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24-13 そろそろこちらから動いてもいい

 街中を歩くディーグルとファユミの前に、いかにも荒事に長けていそうな男達が数名立ちはだかる。


「どちらさまですか?」


 柔和な笑顔で尋ねるディーグル。


「その女に用がある。怪我をしたくなければ下がれ」


 立ちはだかった集団の一人が、恫喝気味に告げる。


「聞き飽きた常套句ですね。それではこちらも、御親切にどうもとも言っておきます」


 ディーグルが刀の鞘に手をかける。


「ファユミさん、目を瞑ってください。あ、やっぱりいいです。さっきも見ましたよね」


 断りを入れてから、すぐに訂正すると、ディーグルは刀を鳴らした。喋っている間に居合いを行い、飛ぶ斬撃を繰り出していた。


 男達の体が、縦三枚に切断されて倒れ、大量の血と臓物を撒き散らして地面に倒れる。


「ディーグルさん……お強い」


 感心し、称賛するファユミ。


「この者達に心当たりはありますか?」


 三枚おろしになった骸を見ながら、ディーグルが尋ねる。


「大地主の……ケロンさんの手下……です。精霊さんを封じる石碑――鎮魂の碑の管理……してます。町の中に幾つもあって、中心にあるオレンジの大きな柱が、その要です。精霊さんの力……声……オレンジの柱に近付くほど……増します」


 ファユミが解説する。


「ケロンさん……前々から精霊さんを快く思っていなかった節……ある……噂です……」

(ケロン……絵本の中に出てきたあの老人。彼が黒幕なのでしょうか?)


 ファユミの話を聞いて、ディーグルは思案する。


「精霊さんを封じるとは……? 現時点でも精霊さんは力を振るっていますが、封印が完全に解かれると、より大きな力を振るえるということですか?」

「私にはわかりません……けど……理屈から考える……そうなる……思います」


 ディーグルに問われ、ファユミは躊躇いがちに答えた。


「石碑や塔を破壊すれば、精霊さんを完全に解放できるのでしょうか? そしてそれはファユミさん達の望むことですか?」

「ええっ、それはもちろんっ」


 ディーグルに問われ、ファユミは躊躇うことなく力強く答えた。


 未知な部分が多く、どうしたらよいのかわからない状況ではあるが、事態を進展させることが出来そうなポイントは、多分これではないかと、ディーグルは結び付ける。


「鎮魂の碑を破壊してみましょうか」

「そんなことをすれば……ケロンさん……黙っていません。いくらディーグルさんがお強いと言っても……」

「大丈夫ですよ。ファユミさん」


 案ずるファユミに、ディーグルはにっこりと笑う。


「ファユミさんが望まないことであれば、やめておきます。しかしファユミさんがお望みであれば、遠慮は不要です」


 ディーグルの言葉を聞き、その優しい笑顔を見て、ファユミは意を決する。


「鎮魂の碑の石碑……近くにあります……。そこです……。でもいつも警護されて……」

「問題ありません。さくっと排除しますよ」


 事も無げに言ってのけるディーグルだった。


***


「ああ……俺、ケビンて子にちょっと親近感湧いた」


 頭の中に映し出された絵本で、アリシアの出生を知り、ノアが言った。


「馬鹿な親のせいで、俺も酷い人生だった。その酷いまま死んでいた可能性もある。俺は死なずに生き延びたけど、ケビンは死んでしまった。つまり……」


 ノアは思い出す。人を争わせるゲームをしていたあの醜悪な老人の、醜悪な表情を。


「この場合、ケロンという爺が最悪の存在だと断じていい。俺は断じる」

「同感だね」

「あたくしもそう思うのでして」


 ノアの言葉に、ガリリネもサユリも異論は無かった。


「インガさん、ファユミさんの屋敷に戻ろう。インガさんが狙われたってことは、他の人達も狙われてそうだ」

「待って待って~ん。せっかくお出かけしたんだし、お菓子買ってから帰る~」


 ガリリネが促したが、インガは聞かない。


「このお婆ちゃん、本当に子供みたいでして」

「みたいじゃなくて、インガちゃんは子供だもーん。八歳の女の子だもーん」


 サユリが言うと、インガはにこにこ笑いながら主張した。


「心がそのままなら、そういうことでいいんじゃないか。それはともかく、俺達も一緒に行くよ」


 と、ノア。


「そっちのサユリさんはともかく、ノアは来なくていいけどね」


 と、ガリリネ。


「俺もガリリネについていきたいわけじゃない。チャバックやウルスラを助けたいのと、他の面々と合流したいだけなんだ。ガリリネは今からあそこのドブの中に頭を突っ込んで、窒息死してくれれば、俺としては助かる」

「そんなことする理由が無いよ」


 滅茶苦茶な憎まれ口を叩くノアに、ガリリネは軽く肩をすくめた。


***


「宝石百足、ありがとうよ」

「どういたしまして」


 ミヤが礼を述べると、宝石百足は笑い声で返した。


(ありがとう、セント)

(お安い御用よ。でも気を付けて。今回嬲り神は、何時にも増して絵本に干渉しているから)


