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31-3 勇者の正体を当ててみる

 ノアはその光景を見て、唖然とした。その事実を知り、愕然とした。


「じゃあ、長い間お世話になりました。ノア、元気でね。あんまり師匠を困らせちゃ駄目だよ」


 ユーリが別れの言葉を告げる。隣にはお腹の含らんだスィーニーがいる。


 ミヤの家には、ノアとミヤの二人だけ残った――かと思いきや、複数の男が出入りするようになった。皆若く、容姿端麗な男達だ。

 彼等はミヤが呼び寄せた男達だった。


「お前、邪魔だから出ていきな。いつまで経っても悪い子のままだし、破門で勘当だよ」


 イケメンハーレムを築いたミヤが、ノアに冷たく告げる。


 外を歩くと、チャバックもガリリネもオットーもウルスラが、楽しげに会話している。

 ノアを視界に入れた瞬間、彼等は蔑みの視線をノアにぶつけた後、足早にその場を立ち去った。


「皆死んじゃえ! 師匠も先輩も死んじゃえ!」


 泣きながら大声で叫ぶノア。


「何を叫んでいるんだい……。お前は……」

「どんな夢見てたの……?」

「え……? あ……」


 呆れ顔で自分を覗き込むミヤとユーリを見て、ノアは安堵する。広間でいつの間にか居眠りしていた。


「しかもベソかいとるし。恥ずかしい子だね。こっちまで決まりが悪くなる」


 溜息をつくミヤ。


(皆に捨てられて……皆幸せになって、俺だけ独りぼっちな夢……なんて言えるはずがない。みっともない)


 確かに恥ずかしいと、ノアは思った。しかし泣いている事よりも、見た夢の内容が恥ずかしい。


(やっぱり俺は、自分より幸せな人間が許せない。俺だけ置いて幸せになっていったら、師匠も先輩も許せなくなる。でも、そうなりたくない。そんな気持ちを抱きたくもない)


 意識することで、胸にヒビが入るような痛みが生じる。


「ノア、暗い気が出ているよ。収めな」


 ミヤが穏やかな口調で告げる。


「俺から邪気を取ったら何が残るっていうのさ。俺は悪の化身」


 起き上がり、胸を張るノア。


「ノアはいい子だよ」

「そう言われるのが一番ムカつくし心外なんだけど」


 ユーリが微笑みながら言うも、ノアは不服であった。


「師匠も先輩も母さんと同じだね。自分の理想像を俺に押し付ける。俺を型にハメようとする」

「そういうヒネくれた受け取り方をするでない。駄目なものは駄目と言うさ。しかしそれは親身になっているからこそだ」


 不貞腐れるノアを、ミヤが諭す。


「ま、確かに人は理想を追い求めるものさ。だがやりすぎは確かによくないね。妥協も必要さ。人に押し付けるのはよくないよ。儂はノアに、儂の理想像を押し付けているつもりはないけどね」

「理想像の押し付けはともかく、理想とる世界を求めてはいけないものですか?」


 ふとユーリが疑問を抱き、尋ねる。


「やりすぎなければいいと言ったばかりだろうに」

「どの辺に線引きがあるんでしょう?」

「短絡的に答えを求めるんじゃないよ。ユーリの悪い癖だ」


 ユーリの言葉を受け、ミヤは半眼になってユーリを見た。


「人はどこまでいっても愚かで脆く儚いものよ。だから失敗を繰り返し、衝突を繰り返す。だけどね、だからこそ人は素晴らしい生き物でもある。だからこそ大きな喜びもある。最初からぬかりなく賢く、完璧であれば、つまらんよ」


 遠い眼差しで、朗々と語るミヤ。


「ユーリ、お前は世界の悲劇を嘆き、神に怒るが、世の中不完全に出来ているからこそ、人は皆一生懸命頑張って生きているんだよ。弱い者だろうと、手を取り合って、知恵を出し合って、少しでも己の世界を欲しようとしている。世界全てをひっくり返して、よくしなくてもいい。今日と明日くらいがいい日であるように……」

「でも師匠は人ではなくて猫」

「おまけに魔王ですよね?」

「人がいいこと話しているのに、おかしな茶々入れるんじゃないよっ。二人共マイナス2っ。しかも猫差別するなっ。魔王差別するなっ」


 説教中にノアとユーリに茶々を入れられ、ミヤは牙を剥いて声を荒げる。


(師匠は昔から魔王が全て悪いと繰り返し言ってたのにな)


