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24-22 自白魔法は便利だな

 大幅に損壊したファユミの屋敷。


「これからどうなる? いや、俺達はこれからどうすればいい? 出来ることはあるのか?」


 オットーがディーグルの方を向いて尋ねる。彼がこの場にて一番頼れる存在であり、リーダー的なポジションだと、自然に見なしていた。


「戦闘に自信の無い人は大人しく下がっていてください。ただし、チャバック君だけは別です」

「オイラ?」


 ディーグルに名指しされたチャバックが、ぽかんとした顔になる。


「貴方はジヘ君の父上、及びアリシアさんと、繋がりがあります。あの二人を元に戻すために、彼等の心に訴える役割を担って頂きます」


 ディーグルが役割を伝えると、チャバックは緊張して顔が強張った。


「洗脳された人を説得する呼びかけ展開か」

「ありがちな話ですが、実はとても効果的なのですよ」


 オットーが言うと、ディーグルは微笑を浮かべた。ディーグルが過去に似たような事をしたうえで、確信しているかのように、オットーの目には映った。


「わかった、オイラ頑張るようっ。アリシアもジヘパパも元に戻すからっ」


 気合いを込めて宣言するチャバック。


「私は町の被害をできるだけ抑えるため、あれらと戦ってきます」


 ディーグルが言った。


「一人で?」

「はい」


 ガリリネが問うと、ディーグルは微笑みながら頷いた。


「ミヤ様達と合流したら、何かしら合図を送って頂けますか?」

「了解」


 ディーグルに頼まれ、ガリリネは頷いた。


***


 ミヤ、ユーリ、ノア、サユリ、アルレンティス=ムルルンの五名は、ケロンの屋敷へと向かった。


「ケロン達はそこにいるの? 出かけているとかない?」」

「はん、ケロンとフレイム・ムアが屋敷にいる事は、予め使い魔を放ってチェック済みだよ」


 ノアが伺うと、ミヤが答えた。その直後、ミヤの頭の上に一瞬ハツカネズミが現れ、すぐに消える。


「猫の使い魔が鼠とは実に合理的でして」

「えー? そんなのだめなのー。ミヤ様、いざという時に使い魔を非常食代わりにしたら駄目なのー」

「誰が自分の使い魔を食うかいっ。ムルルンはサユリの妄想を真に受けるんじゃないよ。二人ともマイナス1っ」

「ぶっひぃ、今のでマイナスとは理不尽なのだ」

「うわーん、ミヤ様にポイントマイナスされちゃったのー。悲しいのー」

「そういえばアルレンティスの他の人格はともかく、ムルルンのポイントを引くのは珍しいことだね」


 サユリ、ムルルン、ミヤが喋っていると、五人はケロンの屋敷前に到着した。


「おお、いい所に来てくれた!」


 敷地に入る前に庭の門が開き、大慌てで出てきたケロンが、ミヤとユーリの顔を見て歓喜の表情になった。


「フレイム・ムアが裏切った! 奴こそがこの状況を招いた張本人だ! あいつは精霊とずっと繋がっていた。そして精霊を依代に降ろして、力を与える研究をしていたのだ。あいつ自身にも精霊を降ろしているっ!」

