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37-5 嫌いな奴に頭を下げなくちゃならないこともある

 ミクトラから赤い光の刃がぐんぐん伸びていく。光の刃は伸びるごとに細くなっていき、やがて赤い光線と化す。

 赤い光線は破壊神の足まで届き、その身を貫いた。


「ゴォ……髪の毛が刺さったみたいなもんじゃないかー?」

「対比するともっと細そう」

「しかし貫いてはいるね」


 赤い光線が破壊神の足を貫く様を見て、レオパ、ユーリ、ミヤが言う。


「こいつさ、ぴょんぴょん考え無しに跳びはねるよね。それがこいつの弱点だ」

「なるほど。ノア、考えたね」


 ノアの台詞を聞いただけで、ユーリはノアが何を狙っているか理解し、称賛した。


 赤い光線に貫かれた状態のまま、破壊神の足が跳びはねる。必然、貫かれた場所から下が切断され、足の下まで大きな切れ目が走った状態となった。


「へえ、これは痛い一発だ。ポイントプラス6やろう」

「やったっ、高ポイントっ」


 ミヤの言葉を受け、喜ぶノア。


「やるねっ、ノア。凄いよー」

「確かに今のはいい手ですよ。考えましたね、ノアさん」


 レオパとディーグルもノアを褒める。


 破壊神の足が着地した際、自ら生み出す衝撃によって足が大きく裂け、血が大量に噴き出したが、すぐにその血が体内へと逆流した。そして足の切れ目もくっついてなくなる。


「あ、再生した」

「ふん、再生したが、再生に力を消費しているから、今の攻撃は無駄ではないよ」


 がっかりするノアだが、ミヤがフォローする。


「はい、次は先輩の番」

「いや……僕の思いついた作戦は、もう少し様子を見てからにするよ」

「ふん、真打ちのつもりかい?」


 促すノアに、ユーリは苦笑気味に拒み、それを聞いたミヤが鼻を鳴らす。


「ノア、その手を繰り返せば、どんどん弱らせられるよねー?」

「残念だけど、今ので力を使い果たしちゃった。当分使えない」


 伺うレオパに、ノアは首を横に振る。


「そっかっ。それなら……ゴオオオォ……」


 レオパが魔力によって極細の刃を作り出し、破壊神の足を貫いた。


 破壊神の足が跳ぶ。すると先程のノアの攻撃と同じことが起こった。


「なるほど、ノアの真似をしたのか。ふん、じゃあ儂も倣ってみるか。念動力猫パンチ連発よりは、コスパのいい攻撃だ。珍しくノアの手柄だね」


 ミヤも言い、レオパと同様に、極細の魔力の刃を光線の如く伸ばし、破壊神の足を貫く。


「著作権料欲しい」


 ノアが微笑みながら冗談を口にしたその直後、破壊神の足がこれまでより大きく跳躍した。そして一同がいる場所に向かって跳んでくる。


 転移して逃げるミヤ、ディーグル、レオパ。

 ユーリとノアの二人は転移せずに、魔法で飛んで逃げた。かわせると思っていた。それが失敗だった。


 破壊神の足が着地した直後、破壊神の足は全身から衝撃波を放った。ユーリとノアが激しく吹き飛ばされ、地面に落下する。


「油断しおって。未熟者共が……」


 ミヤが忌々しげに舌打ちし、二人が落下した場所へと飛ぶ。レオパとディーグルも続く。


 ユーリとノアはぼろぼろの状態で、倒れたまま再生を行っている。常人であったら間違いなく死んでいたし、魔法使いの二人にとってもかなり深刻なダメージとなった。


「ねね、思ったんだけど」


 レオパが声をかける。


「こいつも女神の手下の仕業としたら、女神を食った俺を刺激したいがために、こんなことしているのかなー?」

(ふん、流石に気付いたか)


 レオパの発言を聞き、ミヤは思う。


「ただ破壊神の足を暴れさせているだけじゃなくて、俺を誘き寄せる罠だったのかもしれないと、今思ったっ」

「ふーむ。だが暴れて破壊するだけの奴に仕掛ける罠ってのは、何なんだって話だ」


 レオパの考えを聞き、ミヤは思案する。


「レオパさんの女神の力に反応するとかかな?」


 再生を終えたユーリが身を起こし、疑問を口にする。


「それなら罠というわけではなく、ただ居場所がわからなくて、探しているだけという可能性もあります」


 と、ディーグル。


 ミヤとレオパがさらに魔力の光線で、何度も攻撃する。

 その度に破壊神の足を切断しているが、すぐに再生してしまう。


「底が見えん。このままじゃこっちが先にへばっちまうね」


 破壊神の足の誘導と消耗の方法を考え直さないといけないと、ミヤは判断する。


「もう誘導していいんじゃない?」

「駄目だよ。まだ奴の力を十分に削りきれていない」


 ノアが言ったが、ミヤは却下した。


「師匠、レオパさんに女神の力を解放してもらうのはどうでしょう? もちろん、それが可能であれば――ですが」

「それは敵の思惑通りになるのではないですか?」


 ユーリが提案するが、ディーグルは危ぶんだ。


(こっちもあえて敵の思惑に乗って、逆に敵を釣り上げてやるつもりではいるけどね。元より敵の尻尾を掴むつもりもあったんだ。リスクは承知で、ユーリの言う通りにしてみる方がいい)


