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32-29 頑張る裏方さん

 嬲り神はずっと絵本世界の各地の次元の狭間にある、光る白い玉を取り除く作業に忙殺されていた。


「は~……宝石百足の奴、一体どんだけ仕掛けやがったんだ」


 延々と同じ作業を繰り返すことに、嬲り神はいい加減膿んでいた。このような繰り返し作業は全く向いていない。ルーチンワークは出来ないタイプだ。


「ひょっとしてこいつはよぉ、俺をこの作業に縛り付ける意図もあるのかねえ。だとしたら大変有効ですよっと」

「おやおや、御機嫌斜めですねん」


 一人でぼやき続ける嬲り神の前に、図書館亀がやってきた。


「坩堝への呼び水を仕掛けておきましたよん」

「へっ、余計なことしやがる。万が一にも現時点で坩堝を解放されちまったら、どーすんだよぉ。ショボい魔王が出来ちまうぜ?」


 図書館亀の報告を聞き、嬲り神が笑う。


「それはそれで仕方ありませんのん。しかし必ず弱い魔王になるということもありませんよん。魔王の強さは、坩堝に蓄積された負の念のみならず、継ぐ者の素養にもかかっていますねん」


 図書館亀が言うが、現時点では坩堝に負の念が蓄積されきっていない状態なのだから、より良い素質がある者を選び、より蓄積した状態でもって、坩堝を解放した方がいいだろうにと、嬲り神は呆れ気味に思う。

 ようするに図書館亀は、好奇心と研究欲を満たしたいがためだけに、手前勝手に坩堝の早期解放を行おうとしている。嬲り神としては気に入らないが、それを責める気にもなれない。


「あーあ、宝石百足といいお前といい、勝手ばかりしてくれるわ~。真面目にダァグの言いなりになっているのは、俺だけじゃねーかよ」


 責めない代わりに愚痴る嬲り神。


「小生は可能性の探求をしておりますのん。別に嬲り神様、貴方の足を引っ張っているわけではありませんよん」

「足を引っ張られているとは思ってねーし、そんなこと誰が言ったぁ? 俺がつまんねーと思うことしてくれるって言ってんのーがぁ♪ 伝わらなかったか~?♪ 読み取れなかったかぁ?♪」

「それより、いよいよ魔王軍と勇者軍が総力戦になりますよん」


 嬲り神の揶揄を取り合わず、図書館亀は話題を変えた。


「おっと、もうそんな時間かよ。そいつを報せてくれたのはありがとうと言っておいてやるぜ」


 皮肉っぽく吐き捨て、嬲り神は最後の白玉を排除した。


「さて、そろそろ俺も出るかな~。ここでまた宝石百足の妨害にあわないといいんだがよ」


 これ以上図書館亀の話に付き合いたくもなかった嬲り神は、そう言い捨ててその場から姿を消した。


***


 戦いの火蓋は、魔族側から切って落とされた。


 空に浮かぶ無数の島から、大量の有翼魔族と有翼モンスターが飛び立ち、連合国軍に向かって飛翔する。

 投石器からも一斉に巨岩が放たれ、岩の雨が兵士達に向かって降り注ぐ。あちこちで運の悪い兵士達が岩に潰されていく。しかし全体から見れば、巨岩で潰されて死ぬ兵士など、0.1%にも及ばない。人類側の兵の数は100万近いと思われた。兵で平野が埋め尽くされている。


 投石が終わった頃に、有翼魔族の兵士達とモンスターの大群が、上空から兵士達に迫る。

 上空から遠距離攻撃する魔族もいるが、飛びながら近接攻撃を仕掛ける魔族もいる。飛んでいる相手に、人類側は苦戦を強いられていた。

 魔族の個々の身体能力は人間を大きく上回るうえに、ほぼ全員が魔術や魔法を扱える。しかし人間側もそれを承知のうえで、一人の魔族相手に複数でかかるよう心掛けている。


「数ではこっちがべらぼうに上に見えるわな。今の所はよ」


 キンサンが言った。その数の優位も、このままでは削られる一方だというニュアンスが込められている。


「で、どうやってあの中に入るん?」

「我々を導く協力者がいる。彼の手引きに従う」


 スィーニーの問いに、ミラジャが答える。


「そいつは信用できるの?」

「信用するしかない」


 さらに問うスィーニーに、ミラジャは無表情に答えた。


(そんなんでいいの? 信用できるかどうかもわからん相手に、全てを託しているわけ?)


 呆れるスィーニー。


「おうおう、ここまで来てよぉ、そんないい加減なこと言われちゃあ困るぜ」


 キンサンも呆れる。


「今連絡が取れた。勇者軍、反転!」


 その時、ミラジャが高らかに命じた。


 直後、一同の前に嬲り神が出現する。


「来てくれたか」

「もちろんさ。ここで来なくてどーするよ~?」


 安堵するミラジャに、嬲り神がにやにや笑いながら言った。


「嬲り神が……」

「ミラジャ、よりによってこいつと繋がってたんだ」


 スィーニーとノアが露骨に嫌な顔をする。


「知り合いなのか?」


 ミラジャがスィーニーとノアの方を見て、その芳しくない反応を見て、少々不安になった。


「おいおい、そんな警戒すんなよ。勇者様御一行を魔王城の中に入れる事だけに関しては、俺を信じてくれていいぜ。俺はこの時のために、裏方として超絶頑張っていたんだぞ」


 嬲り神が肩をすくめて言った。


「それによ、俺はただのパシリみたいなもんだ。あの絵本を見ただろ。今回怪しい動きをしているメインは、図書館亀の方だぜ。俺はただ、魔王城への道を開く役割を頼まれたにすぎねーよ。ダァグが色々といじくりすぎて、パワーパランスおかしくしちまったからよ」

