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22-2 嘘に嘘を重ねるとどうなる?

 ゴートは衣装チェンジして東洋風の服装になっていた。ミヤも兜をかぶっている。


「ふふ、東の国の衣装を着るのはこれで三度目です」

「似合っておるぞ」

「ミヤ殿も」

「はん、儂は兜かぶっただけだろうに」


 互いの格好を見て笑い合う二人。


「どうやら儂等が絵本の登場人物の役割を担ったようだね」

「そのようですな。そしてそうなったからには……」


 二日目に救助隊二番手として突入する事がメインとなっているミヤ達が、登場人物の役割を担うという事、被害者も救助隊の生存している可能性は低くなったと見ていい。


「まず鬼を探すとしよう」

「はっ」


 ミヤが促し、ゴートが頷いた。


 鬼はすぐに見つかった。畑仕事をしていた。


「鬼さん、今日も頑張るねえ。そんなに張り切らなくていいよ」


 一緒に畑仕事をしている農家の老婆が笑いかける。


「ボクチンは力持ちだからいっぱい頑張るもんねー。村にお世話になっている分、頑張るんだじょー」


 鬼は農作業に励みながら、老婆に向かって爽やかな笑顔で告げる。


「おーい、鬼さんや。いい魚が入ったよ。久しぶりの鮭だ。後で一緒に食おうっ」


 通り課がった別の村人が鬼に声をかける。


「いいのー? わーい、ありがとう」

「いつも世話になっているからなー」


 村の仕事を請け負う鬼が、村人から慕われている様子を見て、ミヤとゴートは顔を見合わせる。


「どうなされます? あれを退治する話でしょうし、今回は問答無用で討伐してしまえば済む話ではありませんか?」

「以前のユーリなら間違いなくそうするだろうね。しかし儂の考えは違う」


 ゴートが伺うと、ミヤが言った。


「ほう。失礼ながら、師弟でありながら方針が異なるのは興味深いですな」

「失礼じゃないよ。あれは儂に似て頑固な一面もある。そして儂以上に合理主義的な面もある」


 ユーリのことを思い出し、ミヤは溜息混じりに言った。


「何故か儂の弟子は、思い通りにならない癖のある奴ばかりだよ。シモン然り、ノア然り。そして一見素直で真面目に見えるユーリも、中々厄介な性質だ。人喰い絵本を終わらせる方法は主に二つ。物語を悲劇から救う形で、可能な限りハッピーエンドへと導く。もう一つは主要人物を死なせるなどして、物語の進行が不可能な状態にして、バッドエンドでも何でもいいからとにかく終わらせる。以前のユーリは後者の方法を選びがちだった」

「以前――と仰るからには、今は違うわけですな」

「うむ。ユーリも最近は変わってきた、絵本世界の住人の命と心に対する意識が、強くなったせいだろうね」

「なるほど。で、ミヤ殿は今回どうなさるおつもりで?」


 ゴートが尋ねると、ミヤはすぐには答えず、鬼を見つめて数秒思案した。


「あの鬼と接触してみよう。討伐するにしても、あの鬼のことをもっと知ってからがいい」

「質問ばかりで申し訳ないですが、その行為にどのような意味が?」

「創造神ダァグ・アァアアの存在を知って、儂は色々考えた。人喰い絵本が滅びの世界の救いを求めた結果、こちらの世界と繋ぎ、魂の横軸にある者が引きずり込まれる。世界を良い方向へと修正して欲しいという概念があるのであれば、物語をなぞっていく形が望ましいだろ。つまり、出来る限り情報を知る方がいいって話だよ」

「なるほど」

「一応ユーリにもそれは言い聞かせてある」


 そう言ってミヤは歩きだし、鬼のいる方へと向かう。ゴートも続く。


(ユーリはいい子だから、儂の言いつけに反発して破ることは無いだろうさ。でも、頭に血が上ると……)


 ミヤが案じていると、鬼がミヤ達の接近に気付いて、二人の方を向く。


(近づいてわかったが、かなりの力の持ち主のようだ)


 鬼と視線を合わせ、ミヤは思う。


「猫が兜かぶって喋ってるー? ボクチンと同じく妖怪変化?」


 鬼が口にした台詞を聞いて、ゴートは目を丸くした。鬼の目に、ミヤは猫の姿として映っているという事だ。


「ふうん。絵本世界の住人は儂が猫に見えないケースが多いが、お前にはちゃんと見えるのかい」


 ミヤが絵本世界に入った場合、絵本世界の住人には、ミヤを猫としては認識できなくなっている。絵本の世界には、喋る動物がいないことがほとんどからだ。たまに、人喰い絵本の中にも、喋る動物がいる世界はあるが。


「へえ。他の人達には人間に見える術をかけてるんだ。でもボクチンの目は誤魔化せないのだー。うへへへ」


 得意満面に笑う鬼。


(こいつは一筋縄じゃいかないね。確かな力と知恵を持っている。加えて経験も豊富そうだ)


