27-6 敵の望みをこちらから叶えてみた
一日経過して翌朝。連盟議事堂前に、多くの人だかりが出来ている。ほとんどは上流階級の者だ。重大な発表があると前日の夜に伝えられていて、何があるのかと見に来て次第である。
その中には連盟議員も多くいた。議員の多くは何も知らされていない。
連盟議長のワグナーが壇上に上がる。
「本日、ア・ハイの歴史は再び塗り替えられる。貴族による共和制は排除し、王制を復活させる」
ワグナーの一声を聞き、場は騒然となる。
「議会も通さずにそのような決定を行うとはどうなっているのだ!」
「誰にそのような決定権があるというのです。断じて認められません」
「ワグナー議長にその決定権があるというのですか?」
議員達が声を荒げる。
「私が決定したわけではない。この国の意思が決定した」
自分でも言ってて滅茶苦茶だと思いつつ、ワグナーは言い切る。
(どんな不条理だろうと理不尽だろうと、ミヤ様には逆らえないのだ。ミヤ様がその気になったら、貴族には抑えることが出来ん。魔法使いを抑えるためには魔法使いしかいないが、ア・ハイ最強の大魔法使いのミヤ様を抑えられる者などいない)
ワグナーはその事実を見ているから、ミヤには決して逆らわない。ミヤが政治に圧力をかけるような真似をした事は、これまでワグナーの記憶に無いが、実際に彼女が何か要望を出してきたら、従うしかないと受け止めている。
そしてワグナー自身、ミヤの考えに賛同していた。ミヤの考えを全て聞いたわけではないが、この強引な決定がこの先何を意味するか、わかっていた。
「この国の意思とは何です!?」
「まさかこの国には黒幕がいて、その者の決定であるとか……」
「何にせよ議会を通さず、議長がこうしますと口にして、それで通ることは――」
「通さずにはいられないのだ! 議論の余地もないのだ! 王制を反対すれば、その者達は皆殺されるからな!」
貴族の一人の言葉に被せる格好で、ワグナーが大声で言い切ると、場が静まり返った。
(王制復活に反対する者殺す役割は、K&Mアゲインがする。自然とそういう展開になる。それが抑止効果となる。わざと先に敵の思い通りの展開にして、敵をも利用するとは、ミヤ様もとんでもない手を使う)
ワグナーは恐々としていた。K&Mアゲインに王制反対の粛清を行わせると、ミヤは明言していない。だがミヤにその計算が働いていないわけがないと、ワグナーは見る。ワグナー自身もすぐに思いついたからだ。
「それでは魔法使いにして王家の血を引く、シモン・ア・ハイ殿の御登壇っ」
貴族の一人が声をあげると、冠を被り、いかにも王らしい豪奢な服装を大男が現れ、壇上に上がっていく。
「拙僧――じゃなかった。え~……余が新たなア・ハイの王となる、シモン・ア・ハイである。皆の者、よろしくのお。仲良くやっていこうなあ。カッカッカッカッ」
威厳もへったくれもない気さくな挨拶を行うシモンを見て、不安になる者もいれば、憮然とする者もいた。しかし好印象を覚えた者もそれなりにいる。
「えー、取り敢えずだ。余はこの国の格差を失くすため、貴族の溜め込んだ金を放出させる。ま、ある程度な。破産するまで出せとは言わんよ」
しかし好印象を抱いた者達も、多くはこの宣言によって反発へと裏返った。
「それとだ。魔術師ギルドも復活させるぞ。魔術師、魔法使いを弱体化させたが故、国の弱体化に繋がったのだからな。ア・ハイは魔道強国にすべきであーる。カカカカカッ」
明言するシモン。少し前ならともかく、この主張に反発する者はもういない。魔術師不足がエニャルギー不足へと繋がり、それが民の不満に繋がったのだから。そして魔術学院が復活した今、当然ギルドの存在も必要とされる。
「現在のア・ハイの惨状は、貴族の無策と専横と搾取と弾圧が招いた結果である。K&Mアゲインなる組織が台頭し、貴族撲滅を訴えるも自然の流れぞ。もし従わぬというなら、拙僧――もとい余はいつでも降りるぞ。その代わり、貴様等貴族はK&Mアゲインによって虐殺されるであろうな。前回は何とか止められたが、今回も止められる保証は無いと知れ」
「お、脅しているのか?」
シモンの言葉に対し、選民派の貴族の一人が震え声で問いかける。
