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32-8 彼が生まれてきた意義

「会えて光栄です。ドーデモ王国国王アーデモ七世陛下」


 爽やかな笑みを張り付かせて、言葉を続けるサーレ。


「ま、ま、ま、魔王……だと。馬鹿な……衛兵達は何をしておる!? 余の前に魔王を通すとは!」

「空から参りましたので。そちらに空を飛び、我々を迎撃できる衛兵はおられませんでしたよ?」


 狼狽するアーデモ七世に向かって、サーレはさらりと告げる。


「何をしておる! 誰かこの者を討ち取れ! 早く殺せいっ! 騎士団長ォ! さっさと――」


 すっかり混乱して喚きたてるアーデモ七世であったが、その台詞は途中で止まった。玉座に座っていたはずのアーデモ七世が、何故か玉座の前の床にへたりこんでいたからだ。代わりに、サーレが玉座に腰を下ろしている。


「さて、敬語の必要も無いかな。立場は明確にしておこうか。僕に征服される国の王が、玉座にふんぞり返って僕を見下ろすなんて、おかしな話だ。こっちが正しい。イヴォンヌ、おいで」


 サーレに呼ばれ、ミヤは玉座の傍らへと瞬間移動する。


 謁見の間にいる者達は固まってしまっていた。兵士も騎士も剣を抜く気配は無い。国王と場所を入れ変えた魔王と、その隣に転移した魔王の妃を見て、絶対に敵わない存在だと悟ってしまったのだ。


「さて、アーデモ七世。君が世に生まれてきた意義は、今正にこの時のためにある」

「何……? 何を言ってる? 余が世に生まれてきた意義だと?」


 サーレの意味不明な台詞に困惑するアーデモ七世。

 アーデモ七世の首に切れ目が走り、床に落ちる。


「陛下?」

「うわあああっ!? 陛下ーっ!?」

「馬鹿なっ! 触れてもいないのに、呪文も唱えていないのに、いきなりっ!」


 それまで静寂に包まれていた謁見の間が騒然とする。


「いつものパターンだが、ネズミ共がやかましくなる時間だな」


 クロードが小さく溜息をつくと、魔法を発動させる。

 大臣が、官僚が、兵士が、騎士が、次々と破裂していく。血と臓物が床にばら撒かれ、壁にへばりつく。


「セイン、今の映像を見せてあげて」

「ああ。言われなくてもやる……」


 サーレに命じられ、セインは魔法を使う。かなり大規模な魔法を用いるため、セインから魔力が大量に放たれている。


(なるほど。国の王が殺される場面を、ドーデモ国民全員に見せて絶望させ、兵士や騎士達の士気をくじくんだね。戦上手――というより、まず頭を狙うこのやり口は、喧嘩のやり方を心得ていると言った方がいいかね)


 ミヤはセインが何をしているかも、サーレが先程アーデモ七世に告げた言葉の意味も、理解した。生まれてきた意義とは、死ぬ場面を国民に晒すために生まれてきたことだと。


「先に王城を陥落させてから、しばらく経った後で、ドーデモ王国の国境沿いにいる、魔王軍の陸軍兵士達を王国領土内に攻めさせる――か。王城陥落の報を受け、王都からの指揮を失い、物資の援助も失い、何より士気が低下した所で、一気に王国領土内に、魔王軍の陸軍が攻め入るのは、さぞ有効だろうよ」

「うん。その通り。ま、定石で考えれば、順番が逆だよね。しかし魔界沈没と同じだ。将を取れる機会があれば、馬を射るまでもなく将を取る。そうすればゲームは終わりだからね」


 ミヤが指摘すると、サーレは明るい笑顔で言ってのける。


 その後は一方的な虐殺が続いていった。魔王軍は街にも岩を降らせ続ける。そして空から襲いかかる魔族達が、国民を手当たり次第に殺していく。

 セインがその様を映像で映している。サーレは玉座に座ったまま映像を見て、にやにやと笑っている


(こいつ、あの時の儂と同じになっているね。怒りと憎しみの化身。そして悲しみの虜に)


 狂気を垣間見せるサーレを横目に、ミヤは思う。


(イヴォンヌ、お前はこれで本当にいいのかい?)