 ミヤがレオパの方を向く。


「レオパ、どうだい? 無理にとは言わんが」

「えっとね……言いにくいんだけど、俺が力を使っている時、女神の力も同時に上乗せしているんだー。だから女神の力はとっくに使っちゃっているんだよねっ」


 ミヤが伺うと、レオパは申し訳なさそうな顔で言った。


「それはつまり、敵が女神の神徒で、女神の居る場所を探る目的だったら、女神の力が使われていることも、すでに探知しちまった可能性大ってわけだね」

「あ、そっか……俺、迂闊だった? すまんこ」


 ミヤに呆れ気味に言われ、レオパは動揺しつつ謝罪する。


「す、すまんこの使い手か! レオパ! 俺はますます君が好きになった!」

「えっ? ええ? ど、どうも……」


 喜悦の表情で好意を口にするノアに、戸惑うレオパ。


「ただ女神の居場所を探るためだけに、人喰い絵本の中から無差別に災厄を送り込んでいたということであれば、この破壊神の足を排除すれば、今後は無差別に災厄が送り込まれる可能性は低くなりますね」


 ユーリが見通しを口にする。


「多分ね。ただし、かわりにもっとヤバいことを仕掛けてきて、女神の奪取を行おうとする可能性大だからね」

「ていうか喋っている場合じゃなくない?」


 攻撃の手を止めて会話していることを指し、ノアが指摘する。


「まあね。今は目の前の状況を片付けることが先だ。今の状況のままじゃ埒が明かないよ。ユーリ、いい手はあるかい? さっき言っていた作戦とやらをやってみな」

「いい手かどうかはわかりませんが、今実行しました。個人的には嫌な手です」


 ミヤに促されると、ユーリが曇り顔になる。


「実行?」

「うん。セン……宝石百足に話した。応じてくれるかどうかはわからないし、可能かどうかもわからないけど」


 訝るノアに、ユーリが言ったその時だった。


 一同は空間が大きく歪む気配を感じた。

 途轍もなく巨大な空間の揺らぎが生じたかと思うと、揺らぎは歪みへと変わり、そのうち巨大な穴へと広がった。


「あの歪み……空間の門は……」


 ミヤが唸る。独特な形状の空間の門。それは非常に見慣れた代物だ。何度も見たし、何度もくぐった。しかしこれだけ巨大なサイズは見たことが無い。


「超絶ビッグギガントサイズ人喰い絵本っ!」


 巨大な人喰い絵本の門を見て、ノアが叫ぶ。


「そういう手かい……」


 ミヤは何が起こったのか、ユーリが何をしたのかを理解し、ユーリを見た。ユーリは微妙な表情をしている。


 破壊神の足があっという間に、人喰い絵本の中へと吸い込まれていく。


「どういうことです?」


 わけがわからずに尋ねるディーグル。


「君、人喰い絵本を開く力なんてあったの?」


 レオパがユーリに向かって、思いついた疑問をぶつける。


「僕の力じゃない。人喰い絵本の中にいる、その力を持つ者に頼むように頼んだ。人喰い絵本の作者――神なら、門を開ける。こっちの世界の住人を人喰い絵本の中へと吸い込める。その人喰い絵本の作者と接触できる者と、僕は連絡が取れるんだ」


 ユーリが自分のしたことと、今目の前で起こった現象を解説する。


「つまり先輩は、先輩の大嫌いなダァグ・アァアアに、破壊神の足を人喰い絵本の中に戻すよう、お願いしたわけだ。最初からそれをやれって話だったよね」

「僕はやりたくなかったし、ダァグが応じてくれる確証も無かったよ」


 ノアに言われて、ユーリは不機嫌そうな顔になった。


 破壊神の足は消えたが、扉は開いたままだった。内側にダァグ・アァアアの姿が見える。ユーリ達の方を向いて、手招きしている。


「礼を言っておくよ、ダァグ」

「じゃああの台詞の出番かな。礼には及ばないよ。この件に関しては共闘しているわけだからさ」


 ミヤに声をかけられ、ダァグは小さく微笑んだ。


「僕の方でも、色々とチェックしていた。女神の神徒は、世界間を自由に行き来出来るし、他者を送り込む力も備えていると、確かにわかった。そいつの尻尾を掴み、カンザンとジットク――嬲り神の配下に追跡させたんだけど、別の世界に逃げられちゃった」