「そうなるであろうという予測である。K&Mアゲインの主張、余は全てを否定せぬ。貴族の粛清には反対するがな。そのような非道を起こさせないためにも、我々の方で先に王制を復活させることにした。これは良い手であろう。少なくとも民の不満を抑え、この前の一揆のような犠牲を出さずに済む」
そう言ってシモンは、壇上の周囲に集まる者達を見渡した。その大半は貴族だ。
「皆に問おう。王制が今再び敷かれて、それで何か深刻な不都合がある者が、ここにいるのか?復興のために金を出すのが嫌なのはわかるがな。王制の復活に関しては、具体的に何が不都合となるか、言える者がいるのか? 王制が廃されたのはもう三十年も前の話よ。そもそも三十年前の革命にどれほどの意味があったというのか。今の腐敗した在り方が三十年前の革命を起点としているなら、正した方がよいというものよ」
演説を一旦区切り、シモンは衆目の反応を伺う。
「私は王制復権に賛成する!」
貴族達の中で、大声で賛同の意を示す者がいた。声をあげた者を見て、どよめきが起こる。選民派の最右翼と知られている、カイン・ベルカ議員だったからだ。
「そして私は選民派から正道派に鞍替えする! 長い間……ずっと悪い夢を見ていたようだ。蝉になっていた夢を見ていた……」
カインの台詞を聞いて、周囲の貴族達の何人かが苦笑いを浮かべる。
「私の妻は平民の一揆に殺された。故に憎しみに駆られ、正道派から選民派になった。しかしその平民を暴動に仕向けた原因は何だ? 貴族の圧政だろう! このまま同じ体制が続けば、平民も貴族も延々といがみあい、等しく悲劇に見舞われることになるぞ!」
力強く訴えるカインの言葉に、正道派の貴族達の心は震え、何名かの選民派の貴族達の心が激しく揺れた。
「もう一度言う」
ワグナー議長が発言した。
「K&Mアゲインの理想はともかくとして、彼奴等は暴動を引き起こす等として、ア・ハイを乱す行いをしている。それを防ぐための王制復活だ。不服があろうと、従ってもらう。これが最良の手であるからな」
穏健で知られるワグナー議長が断固たる口調で言い切ったので、貴族達は言葉を失くした。
一方、シモンは内心うんざりしていた。
(なーにが王様じゃい。拙僧はそんなもん断じて御免だからのー。ま、師匠の要請でもあるし、今は付き合ってやるけどな)
一段落ついたら、隙を見て逃げようと考えているシモンであった。
シモンの演説は、群衆から少し離れた場所で、ミヤ、ユーリ、ノアの三名も聞いていた。
「K&Mアゲインと戦う理由はこれで無くなった?」
ノアがミヤを見て口を開く。
「魔術学院を復活させ、王制を復活させ、魔術ギルドも復活予定だ。全てK&Mアゲインの目的に叶っているが、まだあいつらの目的は残っている。貴族撲滅を唱えている時点で、まだ戦いは続くさ」
ミヤがかぶりを振って言う。
「貴族の皆殺しも悪くないよね。放っておけば?」
「そうはいくかい。お前は何を言ってるんだ。マイナス1」
ノアの発言に呆れるミヤ。
「しかしこんな風に王制復活を強行したら、一段落した後に、選民派の貴族達は今後も反発しまくるんじゃないでしょうか? そこでまた争いが生じますよ」
「それはどうだろうねえ。反発はするだろうが、衝突するかどうかは疑問だよ」
危惧するユーリに、ミヤは私見を述べる。
「前回の騒動の時点では、王制を再び敷くのは無理だったろうよ。民衆の共感も得にくかったろう。しかし一度暴動に発展して大勢の命が失われ、K&Mアゲインの目的に沿う形で魔術学院も復活し、ここにきてまたK&Mアゲインが何かをやらかそうとしている今であれば、賛同も得やすくなる。下地が出来ている」
「魔術学院は受け入れられたから、ついでに王制も受け入れるってことですか」
そんなに上手くいくのだろうかと、ユーリは懐疑的だった。
「魔術学院が出来ても、エニャルギーがすぐに安くなるわけでもないし、貴族共の腐敗が無くなったわけでもないからね。そこで王制も復活させ、より民を安心させる方向に家事を取れば、効果はあるさ」
ユーリは懐疑的だったが、ミヤは自身の思い描く理想のヴィジョンが、現実になるだろうと思っていた。
(王制復活に反対する奴等はどうなってもいいけどね。見せしめのために、K&Mアゲインが反対派をある程度粛清してくれればいいくらいだよ)
