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37-4 破壊神の右足

 ミヤ、ユーリ、ノア、ブラッシー、アルレンティス、ディーグル、レオパの七名は、貴族連盟お抱えの高速飛空艇で、ホンマーヤ地方へと向かっていた。


「君は魔法使いミヤの弟子だったのかー。しかもこの世界の魔王の部下とか。道理で強いはずだ。あはっ」


 甲板にて、レオパがディーグルの隣で上機嫌に喋っている。


「レオパさんは人喰い絵本の生まれではないのですね?」

「うんっ。俺は人喰い絵本の中にも行ったけど、女神を食う前には別の世界にいたよっ」

「女神も貴方と同じ世界の住人なのですか?」

「ううん、違うねー。女神は俺の世界の生まれでもなくて、他所の世界からやってきたのさー。女神は世界を股にかける侵略者みたいなもんだよー」


 ディーグルが質問を投げかける度に、レオパは躊躇いなく即答し続けている。


「あ奴は一切隠し事せず、聞かれたことをべらべらと喋っているね。嘘をついている気配も無いし」


 そんな二人の様子を見て、ミヤが隣にいるユーリを意識して言った。


「僕達の味方になってくれると思っていいと思いますけど、師匠は疑っているのですか?」

「ほう、儂が疑っていると気付いたかい」


 ユーリに訪ねられ、ミヤはにやりと笑った。


「信じているなら、レオパさんが質問に全て答えているという今の台詞も、僕の前で口にしないはずですし。それにレオパさんを見る師匠の視線は、信じていない目つきでした」

「ふん、儂の目つきまでチェックしているとは、大した弟子だよ」

「物心ついた時から師匠と一緒ですからね」

「そしてお前もレオパをまだ疑っているだろう」

「はい」


 指摘するミヤに、ユーリは頷く。


「レオパさんは明朗で表裏無く見える。でも僕の目には、それが過剰にも見えちゃうんですよ」

「ああ、儂と同じ認識だね。腹に一物ある奴のパターンの一つさ。まあ、本当に無邪気で明るいだけなのかもしれないけど、それでもなお、何か決定的な隠し事も持っているような、そんな気がする。これは儂の勘さ。そしてあいつには……ほのかに縁も感じる。直接的ではない縁をね。魂の残り香というか」

「つまり知り合いの知り合い的なものですか?」

「そんな所かね」


 ミヤとユーリが喋っている間に、レオパとディーグルは離れ、ノアとムルルンがレオパにまとわりついていた。


「レオパかわいいのー。うちの子になるといいのー」

「駄目だよ。いくらムルルンでもそれは譲れない。俺が近いうちに婆を説得して、うちの子にするんだから」

「ミヤ様がダメだと言ったら覆らないのー。だからレオパはムルルンの子になるのー」

「そんな理屈、俺は断じて認めない。諦めない」


 レオパに両サイドから抱き着いたムルルンとノアが言い合う。


「気持ちは嬉しいけど、俺はペットじゃないからねー」


 一応そう断るレオパであったが、自分にまとわりつく二人を邪険にすることなく、やりたいようにやらせていた。レオパからすると、子供の面倒を見ている気分だ。


「ノア、すっかりレオパさんが気に入ったみたい」

「ムルルンが気に入ってペットにしても、他の人格に迷惑だろうよ。他の人格がそれを気に入るわけでもないんだ。ムルルンが勝手に連れてきたペットの面倒を見ないといけなくなる」

「多重人格には色々と弊害ありそうですね」


 ミヤとユーリが喋っていると、ブラッシーが近付いてくる。


「ミヤ様、破壊神の足との戦闘の作戦、立てなくていいのかしらーん? 移動中の今のうちにやっておいた方がいいと思うんだけど~」

「おっと、そうだったね。うっかりしてた。はん、儂も耄碌したもんだ」


 苦笑して小さく息を吐くミヤ。


「は~い、皆ー、集まって~。破壊神の足との戦いの作戦会議よーん」


 ブラッシーが手を叩いて呼びかけ、ノア、ムルルン、ディーグル、レオパが集まる。


「基本的には前回と同じ手でいく。前回と同じ動きと特性だったらね。と言っても、ブラッシーとムルルンにしか伝わらないね。ムルルン、説明は任せたよ。破壊神の足の動きと、前回討伐した方法、両方だ」

「はいなのー」


 ミヤに促され、ムルルンが挙手して応じた。


「えっとー、破壊神の足はぴょんぴょん跳びはねて、どかーんどかんしてくるのー。だからムルルン達はびゅくーんびゅくーんして、どーんと一発かました所で、ミヤ様がべしべし連発して弱らせてから、ずがががーんと――」

