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32-20 叶えられない夢を誰かに押し付ければ、自分は報われる?

 飛ぶ斬撃を浴びてクロードがひるんでいる隙に、ディーグルは次の呪文の詠唱に入る。


 クロードは魔法によって、自身のダメージの回復を図る。


(エルフ如きが。魔力を手足のように扱うことも出来ず、呪文の詠唱が必要な下位の術師如きが、最高位の魔族である私にここまでの痛打を与えるだと?)


 プライドの軋みを感じながら、クロードはディーグルを睨みつける。


「魔神楽」


 ディーグルが術を発動させる。


(あれは東方の魔物――鬼か)


 訝るクロード。東方の衣装に身を包んだ鬼達が現れ、堤太鼓、横笛、銅拍子、琵琶といった、東方の楽器を演奏している。しかし一匹の巨大な鬼女だけが、大太刀を振るって、クロードに襲いかかってくる。


 舞うような動きを行い、攻撃してくる鬼女。


 クロードはその攻撃を回避し、黒霧を鬼女にぶつけるが、何の変化も見受けられない。


(これは操作されているだけで、実体に非ず。そして術師を攻撃してもおそらくは無意味。本体は――)


 解析魔法を用いて、クロードは術の性質と本体を見極める。琵琶を演奏している鬼を睨む。

 クロードが黒槍を放ち、琵琶を演奏している鬼に当てる。琵琶の鬼が黒槍に貫かれた瞬間、全ての鬼が消えた。


「やりますね。ここまで早く術理を見抜いた者は珍しいですよ」


 ディーグルが爽やかな笑みをたたえて、クロードを称賛する。


(この世界の魔王軍ナンバー2と、あちらの世界の魔王軍ナンバー2の戦いであると、教えてあげられないことが残念ですよ)


 その情報を教えたうえで、力の差を思い知らせてやりたいと、そんなことを思っていたディーグルであったが、今ここで余計なことを口にしても、ミヤに不都合がかかるかもしれないので、黙っておいた。


 一方では、アルの聖樹が二本、ユーリとノアの近くから生えたかと思うと、怒涛の勢いで伸びていき、弧を描いて、二人にそれぞれ襲いかかる。先端はドリルのようになって高速回転している。


 ユーリとノアはほぼ同時に、左右に分かれる格好で回避した。さらには二人ほぼ同じタイミングで、避けながら魔法攻撃を行った。


 ユーリの放った魔力塊が、ノアの放った火炎球が、アルの聖樹の先端にクリーンヒットする。

 ユーリの攻撃を受けた聖樹は動きを止めたが、ノアの攻撃を受けた聖樹は、炎に焼かれながらもなおもノアを追撃し続けていた。


「しつこい」


 ノアが一言呟き、魔法を繰り出す。爆発が起こり、アルの聖樹が吹き飛ぶ。


 しかしユーリが攻撃して動きを止めた聖樹も、ノアが爆発で吹き飛ばした聖樹も、すぐにまた伸びだし、動きだし、二人に向かって回転しながら襲いかかる。


「木を断つには根本かな?」

「それがいいかもね」


 ノアが言い、ユーリが頷く。


「俺が防御担当するから、先輩は根本に攻撃よろしく」

「了解」


 ノアが言い、ユーリが頷き、二人は行動に移る。


 迫りくる二本の聖樹に対し、ノアは白いビームを二本放つ。過冷却水だ。

 聖樹の動きが非常に鈍くなる。やがて止まる。すぐにまた成長して動き出すが、その動きは鈍く、また止まる。


「木は火に弱い――という印象あったけど、そうではないね。植物の中には水分が含まれている。それなら凍らせる方が有効みたいだ」


 ノアが言う。


 中途半端な火力で燃やそうとするなら、そちらの方が確かに有効だろうと思いつつ、ユーリはアルの聖樹二本の根元を爆発させる。


「はあ……それを倒してもねえ……。幾つでも沸かせることが出来るよ」


 溜息混じりの声が聞こえる。ミカゼカのものではない。いつの間にか、ミカゼカからアルレンティスへと変わっていた。


 アルレンティスの言葉通り、新たなアルの聖樹が四本生える。


「本体をやれってことか」


 竜樹になったアルレンティスを見るノア。


「正直、勝てそうにないけどね。でも勝つ手はある」

「へえ?」


 ユーリの台詞を聞き、興味深そうな声をあげるアルレンティス。


「でもそれをすると、アルレンティスさんを殺してしまいかねない」

「今のあの状態のアルレンティスを?」


 ノアにはユーリがどんな集団を用いるか、皆目見当がつかなかった。


「アルレンティスさん。このままいけば、勇者陣営を追い詰めるよ。そうすると勇者も、魔王城に穴を開けたっていう力を解放せざるを得ない。真っ先に狙われるのはアルレンティスさんだ」