 鬼を見て、ミヤは気を引き締めた。


「で、貴方達は何者で、ボクチンに何の用があるの?」

「悪い鬼がいるから退治してくれという依頼を受けて来たのだが、お前ではないようだね。どう見ても違う。村人達から慕われているようだしねえ」

「うんうん、その通り。ボクチンは悪い奴じゃないじょー。きっとどこかの誰か別の奴と勘違いしているんだ。ああ、そうだ。この村の近くの街道で、鬼が暴れているって話は聞いたことあるもんねー。きっとそいつと間違えているんだ」


 直球勝負するミヤであったが、鬼はまるで動じていない。


(本気で自分のことだと思っていないのかい? いや、そこまで馬鹿ではないだろうさ。わかっていてなお動じていないんだ。胆力もそれなりにあるってことか)


 ミヤはそう見なす。


「ところで、儂等は宿を探しているんだが、案内してくれんかね?」

「この村には宿は無いもんねー。よかったらボクチンの家に泊まるといいよー」

「それは助かる。ゴートや、この優しい鬼さんの厚意に甘えるとしよう」

「ははっ」

「農作業が終わるまで待ってねー」


 そんなわけで、ミヤとゴートは鬼の農作業を見守り、待つ運びとなった。


「鬼退治の依頼を出した依頼者と会って、話がしたい所だねえ」

「それはやめた方がいいよー」


 ミヤがゴートに言うと、鬼が口を出してきた。


「どうしてだい?」

「え、えっとねー……ボクチン、依頼者に心当たりがあるんだ。強迫性障害と被害妄想と関係妄想持ちのヤバい人で、悪い鬼が近くで暴れているっていうだけで、村に来ると思い込んでしまったり、ボクチンが実はその悪い鬼で、村以外の場所で暴れているとか、そんなことまで言いだす人なんだー」