「ムルルン、他の人格に代わりな」

「えー……わかったのー」


 ミヤに命じられ、ムルルンは不服顔で人格を変えた。小柄な少女の姿から、がっしりとした体型の偉丈夫へと姿も変わる。


「おおっ、変身した? どういうこと?」

「俺はルーグだ。多重人格者であるアルレンティスの人格の一つで、人格が変わると見た目も変わるのさ」


 驚くレオパに、ルーグが微笑みながら説明した。


「破壊神の足は、その巨体だけでも脅威だ。大抵は踏みつけで攻撃してくる。しかしそれだけじゃねえ。全方位広範囲遠距離に衝撃波を撒き散らしてくる」

「逆に言えばそれだけ?」


 ルーグの話の最中に、ノアが口を挟む。


「単純明快な破壊の放出だが、まさに破壊の神に相応しい、無差別破壊っぷりで、実際には滅茶苦茶厄介だぜ。近付けねーし、攻撃も大抵が跳ね返されちまう」

「あは、攻撃方法を選ばないと駄目ってことだねっ」


 ルーグの話の最中に、レオパが声をあげる。


「手順として、だ。一、巨大結界の準備をする。二、破壊神の足にダメージを与えつつ、結界へと誘導。三、結界を張る場所に誘導した時点で、破壊神の足の動きを止める。四、止まっている間に巨大結界を発動させる。結界が発動しても、しばらく動きを止め続けないといけない。五、結界の中でデカい空間の門を開き、破壊神の足を別次元に放り捨てる」

「結界の中に閉じ込める所が肝心な作戦です?」


 ユーリが尋ねた。


「そうだ。三が重要だぜ。結界の中に誘導して、いきなり結界を完成させても、結界を破られちまう。だから動きを止める必要がある。予めダメージも与えておく必要がある。しばらく結界の中に留めている間に、別の次元に放り出しちまうのさ。いきなり空間の門の中に放り込むのは――理論上は可能かもしれねーが、限りなく難解だ。だから手順四――結界が要る」


 そこまで喋った所で、ルーグは解説を終えたというニュアンスで、ミヤの方を見て頷いた。


「以前の儂の念動力猫パンチは、奴の衝撃波を突き抜けた。有効だった。それで破壊神の足の動きを止めた。ただ、まだ儂が元気な頃だったから、今は怪しいよ。それに代わる方法で、奴の動きを一時的に止めないといけない」


 ミヤが言った。


「わざわざ誘導しなくても、師匠は遠くで起こった事を幻影で投射して、その幻影を現実化できるじゃない。それをやったら?」


 ノアが言った。かつてマミとの戦いで、遠方にいる黒騎士団の攻撃をマミに浴びせていた。遠方でリアルタイムで起こっていることを幻影で投影し、その幻影を現実にしてしまう魔法だ。


「あれは儂の奥の手の一つだが、限度があるよ。巨大な空間の門を現実化するなんて無理だ」


 ミヤが首を横に振る。


「その結界というのは、どのような種類の結界ですか?」


 ディーグルが尋ねた。


「広範囲の空間隔絶結界であり、次元転移機能を兼ねている。結界がそのまま空間の扉へと移行して、中にいる奴を結界ごと次元の狭間に追放するって寸法さ。つまり手順の四と五は連動しているんだ。とにかくでけーし頑丈だから、ちまちま削るよりかは、空間操作でこの世界から捨てちまう方がいいってわけだ」

