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34-2 西からの刺客

 西方大陸のエージェントであるカーク・マロニーは、ンガフフの隣にいるヒョウアザラシを見て、目を丸くしていた。スィーニーも何とも言えない顔で、そのヒョウアザラシを見ている。


「えっと……このアザラシは?」


 にこにこ笑っているかのような愛嬌のある顔のアザラシを見て、カークが問いかける。


「んがふふ!」

「人手が足り無さそうだから助っ人だって」

「ごぉぉっ、俺はレオパっ、頼りにしていいよっ」


 ンガフフが一声叫び、スィーニーが苦笑いを浮かべて通訳し、レオパは自信満々に主張する。


「えっと……私達の立場、私達の任務をわかったうえで……」

「んがふふ!」

「メープルCとも知り合いらしいし、一応メープルCにも話を通したうえで許可取ってあるってさ」


 カークが何か言いかけると、ンガフフが一声発して遮り、スィーニーが通訳した。


「そ、そうですか……。それはまた……。どうかよろしくお願いします」

「あはっ、頼りにしてくれていいよっ」


 心なしか投げ槍になって頭を下げるカークに、レオパが弾んだ声で告げた。


「さて、今回の任務は重要でございます。場合によっては危険です。気を引き締めてかかってくださいませよ」

「んがふふ!」


 カークが事務的な口調で念押しすると、ンガフフは気合いの入った声をあげる。


「カークさん、私はまだ任務内容を伝えられていないんだけど……」

「俺も知らなーい」


 スィーニーとレオパが言った。


「おっと、うっかりしていました。これはまた失礼をば」

「それ、うっかりするようなことじゃないと思うけど」


 すだれ頭をぺこぺこと下げるカークに、呆れるスィーニー。


「実は闇の大司教シリン・ウィンクレスの手の者が、ここア・ハイに侵入して、何やら動き回っているとの話で、その調査をメープルCより命じられていました。実はスィーニーさんが絵本世界にいる間に、私とンガフフさんで、彼等のことを探っていました」

「ア・ドウモに居た時、シリン・ウィンクレスの名前は何度か聞いたなー。暗黒神信仰を広めている人だって」


 カークの話の途中に、レオパが口を挟む。


「シリン・ウィンクレスは三百年前、ア・ドウモと魔王軍との戦いで、多大な功績を収めた方です。特に難敵であった最強の八恐、ウインド・デッド・ルヴァディーグルと再三にわたって熾烈な攻防を繰り広げ、彼の進軍を退けたことで、魔王軍との戦いの趨勢を変えました。その戦果を称えられ、シリン・ウィンクレスは聖果カタミコを与えられ、不老化されています。そして公式には認められていませんが、シリンが奉じる暗黒神の信仰を広めることを、黙認されております。管理局は表立っては彼等に手出ししないという暗黙の了解があります」


 レオパを意識して、カークがシリンにまつわる逸話を語った。


「事を構えないのは、あくまで表立ってね」


 スィーニーが付け加える。実際には管理局と暗黒神信者の間では、ちょくちょくと衝突が起きている。人死にが出ることも珍しくない。


「暗黒神信者の勢力は、管理局にも実態を把握できておりません。しかしその勢力は間違いなく、ア・ドウモにおいて管理局の次ぐ規模でありますなあ」

「へー、そんな凄い奴等が何してるっていうの?」


 興味を抱くレオパ。


「このア・ハイ群島に、彼等が上陸したという話でして。私達の任務はその監視です」


 カークが告げた。


「んがふふ!」

「そのシリンが送り込んだ工作員が、私達が監視している対象に、ちょっかいを出そうとしているらしい?」


 ンガフフが叫び、スィーニーが通訳する。監視している対象とは当然、ミヤのことである。


「こらこら、ンガフフさん。外部の人の前であっさりバラさないでっ。スィーニーさんも通訳しちゃ駄目ですよもう~」


 レオパをチラ見しつつ、注意するカーク。


「通訳しなくても、俺はンガフフの言葉がわかるんだなー。あははっ」


 レオパが笑う。


「んがふふ!」

「ンガフフさんは何と?」

「頼りになる協力者だから、隠し事なんてしない方がいいってさ」


 伺うカークに、スィーニーが通訳した。


「まあ、私達が監視しているあれではなく、もう一人の方かもしれませんがね」


 カークがハンカチで汗を拭きながら言った。


「もう一人って?」


 スィーニーが尋ねる。


「ウインド・デッド・ルヴァディーグルですよ。あれは大司教シリンの仇敵ですからねえ。これまで消息がわからなかったあれが、実は管理局を長年悩ませてきたAの騎士の正体が、あのディーグルだったという話は、当然シリンの耳にも入っていましょう」