 取ってつけたような言い訳をする鬼。胆力はあるが、頭はそこまでよくないのではないかと、ミヤは評価を改める。


「ふん、そんな奴が依頼者じゃあ、鬼退治をしても報酬が支払われるかどうか心配だね」

「全くですな。さてどうしたものか」


 鬼の話に合わせて会話する二人。


「君達が無理に退治しようとしなくても、ボクチンがいる限り、この村に悪い鬼は入らないから、心配しなくていいじょー」


 鬼が自信満々に言い切る。


 やがて農作業が終わった。


「ちょっとそこで待っててー」

「ん? どこ行くんだい? 家に案内するんじゃないのかい?」


 二人を待たせてどこかに行こうとする鬼に、ミヤが問いかける。


「えっと、お客さんのおもてなしのために、御馳走買ってくるから待っててねー」

「おかまいなく」


 鬼は駆け足で去っていく。


「つけますか?」


 ゴートが伺う。


「必要無いよ。使い魔を放つ。気を付けないと、使い魔も気付かれそうだけどね。あの鬼、性格はともかくとして、術師としてはかなりのもんだ」


 そう言ってミヤは、使い魔のハツカネズミを出して放った。鼠は猛スピードで鬼の後を追う。


「しかし何度見ても猫の使い魔が鼠というのは、面白おかしいですな」

「ふん。よく言われるよ」


 ゴートが微笑みながら言うと、ミヤは面白くも無さそうに鼻を鳴らした。


 使い魔の視点で、ミヤは鬼の様子を見ている。


「お、おい待てそこのっ」


 鬼が村人の一人を呼び止めた。


「え? どうしたの? 鬼さん」

「ほーれ、変身の術~」

「ぎゃあああぁぁ!」


 鬼が術をかけると、村人が悲鳴をあげてのたうち回る。


 村人の体が変貌を遂げる。全身の筋肉が膨れ上がり、体色が赤紫に変わり、爪が延び、牙と角が生える。あっという間に村人は鬼となった。


「あの鬼、村人に肉体を作り変える術をかけて、村人を鬼にしくさったよ」

「何と……。つまりそれは……」


 ミヤの話を聞いて、ゴートが呻く。


「そういうことだろうね。大した腐れ外道だ」


 ミヤが吐き捨てた。


「はい、これで悪い鬼の出来上がりだじょー」

「ぐがががが……」


 鬼になった村人を見て、鬼が腰に両手をあてて満足そうに笑う。


「これだけでは不足だよね。さらにダメ押しいくよん。とおっ」

「ぎぎっ……ぎぎぎぎぎ……! うおぉぉおおおーっ! どいつもこいつもぶっ殺してやるぅぅぅぅっ!」


 鬼がさらに術をかける。鬼になった村人は強い破壊衝動に捉われた。


「おまけに精神をいじる術をかけて、鬼にした村人に殺戮衝動を植え付けたよ。これで悪い鬼の出来上がりだ。あとはそれを退治して一件落着という話にするんだろうね」

「これはもう……問答無用であの鬼は退治してしまってよいのではないですか?」


 意見するゴート。


「まあ待ちな。それでも構わないと思えてきたけど、もっといじってみよう。こいつのドス黒い本性をたっぷりと吐き出させてみようじゃないか」

「ミヤ様、結構Sですな」


 言うなリミヤは移動を開始し、ゴートがおかしそうに笑いながら後に続いた。


「大変だーっ! 悪い鬼が暴れているぞー! 皆家の中に避難しなくちゃ駄目だもんねー!」


 鬼が村の中で叫んで回り、注意を促す。


「ひぃぃぃ! 悪い鬼が畑を荒らしてるーっ!」

「人も襲うかもしれんっ。早よ逃げーっ!」

「もうおしまいだ~。うわ~ん」


 村人達は大慌てで避難していく。


「ボクチンがこの悪い鬼はやっつけてやるじょーっ」


 鬼が、鬼化した村人と対峙し、威勢よく叫ぶ。


 村人達は避難して家の中から、こっそりと様子を伺っている。鬼もそれを計算済みだ。


「いっくじょーっ! ぶへっ!」


 戦おうとした鬼が、突然凄まじい衝撃を受けて弾き飛ばされ、倒れた。


「鬼さんが……」

「何だあれ? 悪い鬼の力か?」

「村の鬼さんより、悪い鬼の方が強いだと……?」

「もうおしまいだ~。うわ~ん」


 村の鬼が見えない力で倒される様を見て、慄く村人達。


 何も言われていないが、ゴートは理解している。ミヤの仕業だと。


 鬼にされた村人の前に、ミヤとゴートが進み出る。


「あの二人は誰だ?」

「よそ者だ。馬鹿な……。鬼さんも呆気なく退けるほどの鬼に勝てるわけが……」

「もうおしまいだ~。うわ~ん」


 村人達が囁く中、ミヤが魔法であっさりと村人の鬼化を解除する。


「え? え? ええ……?」


 鬼が目を丸くする。自分が鬼にした村人が、ミヤの力によって強制的に元に戻された事を悟った。


「え……鬼が人になった」

「あいつはエイサクじゃないか!」

「何てこった! エイサクが鬼だったのか?」


 村人達が家から出て、倒れている村人を見て口々に喚く。


「違うよ。こいつは術で鬼に変化させられていたんだ。そして心も操られて暴れていたんだ」


 ミヤが真相の半分を告げる。鬼はミヤを見て硬直する。


「エイサクが目を覚ました」

「エイサクどうしたってんだ?」

「一体何があった?」

「どうしたって? わからない……気絶してた? 村の中歩いていた所までは覚えているが……」


 村人に取り囲まれて問われ、エイサクという村人はぼんやりした顔で答える。


(失敗した時の事も考えたうえで記憶も奪っていたのかね? だとしたら用心深いと言えなくも無いが)


 ミヤが鬼を一瞥した。


「ふん、誰がこんな真似をしたんだろうね。鬼よ、心当たりは無いかい?」


 ミヤが鬼に向かってにやにや笑いながら問う。


(糞っ、術を解いたのはこの猫の仕業だ。わかっていてわざとやって、ボクチンをからかっているんだな。糞っ。この猫強そうだし、頭もよさそうだし、何より性格悪そうだ。何とかしないとボクチンが悪者に仕立て上げられてしまうっ。ボクチンは何も悪いことしてないのにっ)


 鬼はヒステリーを起こしかけるが、ここで暴れるのはよくないと判断した。ミヤは相当な力を有しており、まともに戦って勝てる保障は無いように見えた。


(そうだ。あいつに罪をなすりつけよう。上手くいけば共倒れで一石二鳥だ。最悪でもどっちか死んでくれればボクチンは嬉しいじょ)


 ふと、鬼はある人物のことを思い出した。自分をこの村に連れてきた人物だ。自分の運命を変えた人物でもある。


「あ、あ、あ、あるよっ。村の裏に住んでいる変わり者の祈祷師だっ。あいつならやりかねないよっ」


 鬼が言うと、村人達は一斉に顔をしかめた。


「あの変人祈祷師か……」

「確かにあの人は変人だが、そこまでするか?」

「そんな人だとは思えないが……」


 鬼が主張したが、村人達は同意できなかった。


「ボクチンが怪しいと言ってるんだから信じないと駄目だーっ!」

「お、怒らないでください。鬼さん」

「鬼さんを疑っているわけじゃないんだからぁ」

「もうおしまいだ~。うわ~ん」


 鬼が喚き、村人達がなだめる。


「どうします? ミヤ殿」


 ゴートがミ頭を下げ、ミヤの耳元に顔を近づけて伺う。


「まあ、取り敢えずその祈祷師とやらの所に行ってみようじゃないか。予定されていた登場人物なんだろうし、儂の見立てではおそらく、鬼が嘘を重ねて祈祷師に罪をなすりつける展開も、本来の物語の展開通りなんだろう」


 ミヤがゴートに向かって顔を上げ、不敵な笑みをたたえて囁いた。

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