「なるほど。説明ありがとうございます」


 ルーグの説明を受け、ディーグルは礼を述べる。


「ま、簡単にはいかないけどね。前回も苦労したものさ。で、この結界の構築は前回同様、アルレンティスとブラッシーに任せる」

「承知っ」

「お任せあれ~ん」


 ミヤの命を受け、ルーグは不敵な笑みを広げて頷き、ブラッシーは身をくねらせながら応じた。


「他は手順の二の実行係だ。破壊神の足にダメージを与え、誘導する」

「わかりました」

「了解です」

「合点承知の助」

「ほいさっさーっ」


 ミヤの指示を受け、ディーグル、ユーリ、ノア、レオパがそれぞれ返答した。


***


 飛空艇は破壊神の足が暴れている近くまで飛んでいた。

 すでに飛空艇から、破壊神の足が見える距離にある。


「おー、でかい。山よりでかい」

「わーお、足だけ暴れ回って、山を壊してるよー。あははっ」


 何度も跳びはねて地形を破壊し続けている破壊神の足の姿を見て、ノアとレオパが物見遊山なノリの発言をする。


「さっさと配置につきな。気を引き締めてかからないと、魔法で再生できないくらい、粉々にされるよ」


 ミヤが指示を出し、注意も飛ばす。


 ルーグとブラッシーが飛空艇から飛び降りる。結界の準備にかかるためだ。


 飛空艇は破壊神の足めがけて高速で飛ぶ。ギリギリまで近付く予定である。

 灰色の巨大な足は、近付くに連れてその巨大さを増し、とうとう足の全容すら見えなくなる。巨大な灰色の柱があるかのように見えた。


 ミヤ、ディーグル、ユーリ、ノア、レオパが一斉に飛び降りた。


「ゴオォォォッ」


 レオパが空中を泳ぐようにして飛び回りながら低く唸り、真っ先に攻撃魔法を発動させた。

 無数の火炎球が空中に出現したかと思うと、火炎球が流星群の如く、一斉に破壊神の足めがけて飛来していく。


 破壊神の足が衝撃波を放ち、火炎球は全て消し飛ばされた。


「んー……今のは結構飛ばしたんだけどなあ」


 前肢で胸を掻くレオパ


(全部当たっても、サイズ大きすぎてあまりダメージになってなかったような?)


 こっそりと思うユーリ。


「黒髑髏の舞踏」


 ディーグルが妖術を発動させる。


 大量の黒髑髏が破壊神の足の表面に湧き、破壊神の足にかぶりつき、引っ掻き、自分の骨で突き刺していく。


「凄く無理があるよね」


 ノアが呟く。破壊神の足と髑髏のサイズ差は人とダニ程もある。あるいはそれよりも差があるかもしれない。


「いえ、二段構えです」


 ディーグルはさらに呪文を唱えていた。


「黒蜜蝋」


 二つ目の妖術によって、破壊神の足のあちこちに取りついている黒髑髏から、一斉に黒いタール状のものが溢れ、破壊神の足の灰色の表皮を、黒く浸蝕していった。


「ふむ。やるね。多少はダメージになってはいる。ポイントプラス1」

「プラス1ですか。つまりはその程度のダメージでしかないということですね」


 ミヤが称賛すると、ディーグルは冷静に言った。


 破壊神の足が大きく跳び上がる。そして着地する。


 着地の衝撃だけで、何百という黒髑髏は残さず粉微塵になり、足の表皮から離れて地面に落下していった。そして黒蜜蝋化した表皮もばらばらなって、地面に落ちる。肌があちこちめくれて、皮の下の赤い肉が大きく露出している。


「皮がめくれた程度のダメージですか」

「それでも悪くは無い。多少は攻撃が通りやすくなるよ」


 一瞬渋面になるディーグルであったが、ミヤは前向きだ。


「こいつは右足だが、左足より強そうだね」

「同じ奴の足なのに、右と左で強さが違うなんてことあるの?」


 ミヤの台詞を聞き、ノアが尋ねた。


「以前の左足は、暴れている期間が長くて、その分消耗していたんだろうね。多くの魔術師や魔法使い、それに加えてアルレンティスとブラッシーが事前にかなり攻撃して、それで弱っていたこともある。その後で儂が真打ちで出ていって、アルレンティスとブラッシーと共に、この作戦で片付けたのさ」


 ミヤが話す。


「足だけでもこの有様なら、本体とセットだとどれだけ強いって話だねっ」


 と、レオパ。


「強さどうこうの次元じゃないよ。こいつは災害みたいなもんさ。意思を持つ災害だね」

「悪意と殺意たっぷりに、積極的に人を殺す災害ですね」


 ミヤとディーグルが言う。


「普通に攻撃しても、延々と壁を素手で殴り続けている気分になる。物凄い不毛な空っぽの時間」


 ノアが言った。山よりも巨大な敵にただ闇雲に攻撃しても、ダメージとして通らないのはわかりきっている。


「先輩、あのサイズに有効な攻撃って考えてきた? 先輩のことだから、ここに来る前に多少は考えてあるよね?」


 ノアがユーリの方を向いて尋ねると、ユーリは表情を曇らせた。


「色々考えたけど、思いついたのは一つだけかな。それも確実性は無い。気が進まない手だよ」

「そっか。じゃあ先に俺のプラン実行してみる」


 ユーリの答えを聞き、ノアは右手にミクトラを装着し、紅玉から赤い光の刃を伸ばした。

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