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27-13 これが母親らしさで、これが娘らしさ

 マミはノアのいる場所に戻ってきた。


「あら、本当に待ってたのね」


 あぐらをかいて道の真ん中に座っているノアを見て、マミが微笑みながら声をかける。


「うん」


 ノアも微笑み返し、立ち上がる。


「私から解放されて、それで自由を満喫できた? 自分の将来に希望は持てた?」


 嫌味ではなく、和やかかつ自然な口調で問いかけるマミ。


「どっちもイエス」


 微笑んだまま頷くノアを見て、マミの微笑が歪む。


「そう。でも残念ね。私が台無しにしてあげるから。貴女はここで終わりよ」


 一転していつものネチっこい口調に変わり、マミの全身から闘気が立ち上る。


(母さんが物凄く本気だ。本気で俺と向かい合ってくれている)


 その事実をノアは嬉しく思う。例え本気で自分を殺そうとしていても。


「俺は母さんと一緒にいる時、ずっと絶望の中で生きてた。今は違う。そして母さんに負けることもない。あの時の俺とは違う」

「絶望をより深めるものって何だか知ってる? それはね、希望よ。貴女は希望を抱いてしまった。それが絶望のスパイスになるわ」

「ならないよ。俺はいずれ絶望を支配する。俺は魔王になる。それが俺の将来の希望だ」


 マミに負けず劣らず歪んだ笑みを広げ、ノアは宣言した。


「魔王になるとは大きく出たわね」


 マミが目を細める。


 直後、ノアの背筋に寒気が走る。鋭い殺気と共に、マミが魔法を発動させようとしていた。どのような攻撃をしてくるかもわかった。


 ノアが素早く身をかがめる。頭と肩に爆風を浴びるノア。つい今しがたまでノアの頭部があった場所が爆発していた。マミの爆発視線だ。わりと距離が離れていても、睨んだ箇所に小爆発を起こす魔法だ。かつてマミはこれでユーリの頭部を破壊した事もあるし、この魔法で魔物退治をしている場面も、ノアは何度も見ている。


 さらに魔法を発動させるマミ。間断無く魔法を使うことは、若干消耗も激しくなるが、消耗も勝敗も考えずに、ただただ全力で行くつもりでいた。


 マミが魔力を螺旋状に回転させた奔流を放つ。

 ノアは思い出す。かつてはこの攻撃を受けてしまい、自分の体が激しく回転されながら吹き飛ばされたことを。


 ノアは魔力の障壁を前方に作り、マミが放った魔力の螺旋奔流を正面から受けきった。


(完全に受けきっている。本当に強くなったものね)


 先程の戦闘でも思ったが、師匠を変えたことで、ノアの魔法使いとしての力量が激変している事実に、マミは悔しさと嬉しさの両方の感情が湧く。


「同じことしてくるとか、舐めてるのかな?」


 不機嫌そうに問うノア。


「いいえ、そんな気は無いわ。そんなことはもうしない。何もかも、全てぶつけるから」


 真剣な面持ちで告げたマミの台詞を聞いて、ノアの表情も引き締まる。


(母さん、そう言えば俺と向き合う時に本気だったのは、いつものことだったんじゃないか?)


 ふと、そんなことを思う。ノアに魔法の教授をしていた際、マミはあまりいい師とは言えなかったが、それでもいつも真剣だった。真剣だったからこそ、自分が上手くいかなかった時はすぐに癇癪を起こし、罵ったり殴ったりしたのではないかと、ノアはそう思ってしまった。体罰は褒められた行為ではないし、マミは病的にヒステリックだったが、それでも自分を軽んじてはいなかった。


(世の中には、子供に興味が無く、子供に対して淡泊に接する親も多いっていうけど、母さんはそうではなかったんじゃないか?)


 自分が赤ん坊だった頃、マミは育児が煩わしくて全てベビーシッター任せだった事は、ノアも聞いて知っている。うるさくて手がかかるだけで、マミは赤子のノアに一切愛情を抱くことが出来なかったと。

 しかしその後、マミがノアを育てるようになってからは、違うのではないかと、ノアは思う。非常に歪んだ形ではあるが、確かにそこに愛情が存在したのではないかと、ノアは疑い始めていた。


「何ぼーっとしてるの」


 攻撃を防いだ後、ノアが反撃もせずに停止している様を見て、マミは吹切れたように呟き、さらに攻撃魔法を放つ。


 赤い光の矢が大量に現れ、同時に放たれる。軌道はばらばらだ。大きく回り込んでくる矢もあれば、上空に上がってから降り注ぐ矢もある。

 それらの矢を、ノアは見ていなかった。


(母さん、さっきもそうだったけど、顔つき――俺を見る目が――違う)


 ノアはマミの顔を見たまま、魔力の防護膜で全身を覆った。


 光の矢が次々と魔力の防護膜に突き刺さる。刺さる度に防護膜が揺らいでいき、激しい振動が起こるため、ずっと振動しっぱなしだ。そして魔力の矢が刺さる数によって、防護膜全体の魔力が失われていっている。ただ貫くための矢というわけではなく、魔力を大幅に削ぐギミックも施されていたのだ。


(俺が魔力の防護膜を張ることも見越したうえで、そういう攻撃を見舞ったわけだ)


 先の先、裏の裏まで読めと言ったマミの言葉が、ノアの脳裏によぎる。


 ばんっと音を立てて、防護膜が破裂した。遅れてやってきた光の矢が、次々とノアの体を刺し貫く。


 転移で逃げた方が正解だったかとも思うノアだが、転移は魔力の消耗が激しい。場合によっては身に受けて回復なり再生なりする方が、魔力を消費しないこともあるので、その辺の見極めは悩ましい。