「なるほど……」


 カークの話を聞いて、スィーニーは納得した。そしてタイミング的に考えると、シリンの狙いはミヤではなく、ディーグルの可能性が高いと考えられる。


「現在、シリンのエージェントと思われる者は、旧鉱山区下層に潜伏しております。使い魔に監視させて――あれま……これは……」


 言葉途中にカークが神妙な顔つきになり、声のトーンを落とす。


「どうしたん?」

「とんだ大物が来てますよ。まあ、ディーグルかターゲットMにちょっかいを出すつもりなら、それなりの人材を派遣してくるでしょうが。ま、ちょっかい出すとは限りませんけどね。私達と同様にただ監視と調査するだけに留める気だったかもと思いましたが、彼が出てきたとなると……」

「誰なん?」

「『妖獣使い』ワダチ・ナカガワですよ。これは使い魔にもっと距離を取らせないと、気付かれてしまいそうだ」

「うわ、聞いたことあるんよ……。ルナティックバイトとか、暴虐と瞋恚の化身なんて仇名もある、闇司教シリンの側近の一人じゃん」

「んがふふ!」


 ワダチ・ナカガワの名を聞いて、スィーニーもンガフフも顔色を変えた。


「ねね、ちょっかいを出すって、何をするつもりでいるのー?」


 レオパが呑気な口調で尋ねる。


「ううん……それはわかりませんねえ。暗殺かもしれませんし、拉致かもしれませんし、交渉という可能性もありますかねえ。とにかく直接関わって干渉するからこそ、ちょっかいと言えます。そしてその可能性が高いと、管理局本部から連絡がありまして。はい」


 カークが難しそうな顔で答える。


「それで、そのちょっかいを出す奴を、余計なことすんなーって、やっつければいいのかな?」

「それはですねえ、彼等の狙い次第です」


 伺うレオパに、カークが告げる。


「彼等の狙いが、我々が監視するターゲットMであれば、当然見過ごせませんね。メープルCはそのようなことを望んでいません。しかしウインド・デッド・ルヴァディーグルが彼等の狙いであれば、こちらが手を出さずともよさそうですよ。ただし、監視は必要ですし、油断はできません。くれぐれも気を引き締めて臨んでください」

「了解」

「んがふふっ!」

「がってんだー」


 カークに念を押され、三人が頷いた。


***


 首都ソッスカーに無数にある教会の一つに、ディーグルが訪れる。

 ここはブラッシーが住居にしている教会だ。お茶好きのブラッシーに、ティータイムに呼ばれていた。ついさっきもミヤ達と茶を飲んできたばかりだが、気にしない。


「ふむ……」


 教会に入る前に、ディーグルは足を止めた。


(尾行されていたのは知っていましたが、放置しない方がよかったようですね。ただ尾行しているだけではなく――)


 殺気を感じ取り、ディーグルは教会の中に入ることを辞めた。自分が狙いであるなら、ブラッシーはともかくとして、教会の中の人間を危険に巻き込んでしまうと思ったからだ。


 素早く教会の入口から離れ、教会の横手へと移動し、周囲に人がいないことを確認してから、殺気のする方向に視線を向ける。


(複数。それぞれ異なる方向にいますね。多角的に襲撃するつもりですか)


 襲撃者の意図を見抜き、ディーグルは腰に刀の柄に手をかける。


 木の上から二匹、木陰から一匹、教会の壁の陰から一匹、計四匹の四足獣が、一斉に襲いかかる。

 いずれも自然界にはいない獣だった。そのうちの一匹は大型犬ほどの大きさで、黒い体毛で覆われ、薄紫の太く長い鬚が尾まで伸びている。残り三匹は藍色の体毛に覆われており、大型猫科動物ほどのサイズだ。