「ユーリの読みが当たったようだね。ポイントプラス1やるよ」


 必死の形相で喚くケロンに、ミヤが笑いながら言った。


「ぶぅぼぼ……ぶぼ……来たか……異界の者共」


 ケロンの後方から、異様な気配を伴ったフレイム・ムアが現れた。


「ひいぃぃっ!」


 情けない声をあげて、ミヤ達の後方にあたふたと回り込み、逃げていくケロン。


「ぶぅぼぼだって。サユリとキャラかぶってるよ?」

「サユリさんはぶひーである。全然違いまして。一緒にされるとか失礼極まりないのである」


 フレイム・ムアの唸り声を聞いてノアが言うと、サユリはふくれっ面になって否定した。


「良いタイミング……。良い実験が出来る……。ぶぼぼ……。この町を守護するために人柱にした者達の霊体を降ろした私と、異界の者との衝突で、力を計れる……」


 ミヤ達を見渡し、フレイム・ムアが静かに闘志を滾らせる。


「殊勝な心掛けじゃないか。どの世界も術師って奴は、研究者であり、探究者であり、求道者ってことだね。無論、儂等魔法使いも」


 フレイム・ムアの発言を聞いて、ミヤが不敵に笑う。


「研究者でもやっていいことと悪いことがあります」


 ユーリが真顔で言うと、真っ先に仕掛けた。魔力をドリル状にして拘束回転させながら、フレイム・ムアめがけて伸ばしていく。


 フレイム・ムアは両手をかざし、内なる魔力を前方に解き放ち、ユーリの魔力ドリルを防がんとする。


 二つの力が衝突し、空間が軋み、魔力の余波が四方八方に飛び散る。

 フレイム・ムアの力が勝り、ユーリの魔力ドリルが霧散した。


「ぶっひぃ。あれは魔術ではなく、魔法と呼んでいいのだ。呪文も印も触媒も無く、魔力を意思だけでコントロールしているのだ」


 サユリがフレイム・ムアの魔力の扱い方を見て言った。


「ふん、しかしフレイム・ムアの力の使い方は、効率がよろしくないよ。素人丸出しというか、大きな力を手にして酔っているのかねえ」

「ユーリは流石なのー。魔力を上手に扱っているのー」


 ミヤは攻撃を防いだフレイム・ムアを評価せず、ムルルンもユーリの方を評価していた。


「ぼぼ……次はこっちから……」


 フレイム・ムアが魔力を解き放つ。


 魔力の変換が行われ、何らかの現象へと変わったと、ユーリは実感した。しかし完全に魔力が消えるわけではない。炎になろうと、冷気になろうと、念動波になろうと、魔力は微かに帯びている。そうでなければコントロールが出来ない。


 ほのかな熱風がユーリに届く。この風を浴びれば、肉体に大きな悪影響が生じると判断し、ユーリは全身を薄い防御膜で覆う。

 ケロンの部下の兵士達の全身を爛れさせた力であったが、ユーリは完全に防いだ。しかしフレイム・ムアは動揺しない。


「ぶぼ……ならば、少し強くいく……」


 同じ熱風を再度放つフレイム・ムア。


「うぐっ……」


 ユーリが小さく呻く。全身に痛みが生じる。今度は防げなかった。ユーリの手が、顔が、喉が爛れだす。服の下も爛れている。肌だけではなく、内臓も爛れている。


(この人……力の使い方はともかくとして、魔力は相当に強い)


 常人なら致命傷を受けるダメージを負ったユーリが、再生させながらフレイム・ムアを見る。爛れただけの肉体は、再生させるには容易かった。


「ていうか先輩がタイマンする流れ? 俺も遊びたいんだけどさ」


 ノアがミヤの方を向いて伺う。


「勝手にすればよいて。ユーリ一人に任せたわけじゃないよ。儂等五人で袋叩きにしても別に構わん」

「そっか。じゃあ俺もいくよ」


 ミヤに言われ、ノアも攻撃を仕掛けた。


 大量の火の礫が、フレイム・ムアの真上から降り注ぐ。


「ぶひ? 無駄の多い攻撃? いや……違いまして」


 広範囲に降り注ぐ火の礫は、そのまま落下すればただの無駄な攻撃になったが、途中で軌道を変え、フレイム・ムアに狙いを定めて向かっていった。


「ぼぼぉぼぶ……支配……奪ってみる……」


 フレイム・ムアが一言呟くと、全ての火の礫が空中で止まった。


「へえ……」


 感心と呆れが入り混じった声をあげるノア。火の礫の制御が出来なくなっていた。全ての火の礫の制御が、フレイム・ムアに奪われた。


「ぶぼぶ……こんなことも出来るのか……」


 自分で自分の力に驚きながら、フレイム・ムアは火の礫を五人に向かってお返しする。


「やっぱり馬鹿だね、こいつは……」


 飛来する火の礫をピンポイントで防ぎながら、ミヤは嘆息していた。


「力のロスが激しいこともわかっていないのー」

「力に溺れているのだ。哀れな輩である」


 火の礫を避け、ムルルンとサユリも呆れながら言った。相手の魔力の攻撃を奪って、自分のコントロール下に置くということは、原理上は可能だ。やろうと思えばムルルンとサユリはもちろんのこと、ノアやユーリにも可能である。

 しかしそれは、相手の力を大きく上回る力で上書きして、強奪することであるから、魔力もそれなりに消耗する。そんな真似をするくらいなら、普通に防ぐか回避した方が良い。


「まあ、相手の術や魔法の攻撃の奪取に長けた魔法使いってのも、過去に見たことがあるけどね。そういうのを極めた奴ならともかく、こいつはそうじゃない。有り余る力の使い方がよくわからず、手当たり次第に試しているだけだ」


 ミヤもフレイム・ムアに呆れていた。これは戦闘だ。しかしフレイム・ムアは戦闘を戦闘と見ず、手に入れた玩具を試して遊んでいるだけだ。


「実験と称して試すにしても、限度があるよ。ま、いずれにせよ儂等五人を敵に回して、勝ち目は無いんだけどね。こっちは遊んでいる暇は無い。ユーリ、ノア、とっとと片付けておしまい」