ワグナーの読み通り、ミヤはちゃんと計算していた。もちろんそれは、誰の前でも口には出来ない。
「ところでK&Mアゲインは、これだけ望みが叶ってもなお、貴族撲滅に躍起になりますか?」
「組織内部の事情はわからんし、人にもよるかもしれん。しかし――アザミは諦めないはずさ。三十年前、家族や友人を革命で殺されたあいつは、貴族に復讐しないと気が済まんだろう」
さらにユーリが口にした疑問に対し、ミヤは確信を込めて言った。
***
正午前。K&Mアゲインのアジト。アザミ、ジャン・アンリ、シクラメ、ケープ、ロゼッタ、マミ、ミカゼカが会議室で顔を突き合わせている。
彼等が集まった理由は一つ。朝、貴族連盟が王制を復活させるという宣言をして、王家の血を引くシモン・ア・ハイを新王として擁立したことだ。
「聞いての通りだが、まさか貴族共の方から、自分達で廃した王制を蘇らせるとは、これは些か所ではなく、驚きの事態として受け取ってよろしい」
ジャン・アンリがまず切り出す。
「もう三十年も経っているし、時代は変わっているんだヨ。情勢を鑑みたら、それも有りだと判断したんだろうサ」
と、ミカゼカ。
「ケッ、シモンを王にするのだって、元々はあたしらがやろうとしていたことだぜ」
テーブルに両脚を投げだしたアザミが、つまらなさそうに言う。
「ミヤの案かなあ? ミヤは流石だねえ。争いを、流血を避けるために、意地を張らずにあえて僕達の方に合わせて来たんだよう。でもさ、僕はこうも思うんだよねえ。ミヤも実際は王制の復権を望んでいたんじゃないかなあって」
シクラメの推論に、異を唱える者はいなかった。密かに望んでいたことであるから実行したと考えれば、割と辻褄が合う。
「まずは選民派の貴族を皆殺しにして、それから王を立てるつもりだったが、あいつらに順番を狂わされちまったな」
「その言い方だとアザミ、君は狂わされた順番に従う形で予定は進めると、そう解釈してよろしいか?」
「ああ、そういうことだ。貴族共は殺す。その方針は揺るがねえ」
ジャン・アンリの確認に、アザミは力強く宣言する。
「それでいい。やりたい放題した報い。そして今後の見せしめのためにも、それは必要事項とする」
淡々と同意するジャン・アンリ。
「アザミの場合、私怨の復讐も加算されるよう」
「だから何だよ糞兄貴。それが悪いってのか」
「まあ、今更だよねえ」
アザミがシクラメを睨むが、シクラメはにこにこと笑ったままだ。
「王制を戻した今がいい機会だ。ついでに選民派の貴族共をぶっ殺しまくれば、民衆だって喜ぶだろ」
「その行為は、王制に利用されちゃうかもしれないネ」
うそぶくアザミに、ミカゼカが否定的な言葉を口にした。
「私達を討伐対象にして、その手柄を新王のものとするという意味ですね」
「そうだヨ」
ケープが言うと、ミカゼカが頷いた。
「そうはさせねーよ。こっちだって準備整えてあるんだからよ」
拳で平手を叩くアザミ。
(しかしやりづらくなったのは確かだ。貴族共が王制を擁立したことで、ガス抜きと期待へと繋がり、民衆を扇動するのはほぼ無理なのではないか? 溜め込んだ不満と、未来への絶望こそが、暴徒を生み出すというのに。民衆による貴族の鏖殺は期待できないと見てよろしいか。つまり我々だけで実行しなくてはならない。我々だけで貴族に襲いかかるとなると、不都合が多いとしよう)
一方でジャン・アンリは現在の状況を芳しく思っていない。
(民衆が参加すればそれだけ貴族側の戦力も分散できる。さらに、K&Mアゲインに民衆の支持があれば、その後もやりやすい。しかしどちらも期待できなくなってしまった。先んじて王を擁立するという手で、潰されてしまったと、断じてもよいのではないか?)
まさか敵側が王を立てるなどと思ってもいなかったが、実にいい手だと、ジャン・アンリは感心していた。
(このアザミという女、私情に走りすぎてるように見える。暴走して自爆して終わるんじゃないかしら? ま、どうでもいいけど)
一方マミは、組織の棟梁であるアザミが私怨丸出しで貴族と相対している事に呆れ、ろくでもない末路になりそうだと見ていた。
(私はこいつらが引き起こす騒動を利用して、ノアと遊べればそれでいいんだし。いや、こいつらの目的が貴族の殺害なら、それに乗じて私も楽しめるわね)