(いいのよっ。私はサーレと共に、地獄を築きながら、地獄に繋がる道を歩いて行くと、心に決めたのよっ)


 ミヤの問いかけに対し、イヴォンヌは少し怒ったような声をあげる。


(それは思考の放棄じゃないのかい?)

(何とでも言って。私にサーレは止められないし、私にサーレを止める気も無いわ)


 さらに突っ込むミヤに、イヴォンヌは断言した。


***


 ユーリとノアは、王都コーデモの中にいながら、王都が魔族に蹂躙される様を見ていた。

 ノアは姿を隠す魔法を使って、魔族に見つからないよう、二人の身を隠している。ユーリは岩が落ちてきた場合に魔力の防護膜で防ぐつもりでいたが、岩が二人に落ちてくることはなかった。都市自体相当広いし、隅々まで岩を落とすことは流石にできない。むしろ直撃を受けるのはかなり運が悪い。


「この絵本の魔王、思っていたより凄い。結構大きな町なのに、あっという間に滅茶苦茶だ」


 感心する一方で、ノアは疑問も抱く。


「こんなに壊しまくっちゃっていいの? 城とか使えなくならない?」

「殲滅――いや、虐殺する気だ。僕達の世界の三百年前の魔王と同じだよ。人類そのものを皆殺しにする気なんだよ」


 ノアの疑問に対し、ユーリが張り詰めた表情で言う。絵本の中の出来事で、リメイクだとしても、目の前で大量虐殺が起こっている場面を見るなど、気分がよくない。


(そして師匠もこれと同じことをやって、罪の意識を引きずっているわけだ)


 しかしユーリは虐殺よりも、三百年前に魔王であったミヤの行いを意識していた。目の前の光景と勝手に重ね合わせた。


「それに、魔族っていうのは、人間の負の感情を糧にしているとも聞くしね。国王や騎士団長が殺された映像を見せ、空からの攻撃で成す術無く蹂躙されるこの状況、さぞかし恐怖と絶望感を味わうことだろう」

「死ぬ直前もきっと怖い。それも魔族の糧ってことか」


 ユーリの解説を受け、ノアは不思議に思った。


「それなら尚更、魔族は人間を滅ぼすよりも、家畜みたいに飼った方がいいのに」

「それは僕も思うけど、魔王サーレは滅ぼしたいんだろう。彼は元々人間で、同じ人間にひどい目に合わされて絶望したのだから、魔族の思考や欲望に則ることなく、滅ぼしたいという気持ちを――憎しみを優先させている」

「なるほど」


 ユーリの言葉を受け、納得するノア。


(やっぱり魔王は、人の敵であり、人の世を滅ぼしたいわけか。だからこそ魔王なのか)


 そういう存在であることはわかりきっていたし、ノアにも同様の望みがあったが、今は引っかかりを覚えている。


(たったそれだけの存在? 何かつまらないな)