「わかりました」

「合点」


 ミヤに促され、ユーリが魔力の矢を、ノアが過冷却水のビームを放つ。


「ぶぶぶぼぼぼぶ……」


 フレイム・ムアは魔力で半球状の防護壁を作って自身を包み、二人の攻撃を防ぎ切る。


「固いね。魔力だけは有り余っているから、手を考えないと」


 ユーリがフレイム・ムアを見て言う。


「このまま根競べも芸が無いし、こっちも疲れるな」


 ビームを放ち続けながらノアが言った。その間、フレイム・ムアも魔力のバリアーを張り続けている。


 突然、フレイム・ムアの体に凄まじい圧が加わり、地面にうつ伏せに倒された。バリアーもガラスのように砕け散って消えた。

 巨大な肉球マークが地面につき、その中心には、地面にめりこんで、ぴくりとも動かないフレイム・ムアの体がある。

 ミヤの念動力猫パンチであること一目瞭然だった。ただ物質的に圧殺するだけではない。潰した者の魔力を強制放出及び霧散させてしまう力も備わっている。つまり、再生のための魔力も根こそぎ消してしまう。


「ちんたらしおって。儂はとっとと片付けろと言ったよ。とっとと片付けるとは、こういうことだ」


 ミヤが小気味よさそうにうそぶく。ユーリが苦笑して、ノアは憮然としてミヤを見る。


「師匠、絶対狙っていたよね。俺達に任せるみたいに仕向けておいて、いきなりとどめをかっさらうとか。凄く意地が悪いよね。マイナス2。痛っ」

「師にマイナスつけるなと何度言わせるか。マイナス1」


 ぶーたれるノアの頭を、ミヤが念動力猫パンチで小突いた。


「ミヤ様は雑魚みたいに言うけど、中々強かったとムルルンは思うのー。でもミヤ様の敵じゃないし、この人数相手では負ける気がしないのー」

「魔力だけなら上位魔法使いくらいの力はあったのだ。しかし何度も言うが、力の使い方をわかっていない愚物では話にならないのだ」


 ムルルンとサユリが評価する。


 ミヤが潰れたフレイム・ムアに近付いていく。死なない程度に手加減はしておいた。しかし魔力は根こそぎ失い、最早戦闘不能だ。


「何でこんなことしたんだい?」


 ミヤがフレイム・ムアの頭の側で声をかけると、フレイム・ムアは土のついた顔を上げた。


「ぶふふぶぅ……精霊を名乗るあの死霊達の力を、より強く引き出す方法を研究していた。封印を解き、依代に入れることが、互いの精神とリンクして……力を……強さを引き出せるとわかっていた……」

「だから何でこんなことをしたと、動機を聞いているんだよ」

「ぶぼほ……愚問。私は術師であり、研究者。この世の秘密――理――叡智を追及し続ける……。それだけの話だ」


 ミヤの問いに、フレイム・ムアは淡々と答えた。


「精霊達を儂等にけしかけたのはお前の仕業かね?」


「そうだ……ぼぶぼ……」

「それも実験かい? 力試しのつもりだったのかい?」

「ぼぼ……そうだ。お前達は……邪魔者であると同時に、実験の成果を試す素材としても……最適……。力有る者相手に……存分に力を振るえるからな……」

「そうかい。精霊を依代から引きはがす方法を教えな」


 ミヤが問うと、フレイム・ムアは上げていた顔を地面につけ、小さく笑う。


「ぼぅ……ほぉっ……誰が……喋るか……。拷問したければしてみるがいい……。絶対に……喋らない……」

「散々色々と喋っておいて、それは喋らないんだ」


 フレイム・ムアの言葉を聞いて、ノアが突っ込む。


「悪い奴ってのは大抵お喋りなもんだよ。孤独なのさ。そして性格が悪くて意地悪でもある。自分のやってきたことは得意げに話すが、相手が望むことだとわかったら、それは教えたがらない。これまた大体似たようなパターンだよ」


