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24-16 ブレることが悪いことだなんて誰が決めた?

「察しがついている? ケロンは何をしようとしているんだ? アリシアを狙っていることは知っているが、その目的までは俺も知らないぞ」


 ミヤの言葉を聞き、不審な顔になる精霊さん。


「精霊さんも知らないんだね」


 ユーリが精霊さんを見て言った。


「ケロンには中々近づけないし、害を及ぼすことが出来ない。あいつに仕えるフレイム・ムアという術師が、万全の対策をしているよ」


 そして精霊さんが通じているフレイム・ムアも、精霊さんに何も教えてくれなかった。


「あの手の権力者や資産家が最後に望むことは、大抵パターンが決まっている。不老不死。もしくは愛情。あるいはその両方だ。資産家の場合は、承認欲求を満たすために権力を欲したり、慈善事業に手を出したり、論壇に立とうとしたりもするね」

「何か……動物の習性みたいに言いますね」


 ミヤの言葉を聞いて、ユーリは笑いそうになった。


「それがアリシアと何の関係があるんだ?」


 精霊さんが問う。


「アリシアを犠牲にして不老を得ようとしているんじゃないかい? 人柱を使って街を護る術があるのなら、人を犠牲にして人を生かす手立ても研究するだろうよ。自分の血を引いている者で、しかも精霊に力を与える力を持つ子なら、それも可能ではないかと、そんな風にこじつけそうなもんだ」

「そんなこと……許せない」


 ミヤの推測を聞いて、精霊さんは怒りに顔を歪めた。


(師匠、その情報を精霊さんに与えてよかったんですか? 悪い作用に働く可能性もありますよ)


 念話で確認するユーリ。


(儂も危惧したさ。でもこの場合、伝えた方がいい。アリシアが狙われているなら、アリシアを大事に想うこの子には、それを知る権利があるし、護ることもできるだろ)

(なるほど……思慮が足りませんでした)


 ミヤに理由を言われ、ユーリは納得する。


「ま、あくまで儂の推測だがね。本当にそうかどうかはわからん。後でケロンに探りを入れて確かめてみるよ」


 ミヤが告げた。


「他の精霊も、君と同じ? 元は人の霊?」

「色々かな。実際の自然物に宿った本物の精霊もいれば、俺と同じく人柱にされた霊もいるし、成仏できない亡霊もいる。アリシア達には全部ひっくるめて、精霊だと言い聞かせているし、そう思っている」