 真っ先に向かってきた黒い獣めがけて、ディーグルが刀を振るう。


 刀より生じた飛ぶ斬撃が、確かに獣の体をとらえた。三枚おろしにするかと思われた。


 しかし獣は一瞬動きを止めただけで、全くダメージを受けずに、ディーグルの方へ突っ込んでくる。


(剣撃を完全に無力化した。獣の体表が物理的なエネルギー運動を急速低下する力を有している)


 獣がどうやって自分の攻撃を防いだか、ディーグルは即座に見抜いた。


(このような特殊な獣を使役する者は――つまりはあれが相手ですか)


 それらの獣を見ただけで、ディーグルは襲撃者の正体を見抜く。

 会ったことは無いが、話には聞いて知っている。様々な特性を持つ妖獣を使役する魔法使いの話を。


「妖獣使いワダチ・ナカガワですか」


 呟いた直後、黒い獣はディーグルの目の前まで迫り、しかしディーグルに手出しをせず、横に逸れた。


 意味がわからない動きをした黒い獣に、一瞬困惑するディーグル。そこに残り大型の三匹の藍色の獣が迫る。


 最も近い藍色の獣に、ディーグルが刀を振るい、飛ぶ斬撃を見舞う。しかしまた無力化される。


 三匹の藍色の獣が正面と左右の三方向から飛びかかる。ディーグルは後退して左右の二匹の牙を避け。正面から来た一匹は、頭を踏み台にして飛び越え、獣の後ろへと回った。


 手に呪符を取り出し、今、踏み台にした獣に向けて放つ。

 呪符が獣に張り付いた瞬間、獣の全身が凍り付いた。


「凍結符は通るようですね。そして――」


 ディーグルは長い薄紫鬚の黒い獣を一瞥した。何もしていないかのようで、している。


(物理攻撃を防いでいるのは、この黒い獣ですか。自分への攻撃を防ぐだけではなく、近くにいる仲間への攻撃も防げると)


 つまり藍色の獣は、攻撃を防ぐ能力は無いと判断できる。


 残った藍色の獣二匹が、ディーグルに飛びかかる。


 再び凍結符を放ったディーグルであったが、呪符は獣に張り付く前に、空中で破かれた。


 無数の光の矢が飛来していた。それは呪符だけではなくディーグルも狙っていた。


 光の矢の何本かはかわしたが、ディーグルは肩と脚を貫かれた。


(速い。そして私の攻撃直後という、絶妙なタイミングを狙われました。中々やりますね)


 遠方にいると思われる敵を意識して、心の中で称賛するディーグル。


 ダメージを受けてもディーグルは体勢を崩さず、動きも止めず、二匹の藍色の獣の攻撃を避ける。


 そこに再び光の矢が大量に放たれた。相変わらずの高速連射であったが、今度は一発も食らうことなく、避け切るディーグル。

 さらに藍色の獣二匹が追撃する。


「自身は安全圏にいて、ハメ手や搦め手で攻めてくる輩ですか。嫌いじゃないですよ。そういう手合いと戦うと、確かにストレスがかかりますが、その反面、打ち破った時のカタルシスも中々のものです」


 藍色の獣二匹の攻撃を避けながら、余裕の微笑をたたえてうそぶく。


(とはいえ、簡単にはいかないでしょう。これは相当な強者)


 光の矢が飛んできた方向を意識しながら、ディーグルは思う。


西方大陸ア・ドウモからの刺客――それもシリンからの刺客ですか。しかし、考えてみれば、当たり前の展開です。むしろ遅かったとも言える)


 自分の正体を晒したうえで、ア・ドウモのエージェントをその場で殺しきらなかったのだから、当然報告される。管理局に散々盾突いたAの騎士の正体であることも知られた。そのうえでア・ハイの往来を堂々と歩く日々を送っているのだから、刺客が来ない方がおかしい。


(メープルCはもちろんのこと、それ以上に、あのシリンが私を放っておくわけがありませんものね)


 そして自分を殺すつもりで刺客を放つなら、相当な強者でなければ差し向けないだろうと判断する。それを任せられるほどの者なのだろうと。


 さらに光の矢が降り注ぐ。しかし今度は本数が少ない。狙いがディーグルでもない。


 光の矢は、凍り付いている藍色の獣に刺さった。その直後、凍結状態から藍色の獣が解放された。


「器用な真似をしますね」


 遠方にいる妖獣使いの仕業か、あるいはその仲間かは知らないが、矢を撃ってきたものを意識して、ディーグルは微笑んだ。

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