの犠牲も覚悟で、一発で決めるつもりでいかねーとよ。そして……そこまでしてあのヒョウアザラシと戦う必要性があるのかって話だぜ」

「ぐぬぬ……悔しい……。ただのペンギンと成り果てて、殺された部下の仇も討てず耐えるだけとは……」


 勇者リッキーの見解を聞いて、魔王タローは悔しがる。


「お気持ち、察します」


 エーイが魔王タローをなだめる。


「このまま我々はペンギンとして一生を終えるのか。そしてその様を女神がどこかで見て、楽しんでいるというわけか……。おのれ……」

「状況を打破できる方法はあります」


 なおも悔しがる魔王タローに、ジロロ姫が告げた。


「ジロロ姫、状況を打破と言うが、それは具体的に何だ?」


 ビィが尋ねる。


「もちろん、我々が元の姿に戻ることです」


 ジロロ姫が決然とした口調で答えた。


「何を言ってんだよ。俺達皆死んだんだぜ? 女神に殺されたんだ」


 勇者リッキーが投げやりな口調で言う。


「私達の魂は、前世の記憶を保っています。元の体の記憶もあります。条件付きとはいえ、前世の魔法も使えます。そしてペンギンの体とはいえ、肉体もあります」


 ジロロ姫の言葉が何を意味するか、その場にいた全員が理解した。


「ジロロ姫。禁呪――再生復活の秘術を使う気か。しかしあれは、生贄が無ければ無理だぞ」


 魔王タローが言う。


「まさか姫が生贄になるつもりか?」

「いえ、術を使えるのは私ですから、私自身を贄には出来ません」


 勇者リッキーの言葉に、ジロロ姫はかぶりを振った。


「そしてこれだけの人数を蘇生させる生贄は、それなりの力を持つ者が必要です」

「つまり魔王たる私ということか」

「違います。失礼ですが今の魔王様はペンギンの雛なので、最も不適切かと……」

「ぐぬぬぬ……」


 覚悟を持って発言したにも関わらず、あっさり否定され、情けなくなって呻く魔王タローであった。


「つまり、あのヒョウアザラシ――レオパか」


 勇者リッキーが言った。


「はい。しかし当然ですが、レオパが大人しく術にかかってくれるはずもありませんし、寝込みを襲うか、弱らせるかしないとなりません」

「わりといつもグースカ寝てるから、チャンスはあるな」


 ジロロ姫とシーが言う。


「そしてもう一つ問題があります。この術は私一人では無理です。聖なる魔法で補佐してくれる者がいないと……」

「つまり僧侶クマーが必要ってことか……。参ったな」


 ジロロ姫に言われ、勇者リッキーは翼で尻を掻く。


「ちなみに魔王との戦いでも、女神との戦いでも、いざという時は再生復活の秘術を使って犠牲者を生き返すつもりだったんだぜ」

「女神は……見抜いていましたが」


 勇者リッキーとジロロ姫が言った。


「あの時、生贄は誰にするつもりだったんだ?」


 魔王タローが尋ねた。


「遊び人ゴロンだ。あのごくつぶしはそのために連れていた。生贄の適正があった。ま、今は死んじまったけどな」


 肩をすくめる勇者リッキー。


「取り敢えず魚獲りに行って、その後で考えようぜ」

「私はコロニーに戻る」


 勇者リッキーが言うと、魔王タローは転移魔法を使った。


***


 魔王タローはコロニーに戻り、物思いに耽っていた。

 かつて彼がいた世界は、女神に支配された世界だった。皆女神を絶対視して崇めていた。


 しかし魔王タローは知っていた。女神のダークな面を。逆らう者は残酷な方法で皆殺しにする残虐な神で、支配欲が強く、別世界にまで侵略している。


 故郷を滅ぼされたタローは、女神に抗う術がなかった。何しろ皆女神を信じていたのだ。世界中全てが敵と言っても過言ではない。

 そんな状況で、しかし彼は夢の世界で坩堝に導かれ、魔王となり、魔族達を率いて女神と、女神に支配された世界に戦いを挑んだのである。


「そして私達は敗北し、畜生道に堕とされてペンギンか……」


 嘆息する魔王タロー。しかしまだ諦めきれない。希望が一つ、見えてしまった。


 しばらくすると、ジロロ姫だけがコロニーに戻ってきた。


「ジロロ姫、戻ってきたのか」

「思いのほか早く魚が取れましたので、魔法で戻ってきました」

「そうか。ところで……腹が減った」


 ジロロ姫に餌を分けて貰えることを期待する魔王タロー。


「魔王様の親ペンギンが、今海で狩りをしているはずです。戻ってきたら餌を貰えるでしょう」

「ふむ……しかし海は危険と隣り合わせだろう? もし私の親が敵に襲われて命を落としたらどうなる?」

「親を失った子は、ただ死を待つのみです……。それがペンギン社会の掟です。他の親ペンギンは、決して自分の子以外の子の世話をしません」

「うむ……。そんな気がしていた」


 ペンギンの社会も楽ではないと、しみじみと思う魔王タロー。


「私が獲った餌を少しお分けしましょうか?」

「いや、いい……。親を待つさ」


 最初はジロロ姫に分けて貰うつもりであった魔王タローだが、その話を聞いて、親の期間を待った方がいいと判断した。自分の親は今、子供である自分のために、命懸けで餌を獲っているはずなのだから。


「私のあっちの世界の親は、もう死んだがな。こっちのペンギンの親とは仲良くできるだろうか?」

「タロー様……」


 魔王タローの台詞を聞いて、痛ましいと感じたジロロ姫は、そっと魔王タローに身を寄せた。

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