 おかしく思うユーリ。


 呼び鈴が鳴る。


「様子を伺いに来ました」


 来客はディーグルだった。胸に手を当て、優雅に一礼する。


「遊びに来たと言っておけばいいのにね。それと、心配しなくていいよ。最近は落ち着いている」


 ミヤがディーグルの方を見て微笑む。


「ブラッシーとアルレンティスにはもう言ったが、ユーリとノアに儂の正体を告げた」

「アルレンティスから聞きました」


 ミヤの言葉を聞き、ディーグルはユーリとノアを一瞥して言った。


「師匠は魔王だったことを苦しんでいるって、ディーグルさんは知ってる?」

「余計なこと言うんじゃ無いよ」


 ストレートに問いかけるノアに、ミヤが渋い顔になる。


「私もアルレンティスもブラッシーも、存じていますよ。しかし過去は変えられませんし、ミヤ様が魔王となったことが、災いだけを招いたわけではありません。ミヤ様が魔王になったことで、救われた者もいます。アルレンティスのように」


 ディーグルが柔和な口調で言うが、ミヤはますます渋い顔になった。ディーグルが口にしている事は、まぎれもなく彼の本心であろうが、だからこそミヤからすると複雑な心境になる。


「アルレンティスを救ったのはお前だろうに」

「いえ、ミヤ様にも選ばれたからこそ、あの子は真に救われたのです」


 ミヤが指摘すると、ディーグルは微笑みながら断ずる。


「貴方達はどうですか? ミヤ様が魔王だと知り、幻滅しましたか?」


 ユーリとノアに問うディーグル。


「そんなわけないでしょう」

「むしろ格好いいって言ったらマイナスくらいそうで言えない」


 二人が答える。


「言ってるじゃないか。マイナス4っ」

「マイナス多い。ひどいよ師匠」


 ミヤが不機嫌そうにマイナスを飛ばし、ノアは頬を膨らませる。


「まあ今は魔王やめたわけですし――」

「誰がやめたと言った? 隠してはおるがな」


 ユーリの言葉を遮り、否定するミヤ。


「儂はこの前、自分が魔王だとはっきり言ったろう? つまり今も魔王だ。魔王をやめたつもりはないよ」

「つまりまだ世界を滅茶苦茶にしたいの?」


 ノアが尋ねる。


「その気は無いさ。しかし魔王は魔王なんだよ。衰えたとはいえ、儂は依然として玉座に着いている」

「玉座って何です?」


 ユーリがその単語に強い言霊を感じ、尋ねた。


「心の中の玉座にね。まあ、心構えの問題さ。悪事を働かなくても、その矜持は失われないんだよ。お前達に言っても、この気持ちはわかってもらえんだろう」


 ニヒルな笑みを浮かべ、ミヤは言った。


「ミヤ様が心の中で、魔王の玉座にあらせられるからこそ、私達も依然としてミヤ様に従う身なのでしょう」


 と、ディーグル。


「他の八恐もディーグルさんと同じなんだね……って、今は三人しかいないのか。他の五人はどうしているの?」


 ノアがミヤとディーグルを交互に見て、尋ねる。


「他の五人はね、儂が魔王を辞めると言っても、自分達は矛を収めるつもりはないと言った。人類への敵視も止めないとね。だからブラッシーの奴が全員始末しちまったのさ。あいつらには……悪いことしちまったと思っているよ。儂は」


