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35-6 どうやってハッピーエンドにするの?

「その童は何者ぞ? ただならぬ力を感じるぞ」


 ダァグを見て、祈祷師が問う。


「えっと、かくかくしかじかなのだ。豚に乗せてやったのに、恩返しもしない恩知らずなのだ。創造主のくせに器が小さいのだ」

「豚に乗せてもらっただけで、そこまで言われるの? ていうか、まだそれを言うの?」


 サユリがダァグのことを自分目線で話し、ダァグは呆れて肩を落とす。


「強大な力を持つ死霊使いがいるのは存じておるか? あの者は、この村にある塚で力を手に入れた」


 祈祷師が語り出す。


「吾輩は悪霊が封じられていた塚――正確には悪霊の力が封じられていた塚を調べてみた。みその力で過去の映像を見る術を用いて、一人の男が死霊使いの力を手に入れる瞬間を見た。その際、彼奴は塚の前に落ちていた首飾りを拾っておった。海鳥がつけられた首飾りだ。その首飾りの気配をみその力で解析してみたところ、この世界とは異なる世界の魔道具だか神器ということがわかった。力が封じられた塚の怨念パワーが、世界の垣根を超えて、斯様なアイテムを引き寄せておったのだ。そういうことは稀にある」

「その首飾りの力で、人喰い絵本の外――私達の世界にまで干渉しちゃってるってことね」


 祈祷師の話を聞いて、ノアが言った。


「うむっ。この世界に引きずり込まれ、死霊使いとなった男の復讐の矛先は、お主等の世界であろうからな」


 祈祷師がノアを見て頷く。


「世界を渡り歩く力こそがイレギュラーと言える。吾輩はみそ妖術で世界間を移動できるが、そうした力が込められたアイテムという形でのイレギュラーもあるのだ」

「むしろアイテムの方が多い」

「むしろアイテム狙いである」


 祈祷師の言葉を受け、ノアとサユリが言った。


「その世界を跨ぐイレギュラーは、ダァグの手引きでもないと?」


 ユーリがダァグを見て尋ねる。


「僕が作ったものでもないし、僕が仕掛けたことでもない。多分この人の言うことは正しい」

「多分ではないっ! 吾輩の言葉こそ真理! 即ち、みそこそ真理!」


 ダァグが言うと、祈祷師が胸を張って叫ぶ。


「おそらくイレギュラーの首飾りは、あの女神の作ったものだな」


 と、祈祷師。


「女神?」

「また新しいキーワード出ましてねー」


 ダァグが訝り、イリスがダルそうに言った。


「あの海鳥は、とある世界の女神を模しておる。その女神は多くの世界を跨ぎ、悪さをしておるからのー。吾輩達イレギュラーの間では、ちょっとした有名人であるぞ」

「そんな存在がいるのか」


 祈祷師の話に興味を抱くダァグ。


「レオパとかいう喋るヒョウアザラシが、女神を食べたとかどうこうの話をしていたらしいね」


 と、ノア。ミヤから聞いた話であるが、ミヤにその話を伝えたのは、スィーニーと、ここにいるディーグルだ。


「ようするに別の世界の神の力の産物が、僕の創った世界に紛れ込んで、おかしな干渉をしてしまったわけだね。この世界のものが外に流れ出すことは、初めてではないけど」


 ダァグが言った。


(初めてではない――か。少なくとも師匠が魔王になった際に、魔物や亜人が絵本世界から僕等に流れて出ている)


 ディーグルを一瞥してユーリは思う。ディーグルも元は絵本世界の住人だという話だ。 


「どうにかして、君達の力で、この物語ハッピーエンドにしてほしいな」


 ダァグが口にした台詞を聞き、ユーリは腹が立った。


「自分でこんな酷い話を書いておきながら、何を言ってるんだ。君が蒔いた種だろう」


 ユーリがダァグを睨み、かなりキツい口調で非難する。


「そんな風に責められても……僕にはどうにも出来ないから、君達の力を借りているんであって……」

「先輩、どうどう」


 ユーリの剣幕に、ダァグは怖がりながら弁解する。ノアはユーリをなだめる。


「近づいていますね。子豚が反応しています」


 伝説の豚使いに扮したディーグルが告げる。


「おおうっ、あっちの大きな町から、アンデッド軍団が一斉に向かってきていたこと、すっかり忘れてましたよー」


 イリスが言った。


 やがて一同の前に、様々な種類のアンデッドが現れる。

 その先頭には、フロストの服を纏ったヒーターの姿があった。


「あれが絵本に選ばれて吸い込まれた人?」

「そうだよ」


 ユーリが問うと、ダァグが頷いた。


「お前達、僕のしもべを殺したな?」

「お前等ぁ……俺の邪魔をする輩かぁ……」


 ヒーターが口を開いた直後、微妙に口調が変化して、別人のような喋り片手にかる。


「この者、絵本に吸い込まれた者ではあるが、この絵本の住人も同時に自我があり、吸い込まれた者の体を借りて喋っているようじゃの」


 祈祷師が一目でその事実を見抜く。


(この人、変人ではあるけど、やっぱりただものじゃないな)