 ミヤが言った。


「でもそれは所詮小悪党。真の悪であり、悪の中の悪である俺は、そんなこと絶対無いから」

「それ、いつまでやるつもりなんだい?」


 胸を張って言い切るノアに、ミヤは呆れる。


「ま、魔法で口を割らせるから問題無いさ。儂の魔法に抵抗できるものならしてみるがいい。絶対に喋るさ」


 そう言ってミヤが自白の魔法をかける。フレイム・ムアの表情が虚ろなものへと変わる。あっさりとミヤの魔法にかかったのだ。


「精霊を依代から引き戻す方法は無いの?」


 ユーリが尋ねた。


「ぶほ……あるぞ。依代を殺害することだ」

「生きたまま剥がす方法は無いのー?」


 今度はムルルンが尋ねる。


「ぼぶぶ……これを使えば……出来る。特殊な呪符……」


 そう言ってフレイム・ムアは、懐から呪符を取り出した。


「ぶぼっふ……ぼぉ……一人分しかないがな……。作るには、二ヶ月かかる……ぶおぶぅ!」


 ミヤが前脚で呪符を取り上げると、フレイム・ムアの頭に念動力猫パンチを見舞って黙らせた。


「ぶひぃ……ミヤは本当に血も涙もないのだ」

「ミヤ様を怒らせるとこうなるのー。怒らせちゃ駄目なのー」

「血も涙もあるし怒ってもいないよ。何となくムカムカしたから小突いただけだ」

「怒ってないと言った直後に、怒ったこと認めてますよ……」


 サユリ、ムルルン、ミヤ、ユーリがそれぞれ言う。


「脱出するための最短ルートは依代の殺害だけど、物語を悲劇から救うための終わり方ではないね」


 ミヤが小さく息を吐く。


「アルレンティスが言っていたバッドエンドルートになっちゃいそう」


 肩をすくめるノア。


「精霊を斃すことが人喰い絵本の修正条件で、そのためには精霊さんに力を与えている者達を全て殺害するのが最短ルート……だと思うのー……」


 ムルルンが悲しげな表情で、私見を述べた。


 五人は屋敷を離れる。


「どうなった?」


 屋敷からかなり離れた場所から、ケロンが戻ってきて声をかけた。


「ケリはつけた。すまないが、お前に与するのはここまでにしておくよ。まあ、情報が欲しいから身を寄せていただけの話だし、もうその必要は無さそうなんでね」


 ミヤが言った。


「糞っ、フレイム・ムアは私を謀っていた……。私を不老にするという話も嘘だった……。何もかも悪い方に向かっていく……。私が何をしたというのだ……」


 ケロンは悔しげにうなだれ、呪詛に満ちた声で愚痴る。


「私は……努力を惜しまなかったのに……私は……町のために頑張ったのに……私はどうやっても幸福になれない……」

「金持ちになったし、この町でぶいぶい言えるようになったし、それで幸福なんじゃないの?」

「それだけでは足りんっ」


 ノアが言うと、ケロンは顔を上げて否定する。


「そもそもお前は幸福の正体がわからんのだろうな。一時の快楽は得られても、それを幸福とは受け取れん」

「そう……かもな……」


 ミヤの指摘に対し、ケロンは自虐的な笑みを浮かべる。


「昔の悪友が言っていた。幸福は他人を踏み潰して不幸にした分、得られるものだ。他人の不幸の上に築くものだとな。三流悪役丸出しの台詞であったし、真理の一面ではあると思ったが、あいつが正しかったのか? 私もそうすればよかったのか?」


 ケロンの言葉を聞いて一同呆れる。


「貴方は散々他人を不幸にしてるじゃないか」

「どこがだ! 私ほど他者に尽くした者はいないだろうに!」


 ユーリが指摘すると、ケロンは本気で言い返す。


「アリシアの両親を殺して、アリシアを悲しませ、アリシアも自分のために殺そうとしていたくせに? しかも貧乏人集めてデスゲームさせておいて?」


 今度はノアが呆れて指摘する。


「はああぁぁっ!? その程度も駄目だというのかッ!? 頑張って町に尽くした私が、その程度のことで非難されるというのか!? ふざけるな! いい加減にしろ! げふ!」

「いい加減にするのは貴方だよ」


 いい加減頭にきたユーリが、拳でケロンを殴り飛ばした。


「いいパンチだったのだ」

「ユーリも怒ると怖いのー」

「ふん、キレるんじゃないよと注意したい所だが、今回は見なかったことにしてやるよ」


 サユリとムルルンが微笑み、ミヤが鼻を鳴らす。


 鼻血を出して倒れたケロンに、ノアが冷たい視線を向ける。


(俺は自分より幸福な人間の存在は、一人として許せない。こいつは俺より幸福なのか? それでいてなお、多くの人間を踏み潰して、さらに幸せになろうとしていたのか? そうかそうか、つまりこいつの存在……俺的には絶対許せないね)

「とっとと行くよ。もうこんな奴に構わなくていい」


 ケロンを見下ろして殺意を漂わせていたノアを見て、ミヤが促した。

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