「図書館亀が何をしているっていうの?」


 ユーリが尋ねる。


「ま、色々だ。あいつは毒が無いように見えて、俺や宝石百足に負けず劣らずの食わせ者だから、用心に越したこたぁねーぞ」

「そもそもあいつがどういう奴かもわからない」

「図書館亀は知識の管理者なんつー、しょーもねえ設定だ。そしてその設定のおかげかどーか知らねーが、好奇心の塊でもある。その好奇心を満たすために、他人を動かすことがままあるってわけよ」


 ノアの言葉に対して答える嬲り神。


「やるなら早くやってよ。こちらが不利になる前に」


 ウスグモが戦場の方を見つめながら言った。


 戦況は中々動かない。連合国軍は被害を受けているものの、圧倒的なまでの数がいるため、魔族達にどれだけ殺されても、大局を左右するほどの損害は被っていない。

 その現実に焦れるかのように、魔族の空中島からさらに多くの魔族の軍団が投入される。魔物達も、一際大型のものが投下されていく。中には下位の竜族もいる。


「魔王軍、次から次に兵を投入しているね。目論見通り?」


 ノアがミラジャの方を向いて伺う。


「ああ。ここまでは順調だ。そして本番までもうすぐだ」


 ミラジャが嬲り神の方を向く。


「安心しろよ。こっちは抜かりーっての。ここでシクったら俺だって泣くわ。このときのために、人知れず裏方として頑張ってきた身なんだぜ」


 そう言って嬲り神は、天空に浮かぶ島を見つめる。


「向こうの仕掛けもちょっくら確認してくる。すぐに戻るから、心配せずにいい子にして待ってなよ~? ギャハハハハッ!」


 馬鹿笑いを残して、嬲り神は姿を消した。


「へっ、けったいな野郎だ」


 キンサンが吐き捨てる。


「向こうの仕掛けって何だろう?」

「多分、門の出口のようなものか、それを起動するものだよ」


 チャバックの疑問に、ユーリが憶測を述べた。


***


「あぁ……想像以上に手こずってるなあ……」


 戦場の様子を見て、セインは顔をしかめた。


「数がね。果たしてこっちの何倍いるかわからない。質はこっちが上だと思うけど。敵の大将――勇者はどの辺りにいるかな。せめてそれがわかればね」


 セインの隣にいるサーレが、いつもと変わらぬ爽やかな笑顔で話す。


「彼等にはきっと、空にまで攻め込む手立てがあるのだろう。そう考えた方がいい。そうでなければここまで攻めて来るはずが無いし、何の手も無く攻めてくるような愚か者とも思えない」


 サーレはそう確信していた。


「あぁ……そういや、勇者ネロの攻撃は地上からこの島まで届いたっけ」

「届くだけでは意味が薄い。乗り込んでこないとね。というわけでセイン。城内の警備はセインに任せようか」

「あーあ、とうとう俺にもお鉢が回ってきたか。しゃーない。アシュ、準備しろ」


 サーレが要請すると、セインはどうでもよさそうに言った。


「アシュ……ああ、そっか。いないんだ……」


 振り返り、誰もいないことを確認して、セインは悲しげな顔になった。


「ふう……別の島に配置させていた魔物共を呼び寄せて、城内に配備するわ」


 そう言ってセインは、肩を落としたまま、部下達に念話で指示を送る。


 セインが率いるは魔物使いの軍である。魔物の軍と言ってもよい。同じ魔族の軍の中には煙たがる者もいるが、最も消耗が激しい軍でもある。魔族の代わりに魔物を投入すれば、魔族の犠牲を抑えられるからだ。


(可哀想なセイン。大事な物を失ったショックから、いつまで経っても立ち直れない)


 サーレはセインに同情する。しかしセインはその深い悲しみを引きずるが故に、三大将軍になるほどの強さを極めたという一面もある。

 それはセイン自身が語った話だ。かつてセインは、強さや名声を求める日々を送っていたが、アシュという者を失ってからは、さらに強くなったという。悲しみを振り切ろうとして修行に打ち込み、死線に好んで飛び込んでいき、数えきれないほどの修羅場をくぐり抜け、気が付いたら今の強さになっていたとのことだ。


「さて、僕も少し働こうかな。魔王の力を持ち腐れにしても仕方ない」


 サーレが城の窓から外を見る。地面を埋め尽くす兵士を見る。

 次いでサーレは、空を見上げた。雲一つない青空だ。


 サーレが魔法を発動させる。雲一つなかった青空のあちこちに、暗雲が発生する。


 雷鳴が幾重にも響き渡り、複数の雷が同時に何ヵ所にも落ちた。それらは全て、連合国軍の兵士のみが固まった場所に落ちていた。

 雷だけではない。空はやがて一面が黒い雲で覆われ、凄まじい豪雨が降り出した。


***


「へっ、俺と似てるなぁ。あいつ」


 セインを見た嬲り神が、へらへらと笑いながら呟く。


「俺もあいつほどじゃないが、気が付くとお前に話しかけてる時があるよ、ヨブ」


 笑顔のまま瞑目する。瞼の裏に、嬲り神にとってかけがえのない者の顔が、鮮明に蘇る。


「もう一度お前に会いてえなあ。だがそれは叶わない願いなんだ。それがこの世で最も残酷なことだ。たとーえ魂が転生していよーがぁー♪ 別世界に横軸がいよ~がぁー♪ ヨブはもういねーし、戻らねーんだよ~♪」

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