「すぐに別の世界に移動して逃げられるんだとしたら、面倒な相手だね」


 ダァグの報告を聞き、難しい顔になるミヤ。


「それは女神でも無理だよっ。完全に異なる世界の門は、そうほいほいと開けないはずだ。今開いている人喰い絵本とこの世界を繋ぐ門だって、条件が整ったからこそ開いたんだと思うよー」


 レオパが言う。


「このアザラシ君は只者じゃないみたいだね。色々と知っている。世界を跨ぐ者だけはある」

「レオパだよっ。よろしくー」


 ダァグに反応し、レオパは前肢を片方上げて、弾んだ声で自己紹介する。


「僕はダァグ・アァアア。人喰い絵本の作者だ。よろしくね。レオパの言う通り、今この門も、あっさりと開こうとして開いたんじゃない。条件が整ったから開いたんだ」

「どんな条件?」


 ユーリが尋ねる。


「互いが呼び合った。惹かれ合った。心が繋がった。今の場合、僕とユーリの心が繋がった」

「はあ……?」


 ダァグの答えを聞いて、ユーリは極めて不機嫌そうな声を発した。おまけに苦虫を噛み潰したような顔になっている。


「そんな声出さないでよ。そんな顔しないでよ。そんなに僕が嫌いなの? そんなに僕のこと嫌わないでよ……」


 悲しそうに話すダァグを見て、ユーリは頭が沸騰した。


「僕の母さんを殺して、他にも多くの人間を自分の都合で死に追いやって、数えきれない悲劇を創っているくせに、何が嫌わないでだ! 何が心が繋がっただ!」

「先輩、どうどう」


 怒鳴り散らすユーリの背を撫でて制するノア。


「落ち着きな、ユーリ。マイナス2。お前がダァグに頼んでおきながら、キレてるんじゃないよ」


 ミヤがやんわりと叱責する。


「僕だって好きでこんなことしているんじゃない!」


 涙ぐみながら怒鳴るダァクを見て、ユーリは怒りと興奮が一気に冷めた。


「悪かった。助けてくれてありがとう」


 ユーリは大きく息を吐き、謝罪し、礼を述べる。


「ダァグ。破壊神の足をこっちに送った奴の姿は見たかい?」

「見たよ。ドームだ」


 ミヤが尋ねると、ダァグが即答した。


「ふん。やっばりあいつか」


 骸骨顔の男を思い出してミヤは鼻を鳴らす。


「あはは、本当にやっぱりだねっ」

「レオパ。君の記憶を見せてくれない?」


 笑うレオパに、ダァグが要求する。


「記憶? 俺の?」

「女神にまつわる記憶だよ。女神とやらが何者か、僕は詳しくは知らない」

「あはっ、女神限定ならいいよ。他の恥ずかしい記憶は見ちゃ嫌だよ」


 照れ笑いを浮かべながら、レオパはダァグの要求を承認する。


「レオパの恥ずかしい記憶か。そっちの方を見てみたい。ダァグ、こっそり見て後で俺に教えて。それをネタにレオパを脅迫して、うちの子にするから」

「あはははっ、ちょっとノアやめてよー」


 ノアの台詞を聞いて笑うレオパ。


「例え脅迫しても儂はそんなこと許可しないよ。うちはヒョウアザラシなんて飼えないって、何度言わせればわかるんだい」

「ちぇっ、ケチ」

「ペット扱いはお断りなんだけどなー。あはっ」


 ぴしゃりとはねのけるミヤに、ノアは唇を尖らせ、レオパは朗らかに笑っていた。


「レオパの記憶、使えるね」

「使える?」


 ダァグの台詞を訝るユーリ。


「女神の謎が詰まっていた。ああ、それと例のカモメのペンダント、もう少し預からせて。解析は終わったけど、別の用途で使いたい。じゃあ、また」


 一方的に告げると、空間の穴を閉じ、ダァグは姿を消した。


「ふん、最後に気になるワードを連発していたね」

「詳しく聞かれるのが嫌で、言うだけ言ってさっさと退散したんですかね」


 ミヤが鼻を鳴らし、ユーリが皮肉っぽく言った。


 その後五人は、結界を張って待っていたブラッシーとルーグの元へと戻り、経緯を説明した。


「つまり私達は骨折り損のくたびれ儲けだったてわけ~ん? いやーねー」

「ま、解決したんだからそれでよしだろ」


 ブラッシーが頬を膨らませていつも以上に体をくねらせ、ルーグは笑いながら肩をすくめていた。


「破壊神の足という脅威は退けたが、もっと厄介そうな奴の気配が見えるよ。お前達、気を引き締めな」


 一同を見渡し、ミヤが厳かな口調で告げた。

37章はここまでです。

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