「ああ……」


 ユーリの言葉が何を指しているか、アルレンティスはそこまで言われて察した。勇者の剣から迸った緑の光。地上から魔王城にまで届き、穿ち抜いた、おそらくは勇者の切り札と思われる攻撃だ。


「確かに厄介か……。僕は食らいたくないし、このままいけば、ユーリの言う通りになるね。は~あ……」


 ぶつぶつと呟きながら、アルレンティスは戦場となった辺り一帯を見回す。


 勇者軍はともかくとして、連合国軍には十分すぎる被害をもたらしている。自分達の目的は、勇者軍の本陣を狙い、勇者の首を取るための先駆けであったが、果たしてクロードは勇者の切り札を考慮していたのだろうかと、疑問を抱く。


「少なくとも僕は忘れていた。父上のノリに感化されちゃっていたかもね……。父上、知恵者ぶっているけど肝心な所で脳筋化するタイプだから」


 そこまで呟いた所で、アルレンティスはほぼ戦意を失った。


 自軍の様子を見るアルレンティス。クロードはディーグル相手にどう見ても苦戦している。兄や姉も、クロードの虎の子の精鋭達も、勇者軍相手に決して楽とは言えない戦いを強いられている。


「はあ……。頃合いかな……」


 アルレンティスが大きな溜息をついた。


 あちこちで生えていたアルの聖樹が、全て地面の下へと引っ込む。そしてアルレンティスも竜樹の姿から、元の姿へと戻った。


「まだ余力はあるように思えたけど、やっぱり勇者の攻撃が怖い?」


 挑発するのではなく、不思議がって尋ねるノア。余力というよりも、勇者が切り札を出す前に、まだ暴れる余地があるのではないかと思ったのだ。


「うん。僕は余力あるよ。でも父上達は劣勢だ。僕だけ勝っても仕方ない。これは僕の戦いとも言い難いし。それに、何よりやらなくちゃならないことがある。そんなわけで二人共、ここでお開きにしてほしい。これは真剣なお願いだ」

「何だかわからないけど了解」

「わかりました」


 アルレンティスに真顔でお願いされ、ノアもユーリも即座に聞き入れた。魔力をあげるために指南して貰った相手でもあるし、敬意はある。


(もうすぐ、父上に危機が訪れる。何もしなければ死ぬ)


 アルレンティスはクロードの方に意識を傾けた。


「二人共、ありがとさままま」


 小さく微笑むアルレンティス。


「アルレンティスっ、何故解いた!」


 ディーグルと向かい合ったまま、怒号を発するクロード。


「はあ……父上……。そろそろ潮時だよ。冷静になって考えてみて。どう見ても押し切れそうにないよ」


 アルレンティスが言うと、クロードより前にディーグルが刀を下ろし、戦いの構えを解いてみせた。

 アルレンティスの言葉を聞き、ディーグルの所作を見て、クロードは頭を冷やす。自軍の戦況を見る。


(一気呵成に勇者を取るつもりであったが、叶わなかった)