 ただ滅ぼすだけではなく、もっと面白いことをしてみたいと、ノアは考える。


***


 魔族の三将軍とその身内は、魔王城内に住居を持つことが許される。城の中庭に屋敷を立てる者もいれば、城内に部屋を譲り受ける者もいる。

 クロードの家族は後者だった。というより、実はこの城は元々クロードの城だ。それをサーレに魔王城として譲った代物だ。

 故に、アルレンティスの私室も、魔王城内にある。


「先代魔王軍の力、拝見させて頂きましたよ。中々壮観でした」


 外で見学していたディーグルが、アルレンティスの部屋に戻ってきて言った。


「相手が弱かったからね。空を飛ぶ程度の優位性では、ミヤ様の軍や、西方大陸ア・ドウモとの戦闘には……耐えられないよね……」

「時代的な違い、文明の発展の違いというものもありますからね」


 自分達の魔王軍及びその敵と、比較するアルレンティスとディーグルであった。


「平々凡々と波風立たない人生を歩みたいのに、またトラブルに巻き込まれちゃったかな……? はあ……」


 いつも以上にアンニュイな表情になるアルレンティス。


「これはトラブルどころではないでしょう。貴方の人生に深く関わる一大事と言えます」

「過去に襲われている気分だね……。よりによって、過去のやり直しとかさ。運命の悪ふざけにも程があるよ。ああ、ダァグ・アァアアの悪ふざけか……」

「ダァグ・アァアアという者は、こちら世界の者を自由に指定して、人喰い絵本に引きずり込む力があるのですね。流石は一つの世界を創造できるだけの存在だけはある」

「人喰い絵本がこちらの世界に干渉できるようになった原因は、二つあるよ……。一つはミヤ様。もう一つは、メープル一族」


 アルレンティスの口からメープル一族の名を聞いて、ディーグルの表情が一瞬だけ強張った。


「あのね、ディーグルの大嫌いなメープルCと同じに考えないでね。メープル一族っていうのは、いろんな世界に存在して、魂の横軸や、平行世界の研究をしている者達なんだよ。故に、世界の垣根を越えて移動出来る術も心得ている……。この説明で……大丈夫かな?」

「それだけ言われれば、おおよそは察しがつきます」


 アルレンティスの説明を受け、ディーグルは納得する。


 部屋に何者かが近づく気配を感じる二人。

 再びクロードがアルレンティスの部屋を訪れる。ディーグルはすぐに隠れる。

 今度はクロードだけではなく、サーレとミヤもいる。ミヤの姿を見て、アルレンティスは驚いた。


「父上、何の用? サーレ様まで」


 動揺を抑えつつ、尋ねるアルレンティス。


「魔王様がお前のことを案じている。いつまでも調子が悪いと言って逃げているお前のことをな。畏れ多いことだと知れ」


 硬質かつ威圧的な声で告げるクロード。


(ああ、この時そうだったっね……)


 アルレンティスは思い出した。同じ台詞を過去に聞いたことがある。その場面がリピートされている。


「クロード、そんな言い方するものじゃないよ。余計にこの子を追い詰めてしまうことになるよ?」

「この子は人間の子ではありません。魔族の子です。それがこのように脆弱な精神を持つなど、情けないことしきりです」


 なだめるサーレであったが、クロードは我が子に対する認識も接し方も、変えるつもりはなかった。


「サーレ、それにクロード、儂はこのアルレンティスに興味が湧いた。ちょっと二人で話してきてもよいか?」


 ミヤが発言する。


「いいよ」

「どうぞ、イヴォンヌ様」


 サーレはあっさりと笑顔で了承したが、クロードは訝しげであった。


「アルレンティス、やはり来ていたんだね」


 二人で廊下を歩きながら、サーレ達と十分に離れた所で、ミヤが声をかける。


「ミヤ様は先代魔王の妃の役なんだ……。ひどいね……」

「ひどい? 何がだい?」


 憂い顔のアルレンティスの言葉を受け、不思議がるミヤ。


「先代魔王とHなこともしなくちゃならない……」

「ははっ、流石にそれは拒むよ。絵本の住人には妃に見えているだろうが、儂の体は実際には猫だしね」


 アルレンティスの心配の理由を聞き、笑い飛ばすミヤ。


「そっか……。魔王サーレ、猫とHしなくて済むね」

「儂ではなく、そっちを心配していたんかいっ。マイナス10っ」

「ディーグルも来てるよ。いや、それマイナス多すぎない?」


 アルレンティスが言った直後、空間の扉が開き、亜空間トンネルに身を潜めていたディーグルが現れた。


「魔王の妃役、お疲れ様です。ミヤ様」

「何とも珍妙な配役にしたもんさね。これは嬲り神の悪ふざけなのか、それともダァグ・アァアアか」


 労うディーグルに、ミヤは表情を緩めて尻尾をゆっくりと振る。


(相変わらずミヤ様はディーグル相手だと、気持ちを緩めるな。三百年前から変わらない。)


 ミヤの様子を見て、アルレンティスは思う。


「これからどういたしましょうか?」


 ディーグルが伺う。


「しばらくは流れに委ねる方がいいよ。ま、動きが必要だと思ったら、各自判断で、思うように動いて構わないよ。特にアルレンティス。お前は自分の宿命と向かい合う格好になっているしね」

「本当面倒臭い話だよ」


 ミヤに言われ、アルレンティスは倦怠感を露わにして吐息をついた。

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