 ユーリの質問に、精霊さんは正直に答えた。


「もう一度訊きたい。精霊さんは何がしたいの? 復讐? アリシア達を助けること?」


 先程のミヤと同じ質問を、あえて再度ぶつけるユーリ。


「その両方と、この都市を護ることかな」


 またしても正直に答える精霊さん。


「俺は……このシャクラの町のために人柱にされた。あの時は恨んでいたが、今はそうではなくなった。町を護りたいと考えている」

「怨霊が守護神になるという話は、東洋の国でよくある話だね。人々に崇められて、そう変えられる」


 精霊さんの話を聞いて、ミヤが言う。


「癪な話でもあるが、俺を人柱にした連中の望みが、俺自身の望みになっちゃった。そんな風に心変わりする出来事が幾つかあった。おかしいと笑いたければ笑ってくれ」

「笑わないし、それはいいことだと思うよ」


 精霊さんの心変わりの理由を聞いて、ユーリが微笑みながら優しい声で告げる。


「もう一度言うけど、僕は君と敵対したくはないな」

「俺もだよ……」


 ユーリが言うと、精霊さんは辛そうな顔で返し、姿を消した。


「残念だが、対立したくない者同士での対立は、嬲り神が如何にも好みそうなシナリオさね。彼奴が干渉することで、そういう構図にもっていきそうだね」

「ダァグ・アァアアの方じゃないんですか?」


 ミヤの言葉を聞いて、ユーリが冷たい表情になる。


「お前は、嬲り神は擁護しがちで、ダァグ・アァアアにはやたらと執着しがちなきらいがある。感情が極端に働きすぎる。気を付けておきな」

「はい」


 ミヤが釘を刺し、ユーリは表情を変えないまま頷いた。


***


 チャバック、ウルスラ、オットー、アリシア、ジヘパパもファユミの屋敷に戻ってくる。


「あー、ノアがいるー」


 チャバックがノアを見て指差し、笑顔で声を弾ませる。


「社員やっと見つけた。よし撤収」

「いや、撤収はできないからね……」


 ノアが言い、アルレンティスが突っ込んだ。


 それから両者で情報交換を行う。精霊が襲ってきたことを伝えあう。アリシアも同じ光景を見ているので、その話をしている際には沈んだ顔になっていた。


「ごめんなさい……チャバック君、それに皆も……。精霊さん、どうしちゃったんだろう。チャバック君達も、精霊さんと心を通じ合わせる資格ありなのに……」

「アリシアが謝ることないよう」


 申し訳なさそうに言うアリシアを、チャバックが気遣う。


「原因は何かあるはずだ。ジヘとその御友人、心当たりは無いか?」


 ジヘパパが問う。


「ジヘパパは精霊さんの味方じゃないの?」

「私は精霊さんを信じたいが、息子に手出しをするとなると、話は別だ」


 ウルスラが尋ねると、ジヘパパは腕組して答えた。


「精霊さんを信じなくちゃ駄目よ~。精霊さんはインガちゃんを悪い人達から助けてくれたし、悪い人達を懲らしめてくれたのよ。インガちゃんの人形とも話ができるのよん」


 インガが笑顔で、話から微妙にズレたことを口にした。


「悪い人達って、あんたに何したんだ?」


 ジヘパパがインガに尋ねた。


「インガちゃんの格好がキモいってなじって、からかって、殴って……ひどいこといっぱいよ~……」


 インガが笑顔から一転して泣きそうな顔になって言った。


「胸糞悪い話だ。俺も同じだよ。俺もつい最近まで、いろんな人間に罵られていたよ。この世で一番下のゴミみたいな扱い受けていた」

「そうなのね……可哀想……は~い、よちよち~」


 オットーの話を聞いて、インガが人形を使ってオットーの頭を撫でる。オットーは居心地悪そうな顔で、その行為を受け入れていた。


(俺も母さんから……酷い扱い受けまくってたな。類は友を呼ぶぜんまいが巻かれて、そんな奴ばかりここに集まっているのか)


 ノアが一同を見渡して思う。


「インガちゃんも酷い人達から傷つけられ続けてきたわ。ああ……思い出したら色々と悲しくなっちゃった。何で世の中には、人のことを否定して、傷つける人がいるのかしら。本当に悲しいわ。インガちゃん自身のことも悲しいし、アリシアちゃんやファユミさん、貴方のことも悲しい」


 インガはオットーの両手をぎゅっと掴んで、ぽろぽろと泣きながら訴える。


(骨と皮だけの冷たい手だ。老人の手ってこんな風なんだな。いや、この人だけがそうなのか?)


 インガに手を握られ、オットーはその感触に驚いていた。


「私みたいなお婆ちゃんがお人形遊びしたら、そんなにいけないこと? だって私はお人形が好きなの。お婆ちゃんだけど、おままごとが好きなの。人形さんとお話するのが好きなの。この服も好きなの。でも皆が馬鹿にするの……。私は……平気な振りをしてるけど、本当は平気じゃないの。とても悲しいの。何でお婆ちゃんになったら、私が好きな服を着たら馬鹿にするの? 可愛くないから?」


 その時、インガは悲しそうな顔で、一人称をインガちゃんではなく、私と口にしていた。喋り方のトーンもこれまでと微妙に異なり、非常にゆっくりと話す、老人そのものの口調になっていた。


「そんなことないっ。着ていいよ。泣くなよ。それにちゃんと可愛いよ」


 誰とはなしに問い続けるインガに、誰よりも早くノアが真っ先に言い切った。その目から光るものが零れ落ちている。


「うんうん、インガさんは可愛いっ」


 アリシアも力強く同意し、こくこくと頷く。


「今、自分でお婆ちゃんて認めたような……」


 ガリリネがぽつりと呟く。


「ていうか何で俺まで泣いてるんだよ。わけわかんない……畜生……」


 ノアが涙を拭う。


「でもノア君、さっき人形とお喋りはキモいって言ってたわよね?」


 インガがにやにや笑って突っ込む。


「ちょいキモくらいだよ。本気で馬鹿にしたわけじゃない、インガが大好きなものを……インガにとって大事なものを、何も知らない奴にけなされることに、俺も頭くるし、悔しいって感じる。俺が……罵ったことも、今は嫌な気分になっている。どうして俺……こんな気持ちになって……泣いてるのか……わからない……」


 顔を背けて涙声で言うノア。


(ノア君、口が悪いし捻くれているし素行不良の問題児だと、ミヤ様から聞いていましたが、根はいい子のようですね。だからこそミヤ様も側に置いているのでしょうけど)