 ユーリが祈祷師を見て思う。


「貴方の名前は? 僕達は人喰い絵本の外から来ました。貴方は吸い込まれた人ですよね?」

「ヒーターだ……」


 ユーリが問うと、ヒーターが名乗る。


「絵本の住人に同調し、見境なく暴れるのはやめてください。助けられなくなってしまいます」

「助けられなくなる? 僕を助けるだって? 暴れたら僕を殺すか? 見境なく暴れるだと? ふざけんなよ」


 ユーリが訴えるが、ヒーターはせせら笑う。


「俺がどんなに悲惨な想いをしたか! わからないだろう!」


 突然叫び声をあげるが、それはヒーターとは異なる者の叫びだった。ヒーターの中にいるフロストだ。


「僕がどんなに辛い目にあったか! わかってくれるのはフロストだけだ!」

「俺が信じられるのはヒーターだけだ! 他は誰も彼も殺してやる!」

「どいつもこいつも死ねばいい!」

「生ける屍になって苦しみ悶え続ければいい!」

「怨嗟を抱えた悪霊となって彷徨い続けるといい!」


 恨みの塊となったヒーターとフロストが交互に怒鳴る。


「こんなのどうやってハッピーエンドにしろというのだ?」


 冷めた表情で、もっともなことを言うサユリ。


「俺やオットーさんに似てる。でも違いがある。俺やオットーさんは、多少は愛情を貰っていたから、完全に恨み一色に染まらなかった」


 一方ノアは、複雑な表情で語る。


(そうね。私はたっぷりノアに愛情注いだものね。それなのにこの子ったら、私をこんな目に合わせて。恩知らずの親不孝者にも程があるわ)


 ノアの台詞を聞いたマミが、念話でノアに話しかけたが、ノアは黙殺した。


「あいつは塚で死霊使いの力を得たっていう話だけど、その塚とやらに、何でそんな力が封じられていたの?」


 ノアがダァグの方を見て尋ねる。


「フロストの前世の力だよ。村の近くにある悪霊の塚に封じられていたんだ」


 ダァグが答えた。


「とにかく殺さないようにしよう。戦闘不能にしてから説得しよう」


 ユーリが方針を決定する。


「とても説得出来ると思えないのだ」


 と、サユリ。


「でもこの人に共感できる部分がある人、ここにいるよね。俺もサユリも」


 と、ノア。


「当然ダァグも共感できるだろうけど、ダァグは何もしないつもり?」

「それは……僕は立場上……問題が……」


 ユーリが硬質な口調で問うと、ダァグはうつむき加減になって言葉を濁す。


「ノアちんの言う通りなのだ。あたくしはここまで酷くないのだ。師匠に拾われたから……救われたのだ。けど――サユリさんも運が悪ければ、こんな風になったかもしれなくて」


 サユリも会うつむき加減になって、躊躇いがちに心情を吐露する。


「サユリさん、あの人を助けてあげたいという気持ちが、働いているのではないですか?」

「うう……う……」


 伝説の豚使いが指摘すると、サユリは頭を押さえて唸った。


「素直になりましょう。サユリさんがそういう人と今ここで出会った事も、運命の導きだと思うのです。サユリさんなら私達よりもあの人の心がわかるのですから」


 柔らかい声で諭す伝説の豚使い。


(うーん……アンデッド軍団量産するほど人を殺しまくった人を、助ける必要なんてあるのかしらー)


 疑問に思うイリス。


「わかったのだ。大きく広い心で、あの人に豚を叩かせてあげるのだ」


 サユリが顔をあげ、凛然たる口調で宣言した。


「あ、とうとうサユリが改心した?」

「ええ……? それで改心したってことでいいの?」


 ノアがサユリを見て微笑み、ユーリは苦笑する。


「じゃあ、行くよ」


 ユーリが促し、戦闘が開始された。


 アンデッドの数は多いが、祈祷師、ノア、ユーリ、サユリ、ディーグルでどんどん数を減らしていく。


「私も働きますよーっ」


 イリスが主にスケルトンを狙い、頭部を次々と破壊していく。スケルトンは頭部を破壊されると行動不能になる。逆に言えば頭部がそのままであれば、砕けた骨も再生して元通りになってしまう。 

 ゴースト系は主にディーグルが対処した。エメラルドグリーンの鮮やかな炎が放射され、炎にあぶられた霊体はあっという間に浄化していく。


「ぶっひい。伝説の豚使いさん、すごいのでして。流石であるなっ」

「いえいえ、私はただの豚飼いに過ぎません。全てこの聖なる子豚の力ですよ」


 称賛するサユリに、伝説の豚使いは子豚を掲げてみせる。


「無理ありすぎなーい?」

「サユリならあれで納得するよ」

「そうか。ディーグルさんも、サユリさんならあんなもんで納得すると見なしているわけか」


 イリスが呆れ、ノアが言い切り、ユーリは納得する。


「ううう……」


 ヒーターが唸る。自分が近くの都市の人間を殺しまくって作ったアンデッド軍団が、たった五人によって、あれよあれよという間に数が減らされまくっている。その光景はヒーターにとって、悪夢そのものであった。 


 やがてアンデッド軍団は撃退され、ヒーター一人が追い詰められる格好となった。


「ははは……これで終わりか。僕は悪として討たれて、惨めに死ぬのか……」


 敗北を受け入れ、へたりこんで虚空を見上げながら、乾いた笑みを浮かべるヒーター。その双眸から、涙が溢れ出る。

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