 勇者の反撃を食らい、ここでアルレンティスを失うのも不味いと、クロードにもようやく理解できた。


 クロードが諦めかけたその時、ミラジャが聖炎でクロードを攻撃した。


「ぐおおおっ!」


 この不意打ちを、クロードは避けられなかった。全身を炎に巻かれ、のたうち回る。


「父上ーっ!」

「いやああっ! 父上っ!」


 アルレンティスの兄と姉が叫ぶ。


「魔族にも家族愛があるのか? 魔族の分際で――」


 クロードの子供達の叫び声を聞いて、ミラジャは嘲笑する。


 ディーグルはただ黙って様子を見ていた。自分が介入する必要は無いとしていた。それよりも、この局面で動くに相応しい者がいる。


「とどめだ」


 ミラジャが憎悪を込めた声で言い放ち、聖炎をフルパワーで放った。


 しかし聖炎はクロードに届かなかった。ミラジャの意思で操作できずに、巻き取られるようにして渦巻き、あらぬ方向へと飛ばされた。


「またお前か!」


 ミラジャがクロードから視線を外し、アルレンティスの方を向いて叫ぶ。アルレンティスは素知らぬ顔をしている。


(やらなくちゃならないことって、これかな? アルレンティスさん、自分の父親がミラジャさんに襲われることを知っていて助けた?)


 アルレンティスとクロードとミラジャのいる方を見て、ユーリは勘繰る。 


「撤退! 撤退だ!」


 クロードが叫ぶ。魔族達が一斉に飛び上がる。

 アルレンティスとクロードも飛翔し、空高くへと飛んでいく。


 ミラジャは歯噛みして見送るしかなかった。攻撃したところで、またアルレンティスに防がれるとわかっていたからだ。絶望的に相性が悪い相手だ。


 退却する魔族達を見て、勇者軍が歓声をあげている。


「お前に二度も助けられるとはな。危ない所だった」


 クロードがアルレンティスの横にやってきて、声をかけた。


「以前は助けられなかったよ。でも今度は助けることが出来た。あの女が襲ってくることは、知っていたから……」

「む? 何を言っている? それと、人格が元に戻ったようだな」

「後で話すよ」


 面倒くさそうな顔輪するアルレンティス。


「しかし……また惨めな結果か……。また惨めな展開か。また何も叶うことないのか。私はずっとこうだった……。何をしても……何をしてもッ」


 飛びながらクロードは、身も世も無く悔しがる。


「アルレンティス、お前は三十二体目にしてようやく羽化した……完成品だ。他は皆羽化せずに死んでいった。悲しい失敗作だ。その完成品を目にして……また敗北だと……」

「母上に聞いたよ。父上は魔王になることが無理だとわかって、それで一度絶望したって。そして自分が果たせぬ望みを、自分に似た者に押し付けて、それで自分が救われた気分になりたいって……。それで間違いない?」

「ああ、その通りだ……」


 息子に静かな口調で指摘され、クロードは憑き物が落ちたかのような顔になって、肯定した。


「自分と似たような子を作りたくて、アルレンティス達を作った。だが、より自分と似た者を人間の中に見つけ、しかもその者には魔王になる素質も十分備わっていたと知り、私は狂喜した。これこそ運命の導きだとな。そして私はサーレ様に全てを費やすことにした」

「サーレを自分に見立てて……ね。虚しい話だ。そして……如何にも魔族らしい歪さだね」


 父親の話を聞いて、アルレンティスが言ったその時だった。


『おめでとさままま。三つの鍵のうち、一つが回された――とでも表現しておこうかな。残るは二つ』


 アルレンティス、ユーリ、ノア、ディーグル、スィーニー、チャバックの頭の中に声が響いた。


「ダァグ・アァアア……」


 声の主の名を呟くユーリ。


『三つの鍵が回されれば、この絵本はおしまいだ。鍵穴が潰されても、鍵を失くしてもおしまいだ。元に戻るだけなら容易い。悲劇から救うのは難しい。引き続き頑張って』

「今の、先輩も聞こえた? あいつの声だよ。ダァグ・アァアア」


 ノアが声をかけ、ユーリは張り詰めた表情で頷く。


「スィーニーお姉ちゃん、今、オイラの頭の中に声が響いたよ。ここに入った時にいた、あのおかっぱの子の声」

「それ、私にも聞こえたわ」

「私もですよ。絵本に引きずり込まれた者全員聞いたのではないでしょうか」


 チャバック、スィーニー、ディーグルが言う。


(ダァグ・アァアアが口にした、回された鍵とは、アルレンティスが過去に起きた悲劇を――いや、これから起こりえた悲劇を変えて、家族を救ったことを指しているのでしょうか)


 本来の絵の絵本の中では、アルレンティスはこの戦いで自身を解放することもなく、家族を皆殺されたと、ディーグルは聞いている。父親もミラジャに殺されたと。

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