 ノアを見て、ディーグルが微笑む。


「人の大事なものを容易く……否定したり……けなしたり……踏みにじったりしちゃ駄目ってことだよね」


 と、ウルスラ。


「うむ。そういうことだ。ジヘも気を付けるんだぞ」

「オイラはそんなことしないよう」


 ジヘパパに言われ、チャバックは唇を尖らせた。


「で、これからどうするの?」


 アルレンティスが尋ねる。


「ミヤ様がケロンの元にいて、向こうに探りを入れている状況ですが、こちらはこちらで動くべきです」


 ディーグルが主張した。すでにディーグルは動いている。


「引き続き精霊さんの封印を解く作業を続けましょう。しかし私はわけあって動けません」


 喋りながらファユミを一瞥するディーグル。動けない理由は、絵のモデルを続けるからだ。


「俺とサユリで行くか。ガリリネはついてこなくていいよ」


 ノアが言った。


「僕は行くとは言ってないのに、どうして先に僕の名を出すかねえ。精霊さん、ノアのことも懲らしめてくれないかな」

「喧嘩しちゃ駄目よ~ん」

「本当どうしてこの二人は仲悪いのかなあ……」


 むっとするガリリネをインガがなだめ、ウルスラが呆れる。


「大抵ノアの方からちょっかい出してくる」

「ガリリネから言うこともあるだろ」


 ガリリネとノアが言い合う。


「アルレンティスも行ってください」

「面倒だけど了解」


 ディーグルに促され、アルレンティスが応じる


「面倒なら来なくていいよ。ていうか、ディーグルが当たり前のように仕切っているし、八恐で一番偉いのはアルレンティスなのに、ディーグルの方が命令する立場なんだね」


 ノアがアルレンティスとディーグルの互いの接し方を指摘すると、アルレンティスが微苦笑を零す。以前ブラッシーとアルレンティスから、八恐で最も強いのはディーグルだと聞いてはいるが、その辺も関係しているのだろうかと勘繰る。


「ディーグルは昔、僕の主だったから……ね。まだ力の弱い時の僕は、ディーグルの使い魔だったんだよ。今はディーグルって呼び捨てにしちゃってるけど、最初は抵抗あった……。今もたまに間違って、ディーグル様って呼んじゃう」

「そうだったんだ」


 アルレンティスの話を興味深く聞くノア。


「もう主従の関係ではありませんからね。私とアルレンティスは対等です」


 ディーグルが微笑みながら補足する。


「それに人喰い絵本に関しては、アルレンティスの方が精通していますし、私はあまり入ったことが――」

「あのね、ディーグル……僕達魔王の配下の八恐も、元々は人喰い絵本の住人なんだよ……。ディーグル達エルフだって、この世界の住人じゃないんだ。人喰い絵本から魔物達と一緒に呼び出されたんだ」


 ディーグルの言葉をアルレンティスが遮る。ディーグルの顔から笑みが消える。


「ああ、ブラッシーだけは別だった……。彼はこちらの世界の人間で、魔王様の力で吸血鬼になったんだ……」


 と、アルレンティス。


「魔王の置き土産とされている魔物も、人喰い絵本産なのか? エルフやドワーフなんかの亜人種達も?」

「うん。全部人喰い絵本からやってきた」


 オットーが尋ねると、アルレンティスは頷いた。


(私はこちらの世界に来る前の記憶がないですが、まさか人喰い絵本からやってきたとは。というか、今更になって知るとは思いませんでしたね……)


 自分に近しい立場にいたアルレンティスが、そのような衝撃の真実を知りながら、ずっと今まで口にしなかった事に対して、少し呆れていたディーグルであった。


***


「状況は?」


 精霊さんがフレイム・ムアの前に現れ、尋ねる。


「ぼぼぼ……問題発生だ……。異界の来訪者が、石碑を……鎮魂の碑を複数破壊した……ぶぼ……」

「別に問題無いだろ。それが壊れれば、俺達はさらに力が増す。俺達が自由に力を使える」

「ぶぶ……ぼぶぶぼぉぅ……まだ早い。鎮魂の碑、いずれは壊すつもりであったが、今このタイミングで、壊されるとは……」

「何が早いんだ?」

「依代となる者との絆……まだ完璧とは言い難い……」


 フレイム・ムアの見解を聞き、精霊さんは眉根を寄せる。


「そんなことはない。俺達はもういつだって一つになれる。皆も絶対に受け入れてくれる」

「そうか……な……」


 精霊さんの主張に対し、フレイム・ムアは懐疑的だった。


「それより、ケロンの企みにお前も加担しているのか? 俺達を騙して、ケロンの方につくなんて無いよな? あるいは心変わりして……」

「ぼぶふぅ……それは無い。私の目的は変わらない。私は術師であり、研究者であり、探究者……。ぶぅぶぼぼ……」


 精霊さんが睨みつけて問い詰めるも、フレイム・ムアは全く動揺することなく、いつものペースで答える。


「ぶほぉ……性急になってしまうが……塔含め、全て破壊されたら、そのタイミングで……計画を実行しよう。そのための準備に、急ぎとりかかる。お前の依代は……アリシアでいいんだな?」

「ああ。あの子も拒まないと思う」


 フレイム・ムアの確認に、精霊さんは即答した。

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