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32-18 自分の成すべきことを決めてみた

 各国軍隊の指揮官が集まっての会議が終わり、チャバックとミラジャはテントの外へと出た。


「お疲れかな。勇者様には恥ずかしい所を見せてしまったね」


 ミラジャがチャバックの方を見て微苦笑を零す。


「ミラジャさんは魔族が凄く嫌いなんだね」

「ああ。昔……色々とあってな。君には知られたくなかったが」


 気恥ずかしそうに微笑み、頬をかくミラジャ。


(国に裏切られた騎士だって言ってたけど、ネロに助けられて、今は聖女だって言ったなあ。魔族とも何かあるのかー)

(僕は魔族どうこうは聞いたことがない。こんなミラジャは初めて見たよ。ミラジャは僕の前でも、国に捨てられたうえに、口封じに殺されかけたと言っていたよ。僕と会った時、ミラジャは絶望しきっていたよ)


 チャバックの中で、ネロも戸惑っていた。


(僕はその時はただの冒険者だったんだ。キンサンとウスグモと一緒に冒険していた。ミラジャはその時はただの騎士だった。でも四人で冒険するようになって、ある時、大きな力を手に入れたんだ)

(勇者の力?)

(そう。僕は勇者、ミラジャは聖女の力。キンサンは遊び人、ウスグモは遊び女を極めた謎の力を得たんだよ)


 ネロが言った。


(どうやって力を手に入れたの?)

(ミラジャが導いてくれた。ミラジャがどういうわけか知っていたんだ。ミラジャは天啓を受けたと言っていたよ。魔王を倒すという条件で、力に導くと言われたそうだよ)

(てんけー?)

(天啓っていうのは、頭の中に響く神様の声みたいなものかな)


 説明が難しいと感じるネロ。


(ネロはどうして勇者になったの?)

(魔王に最初に滅ぼされた国が、僕の国なんだ。家族も友達も、皆殺された。僕は冒険者として国の外にいたから助かった。悔しかったし哀しかったよ。だから魔王と戦うという決断をしたし、勇者になることも躊躇いは無かった。魔王による悲劇を止めるためにね)


 チャバックに問われ、ネロは静かなトーンで語る。ネロの悲しみと強い決意が、チャバックの心にダイレクトに伝わってくる。


「勇者様、あの時の――決意したネロが見える」

「え?」


 ミラジャに言われ、チャバックは戸惑う。


(僕の気持ちが外に漏れて、ミラジャには見えてしまったみたいだ)

(へえ、そんなことあるんだあ)


 ネロが言うと、チャバックは感心する。


(オイラと完全に入れ替わることもそのうちできる?)


 若干不安も感じながら、チャバックが問う。自分はネロを乗っ取っているかのような形だが、その構図が逆になる事は怖いと感じた。


(それは無理そうだ。瞬間的に感情が浮き出たり、短い時間だけ体の操作権を得られたりする程度だよ)


 チャバックの恐れを察したネロが、優しい声音で告げた。


***


 夕暮れ時。

 ミカゼカが魔王城内を歩いていると、サーレが一人、廊下の窓の外を眺めていた。


「魔王様、地上の景色を見るのが好きなのかナ?」

「うん、好きさ」


 ミカゼカが声をかけると、サーレはミカゼカの方に向き、朗らかな笑みを広げる。


「クロードの末の息子さんだよね。クロードは君のことをよく話題にあげているよ」

「そうなんダ。売り込みの激しい父上でお恥ずかしいネ」


 サーレからクロードのことを聞いて、ミカゼカは苦笑する。


「サーレ様も末弟で、家族からの扱いがよくなかったと聞いたヨ」

「うん。僕は家の中で、いてもいなくてもいい、どうでもいい存在だった。でも君は違うだろう? クロードは君にとても期待を寄せているようだよ」

「期待されることがいいこととは限らないネ。僕は実験的に造られた存在だし、おかげで魔族らしからぬ性格になってしまい、父上からの当たりは強イ。母上は優しいけど遠慮しがちだし、兄上達はあからさまに僕をいじめているヨ」