 ユーリが心の中で礼を述べると、宝石百足は念話で忠告し、その姿を消した。


「何だったんだ、今のは……」


 呆気に取られるケロン。


「ぼぉぶ……ぶぅぼ……。精霊は去った……」

「見ればわかるっ」


 フレイム・ムアが告げると、ケロンは苛立ちを込めて吐き捨てる。。


「師匠、この絵本からの脱出のために、どうしたらいいか、ずっと考えていましたが――」


 ユーリが魔法でミヤだけに聞こえる声を発する。


「儂も考えていたし、幾つかは思いついたよ。まずはお前から言ってごらん」

「一つは、精霊を封じるという石碑と塔を破壊して、精霊を完全に解放することです。これが最有力な手段かと思いましたけど、精霊達がどういうわけか僕達を狙って襲っていた時点で、避けた方がいい手です」

「うむ。その通りだね」


 ユーリの言葉に頷くミヤ。


「二つ目は、ケロンの殺害。これは乱暴な手段です。この絵本のヴィランはケロンですし、ケロンの討伐でハッピーエンドになる可能性はあります。でもダァグ・アァアアは悲劇の量産者で、ねじくれたシナリオライターですから、そんな簡単には済まさない可能性があります。ケロンを討伐した事で、何かしら別の悲劇への導線に繋がるかもしれません」

「すでにそのフラグを用意し、ケロンに仕掛けているってことかい? それは勘繰りすぎじゃないかねえ……」


 否定的な言葉を口にするミヤであったが、内心ではそうなる展開が有り得ると思っている。


「三つ目、アリシア達の殺害。これは避けたいですね。でも――」

「精霊があくまで儂等の敵としてあり続け、アリシアのような精霊に力を与える者が居続ける限り、その選択は避けたくても、そうせざるをえない時もくるかもしれない。そういうことだね」

「流石師匠」


 ミヤの言葉を聞いて、微笑を零すユーリ。


「不敬者め。そこで儂を褒めるのは、弟子としてはあるまじき行為よ。ポイントマイナス0.3」

「ええ~……ここで称賛したからって、悪いことはないでしょ」


 ミヤのその怒りは、ユーリからするとひどく理不尽と感じられた。


「上から目線のように感じて気に食わんかったわ」

「全然そんなつもりはないですよ。師匠を称えたんですよ」


 ミヤが不機嫌そうに告げ、ユーリが否定する。


「つまりは儂が捻くれ者だと、そう言いたいのか?」

「やめてくださいよ師匠。そこまで言うと本当に捻くれ者ですよ……あ……」

「ふふん。やはり不敬者ではないか」

「今のは罠ですか……」


 ユーリの発言を聞き、ミヤは上機嫌になる。一方でユーリは憮然とした顔になっていた。


「以前、君にひどいことを言った。君は生まれて来なければよかった呪われた子だと言った。あれは取り消そう。そして謝罪しよう。すまなかった」


 一方でケロンがアリシアに向かって、誠意の欠片も無い口調で謝罪し、軽く頭を下げる。


「私に謝らなくていいから、父さんと母さんに謝ってよ……」

「死人に謝って、私の声が届くのかね?」


 アリシアがケロンに向かって言うと、ケロンは嘲笑を浮かべてそのような台詞を口にする。


「アリシアのお爺ちゃんなら、アリシアを護ってあげて。それが出来ないなら、せめてアリシアをいじめないでよう」


 チャバックが訴える。


「私が彼女をいじめているだと? おかしなことを言う」

「オイラにはそういう風にしか見えない。アリシア、凄く怖がっているし、嫌がっている。今いじめてなくても、オイラ達がいない時にアリシアをいじめていただろ」


 チャバックの台詞を聞いて、アリシアは大きく目を見開いてチャバックを見た。ケロンは表面上こそ表情の変化を見せないが、微かに動揺して指先を動かし、一瞬視線を泳がせていた。


 ミヤ、ユーリ、ウルスラ、オットーは理解している。つい今しがた、同じタイミングでアリシアの過去を絵本で見たからだ。

 アリシアにとってこの祖父は、紛うこと無き親の仇であり、アリシアにとっても敵同然の存在だ。


(この子も異界からの来訪者。油断ならんな)


 チャバックを見て、ケロンは警戒する。


「そもそもアリシアに何の用で来たんだ?」


 オットーがケロンに向かって尋ねた。


「先程口にした通りだぞ? 精霊の暴走を止めるよう、訴えに来た。いい加減腹に据えかねていたからな。アリシア、君があの精霊に力を与えている。君が原因で精霊が活性化しだした。精霊と距離を置け。応じないのであれば、こちらにも考えがある」

「何それ……。一方的な脅迫じゃない……」


 ケロンの言い分を聞いて、ウルスラが怒りに満ちた声を発する。チャバック、ユーリ、オットーも同様の印象を覚えた。


「ぼぉぉ……鎮魂の碑の一つ……壊された」

「何だとっ!?」


 フレイム・ムアの報告を受け、ケロンは血相を変えて声を荒げた。


(まだ早い。時期ではない。異界の者の仕業か……。余計なことを……)


 フレイム・ムアが小さく溜息をつき、ミヤとユーリを一瞥した。


(だがこの様子だと、ここにいる彼等は預かり知らぬ所……)


 ミヤとユーリの反応を見て、フレイム・ムアはそう判断する。


「師匠……これって……」


 ユーリがミヤに声をかける。


「ノアかサユリかディーグルの仕業なんじゃないかね。あの三人のうちのいずれかなら、やりそうなことだよ。不可抗力もありそうだけどね」


 ミヤが魔法でユーリにだけ聞こえる声を発し、見解を述べた。

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