 ノアはユーリと会ってから、魔法使い同士の戦いを何度も経験した。魔力を用いて攻撃も防御も移動も回復も担う魔法使いは、基本的に削り合いだ。肉体の削り合いだけではなく、魔力の削り合いという側面もある。故に魔力の使い方は考えないといけない。


(でも母さんは……考えてなくないか? 俺の魔力を削ることは考えているけど、自分の消耗とかお構いなしに攻めてきている。最期だから、全部、空っぽになるまで出し切る気でいる)


 血塗れになったノアだが、倒れることなくマミを見据えていた。そして自身のダメージの回復を急ぐ。


「新しい発見ね」


 ノアの視線を受け止め、マミが微笑む。


「観察力も洞察力も随分と磨かれているようね。私の戦い方を見て、私が自分の消耗やダメージを考えず、全てぶつける気でいることもわかったみたいだし」


 考えていることを見抜いて指摘してくるマミに、ノアは絶句した。


「ノア、貴女は私と離れてからの時間――それなりに戦闘経験を積んだのね。貴女の立ち振る舞いを見ただけで、わかってしまったわ」


 マミはただ思ったことを口にしているだけだが、ノアにとってそれは大きく心を揺さぶる効果があった。


「そろそろこっちからいくよ」


 言うなりノアは、四つの大きな火炎球を生み出し、マミめがけて飛ばした。


(途中で爆発するか、分裂して炎を撒き散らすか、何かしらギミックがありそうだけど)


 勘繰るマミだが、ノアの攻撃を見極める事も無く、さっさと転移して攻撃を避ける。


 マミの転移を見て、ノアは炎球の移動を止めた。マミが防御せず、転移して避けることは予測していた。


 空間が歪み、ノアの後方に現れたマミが、魔力の刃を飛ばす。


 振り返ったノアが、魔力で防護壁を作ったが、マミが飛ばした魔力の刃は魔力の壁を切り裂き、ノアの顔にまで及んだ。

 それを見てマミは血相を変える。


「ちょっとおぉぉぉっ! 何で顔に攻撃食らってるのこの子はあぁぁ! 顔は大事にしないさいって何度も何度も言ったでしょうにーっ!」

「母さんにやられたんだよ……」


 ヒステリックに喚くマミに、ノアは苦笑しながら顔に手を当て、回復を行う。魔力の障壁があった分、威力は削がれていた。


「私にやられたなんて、そんな言い訳通じると思ってるの! 全ては貴女の落ち度! 言い訳は許さなーいっ! ウッキーッ!」

「俺の知ってる母さんに少し戻った。昔の母さんのぜんまいが巻かれた」


 懐かしさを覚えるノア。


「これでいいんだ。母さんはこんな感じでこそ母さんだ」

「これは私の言いつけを守らず、顔を大事にしなかった罰よ!」


 続けて攻撃魔法を放とうとしたマミだが、その攻撃が止まった。周囲に空間の歪みを感じたのだ。


 マミの四方を取り囲むようにして、四つの火炎球が出現する。ノアが転移させたのだ。


(へえ、やるじゃない。転移を用いての攻撃。コストは見合わないけど、私に合わせてくれたってわけね)


 微笑ましく思い、マミは穏やかな表情でノアを見る。


 次の瞬間、火炎球が四つ揃って爆発し、マミがいる空間一帯が荒れ狂う業火に包まれた。

 マミは魔力の防護膜で身を包んでいたが、発生して熱エネルギーは防護膜を突き抜けて、マミの体を焼き焦がした。常人なら即死するであろう高温だ。

 崩れ落ちるマミ。動きが完全に止まる。意識が飛んでいた。


 ノアはこの機を逃さず、追い撃ちを見舞う。重力弾を複数作り、マミの元に飛ばす。


 重力弾が影響を及ぼす直前で、マミの意識が戻る。そして転移して重力弾を避けた。


「やるじゃない……。本当に……貴女は強くなった。戦い方も、とても素晴らしいわ。誇らしくさえ感じる」


 体の表皮も内部もこんがりと焼かれたマミは、魔法で急ぎ再生しながら、ノアを称賛する。


「母さん……さっきからずっと俺のこと、変な顔して見ているよ」


 さらに追撃はしようとせず、ノアは話しかける。


「どんな顔なのよ……」


 再生と回復を行いながら、マミはノアの台詞を聞いて訝る。


「まるで子を見る母親みたいな顔で見ていた」

「馬鹿じゃないの? ったく……何を言うかと思ったら……」


 ノアが口にした台詞に、また自然と笑みが零れるマミ。


「母さんのこと、凄く母親らしいと感じるよ。俺の母さんなんだって感じるよ」

「そう。私も貴女のことを、凄くノアって感じる。私の抑圧から解かれた、本当のノアを見られて、凄く嬉しいと感じるわ」


 互いに微笑みながら心情を吐露しあう。


「また新しい発見だわ。ずっと一緒だったのに、私のノアの知らない一面がいっぱいあったのね」


 もっとノアのことを見てやればよかったと、もっと知りたかったと、マミは思う。


「何度も殺し合って、母さんはやっと、俺に対してそういう気持ちが芽生えた。母さんのぜんまいを巻くことが、俺との殺し合いだった」


 ノアが穏やかな口調で言い、まだ回復しきっていないマミの頭上に、複数の重力弾を転移させた。

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