 ミカゼカが皮肉っぽく言ったその時――


「いじめている奴等を見返してやればいい」


 いつの間にか現れたセインが、ミカゼカを見て言い放つ。


「力で勝ち取るのが魔族流だ。そしてお前の力はその兄達に勝っているんじゃないか?」

「弱い者いじめしても仕方ないヨ。兄は僕をいじめているつもりでいるけど、僕は何とも思ってないかラ」


 指摘するセインに、ミカゼカは歯を見せて笑う。


「ふうん……。しかしわざわざ話題に出している時点で、何とも思っていないとは言い難いだろう……」

「僕もセインに同意だな。辛いならいつでも僕に吐き出してくれていいよ。セインの言う通り、理不尽な体罰をしてくるようなら、力でやり返してもいいと思う」


 気遣って言うセインとサーレであったが、ミカゼカからすれば余計なお世話という気持ちがあった。セインの指摘も的外れだと感じている。


「アシュもずっといじめられっぱなしだったよな。こいつは魔族社会には適さない奴だ。弱気で、控え目で……。なあ、アシュ」


 セインが言い、後ろを見やる。


「あ、いなかった……。そうだ。アシュはいない」


 悲しげにうなだれるセイン。


「僕よりも父上の方が、サーレ様と似た境遇だったようだヨ。だからサーレ様を気にかけている部分があったみたいダ」


 ミカゼカの言葉を聞き、サーレは意外そうな顔になる。


「そうだったのか。それは初めて聞いたけど、息子の君の口から聞いたことは、クロードには黙っておくね」


 サーレが人差し指を口元で立てて、悪戯っぽく笑ってみせた。


***


 自室に戻り、ミカゼカは横になる。

 まどろみの中、ミカゼカは精神世界で他の四人の自分と向かい合う。アルレンティス、ルーグ、ビリー、ムルルンがいる。


「自分会議、する必要あるノ? 皆答えは決まっているように見えるヨ」


 他の四名の表情を見て、ミカゼカが言った。アルレンティスはたまに、精神世界で自分の人格全員と会議を行い、方針を決める。


「今の僕なら、暴走することも無いだろうね」


 アルレンティスがいつになく力強い口調で言う。いつもの倦怠感は見受けられない。


「僕は違う未来も見てみたい。君達はどう?」


 他の人格達に伺うアルレンティス。


「へっ、この場合、違う過去って言うんじゃねーのか?」

「異なる世界線と言ってもいいな」


 ビリーが皮肉げに笑い、ルーグは真顔で言った。


「ムルルンはアルレンティスに賛成なのー。過去の清算にはならないけど、心の整理がつくかもなのー」


 ムルルンが意思表明する。


「ミカゼカはどうなんだ?」


 ルーグが問う。他三名の視線もミカゼカに向けられる。


「言っただロ? 自分会議する必要あるのっテ。意見が聞きたいなら言うヨ。僕達の過去が変わるわけじゃないんだってことは、皆わかってるよネ? ただの自己満足にすぎないし、それは人喰い絵本の脱出に繋がるわけでもなく、むしろ状況を悪化させるかもしれないヨ。でも、それって面白そうではあるし、僕は是非やってみたいネ」

「おやおや、ミカゼカにしては随分と熱が入ってるじゃねーかよ」


 普段より口数が多いミカゼカを、ビリーがからかう。


「五人共、意見は一致。じゃあ……決まり。父上も母上も兄上達も殺さず、父上の期待にも沿う……。僕達だけのハッピーエンドを目指してみよう」

「もちろんミヤ様の意思の尊重の方を優先させたうえで――だがな」


 アルレンティスが決定した後、ルーグが釘を刺した。


***


 覚醒したミカゼカは、クロードのいる元へと赴いた。偶然だが兄達と母もいて、家族全員揃う格好となった。


「父上の言う通りにするヨ。僕は秘められた力を解放して、勇者軍と戦うことに決めタ」


 ミカゼカの宣言を聞き、クロードは安堵したかのような表情だった。


「兄さん達は、僕が活躍することが気に入らないだろうけどサ」

「気に入らないだの何だのと言ってる状況ではないでしょ。一族の威信をかけた戦いになるからね」


 ミカゼカが嫌味を口にしたが、長女が冷静な口調で言った。


「今、足の引っ張りあいをしようものなら、父上の顔に泥を塗ったうえで、我が一族も消滅することになる。一丸となって臨まねばならない。いがみ合うのはその後でも出来る」

「そう……だな。今そんなこと言ってる場合じゃない」


 次男も長女に同意し、長男もうつむき加減で同意する。


「兄さん達も少しは大人になったようだネ」


 くすくす笑うミカゼカ。長男だけは仕方なく納得するポーズを示したかのように見えた。


 家族会議を終えたミカゼカは、ミヤの元へと赴き、全てを報告する。


「ミヤ様、僕は切り札を解放するヨ。そして僕の家族は――父上は先走って勇者を討ちに出るつもりだヨ。リメイク前は、これは失敗していタ。他ならぬ僕のせいでネ。僕は暴走してしまい、家族を皆殺しちゃうんダ」


 楽しそうに過去を語ると、ミカゼカは歯を見せてにかっと笑う。


「でも僕は、この絵本において違う展開となることを目指し、父上に従い、奇襲に加わるつもりだヨ。家族を殺すことなく、勇者軍と連合国軍に十二分な打撃を与えたイ」

「ふん、この絵本に吸い込まれた自分のすべきことを、お前は見つけたということだね」


 ミヤがミカゼカを見上げて微笑む。


「そうなるネ」

「チャバックが勇者になっているし、スィーニーも来ているようだし、あの二人を傷つけることになるかもしれない。ディーグル、また二人の護衛を頼むよ」

「承知しました」


 ミヤが声をかけると、ディーグルは姿を現すことなく、声だけで応答した。


「勇者達との直接対決は避けるようにするヨ。できるだけ――ネ」


 ミカゼカがにやりと笑う。


「そういえば勇者軍は、命の輪の存在をどこで知り、どうやって手に入れたんだか、お前は知らないかい? それもあんなに大量に」


 話題を変えて尋ねるミヤ。


「ミラジャだという話は聞いたヨ。わりと最近ネ。そもそもリメイク前の僕のいた世界では、勇者の軍は命の輪を装着してないヨ」

「命の輪の装着による勇者軍の強化は、正に変更された部分の一つということだね」


 ダァグ・アァアアが直に物語を書き変えたか、嬲り神が導いたかは不明だが、創造者側の干渉でそうなったのだろうと、ミヤは見なす。


「あのミラジャはネ、国に裏切られたという設定にしてるけど、実は魔族に裏切られたんだヨ。魔族なのサ」

「ふむ。儂の目には人間に見えるけどネ。解析しても人間だ」

「前世は魔族だヨ。秘術によって人間に転生し、魔族に復讐しようとしている哀れな女サ。そのために勇者を見つけ出して、魔王軍にけしかけているんダ」

「なるほどね」


 ミカゼカの話を聞いて、ミヤは納得した。

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