 ミヤがうつむき加減になって言う。


「ディーグルとも別の理由で離別しておったが、こうしてまた側に来てくれて嬉しいものさ」

「勿体無きお言葉です」


 ノアの言葉を聞いて、ディーグルは微笑み奈から軽く頭を垂れた。


「師匠、ディーグルに対しては甘いというか、見る目が違う気がする」

「そ、そうかもね」


 ノアがユーリの耳元で囁く。


「何をこそこそと喋っているか」


 ムッとした顔になったミヤが、弟子二人を見る。


「八恐の他の五人はどんな人?」


 ノアが疑問を口にする。


「確か写真を撮っておられましたね」


 ディーグルがミヤの方を見て言った。


「写真?」

「人喰い絵本の中の技術さ。映像を紙にする機械だよ。今見せてやる」


 ミヤがアポートして、一街の小さな紙を出すと、ユーリとノアの方へと飛ばした。


「それが写真というものだよ。昔、人喰い絵本の中に皆で入った時に、撮ってもらったものさ。一枚だけね」


 ミヤが話している間、写真を見たユーリとノアは絶句していた。


 中心にはおどろおどろしいデザインの冠を被ったミヤがいて、その左右に八人の男が横に並んでいる。ミヤに近い位置にはディーグル、アルレンティス、ブラッシーがいた。


「皆さん、綺麗な顔ですねー……」

「師匠、魔王軍の幹部が趣味丸出しだ。絶対顔で選んでるよね」


 八恐が全員美男子ばかりであることを見て、ユーリとノアは呆れていた。


「ちゃんと能力でも選んでおるわいっ。もちろん顔も大事だから、その選別もしたぞ。魔王なんだから自分の幹部くらい、好きなように決めるわ。それの何が悪いんだいっ」


 ミヤが鼻息を荒くして主張する。


「師匠が魔王なのはともかくとして、師匠と刺し違えた勇者ロジオって何だったの? 魔王である師匠は生きているから、あの話は嘘だったってことだよね?」

「それはまだ秘密にしておこうかね。あまり話したい話でもないんだ。まあ、いつか機会があったら、気が向いたらだね」


 さらに質問をぶつけるノアに、ミヤは何故か懐かしそうな笑みをたたえて言った。


***


 図書館亀内部の大図書館。


「おやおや、貴方様がこの場に現れるとは、珍しいこともありますのん」


 唐突に目の前に現れた和服姿のおかっぱ頭の少年を見て、図書館亀はモノクルに手をかけて言った。


「ここはいい所だね。僕がデザインしたものの中でも、大当たりのいい場所だ」


 少年――ダァグ・アァアアが、延々と並ぶ本棚を見渡して微笑む。


「ハハハ、俺はそう思わねーなァ。辛気臭い場所だ。息が詰まるぜ」


 笑い声と共に、本棚の裏から嬲り神も現れる。


「君のお気に入り、今回もまた呼び込もうと思う」


 嬲り神に視線を向けて、ダァグが断りを入れる。


「おいおい、またジヘ――チャバックを使う気かよ。どんだけ気に入ったんだ」


 にやにや笑いながら肩をすくめる嬲り神。


「彼の魂に特異性を見出したのは君だよ。そして君はそろそろ、あるいはとっくに、あの子の魂の正体に気付いている」


 ダァグが断ずると、嬲り神の顔から笑みが消えた。


「ですねん。嬲り神は真実に近付きつつありますねん。そして小生も、嬲り神を観察しているうちに、真実が何であるか悟ってしまいましたのん」


 図書館亀も嬲り神を見て言い放つ。


「へえ、何だよ。言ってみろよ」

「嬲り神、かつての貴方の親友のヨブのことですのん」


 図書館亀が指摘した言葉を聞き、嬲り神は目を細めた。


「ぎゃはははははっ、ま、それくらいわかるよなあ。ちっと考えればわかるよなあ。それを得意げに言い当ててんじゃねーよ」

「貴方の親友のヨブの魂の横軸こそが、勇者ロジオですねん。人喰い絵本の中にいたあのヨブという子は、あちらの世界ではロジオでしたのねん」


 嬲り神が馬鹿笑いをするが、図書館亀は意に介さず言葉を続ける。


「そして魂の縦軸におきましては、ヨブの魂は現世において、ジヘという子になりましたよん。あちらの世界では、ロジオの現世の魂が、チャバックという子になっていますのん」

「嬲り神は薄々その事実に気付いていた。で、確証を得たかったから、勇者ロジオに関して調べていたのかな?」

「へっ、どーかなァ?」


 図書館亀の言葉を継ぐ格好で問いかけるダァグに、嬲り神はにやにや笑いながらとぼける。


「それはともかくとして、準備は整ったよ」


 ダァグが告げる。


「まさか過去に手がけた絵本を、リメイクすることになるとは思わなかった」

「リメイクされた世界で、魂の扱いはどうなるんだ?」


 嬲り神が疑問をぶつけた。


「魂の縦軸とも横軸とも違う、斜め軸? いや、旧き世界の焼き回しに、新たに魂が派生して宿るのかな? いずれにしもて魂は存在する。魂は宿る。僕の描いた絵本世界はそうなるんだ」


 ダァグの描く絵本に登場する人物は、描かれた時点で命が生じる。魂が宿る。過去の人生も生じる。人以外にも世界が広がっていく。過去の歴史も生まれる。ダァグはそれを制御しきれない。ほぼ自動的に派生する。

 故に、一度描きあげた世界をやり直した場合、魂はどのような扱いになるかという疑問が生じる。同じ人物の魂が再び宿るのか? それとも――


「聞くまでもなく、新たな魂の横軸だろ。斜めなんかねーよ」


 嬲り神が言い切った。 


「しかし今回の実験は興味深いどころの騒ぎではありませんねん。凄まじい試みですのん」


 若干興奮気味の口調で言う図書館亀。


「一度終わった世界を……もう一度、だもんなあ。しかもダァグ、この世界をもう一度絵本にして動かすってことはよォ、間違いなくミヤの奴を意識しているだろ」

「意識していないはずがないよ。そしてもちろん今回は、ミヤも招待する」


 嬲り神に指摘を肯定したうえで、ダァグは方針を口にする。


「そしてチャバックもか。その二人だけか?」

「もう一人招待する予定だよ」


 嬲り神が問うと、ダァグが答え、虚空を見上げる。


「人喰い絵本は滅びゆく世界。でもまだ完全に滅びるには、時間がある。その時間を使って、滅びから救い出す」


 虚空を見上げたまま、ダァグは誓いともとれる宣言を口にした。

ちょっと半端ですが31章はこれで終わりです。

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